地獄生活 365日目
竜の咆哮で目を覚まし、近くの川で顔を洗い朦朧とした意識をはっきりさせる。
顔を洗ったことで頭がクールになると精神世界で水晶さんが言っていたことを思い出した。
『喜べアガルぺ、月の姫がそろそろ来るぞ』
『かぐや姫(仮)がですか?』
『私が会いに行けと言ってもお前は常に修行をしていて全く会いに向かわない、なら
ば私が彼女に頼み会いに向かわせるほかあるまい』
『どんだけ会わせたいんですか⋯⋯』
『そういうな、実際会いに行く気なかっただろ』
『それはまあ⋯⋯』
実を言うと、かぐや姫(仮)のことは半年前から今日までの間かなりの頻度で僕と水晶さんの話題の中心となっていた。寒気の理由は話題に出てきた内容の幾つかが余りにもぶっ飛んでいて規格外なものが多かったからである。
その中でも『月を落とした』というのは最も印象的だ。さらにそのかぐや姫は真祖のオリジナルでもあるらしいとも聞かされた。いやまあ、流石にそれは嘘だと思うが、もし本当なら月の神様達が発狂してしまう。
会いに行かなかったのは自分が修行中というのもあるが、一番の理由は水晶さんの規格外過ぎて嘘としか思えない話のせいである。
「あまりのんびりしていてはいけませんね」
取り敢えず食事をとったら直ぐにランニング行きますか、皆もう集まっているようですし。
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今日のランニングは365キロ、改めて思うと結構な距離だよね?途中にある山脈とか入れたら365キロ以上はあるだろうし、今まであまり気にしたことがないけど普通の人もこれくらいできるものなのだろうか⋯⋯ないな。
それにしても皆さん⋯⋯
『野郎オブクラッシャアアアア!!』『エフッエフッエフッ!!』
『貴方⋯⋯食べちゃだめ?』『アイエエエ!?イリス!?イリスナンデエエ!?』
『クス⋯⋯赤い雨(ブラッディ・レイン) 』『アシクビヲクジキマシター!!』
『バルバトス!ベルゼブブ!アガルぺにジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!』
『ジェット⋯⋯え、なに?』『アニメの見過ぎだぞアザゼル』
相変わらず元気ですねー(レイプ目)
というか地獄ってどうなってるんですかね?悪魔や幻想種、魔物がいるのは理解できるんですよ。ただですね、軍人と格闘家はアウトでしょう。あと飛んでいるのに足首を挫いている悪魔とかもう訳が分からないよ。
そして喜々とした顔で攻撃を仕掛けてくる運び屋とイリスと呼ばれる幻想種、これがまた規格外なんですよ。
それはもうダハさんクラスの⋯⋯
この方達の簡単な解説をしましょう。
イリスの姿は幻想種の中でも異質で、なにより美しいのだが、それだけで終わるほど幻想種というのは優しい存在ではありません。
イリスの特徴は両肩から2本ずつ、そして両腕の様な2本の触手、計4本の伸縮自在な触手で、両腕の様な触手は槍状の鋭利な手甲となっています。
そしてこの触手、やはりというか当然チートとなっております。
伸縮自在の触手、恐ろしいのは伸びる距離であり、本人曰く『2キロ余裕(・ω・)b』
ぶっ壊れ性能も大概にしろと言わせてもらおう。
更に⋯⋯む、これだけだと思っていたのですか?
フフッ甘いですよ。
実はこの触手、触手の先端から超音波メス⋯⋯ビーム?
