とあるプラズマ団員の日記   作:IronWorks

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※今回は日記が後になります。


秋の月 色々乗り越えた日

 

――0――

 

 

 

 ――テンガン山、やりのはしら跡。

 

 準備を終えたトウヤは、かつてやりのはしらが建っていた場所から、空を見上げていた。

 四方に続く雲一つ無い蒼穹。けれどその中央、トウヤの真上の空だけは黒い雲に覆われ、歪んだ空間によって“孔”が穿たれていた。

 次元の歪み。ギラティナによって生み出された混沌は、時折、漆黒の稲妻を奔らせている。

 

「トウヤ……それは?」

 

 Nに問いかけられて、トウヤははっと我に返る。

 

「イルが、俺の家に置いていったんだ。その時にはたぶん、こうなることを予測していたんじゃないかなって、思う」

 

 傷薬やげんきのかけらなどのアイテムを準備している最中、母から渡された小さな箱。

 イルの忘れ物だとという古い木の箱を悪いと思いながら開けてみると、そこには一つのモンスターボールが入っていた。

 トウヤは箱を開けて、それを取り出してみせる。

 

「ほう」

 

 そう、感心したように零すのはゲーチスだ。

 

「クックックッ、なるほど。使い方を誤らないことです。さすれば“それ”は、我らの勝利の鍵となりましょう」

 

 紫と赤のボディ。

 特徴的な、Mの刻印。

 

「マスターボール……」

 

 それこそが、イルの残した鍵だ。

 

「行こう、N! ゲーチス!」

「ああ、トウヤ!」

「今回限りです。大人しく、従いましょう」

 

 トウヤの前には白。

 純白と紅蓮を纏う伝説、レシラム。

 Nの前には黒。

 漆黒と稲妻を纏う伝説、ゼクロム。

 ゲーチスの前には青。

 蒼淵と氷河を纏う伝説、キュレム。

 

 伝説に付き従うのは、赤と黒。

 太陽を掲げし火炎の徒、ウルガモス。

 忌まわしき研究からの解放者、ゲノセクト。

 

 歪みに覆われた太陽を救い出すために、伝説が立ち上がった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋の月 光の向こう側へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1――

 

 

 

 鳥ポケモン、あるいはドラゴンポケモンであっても寄せ付けないような歪みの嵐も、伝説のポケモンが航路を切り拓けば話は別だ。

 歪みを突っ切り、暗雲に飛び込んだトウヤたちが見たのは、雲よりもはるか上の高度だというのにところどころに切り分けられたような足場が見える、歪んだ空間であった。

 

「小僧、N、うかつに足場以外の場所に降り立とうと思いますな。二度と、現世には戻れませんよ」

 

 ゲーチスの声も、心なしか硬い。

 トウヤたちはレシラムたちの助力があるからまっすぐ飛んでゆくことができるが、これがもしそうでなかったら、上も下もわからないような空間で永遠に彷徨うことになるだろう。

 気が狂いそうになるほどの恐怖――そんなものよりも、トウヤは、この空間にイルが居続けていることの方がはるかに怖かった。

 

「トウヤ、見て!」

 

 Nの言葉に、トウヤははっと顔を上げる。

 切り分けられたような場所しかなかったはずなのに、そこは一転して広かった。

 地図を無理矢理寄せ集めたような景色。大地には水が流れている。だがその水はエメラルドに輝き、どこから来てどこへ落ちているのかもわからない。そのだだっ広い空間の中心に、プラズマフリゲートが停泊している。

 トウヤはNたちに目配せをすると、プラズマフリゲートの甲版に降り、いったんレシラムたちをモンスターボールに戻す。

 

「中で彼らを出すことができるスペースがあるのは、動力室のみです。そしてそこに、件のポケモンとイルもいるのでしょうな」

「わかった。なら――行くよ、ダイケンキ!」

 

 トウヤがモンスターボールからダイケンキを呼び出す。

 同時に、イシュタルがNを護るように動き、セクトがゲーチスを護るように動いた。変則的なトリプルバトルだ。

 

「行こう」

 

 緊張したトウヤの声に頷くと、ゲーチスが前に出る。案内役は、道を知る彼が相応しい。

 

「この黒いヒビはなんだろう、父さん」

「浸蝕でしょうねぇ。かのギンガ団総帥、アカギが打ち倒されるときに傍に居たギラティナはここまでの力を有してはいなかったようですが……真の宿主では力の心地も違うと見える」

