とあるプラズマ団員の日記   作:IronWorks

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 二日連続投稿です。前話を見逃した方は、そちらからどうぞ。


秋の月 色んなことを自覚した日

 

 

 秋の月 一日

 

 

 

 

 

 私はもしかしたら、盛大な勘違いをしていたのかもしれない。

 

 そもそもなぜ、プラズマ団をボランティア団体だと思い込んだままで居られたのだろうか。社長の行動をよくよく考えればおのずと見えてくる。どう考えてもプラズマ団はテロリスト集団で、認めたくはないが私はテロリスト集団の幹部で謎のポエマーだ。

 

 

 問題を解決する必要もあることだし、一度整理し直すために、また、この日記に活躍してもらおうと思う。どこかに糸口があるはずなのだから。

 

 

 

 そもそもおかしいということに気がついたのは、旧友との唐突な再会が切っ掛けだった。

 

 テンガン山、そしてやりのはしらで私を待っていたのは、頂上に突然出現した空間の歪みだった。イシュタルもセクトルも近づくことができず、一人歪みに引きずり込まれる私を、プラズマ団員たちは恐れおののき助けてくれる気配もなかった。驚きすぎて硬直してしまった私も悪いのかもしれないが、あんまりだ。

 

 歪んだ世界の中で私を待っていたのは、やけに懐かしい顔だった。いつだったか、留学した私の友達になったアカギ。彼は相変わらずの仏頂面で、にこりともせずに私に近づくと、おもむろに私に手を差し出した。

 

 その後、なにやらぶつぶつと「やはり新世界を紡げるのは君だったか」とか「最早ここに在るのは残滓。真に選ばれし者は君だ」とか「さぁ受け取れ。これが運命だ」とかとか。

 なにやら思春期っぽいことを並べたあげく、私に真っ黒なモンスターボールを差し出したのだ。

 

 受け取らなければこの空間から帰ることができないことなど一目瞭然。嫌々私が受け取ると、アカギはちょっとイっちゃってる笑みを浮かべて消滅した。なにそれ怖い。

 受け取ると、やはりそれがキーだったのだろう。私は、気がつけばやりのはしらの前に立っていた。

 

 私を見て顔を引きつらせて道を空けてくれる同僚。

 心配そうに私に付き従うイシュタルとセクトル。

 この時点で、私はもうあの妙に生きづらいブラックシティのベッドでも良いから、帰って惰眠を貪りたかった。

 

 

 

 書き直してみるとわかる。

 この時、この瞬間が、私の、私自身の心の平穏の、最後の瞬間だったんだ。

 

 

 

 プラズマフリゲートの奥。

 

 与えられた部屋の背後には、大きな空間がある。この場所にポケモンを置くと、そのポケモンが動力源となって、始めて“プラズマフリゲート”は完成する。そう私に告げるアクロマに、私は状況に追いつくことに必死で、ただ言われるままにモンスターボールを手に取ることしかできなかった。

 

 たくさんのプラズマ団員たちが見守る中、私はモンスターボールのオープンスイッチを押し、指定の場所に投げる。すると、背筋が寒くなるような恐ろしい波動が、部屋いっぱいに溢れ出した。

 

 

 

 その時の光景を、私はきっと、生涯忘れることはないだろう。

 

 

 

 胴体は、銀をベースに血色の紅と漆黒をストライプに。

 背から生える翼は夜の色で、まるでかぎ爪のように紅い爪が伸びている。

 身体の横から胴体の上半分を守る、肋骨のような鎧と、下半分から突き出した爪は黄金。

 頭を守る兜――あるいは髑髏――のような骨もまた、黄金。

 そして、ゆらめく焔のような深紅の瞳が、兜の間、深淵の闇から輝いていた。

 

 

 私はそのポケモンを知っていた。昔、アカギと調べた文献に記されていた世界の裏側に存在するポケモン。その力は、共に歩む人間次第。正に従えば世界の歪みを正し、負に従えば暴走して世界を歪ませる。

 

