とある魅惑の抑制解離《バーサーカー》【完結】   作:ちひろん

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すみません、遅くなりました。


命の軽さ

 その場所は廃ビル群の隙間にできた空き地だった。そのため、17時だと言うのに薄暗く、湿り気を帯びており、必要がなければ近寄りたくはない

場所である。

 そんな場所を、白井はビルのある部屋から見下ろしていた。

 

 「ここで、何をしますの?」

 

 白井は隣に居る女性に話しかける。その女性は『麦野沈利』といった。学園都市の第4位のレベル5、原子崩し《メルトダウナー》である。

 白井も、最初こそ驚いたものの、少なくとも表面上は平静そのものだった。

 同じくレベル5の御坂美琴が近くにいる生活に慣れていることも、そう振る舞えた要因かもしれない。

 

 「見てなさい、と言いたいところだけど、ちょっとだけ説明してあげる」

 

 麦野は、自分を指差す。

 

 「まず、私たちはちょっと危ないことをしてお金を稼ぐ人たち」

 

 続けて、空き地を指差す。

 

 「で、あそこで違法取引をする奴らを、倒す」

 

 麦野は、端的に説明し、理解したか白井へ目線で問う。

 白井は、訝しげに麦野を見る。

 

 「それだけですの?」

 「ええ、それだけよ」

 

 その言葉を、白井は深く考える。

 嘘はついていない、だが、全てを話したわけではないと、そう思った。

 

 超能力者《レベル5》が関わる、『危ないこと』について、白井も見当がつかないわけではない。

 この学園都市ではまことしやかに噂される、表立って片付けられない非合法な問題を秘密裏に処理する『暗部組織』というものがある。それは、風紀委員《ジャッジメント》や警備員《アンチスキル》とは異なり、所謂、学園都市の裏側ともいえる存在である。

 白井は、警備員《アンチスキル》がなんらかの圧力を受けて、業務遂行が困難になる状況をいくつも見てきた。つまり、それは、あることを物語っている。

 少なくとも学園都市の裏側は存在するという事実である。

 

 だから白井は、麦野の誘いを受けた時、ある程度の状況は覚悟していた。

 佐天に近いところ、とは場所を指しているわけではないことは分かっていた。近いところ、とは恐らくは近い状況または場所を指していると。

 訓練場か、実験施設か、まともな場所ではないと白井は考えていた。そして、今の状況と、麦野の言葉から、暗部組織との繋がりがある可能性を導き出した。

 

 そして、白井は改めて覚悟した。

 恐らく、ただ倒すだけではないと。倒した後、尋問、拷問、最悪の場合は殺害まであり得ると。

 だが、それが佐天に近いと言われれば、逃げるわけにはいかなかった。友達のためにも、自分のためにも。

 

 「来たわよ」

 

 麦野のその声に、白井は空き地を見下ろす。

 そこには、スーツ姿の男性が二人、アタッシュケースを持って立っていた。二人は何度か会話した後に頷くと、お互いのスーツケースを交換した。

 

 「あっちは、絹旗でオッケー」

 

 麦野はそう言うと、周りを見渡す。

 

 絹旗とは麦野の仲間であり、大能力者《レベル4》の能力者である。ウール生地のワンピースを着ているのだが、少しでも屈めば下着が見えてしまうほど丈が短く、露出が高めの白井もこれには舌を巻いていた。

 絹旗の能力の詳細について、白井は聞かされていなかったが、このような荒事に関わる以上は、戦闘向きの能力者であると思われた。

 

 「こっちはフレンダと私ね」

 

 と、その瞬間、爆発音が響いた。

 白井が、音の方を見るとガラスが割れ、煙や火が上がっている。

 続けて、甲高い音が鳴り響いたと思うと、ビルの幾つかの部屋に淡い光が灯り、空へ向かってその光が直線を描く。その軌跡を邪魔した障害物は、まるで溶けるかのようにぽっかりと穴が開いていた。

 

 そこで、白井は、空き地にいた二人の男がどうなったかと見下ろし、その瞬間を見てしまった。

 

 絹旗の右腕が、男の顔を貫いた瞬間を。

 

 「え?」

 

 声が漏れた。

 

 男はそのまま崩れ落ち、残りの一人も、あっという間に同じ結末を辿った。その一部始終を白井は見ていた。

 

 白井は呆然と立ち尽くしていた。

 そんな白井に麦野が声をかける。

 

 「ま、ざっとこんなもんね」

 

 麦野の声に、白井は対応できない。応答の無い白井を見て、麦野は愉快そうに顔を歪める。

 

 「どうしたの?」

 

 麦野は愉快そうに言う。

 

 「あ、あの、人が…」

 「人が?」

 「人が…」

 

 白井は、二の句が続かない。

 覚悟はしていた。最終的には命のやり取りに発展する可能性も考えていた。しかし、目の前で起こったことは、呼吸をするかのような殺害であった。

 あまりにも呆気なく、あまりにも軽すぎる、まるで消耗品を捨てるかのような殺害だった。

 そこまでは、そんなことまでは、白井は想定していない。

 

 まさか、と白井は爆発のあった場所を、淡い光が灯った場所を見た。

 そこには、遠目ながらも赤い何かで染まっていた。

 

 「なんで、こんな」

 「倒す、って言ったらさ、殺す、ってことでしょ? ヒーローも『お前を倒す』って言って殺すじゃない」

 

 白井のつぶやきを、麦野が遮る。

 

 「そんな作り物の話を」

 「じゃあ、刑務所に入れたらいいの? 説き伏せたらいいの?」

 「そ、そうですわ!」

 「作り物の話じゃないんだから、そんな都合よく行くわけ無いでしょ」

 

 麦野はため息をつく。

 

 「自分に都合のいい話だけ信じるのは良くないわね」

 

 白井は、その言葉に顔を顰める。あながち見当違いではないような気がしたからだ。

 

 「しかし、こんな、簡単に命を奪うようなことは許せませんわ!」

 「そう? でも、ルールブレイカーは普通にやるわよ?」

 

 白井の顔が、驚愕に染まる。

 

 「私がやってもやらなくても、誰かがやるわ。それが、今回は私だっただけのこと。だからね

、折角だから」

 

 重たいものが倒れる音がして、白井はそれをみる。

 絹旗が、置いたそれは、まるで物のようだった。血が流れ、その息は非常にか細い。生きているのが不思議なくらいだった。

 

 「貴方が殺しなさい」

 

 白井の体が、その言葉に拒絶するように激しく震える。

 

 「こいつは死ぬわ。貴方が殺すから、貴方が助けないから。どちらでも一緒なら変われる未来を選びなさい。大事な時にしくじらないように」

 

 麦野は凄惨に笑う。

 

 「こういう、どうでもいい奴で、初めては散らしときな」

 

 白井の悲痛な声が、口から漏れた。




環境が変わってやりづらいのですが、週に1、2回は更新したいと思います。
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