「ギラティナ……」

 

 ギラティナ。

 ゲーチスから聞かされたその名を、トウヤは噛みしめるほどに呟く。

 最終決戦を目前に幾度となく調べたポケモン。ゴーストタイプとドラゴンタイプを併せ持つ、蜃気楼がごとき伝説。

 宿主が悪であれば悪に、善であれば善に。本来はそうやって宿主によって性質を変えるはずだったポケモンも、今は暴走状態にある。

 

「過ぎたる力は身を滅ぼす。イルにとって、彼女のようなずば抜けた存在にとって、たとえギラティナでさえ“過ぎたる”というほどの物ではないでしょう。ですが――」

「ギラティナにとって、イルは“過ぎたる力”だった。そうだね、父さん」

「――ええ。かの伝説が、己を押さえることができぬほどに、ねぇ」

 

 ギラティナでさえ正気を失う器。

 それがイルであることは明白だ。あの日、あの場所で出会った小さな少女は、今も狂気に侵されながら、深奥に封ぜられている。

 

「来ましたよ!」

「ッ」

 

 彼らの前に現れたのは、影のような身体のポケモンたちだ。

 ヘルガー、ドンカラス、マニューラ、ギャラドス、クロバット。実体はなく、あっても時々ぶれるような不安定な存在。

 だが問題は、その数だ。彼らはプラズマフリゲートに奔る黒いヒビから滲み出るように、無数に存在していた。

 

「突っ切るぞ、穿てダイケンキ! ハイドロカノン!」

「イシュタル、我らが太陽に導いてくれ! ぎんいろのかぜ!」

「セクトル、力を借りますよ。でんじほう!」

 

 シャドウのポケモンたちをかき消しながら、走る。

 ただ決意だけを、瞳に秘めて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2――

 

 

 

 幾重にも重なるシャドウのポケモンたちを退けた先。

 大きなゲートを前に、トウヤたちは足を止める。

 

「ゲーチス……」

「ええ、ここです」

 

 彼の言葉に頷くと、トウヤはゲートの前に立つ。

 すると、なんの承認も行っていないのに、自然とゲートが開いた。誘われている……の、ではない。

 

「イル……君は」

 

 イルが、ギラティナの気を逸らしてくれたのだろう。

 だだっ広い空間。その中央の台座に座り込み、ひたすらに祈りを捧げる幼い姿。

 その後ろでうなり声を上げる巨大なポケモンこそが――ギラティナだ。

 

「行こう、レシラム」

 

 ダイケンキを戻し、呼び出すのはレシラム。

 Nの前にゼクロム、ゲーチスの前にキュレム。そして、彼らの後ろにイシュタルとセクトルが控える。

 

「イル! 俺たちが、ぜったいにイルを助ける! だからそこで、待っていてくれ!」

 

 トウヤたちがレシラムたちに指示を出すと同時。

 ギラティナが動き出す。その巨体からは考えられないようなスピードで空を舞うと、彼は自身の正面の空間を歪ませて、不可視の弾丸を放った。

 

「はどうだん、ですか!」

 

 そういって冷凍ビームを放ったのは、キュレムだ。

 先制攻撃は防いだ。ならば次は、攻撃だ。

 

「ゼクロム!」

「レシラム!」

 

 多くの言葉は必要ない。

 ただ、自分が信じるポケモンと、自分を信じる親友に合わせればそれでいい。

 

『クロス』

「フレイム!」

「サンダー!」

 

 二極の光が、互いを増幅しながら迸る。

 その強大な力は、しかし、ギラティナには届かない。出力が足らなかったのか、ギラティナにたどり着く前にかき消えた。

 

「ッ」

「トウヤ、もう一度だ!」

「ちッ! キュレム!」

 

 冷凍ビームでギラティナの攻撃を相殺するキュレム。

 長所を生かし切れないレシラムとゼクロム。このまま無駄に時間が過ぎれば、イルがどうなってしまうのか。

 焦り。焦燥が、トウヤたちの身を焦がす。

 

「分の悪い賭けは嫌いなのですが、仕方ありません」

「父さん?」

「良いですか。成功率は低い。けれど、現状を打破する手段があります」

「やろう!」

「やろう!」

 

 即答。

 トウヤとNの言葉は、力強いものだった。

 

「まったく、後先考えない子供ですねぇ」

 

 そう良いながらも、ゲーチスはどこか納得したような顔だ。

 