 名前は確か、ギラティナ。ギラティナ・オリジンフォルム。幸い、私は負の人間ではない。だから制御すれば良いと思った。

 (後になって一文ここに書き加える。私はその時、重大なことを見逃していたのだ)

 

 

 

 周囲に上がる歓声。

 

 彼らは皆、口々に己の欲望を叫び立てる。だがそんな声も長くは続かなかった。何故なら、誰にとっても予想外の事態が起きたからだ。

 ギラティナの、悲鳴のような咆吼。その声と共にプラズマフリゲートが“歪み”に浸食され、私以外の全員、イシュタルとセクトルまでもが船からはじき出されてしまったのだ。

 

 完全に操舵手の手を離れて、動き出すプラズマフリゲート。アカギから譲り渡された以上、支配権は私にあるはずなのに、言うことを聞いてくれないギラティナ。明らかにポケモンを兵器として運用することを前提に作られたとしか思えない船の主砲は、ギラティナの力を受け取って真っ黒に輝くと、やりのはしらをただの一撃で吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 そうして、夜の空を飛びながら、私は日記を書いている。

 

 なぜもっと早く気がつかなかったのか。せめて社長、いや、ゲーチス率いるプラズマ団がリュウラセンの塔を壊した時点で引き返さなかったのか悔やまれる。

 けれど、なぜかギラティナが私の指示を聞いてくれない以上、できることもないからこうして日記を書いていた。

 

 

 

 これからどうなるのだろう。

 不安や焦りが胸の中を埋め尽くすようで、眠りにつくこともできない。

 ギラティナに話しかけ続ければ、言うことを聞いてくれるだろうか? 私自身が犯罪者であるとわかってしまった以上、私が自分でなんとかするしか、道はない。

 

 

 だけどせめて、今日は、ただ疲れを癒やしたい。

 だから、たとえ眠ることができなくても、目だけは閉じて丸くなろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記。

 

 突然だが、モンスターボールにはポケモンのレベルを見る機能がある。ボタンを押すと、浮かび上がるのだ。それによると、ギラティナのレベルは八十八。中々の高レベルだ

 

 

 

 そして、この世界に生きる者ならば誰もが知っている一つのルールがある。

 

 

 

 

 ジムバッチを七つしか持っていないトレーナーの場合、『他人から貰ったポケモンは、レベル八十までしか言うことをきいてくれない』という不動のルール≪常識≫。

 

 

 

 

 

 ああ、おわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――0――

 

 

 

「は、はは、まさか、こんなことが……」

 

 

 

 ――アクロマは、ゲーチスのように世界征服を志すような人間ではない。

 

 彼はストイックな研究者だった。

 寝食も摂らずに研究に没頭することもあれば、学会で表立って栄光を浴びることも、干されることもある。全ては己の研究のため。ポケモンの可能性を引き出すという彼の目的のために行ってきたことだ。

 ではそんな彼がゲーチスに付き従う理由は何か。勿論、ゲーチスのように巨大な組織の実質上のトップに君臨するようなものの傍に居れば、研究素材に困ることはないだろ。なにせ、非合法な研究も容認してくれるような、“懐の広い”スポンサーだ。

 だが、アクロマはあくまで友人として彼に付き従っていた。その理由は諸人が耳にすれば「なぜそんなことで?」と思われるかも知れない。

 

 アクロマは、ゲーチスの“古い”友人だから。

 

 犯罪の片棒を担ぐには、弱い理由だ。

 だが聞く人が違えば、ずいぶんと意味合いが違ってくる。

 

 アクロマは、ゲーチスが狂う前からの友人、なのだ。

 

 狂う前のゲーチスは、未だ若く未熟であったアクロマをずいぶんと助けた。

 彼が今こうして界隈で名を轟かすに至った土台に関わったのは、先輩で有り、また友人でもあったゲーチスの存在があったからだ。

 幸いなことに、アクロマは“犯罪”程度のことで自身の研究を躊躇する質ではない。だから恩に報いてゲーチスの元で腕をふるうことも、彼にとっては当然の範疇であった。今回のことも、そうして腕を揮った研究の一つだ。