もうビームでいいや、どうみてもメスには見えないし、それにメスは自称運び屋のほうですし。
と、それは後にしてビームの話に戻りましょう。
このビーム、実は避けるだけならそこまで苦はないんです。ただ地面などに着弾すると話は別で、着弾時に起こる爆発の範囲は約30m、しかもインターバルが4秒とかなり速い、触手は6本あるので実質インターバルなどないといっても過言ではない。
一発放ったらまた一発、その繰り返し、おかげで一周する頃にはインターバルが終わり連射してくるから地形が崩壊しまくって後始末をしている悪魔の皆さんには頭が上がりませんよ。
しかもこのビームに僕だけじゃなく追いかけてくるメンバーも何名か巻き込まれてるんですよね、それでも追いかけてくるメンバーの1人が先ほど言った運び屋なんですが⋯⋯
『クス、アガルぺ君♡』
変態です(確信)
紛うことなき変態です(断言)
彼の名前は『赤屍蔵人(あかばねくろうど)』
初対面の時は『また新しいメンバーかな?』程度の認識しかなく、見た感じ初めてランニングに参加する方達のように『暇だから参加する』といった様子でした。本人曰く『仕事の途中でしたが面白そうでしたので』という理由で参加したらしい。
仕事をしなさい仕事を⋯⋯
だが実力は本物で、体内に隠し持っている108もの無数のメスを使い多彩な攻撃を仕掛けてくる。相手の上空からメスを降らしたり、大量のメスで相手を囲んだり、相手の影から突然出現したり、オリジナルと完全同体の分身を幾つも創ったり、自分の死をイメージできないから死なない等々⋯⋯
『この人なんで運び屋やっているのだろう?』と疑問でしょうがない。
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大体3時間程でランニングを終え、参加していたメンバーの方々と別れ、スカサハさんから渡された木刀で素振りを始める。木刀を上段に構え、振り下ろす。この動作を1000回繰り返し行う、今では慣れたもので1000回振り終えるのに掛かる時間は2分と30秒程度。前まではこの後に木への打ち込みがあったが、4か月からカットされその分はイメージトレーニングと模擬戦に使われるようになっている。
半年前に木刀を振っていると感じた違和感は今では確信に変わり、それが何なのかスカサハさんに聞いたことがある。
スカサハさん曰く、その違和感は僕の『起源』とやらに関係しているらしいが、いまだにはっきりとした答えは教えてもらえていないでいる、でもスカサハさんは僕の起源を気に入っているらしく『このような縁があったとはな』と言い、不敵に笑い始めて少々不気味だった。
話を修行に戻すとしよう。
イメージトレーニングの相手は主にスカサハさんや悪魔の方達、時々ダハさんやイリスや変態を相手としてやっている。因みに一勝もしていない⋯⋯悔しい。
スカサハさんとの模擬戦では通算敗北数が365回という快挙を達成してしまった。
最初の頃は素手だけであしらわれていたが、数をこなしていくうちに剣や弓、刀に棍棒などと使用してくる武器が増えていき、本命の槍を使い始めてからスカサハさんの実力というもの改めて感じましたよ。
4か月前の模擬戦で初めてスカサハさん槍を使い始めた。
その時の模擬戦は一方的なもので、僕はろくに反応ができず惨敗⋯⋯
1か月経ってようやく攻撃を防御出来るようになった。
スカサハさんの口元が少し緩んだ気がする。
2か月経ってなんとかこちらも攻撃出来るようになった。
スカサハさんの眼が鋭くなった⋯⋯怖いんですけど。
3か月経つとまともな打ち合いが出来るようになった。
スカサハさんの口が弧を描き眼が爛々と輝いて頬が赤くなり、若干鼻息が荒い気がする⋯⋯何故だろう、身の危険を感じる。
そして現在4か月目、今回は模擬戦ではなく実戦らしい。いつもなら木槍を使っているスカサハさんだが今日は朱い槍を装備している。
なんか、槍からオーラが溢れ出ているのですがそれは⋯⋯
流石に木刀では耐えられないとのことで真刀を渡された、刀身は朱く何故かこちらも
オーラが溢れ出ている⋯⋯どゆこと?
スカサハさんに聞いたらどうやら自分で作ったらしく、気合が入り過ぎ気付いたらこうなっていたらしい⋯⋯どういうことだ、まるで意味が分からんぞ!?
気合入り過ぎてこうなるとか、スカサハさん気合入り過ぎでしょうに⋯⋯
スカサハさんの準備はもういいようなのでこちらも構えを取る。
「もう構えて、素振りはよいのか?」
「ええ、この刀はよく馴染みますので⋯⋯流石スカサハさんですね」
「⋯⋯⋯っ!」
「ちょっ!いきなりですか!?」
「まったく!お主は!本当に!」
今日はいつもより激しいのですが、てか激しすぎるのですが、あと槍のオーラがさらに増したのですがそれは⋯⋯あれ、なんか槍増えてません?なんで脚で放った槍が雨のように降り注でいるのですか?放った槍一本だけですよね?