「――もともと、ゼクロムとレシラムは一体のポケモンであり、キュレムはその接合部のような部分に過ぎませんでした。で、あるならばキュレムを介して、元の姿に戻すことも不可能ではない、はずです。理論上は、とつきますがね」

 

 ゲーチスが言い終わると同時に、イシュタルとセクトルが前に出る。

 その背中が何を言っているのか、わからないトウヤたちではない。

 

「やろう、N」

「行くよ、父さん」

「ええ、ええ、まったくしようのない」

 

 キュレムを中心に、レシラムとゼクロムが並ぶ。

 するとその願いに呼応するように、彼らの身体が輝く。

 

「作法も知らず、儀式もなく。これが、新世代の力というワケですか。道理で、ワタシが――私が、及ばない訳だ」

 

 やがて、輝きが収まる。

 キュレムの双銀を纏うのは、黒と白がバランス良く混在した龍。

 その背からは黄金の粒子が迸り、その尾からは紅蓮の光が溢れ出す。

 

「カオスキュレム。あるいは――オリジンキュレム」

「これなら」

「ああ!」

 

 トウヤたちの願いに呼応するように、足止めをしてくれていたイシュタルとセクトルの背を飛び越えてオリジンキュレムが飛び出す。

 その姿を見てギラティナは危機感を覚えたのか、自身の眼前の空間を歪ませた。

 

「シャドーダイブはさせませんよ! フリーズボルト!」

 

 ゲーチスの声に呼応して、ギラティナに吹雪を纏った稲妻が直撃する。

 ギラティナはシャドーダイブを阻止された次の瞬間には身を翻し、りゅうのいぶきを放った。

 

「コールドフレア! キミを正気に戻すためだ。ボクはキミを止めるよ、ギラティナ!」

 

 氷雪を纏った炎が、ギラティナのりゅうのいぶきに激突。

 相殺ではすまず、ギラティナはその余波にさがる。だが、この空間はギラティナを補助しているのだろう。ギラティナの攻撃こそ強くなってはいないが、傷の治りは異様に速い。

 なにか、なにか手はないか。千日手の状況を前に、トウヤは周囲をよく観察する。そして――

 

「N! あれ、見えるか?」

「? ……あれは、黒いモンスターボール?」

 

 祈るように手を重ねるイル。

 その掌に挟まれているモンスターボールを、トウヤは見つけた。

 

「N、小僧、良いですか、イルに呼びかけなさい。イルは、ギラティナの解放を試みようとしているぞ!」

「!」

 

 ポケモンの解放。

 モンスターボールから解き放たれたポケモンは、他のモンスターボールで捕まえられるようになる。

 もしもギラティナを簡単に逃がしてしまえるような状況では悪手だが、こうして押さえられる今ならば、モンスターボールを“当てられる”。

 そして、イルの残してくれた“鍵”があれば――。

 

「イル! 俺は、俺はずっとイルに頼ってきたし、甘えてきた。イルは俺よりもずっと小さな女の子なのに、ずっとずっと大人で――イルに、背負わせてばかりだった」

 

 だから、気がつけなかった。

 だから、イルを孤独にさせた。

 けれど、トウヤはイルをまっすぐと見つめる。

 

「だから、次は俺の番だ。俺がイルを守る。俺は、だって、俺は――」

 

 燃えさかる炎のような深紅。

 炎の中に煌めくエメラルドグリーン。

 表情はあまり多くない。けれど時折見せる横顔は、憂いと慈しみに満ちていた。

 

 笑顔を見たこともある。

 トウヤに優しく微笑んで、頭を撫でてくれたことがある。

 だがなんの憂いもなく笑ったことは、きっとなかった。

 

 そう思えば、わかる。

 トウヤは見たかったのだ。屈託なく笑う、最愛の彼女の笑顔が、ずっと、ずっと見たかった。

 

「――イルのことが、好きだから」

 

 Nの苦笑が聞こえる。

 先を越された、なんて背中を押してくれる親友。

 ゲーチスのため息が聞こえる。

 ただ、何も言わずに守ってくれる彼の背は、父のようだった。

 

「帰ろう、イル!」

「――――」

 

 そして。

 

「――――っ」

 

 黒いモンスターボールにヒビが入る。そのヒビは徐々に大きくなり、やがて。

 

「とう、や。え、ぬ」

 

 イルの唇が、僅かに震えた。

 

「ギラティナ! 悪いが、イルは帰して貰うぞ!!」

 