 

 高エネルギー保持ポケモンを主動力に、電力をサブ動力にした飛行戦艦の建造。

 

 アクロマは存分に指揮を執り、納得のいく成果を生み出した。

 実験のために氷ポケモン十二匹を暴走させたところ、“主砲”は、海面を数キロに渡り凍結させたほどだ。

 実験結果。導き出される威力。そう、アクロマには頭の中に、“大きく見積もってもこれほどの威力”という青写真があった。だが。

 

「伝承に伝えられるポケモン。確認されていない伝説。まさか、これほどまでとは……!!」

 

 アクロマの眼前には、“なにもない”。

 かつてはテンガン山の頂上には、やりのはしらと呼ばれる一角があった。それがいまや跡形もない。

 すすに塗れた白衣を風にはためかせながら、アクロマは笑う。彼は自身の謳う“ポケモンの可能性”という言葉が如何に傲慢であったかを知ったのだ。そう、ポケモンは常にアクロマの小さな脳みそでは計り知れない力を秘めている。それを彼は自身の物差しでしか見ていなかったことを認めた。

 そして同時に、かつてのゲーチスが危惧していたモノを、心の底から痛感した。

 

 

 

 ――もしもポケモンが反旗を翻したら、矮小な人間にそれを止める手段は存在しない。

 

 

 

 ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋の月 運命の鍵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1――

 

 

 

『い、イル様を乗せたプラズマフリゲートが、やりのはしらを消滅させ、上空に消えました。ひ、ひひっ、もう終わりだ! 俺たちはイル様の逆鱗に触れた、あひゃ、あひゃひゃ』

 ――ブツッ

 

 

 

 Nは端末を荒々しく投げ捨てると、かつてゲーチスが座っていた彼の研究室の椅子にどかりと座り込む。

 柔らかかった緑の髪はぼさぼさで、光を讃えていた双眸は闇に憂いている。あらゆる伝手を使って情報を集めたが、研究主任であったアクロマとすら連絡がつかないのが現状だ。

 

「クソッ!!」

 

 思わず悪態をつくが、事態は好転しない。

 Nはまだ正気を保っている部下が煎れてくれたコーヒーを口に含むと、ふぅと息をついて背もたれに身体を預ける。

 

「イル……君はいま、どうしているんだ?」

 

 問いかけは、むなしく空に溶ける。

 Nはその場でしばらく、気を落ち着かせるように瞑想をした。未だ心は定まらず、できることをやりきってしまった焦燥感が身を焦がす。ならば、どうするのか。

 

「まずは原点か」

 

 Nはおもむろに立ち上がると、タウンマップを開いた。イルを招き入れて、決別の時を迎えた場所。天に螺旋を描く龍の塔。

 思い浮かぶのは憂いに満ちたイルの横顔。そして自分が興味を持った初めての同世代の人間、トウヤ。彼と最後に交えたあの場所に行けと、アジトの外で羽を休めているゼクロムが語りかけているような、そんな気がした。

 

「行こう」

 

 そう、Nは立ち上がる。

 暗雲の立ちこめた現状を打破するために、その瞳に焦燥と苛立ちと、希望を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2――

 

 

 

 Nがゼクロムを伴ってリュウラセンの塔にたどり着いたとき、空は既に茜色に染まっていた。

 もうすぐ夜が来る。暗く、人を惑わす夜だ。

 

「こんなことじゃ、笑われる」

 

 Nはそう頭を振ると、苦笑する。

 塔の前に立ち、見上げ、そして胸に手を当てた。

 

「ゼクロム? どうかしたか?」

 

 ゼクロムがNに、なにかを問いかける。

 だがNはゼクロムの反応を待たずして、その問いかけの答えを知ることになった。

 

「N……か?」

 

 見知った声。

 目を見開いて。振り返った先。

 静謐たる白炎を従えて、まっすぐとNを見つめる双眸。

 

