白井は呆然とその公園の片隅に座り込んでいた。
佐天がいつ帰ったかも分からない。どれだけ時間がたったかも分からない。
そんなことよりも、大事なものがこぼれ落ちてしまった。
「黒子!」
聞き覚えのあるその声が、白井の耳に届く。
「あんた、こんなところで座り込んで」
白井は顔を上げる。そこには御坂がいた。
「お姉さま…」
「うわ、あんた真っ白じゃない。何やって…」
御坂はそこまで言うと、顔色が変わった。
「あんた、佐天さんに手を出したわね?」
その言葉に黒子の体が反応する。忠告を守らずに、手を出したことを、咎められると思ったからだ。
しかし、御坂の態度は怒りではなかった。
「私も悪かったわね。もっとちゃんと言っとくべきだった。佐天さんが心配だったんだよね」
その優しい言葉に、白井の涙腺が緩んだ。
「ご、ごめん、なさい、お姉さま。私、わたし」
「はいはい、分かってるから」
御坂は服が汚れることも一切気にせずに、白井を正面から抱きしめる。
そのまま、白井はしばらくの間、声を堪えて泣いた。
そして、ようやく落ち着いたころ、白井は佐天と何があったのかを御坂に説明した。
御坂はその言葉を聞いて、納得するように相槌を打った。
「まあ、あんたは、まともに勝負してくれた方よ。私も負けたし、あんたと同じ」
「お姉さまも?」
「手も足も出なかった」
「そんな」
「佐天さんの通り名、知ってる?」
白井は首を傾げる。
御坂美琴で言えば超電磁砲《レールガン》が通り名である。能力自体の名称でもあるが、物体に電磁加速を加えて放つ所謂必殺技の名称でもある。これは比喩ではなく、弾道上の物質を薙ぎ払うため、万が一人が受ければ必死の技である。
「常識殺し《ルールブレイカー》って言うのよ」
「ルールブレイカー…」
「常識が通じないっていうか、常識破りっていうか、とにかく勝負にならないの。で、欲しいものだけかっさらう。あんたみたいに、真面目に勝負する方が珍しいの」
白井は、御坂の話を聞いてはいたが、それを理解してはいなかった。
話の意味は分かるが、あまりに突拍子もない話のため、それは信じれる範囲を超えていた。
佐天は、つい先日まで、ただの無能力者《レベル0》の女子中学生だったのだ。
だが、事実、白井は佐天に負けていた。
「佐天さんと初春さんがやりあった時なんて、無茶苦茶だったんだから」
白井は耳を疑う。佐天と別に、もう一人の友達、初春飾利の名前が出てきたからだ。
初春は白井と同じ風紀委員《風紀委員》の低能力者《レベル1》で、佐天と同じ学校に通う普通の中学生だったはずだった。
「初春が…?」
「え? ああ…」
御坂は頭に手を当てて、自分の失敗に顔をしかめる。目線は斜め上に向けられ、誤魔化す方法を考えているようにも見えた。
「お姉さま、教えてください」
白井の縋り付くような言葉に、御坂はそのまま顔を俯けたが、振っ切ったように顔を上げた。
「まあいいか、別に秘密にしてるわけじゃなさそうだしね。初春さん、今、アクセラレータと一緒に行動してるのよ」
「アクセラレータ、学園都市第1位…」
「そう。初春さんの方が、好意を持ってるみたいで、止めても聞かないのよね。無理やりに止めようとしたら佐天さんと同じようなことするし、私は私で負けちゃうしで、もう散々よ」
御坂はため息をつく。そして、「一応、学園都市第3位のはずなんだけどね」とこぼす。
「で、佐天さんがアクセラレータ脅してたのが初春さんにばれてね。まあ、和解…もしたのかな?」
「その、初春も、佐天さんと同じような戦い方を…」
「いや、初春さんの方は正攻法ね。でも、強いわよ。初春さん、学園都市内の設備やら警備ロボットやらハッキングして操作してくるんだけど、いつの間にか自分の意図しないところに誘導されて逃げ場がなくなんのよ」
その勝負を思い出したのか、御坂の眉間に皺がよる。
「初春さんは初春さんで、無限迷路《ラビリンス》って通り名がついてたわね」
白井は呆然としていた。
友達である初春と佐天が、そんなことになっているとは欠片も知らなかった。
一人で自室で篭っている間に何が変わっていたのか。
一人で御坂を待っていた間に何が変わってしまったのか。
一人で御坂を支えたいと夢見ていた間に二人は何をしていたのか。
「私、今でもあの二人は友達だとは思ってはいるけど、多分、一番警戒してるわ」
佐天と初春は、御坂の隣を飛び超えて、その先に立っていた。