 トウヤがマスターボールを投げる。

 同時に、Nがトウヤに手を伸ばし、オリジンキュレムの上に乗せた。

 一直線に台座を目指し、遮るように身を乗り出すギラティナ。

 

 そして。

 一瞬の攻防は。

 

「セクトル、イシュタル、力を貸して貰いますよ。いかりのこな、テクノバスター!」

 

 虫属性の粒子が、ギラティナの動きを鈍らせ、外れようとしていたマスターボールの軌道を、テクノバスターが修正する。

 光を纏ったマスターボールはギラティナに直撃し――その身体を、光に変えて納める。

 

 やがて、イルに――トウヤとNの手が届いた。

 

「トウヤ、N!」

『イル!』

 

 トウヤとNが、イルを抱きしめる。

 ついで、イシュタルとセクトルもイルに飛びついた。

 

「聞こえてたよ、二人の声。二人の心に、助けられたよ」

「イル! 良かった、本当に」

「キミが、無事で! ああ、本当に――良かった」

「泣かないで――ありがとう」

 

 微笑むイルを抱きしめるトウヤと、その手を握るトウヤ。

 そんな二人にイルは初めて、心からの笑顔を見せると、安堵の息と共に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――3――

 

 

 

 極度の負担から解放されたためか、気を失ったイルを抱えて、トウヤたちはようやくテンガン山に戻ることができた。

 そこで対峙するのは、Nとゲーチスだ。

 

「父さん。これから、どうするつもりなんだ?」

「……計画は振り出しですからねぇ。また練り直しですよ、まったく」

「まだ、諦めないのか? 父さん」

「ええ、もちろん」

 

 ゲーチスはそう、不敵に笑う。

 けれどどうしてだろう。その笑顔に、以前のような闇はない。そのことが、トウヤは直感的に気がついた。

 Nもそれは同じだったのだろう。問いかける声に、不安はない。もっとも、不満はあるようだが。

 

「まずは罪を償おうとは思わないのか?」

「私には私の目的があります。そう――この世界を、ポケモンに頼らなくても、ポケモンに依存しなくても、共存させるという目的が!」

 

 ゲーチスはそういって笑うと、機械杖で地面を叩く。

 すると、テンガン山の裏側から飛び出すように、小型の被空挺が現れた。

 

「プラズマフリゲート・プロト。悪いが私は往生際があまり良くないのでね」

「と、父さん?!」

「行きますよ、キュレム!」

 

 身を翻し、キュレムに捕まり飛び立つゲーチス。

 彼は被空挺に飛び乗ると、目立つキュレムをモンスターボールにしまった。

 

『舵は任せますよ、アクロマ。では、さらばだ、N、“トウヤ”よ。私は必ずこの野望を成就させる。そのためには、立ち止まっている暇などない! 私の……私とナズナの、理想のためにね!』

 

 スピーカーから聞こえてくる声に、呆気にとられる。

 残されたNは呆然と佇み、やがて、堪えきれないように笑い出した。

 

「まったく……あっ、はははははっ! 母さん、父さんはあなたが言ったとおりの人だったよ」

 

 そう、夕暮れを見守るNの背を、トウヤは静かに見守る。

 

「トウヤ。ボクは父さんを追うよ。罪を償わせて、それから、父さんと一緒に歩いてみようと思う。――ポケモンと人間が対等である世界の、ために」

 

 彼の顔は見えない。だが、きっとこの空のように澄んでいるのだろう。トウヤは腕に抱えるイルに小さく笑いかけながら、そう、小さく目を伏せた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――了――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋の月 七日

 

 

 

 おそらく、しばらくは筆を執ることができないだろう。

 だから、書けるうちに現況を記しておこうと思う。

 

 

 

 ことの顛末から書いておこう。

 

 あの日、プラズマフリゲートで待ち構えていた私を迎え撃ったのは、トウヤとNと何故かゲーチスの三位一体だった。ポケモン三体合体とかなにそれ新しい。

 

 何故か進化をしていた私のイシュタルと、セクトルも参戦。私は怪しまれないことに必死で、俯き姿勢。祈りのポーズって便利だと思った。終始、それっぽいように演出できるのは強みだと思う。まぁ、二度と使わないが。

 

 必死に呼びかけてくれるトウヤたちに申し訳なく思いながら、ただひたすら祈りのポーズ。大の大人が子供たちにこんなにも情けない姿を晒しているという事実に泣けてきた。

 ギラティナが押され始めると、私は心の中で歓喜の舞を踊りながら経過を見守った。そして、ついにギラティナが弱々しくうなだれ始める。私は、このときを待っていた。

 

