とあるプラズマ団員の日記   作:IronWorks

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ポケモン LEGENDS アルセウスのネタバレを含みます。


とある臨時商会員の日記
春の月 迷い込んだ日


(たぶん)春の月

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんでもないことになった。今も、なんとか平静を保って日記を書いている。

 色々あってから新調した日記には、華やかな新生活を綴っていく予定だったのだけれど、華やかどころか波瀾万丈な新生活が強制的にスタートしてしまった。

 自分自身の動揺を抑え込むために、こうなってしまった経緯を書いて振り返ることで、どうにかこうにか打開策を見つけたい。

 

 

 

 私の名前はナナシ・イル。ブラックシティ出身。年は二十六歳で、そろそろアラサーという言葉が脳裏にちらつき始めたお年頃、だ。一昨年までは色々あって、勤めていた会社が事実上の崩壊。私はともに旅した少年の自宅で世話になる、という、いい年した大人がそんなことでいいのか、と自問自答の末に罪悪感で爆発しそうになる……という日々を送っていた。

 

 就職活動をするものの、童顔小柄で無表情という属性のせいか、面接先にあしらわれてしまうような日々。そろそろなりふり構わず就職先を見つけなければ、人様のおうちでニートという罪悪感に負けて死ぬ、と、昔なじみの土地に戻ってきた。それが、海外に留学していた際、姉妹校があったため交流のあったシンオウ地方だ。広大な大地と歴史ある建造物。コンテストショーが盛んで物流の流れもあり、就職先を探すのであればこの上ない条件だ、なんて思ったのだけれど、私の就職への期待値は、はじめの一歩で頓挫した。というのも、フェリーで意気揚々とシンオウ地方に到着した私は、最初にチェックインしたホテルの部屋に踏み込むと同時に、謎の穴に転落。まるであの日、ギラティナに遭遇したときのような浮遊感に包まれたかと思ったら、霧の深い、石で出来た遺跡のような場所に放り出されていたのだった。

 

 

 手持ちのポケモンはイシュタル(ウルガモス。かわいい)とセクトル(ゲノセクト。かっこいい)の二匹のみ。しかも、移動のためにモンスターボールに入っていてくれているのは良いのだけれど、大枚はたいて買った特製ゴージャスボール(にしか入ってくれなかった)が故障して、手持ちから出すことが出来ない。おかげでセクトルに乗って空を飛ぶことも、イシュタルを抱きしめて暖を取ることも出来ず、こうして、旅行鞄につめてきた日記帳に思いの丈を綴ることでしか、自分を保つことが出来なかった。

 

 

 

 

 これからどうなってしまうのか、おおいに不安だ。けれど、なにも悪いことばかりではない。この地に放り出されて呆然としていた私に、声をかけてくれた人がいたのだ。金髪で人の良い笑顔を浮かべる青年で、名前を、ウォロというそうだ。困り果てた私を手助けしてくれる、という、なんとも人の良い青年だった。幸いにも、助けになってくれる人がいる、という、恵まれた状況には涙せずにはいられない。三つか四つか年下の青年だ。私のような役立たずのおばさんの世話をするのは大変だろうに、よく気遣ってくれている。トウヤといい、Nといい、年下の男の子に頼ってばかりという現状に、思うところはあるのだけれど。

 でも、どうにか彼に報いるためにも、ここがどこで、どうやって帰るのか調べながら、どうにかこうにか、彼に報いる方法を探したいところだ。

 

 

 

 

 ひとまず、今日の日記はここまで。私が情けないことと、ウォロへの感謝の気持ちしか振り返ることが出来なかったけれど、今日はもういっぱいいっぱいなので許して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 ところで、とても遠くの山の上に次元の裂け目が見えるのだけれど、まさか、トウヤのマスターボールから逃げ出したとか言わないよね? ギラティナ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――†――

 

 

 

 

 

 

 芽吹きの月 使者との邂逅

 

 

 

 

 

 

(どうしてこんなことに)

 

 赤い髪に碧の瞳。外見年齢十歳そこそこの女性、イルは、そう、ため息を吐く。見渡す限りに広がる山麓は、とても人の手が入っているようには見えない。けれど、イルが背中を預けている石柱は、一目で本物だとわかる由緒正しい遺跡であることは間違いない。イルは、かつての友人、アカギと共に各地の遺跡について考察したときのことを思い出しながら、遺跡に触れてみる。

