白井は、とあるファミリーレストランに、一人で座っていた。客が少なかったため、4人用のテーブルに一人で座っている。
いつもは、御坂と初春と佐天を加えた4人でいつも立ち寄る店だった。
しばらく前に頼んでいた適当なケーキと紅茶には手もつけていない。紅茶はもう冷えてしまっていた。
白井は、4人で集まっていた、少し前の関係を思い出していた。
佐天と初春がたわいもないない話で盛り上がり、御坂と白井が話に加わって、4人で笑いながら過ごす。そんな時間が本当に楽しいと思っていた。
だが、今はただ、空いているスペースが悲しいだけだった。
呼べば来てくれるのだろうか、と白井は思ったが直ぐに考え直す。どんな顔をして会えばいいのかわからなかったからだ。白井は自分の顔を笑顔にできる自信がなかった。
白井は顔を触る。嫉妬や劣等感で歪んでいないか不安だった。無表情のつもりだが、上手く表情をつくりきれていない気がして、何度も顔を触りながら表情を調整する。だが、満足のいく形にはできなかった。
最後には、誰にも顔を見られたくなくなり、顔をうつ伏せにして、ため息をつく。
『私がもっと強ければ、お姉さまの側に…』
佐天と初春は、白井の想像よりも先に進んでしまっていた。
あの夜、御坂の側には白井でなく、佐天が一緒にいた。
もっと強ければ、御坂を守れるほど強ければ、御坂の隣に居れるかもしれないと、白井は思う。
だが、大能力者《レベル4》と超能力者《レベル5》には大きな壁がある。単なる努力では届かない、壁がある。
佐天と初春がどうやってレベルも上げずに先に進むことができたのか、その方法が想像もつかないと、白井は思いながら深いため息をつく。
と、その時、近くで騒がしい声がした。
「あら、レールガンのとこのじゃない?」
「超普通ですね」
「レールガンの金魚のフンならこの程度ってわけよ」
「へー」
その声に白井は、鬱陶しそうに顔を上げると、そこには、4人組の女子が集まっていた。そのまま、隣の4人用テーブルに座る。
その顔には覚えのあるものも居た。このファミリーレストランで顔を合わせたはずと、白井は思い出す。
白井は、まるで昔の自分たちの姿を見ているようで、そのまま顔を背ける。
「無視ってことはないんじゃない?」
白井はその声にも反応しない。
「少しは反応しろってーの」
その声が思ったよりも近いことと、振動が少ししたことに気がついて、また顔を向けると、帽子を被った金髪の女子が白井側の向かいの席にすわっていた。
白井はため息をつく。
「相手にする気分じゃありませんの」
隣の席から笑い声が上がる。
「フレンダ、お呼びじゃないってさ」
「むう」
茶髪で長髪の女性が、金髪の女子をフレンダと呼び、テーブルの椅子から乗り出すように白井を見て、続ける。
「嫌なことでもあったんじゃない? 大事な人が怪我したとか、仕事でミスしたとか、誰かにやられたとか」
最後の言葉に白井が反応する。白井は正直な体を呪った。
「お、誰かにやられたの? 私たちお金さえ貰えれば、復讐の手伝いもするわよ」
「結構ですわ…友達ですから」
「友達って、もしかしてレールガン?」
その茶髪の女性は、笑顔を崩さないでいう。
「言う必要は」
白井は、その問いを拒絶しようとして、ふと思った。御坂が言った、佐天の通り名、常識殺し《ルールブレイカー》が、どれだけ知られているのか、それを確かめたくなった。
そして、御坂から聞いた通り名を言った。
「…ルールブレイカーですわ」
その言葉を言った瞬間、隣がざわついた。その様子に白井は顔を上げる。
「どうしましたの?」
隣の4人用のテーブルに座った女子たちは、白井を悲しげな目で見つめていた。
「ルールブレイカーが友達…? それは、なんというか、ご愁傷様ね…」
「超気の毒です…」
「来世に期待するしかないってわけよ…」
「かわいそう…」
隣に座る女子たちは、口々にお悔やみの言葉を申し上げた。
白井は想像以上の反応に驚いていた。
「そんなに有名ですの?」
「まあ、私らの界隈じゃ特にね」
「そうですか」
茶髪の女性の答えに、白井は、事実は知りたくないことだらけだと、またため息をついた。
「ルールブレイカー相手じゃ仕方ないんじゃない? あなただって、そこそこ強いでしょ?」
白井は顔を背ける。
「そこそこじゃ、駄目なんですの。テレポーターは単純らしいですし」
白井は、佐天の言葉を思い出り、胸に靄がかかる。
「あなたレベルは?」
「レベル4ですが、それが何か?」
茶髪の女性の顔が、笑顔に歪む。
「ルールブレイカーにやられて悔しい?」
その言葉に、白井は顔を背けたまま肯定する。
「当たり前ですわ」
「私たちなら、今の場所よりルールブレイカーの近くに連れて行けるけど、どうする?」
白井は、その言葉に反応した。
佐天の近くへ、先へ進んだものの近くへいける。
「近くへ…」
自分の顔が、救いを求める子羊のような顔をしていることに気づきもせずに、甘い言葉に手を伸ばす。
「ええ、何か分かるかもしれないわよ」
「強く、なれるとでも?」
白井は立ち上がっていた。その足は力強さに満ちる。
「保証はしないわ。でも、あなた次第じゃない?」
「そうですわね。そんな保証、あるわけありませんわ。でも、可能性は、いつだってゼロじゃありませんもの」
白井は今までの努力を思い出していた。決して平坦ではなかった。楽をして手に入れた証ではなかった。それならば、もう一度、手に入れるだけだと。
「そうね、あなたの言うとおりだわ。あなたならなれるかもね、強く。そう、もしかしたら、レールガンよりも」
その女性の顔は、醜く笑っていた。
麦野さんは、普通の時は喋り方が乱暴じゃないみたいですね。ちょっと違和感ありますが…