 ギラティナの歪みから、プラズマフリゲートが解放され始める。それに合わせて干渉を受け始めるのは、あの真っ黒なモンスターボールだ。それをトウヤたちに見えるように、祈りのポーズの、手の中に納める。モンスターボール裏側の蓋を開けて、晒し出すボタンは“ポケモンを逃がす”のボタンだ。そう、逃がしてしまえばまっとうなモンスターボールで捕まえられる。それを察して貰うためにも、トウヤたちに逃がしたことを悟らせなければならない。

 

 と、解放ボタンを押したとたん、何故か光に包まれて砕け散るモンスターボール。同時に、トウヤが目を見開き、けれど揺るぎない視線で手に取るのは“マスターボール”。

 

 

 なんでそんな代物を持っているのだろう。私だって、父に貰った一つしか持っていないから、小型化してお守りの中に入れておいたというのに。そういや、あのお守りどうしたっけ?

 

 

 とにかく。流石にバッヂを八つ抱えたスーパートレーナー様のマスターボールに、弱ったギラティナが抗えるはずがない。Nやゲーチスたちの力を借りて、切り開かれた道を突き進むトウヤ。その手には、ギラティナの収まったマスターボールが握られていた。

 だが、私には感慨に耽る余裕などない。今世最大の大芝居。トウヤとNにしてみれば、私は“とらわれの姉”ポジションだ。その役目を全うしなければ。

 

 そう、飛び込んだ私を、トウヤとNが二人同時に支える。どうせなら同年代のお姫様が良かったろうに、ごめんね、こんなおばちゃ……お姉さんで。

 一緒に飛び込んできたイシュタルとセクトもひっ捕まえて、私も思わず感無量。涙を流しながらお礼を言うと、二人は同じく泣きながら抱きしめてくれた。ちょっと恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 これ以上ボロを出すわけにはいかないので、ここから先は気絶したふりをさせてもらっった。いやだって、まず自己改革に励まないとポエムが、ね。

 

 ゲーチスは、妙にすっきりした笑顔で逃げていった。アクロマの作った“プラズマフリゲート・プロト”とかいう小型飛行戦艦にのって去って行く姿は、物語の悪役を匂わせる伝統美を感じる。

 Nはというと、彼はそんな父親を追いかけるそうだ。罪を償わせて、その上で父親の目指す“人とポケモンが対等に存在する世界”を手伝いたい、と、明るい笑みで言ってくれた。そんな綺麗な夢を持った社長、私は知らない。人間関係において、勘違いがあるとやっかいなことになると学んだ私としては一抹の不安が残るが、そこはまぁ、若人に託してみよう。

 

 

 

 

 

 

  無事に保護された私は、私の思惑どおり“不幸な被害者”ということで扱われるようだ。実際の状況は綱渡りの連続のようであったが、終わりよければ全てよし、ということで許して欲しい。

 細かい取り調べのようなことは、私の身体検査を終え、後遺症がないか確認してから行われるらしい。取り調べといっても怖いことや辛いことがあるわけではない、と丁寧に説明してくれた世界警察のハンサムさん。彼の対応がまるで幼い少女に接するかのようなもので、照れくさかったのは内緒だ。

 

 あまり、おばちゃんをからかわないで欲しい。まぁ、ハンサムさんからすればそう年は変わらないのだろうが。

 

 

 

 とにかく。

 佳境も越えて漸く一段落。今後のことは気になるものの、ひとまず今は疲れた身体を休ませよう。

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 前みたいに、今夜は一緒に寝ようか。そうトウヤに告げたら、Nとトウヤで口論になった。姉のように慕ってくれるのは嬉しいし、取り合ってくれるのも照れくさいが悪い気はしない。ただ、なんだろう、流石に私はショタコンではない。

 宥め賺して、結局三人で寝ることになった。やっぱりなんだかんだと言っても、人肌恋しいのだろう。しばらくはまた離れることになりそうだし、今夜くらいはたっぷり甘えさせてあげようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――†――

 

 

 

「前みたいに? 一緒に? 寝る? え、どういうことだい、トウヤ?」

「い、いやこれには、その、あ、ははは」

「ええと、だめ?」

『いや、いいよ。……あ』

 

 

 

 

 

 

――了――

 





 お待たせしました。
 残すはエピローグのみなので、近日中に公開いたします。



 解けない勘違い→年齢。

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