⋯⋯わけがわからないよ。
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やっとスカサハさんとの実戦が終わった⋯⋯死ぬ、マジで死んじゃいますって⋯⋯
槍二本も使っているのに動きが早く手数の多さで押され始め、距離を置くと何本もの槍がスカサハさんの周囲に展開し射出される。しかもその全てが意思を持っているかのように追尾してくるからこれの相手もしなきゃいけないし⋯⋯
だからといってスカサハさんから目を離すと今度は上から槍の雨が降ってくるもんだからもう⋯⋯
「随分とぐったりしているな」
「当たり前じゃないですか⋯⋯」
あれだけ激しい戦闘したんですよ?疲れますって⋯⋯
「なんで、スカサハさんはそんな余裕そうなんですか⋯⋯」
「あの程度戦闘で音を上げる私ではない」
あの程度で片付けられるスカサハさん凄すぎません?
「さて、これで肉体の強化と武器による戦闘の修行は終わり。次は魔術を教えるのだ
が、これから教えるのは私ではなくなる」
「⋯⋯はい?」
「明日で私の有休も終わりでな、今日のうちにはドイツに戻らねばならん」
「え、あの」
「心配するな。明日からお主に魔術を教える者は私の友人だ、多少の癖はあるが
悪い奴ではない」
「あのー⋯」
「こと魔術においては私より彼女のほうが上だ、まあルーン魔術は私が教えたかった
が仕方ない」
「⋯⋯」
「急ですまないがお主はそれでよいか?お主に伝えていないことを忘れてしまってい
てな」
「大丈夫ですけど、その彼女はなんという人か教えてもらえないでしょうか?」
「構わんぞ、彼女の名は⋯⋯」
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「これでお別れだ、寂しくなるな⋯⋯」
「いやそんな深刻そうに言わないでくださいよ」
「分かっている。しばしの別れだ、偶には来るさ⋯⋯あと寂しいのは本当だ」
スカサハさんて急に可愛いくなりますよね
「いま、何か随分と失礼なことを考えなかったか?」
「いやいや!そんなことはっ⋯⋯んむ!?」
「ん、ちゅ⋯⋯ふう」
「い、いきなりなにを!」
「1年も修行を付けてやったんだ、褒美の1つ貰っても文句はあるまい」
文句はあるまいってスカサハさん⋯⋯
「それとも、私のような女からのキスはその⋯⋯いや、だったか?」
⋯⋯ああもう、いちいちこの人は可愛いな!
「文句というかいきなりはやめてください、あとキスは正直かなり嬉しかったので
嫌だなんてことはありません」
「そ、そうか!」
「それと最後にもう一つ、『私のような』なんて自分を卑下するようなことはしない
でください。貴女は美しく、なによりこんなにも可愛いのですから」
「か、かわっ可愛いだと!?やはり私をからかっているのではないだろうな!」
「からかうだなんて失礼な、僕は本気でスカサハさんは美しいと思いますし可愛い
とも思ってます」
「ああもう!!⋯⋯お主はっ!お主はっ!」
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スカサハさんは人の話を聞くべきです。いきなりはやめてくださいって言ったばかりじゃないですかまったく⋯⋯嬉しくはあるのですけどね。
取りあえず今日のところはやることも終えたので寝るとしましょう。
明日からスカサハさんはいないし、新しい方が来るそうですし、なにより魔術を習うことになるのだからしっかり休まなくてはね。
それにしても何故その方は私のことを知っているのでしょうか?
スカサハさんが僕のことを話す以前から知っていたらしいのですが⋯⋯
『朱い月』と言われても全く心当たりがないんですよね⋯⋯ん?月?⋯⋯⋯!?
もしかして水晶さんの言っていたかぐや姫(仮)なんじゃ⋯⋯
ないな⋯⋯ないよね?
年上としての余裕を持ちながら攻めてきた師匠が、やり終えてから自分とマスターの年齢差とかいろいろ考えちゃって弱気になったところ思いっきり褒めちぎっておどおどさせて赤面にさせたい。