 祭壇のような中央部に描かれたポケモンの壁画。そこに記されているのは、古代のポケモンだろうか。イルの知らないものが多い。ただ、シンオウ地方を調べる考古学者なら誰でも耳にしたことがある、レジギガスのものと思われる壁画があることから、シンオウ地方である可能性が高い、と、イルはあたりをつけてみた。シンオウ地方、といえば、他にも伝説に数えられるポケモンが多い。

 

(ディアルガ、パルキア、マナフィなんかもそうだっけ? あとは、えーと、アル……アル……)

 

 そうだ、と、イルはアカギとの会話を記憶の奥から引っ張り上げる。それは同時に、中二病時代を振り返ることに似た、胸の奥の疼痛を呼び起こす作業でもあった。

 

「……アルセウス」

 

 その名を絞り出したとき、脳裏に過るのは同じく“ア”行のアカギが浮かべたアルカイックスマイルだった。最後の最期に超弩級の爆弾を落として満足していったアカギ。彼から受け取ったギラティナのせいで、イルはおおいに苦労したのだ。もっとも、ギラティナからすれば、イルのせいで汚名を着せられたようなモノでもあるのだが。

 己の身に降りかかった痛々しい日々を振り払うように、イルは小さく首を振る。そして、我に返ったことではじめて、イルは周囲に人影が近づいてきたことに、気が付いた。

 

(ん? 人影? まさか、私と一緒に遭難したひと?!)

 

 イルは内心で、孤独感から解放される可能性に色めき立つ。けれど彼女の鋼鉄のような表情はぴくりとも動いてはくれず、喉から出てきたのは抑揚の無い言葉だった。

 

「あなたも?」

 

 ファーストコンタクトとしては、なにもかも間違えていることだろう。けれどイルは気が付くことも無く、ただ物静かに見える視線を人影に投げかけた。イルの視線に人影……金髪の青年は、うろたえるように声を上げる。

 

「アナタは……まさか……」

 

 青年は一歩、怯えるように下がる。けれど瞬きの間に体勢を整えると、咳払いをして微笑んだ。

 

「こんにちは。ジブンはイチョウ商会のウォロといいます。あなたは、旅のお方で?」

「私は……」

 

 イルは、ウォロと名乗った青年の言葉選びから、現地の人だ、と思い至る。そうなると、自分のことをどう説明したモノかと悩み、逡巡の末、もっとも適切な言葉を選ぶことになる。

 

「私は、迷子」

 

 迷子。子供。子供じゃないやい、と、イルは内心で下策を悟る。もっと他に言いようがあったろうに、と。しかし、遭難といえばコトが大きくなるかも知れない。とにかく遭難関連のことにはお金がかかる。年下の少年の家に下宿している身としては、お金は掛けたくないというのが本音だ。イルは、二の句を告げることも出来ず、ただ、ウォロの反応を見ることしかできなかった。

 そうして見つめられたウォロはというと、何故か、イルの言葉に黙り込む。なにかを言おうと口を開き、しかし直ぐに頭を振ると、どこか軽薄な笑みを浮かべた。

 

「なるほど! でしたら、ジブンと一緒に来ませんか? ジブンは、遺跡を巡るのが趣味でして、それなりに伝手もあります。どうでしょう? 損はさせませんよ!」

「……報いることは、できないかもしれない。それでも?」

「っ……は、はは、いやぁ、先行投資というやつですよ! ハハハ」

 

 ウォロの言葉の節々には、動揺のようなものがあった。けれどイルは、己が悪の手先だとは気が付くことも無く意気揚々と過ごしてきただけあって、ウォロの様子に気が付かない。もちろん、見知らぬ土地に放り出された不安もあるのだろうけれど、基本的にイルは見た目不相応に暢気で天然な性格だった。ただただ、ウォロの優しさに感動して、告げられた言葉を素直に受け取る。

 

「あなたは、それでいいの?」

「え、ええ、ええ、は、はは、もちろん、構いませんとも!」

「わかった。ありがとう。報えることを祈るわ」

「……(あなたは。いや、時期尚早か?)」

「なにか言った?」

「い、いえ、なんでもありませんよ! さぁ、行きましょう!」

 

 互いにすれ違いながらも、手を取り合う二人。片方はただ己の帰還と恩に報いることを望み、片方は己に秘めた野望が叶えられる切っ掛けを望み。

 

 

 

(いい人に出会えて良かった)

(アルセウス……。この少女が、キミの使者、なのか?)

 

 

 

 互いに勘違いをしていることなどにはついぞ気が付かないまま、デコボコ珍道中が幕を開けた。

 

 

 

 




続きは、ダイパリメイクを購入したら書きます。

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