「トウヤ……」

 

 その感情の名前は知らない。

 だが共に目指すモノは同じと定め、理想と現実の狭間に揺れる、生涯の相対者と定めた少年。

 

 レシラムを従えた、トウヤの姿がそこにあった。

 かつては、トウヤこそが己と相対し、その結末こそに希望の終着点があると信じてやまなかった。だが今はどうだ。

 信じていた道は揺らぎ、真に手に入れたいと願った席は遙か空に消えた。ならば今、不甲斐なくもイルを守れなかった自分が、どうしてこのライバルの前に立っていられようか。Nはそう恥じ入る気持ちで顔を俯かせる。

 

「N。イルはどうしてる?」

「イル、は――」

 

 隠すのか。

 Nは己に問う。

 答えは直ぐに出た。

 

「ゲーチスの策に嵌まり、姿を消した」

「なっ」

「ボクは――イルを、守れなかったんだ」

 

 自戒だった。

 守れなかった。それは誰よりも自身に課さなければならない十字架だ。Nは、だからこそトウヤに告げる。誰よりもイルを守っていたライバルに、罵られても仕方が無いのだから、と。だが。

 

「だったら、なんでおまえはここにいるんだ!」

「え……?」

 

 首を傾げるNに、トウヤは掴みかかる。

 だがその表情に怒りはあっても憎しみがないことに気がついて、Nは混乱した。

 

「な、ぜ」

「何故、って、なんだよ!」

「何故、君はボクを罵らない? そうするだけの資格があるはずだ」

 

 そうだ。

 トウヤだけが、おそらく誰よりも守れなかったNを罵る資格がある。権利が、ある。だがトウヤはその選択肢を選ばない。まるでそんな選択肢なんて存在しないと言わんばかりの表情で、Nの胸元から手を放した。

 

「そんなの、決まってるだろ……っ」

 

 トウヤはきつく唇を噛みながら、強く拳を握りしめる。そして何かを耐えるように伏せさせていた双眸を、強く、Nに向けた。

 

「イルは、自分からプラズマフリゲートに乗った。イルがそうしたくしてしたんじゃなくて、そうしなきゃならなかったからそうしたのは、わかる」

 

 ――だって、辛そうにしていたから。

 そう呟いて、トウヤは一度息を吐く。落ち着こうとしているのだろう。

 

「そりゃ、悔しかったし、怒りもしたさ」

「だったら」

 

 

「けど! それはNに対してもイルに対してもじゃない! イルのことを気がついてあげられなかった俺が、一番許せなかった!」

 

 

 血を吐くように告げるトウヤの言葉に、Nは我が身を貫かれたかのような錯覚を覚える。

 トウヤはイルを奪ったプラズマ団を、ひいては自分を憎んでいる。憎んでいなければ、おかしい。そう思い込んでいたNは、殴られるよりもずっと強い衝撃を覚える。

 それと同時に、唐突に理解した。何故イルがずっとトウヤと共に在ったのか。その理由は他ならぬ、Nも知っていた。同世代の中で唯一、自身の数式を崩す少年。そう判断して、ライバルだと宣言したのは、他ならぬN自身だったのだから。

 

「それに、Nは今、“守れなかった”って言ったじゃないか。それは、守ろうとしていたってことじゃないのか?」

「ぁ。いや、だが」

「だったら、俺はNに礼を言わなきゃいけない。だってNは、俺が守れなかったイルを、ずっと守ってくれていたんだから」

「違う! ボクは守ってなんか居ない! 守っていたのは! ……守られていたのは、ボクだ」

 

 イルがいたから、ゲーチスと向き合うことができた。

 イルがいたから、Nは道を違え踏み外すことなく、ここにあれた。

 

 守られていたのは自分だ。Nは、その言葉を噛みしめる。

 

「それでも、イルは守られていた。だって彼女は、誰よりも自分だけで抱え込む、寂しがり屋な小さな少女だから」

「トウヤ、君は――君は、誰よりも、イルのことを見ていたんだね」

「見ていることしかできなかった、だけだよ」

 

 そう、寂しげに笑うトウヤの横顔に、Nはイルの顔を重ねた。

 イルもまた、同じような笑みを浮かべていたことがある。その度に声をかければ、どこか安心したように表情を和らげてくれた。

 ああ、それがイルを守ると言うことだというのなら、やはりNは恥じなければならない。そんなイルの表情に助けられてきたのは、他ならぬNなのだから。

 

「だから、聞きたい。こんなところでNはなにをやっているんだ? 守れなかったんなら助けろよ。助けたいんだったら動け! もし、自分だけの力でどうしようもないんだったら、頼れよ!」

「え、ぁ」

「俺はおまえのライバルだ! ライバルだから、誰よりも互いを理解できる友達だ! だったら俺を頼れよ! 俺にできることなんてたかが知れているかもしれない! でも!」

 

 トウヤはまた、Nに詰め寄る。

 そして力強く右手を差し出した。

 

「一人でできないことだって、二人いればなんとかなる! それに、俺たちには、喧嘩ばっかりしてた伝説が後ろにいるんだ! 手を取り合えばきっと、伝説にもできなかったすごいことができる!!」

 

 理想の守護者と、現実の導き手。道を違えた二つの伝説が、もしも手を取り合ったら?

 Nは、己の視界が開けてくるような感覚を覚える。そして、ゆっくりと瞑目し、やがて手を差し出した。

 

「ボクに、力を貸してくれ。トウヤ!」

「ああ、任せろ! 一緒にイルを助けだそう! N!!」

 

 握り返した手は、なによりも熱を持っていたような気がした。

 なんでもできる。なんでもやれる。一人では闇しか見えてこなかった道が、光によって拓いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リュウラセンの塔。

 タウンマップを拓いて、トウヤはNと情報を交換する。

 

「つまり、ゲーチスはなにかの準備をしに消えたんだよな?」

「ああ、それで間違いない」

「俺も、レシラムを探す段階で、色んな人に色んなことを聞いたんだ。その中で、ひとつ、気になるモノがある」

「気になるモノ?」

「ああ」

 

 そういって、トウヤはタウンマップのある場所を指さす。

 

「サザナミタウンから十三番道路に抜けて、水道を越えたそのさらに奥」

「ここは?」

「ジャイアントホール。ここに――レシラムとゼクロムに関わりのある、もう一個の“伝説”がある」

「もう一つの、伝説……」

 

 トウヤが、Nの瞳を覗き込む。

 そしてどこか緊張した面持ちで、喉を震わせた。

 

 

 

「そうだ。ここにもう一つの伝説――“キュレム”が、いる」

 

 

 

 だとしたら、ゲーチスはそこにいるかもしれない。

 告げられた言葉に、Nは緊張した面持ちで頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――3――

 

 

 

 もう二度と開くことのない、次元の狭間。

 そこでかつて“アカギ”と呼ばれた亡者の残骸は、一人楽しげに笑っていた。

 

『ああ、やはりそうだった』

 

 歪みの中。

 上下も左右もない空間で、消えかけの亡者は嗤う。

 

『おれではだめだった。運命に打ち勝てず朽ち果てた。それはわたしが、おれが、真に支配者たる器がなかったからだ。だが、ああ、そうか、君ならば、君こそが王だったのか』

 

 嗤う。笑う。ワラう。

 

『さぁイルよ。この世界を打ち壊し、本当の世界を生み出してくれ。それが、それこそがギラティナの宿命。君に課せられた運命!』

 

 もはやその言葉に力は無く、意思は亡く、思想は喪い。

 

『あは、はははは、ははははははははっ!!!』

 

 ただ、狂気に満ちた虚無だけが、歪んだ空間に消えていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――了――






 ギラティナは皆さん予想がついたようですが、『バッヂを七つしか集められなかった』という伏線には気がつかれなかったと信じてる。

 お読みいただき、ありがとうございました。

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