やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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読者視点だとかなり感じの悪い話かもしれません。ご、ごめんなさい……
とりあえずこれで第二章の本編は終わりです。
このあと一章でもあっためぐり先輩と一色の日記かなんかで
彼女たち視点での話を書いてみようと思っています。

基本、八幡視点なので八幡にとって当たり前のことはわざと書いていません。
なので急にめぐり先輩がデレたように感じる人もいると思います。
そこら辺のことを書ければな、と思ってます。

第三章は「言葉は行き違い、気持ちはすれ違う」となります。
先に一章、二章の加筆修正しますんで投稿は少し遅くなると思います。



近すぎて絶望的な距離

俺は今、浜辺で海を眺めている。何故かって? 恋をすると人は詩人になるのだよ!

詩人といえば海か山へ行き、物思いや詩想に耽るもの。

本当は最近読んだ小説に俺のようなボッチがキャンプに興味を持ち山に登る話があったので

山の方へ行きたかった。でもしかし、遠いので近場の浜辺に足を運んだのだ。

 

膝を抱え寄せては返す茫漠とした水の動きを眺めていると、

先輩と先ほど交わしたやり取りが思い返される。

月の綺麗な夜遅く御宮へ続く石段のその途中で先輩を抱きしめた俺は

先輩が口にした「一緒に大人になっていこう」を実行することにした。

 

ここはやはりあれか…… と思い、先輩の頬にそっと手を添える。

そしてその形のいい桜色の唇に自分の唇を重ねようと近づける。

するとまたもやオデコをぺちんっと叩かれた。

 

先輩が大人になっていこうって言ったんじゃないですかー! あれは嘘なの? と嘆きつつ

今回は先輩が撫でてくれないので自分で撫でていると、先輩は浴衣の袖で口元を上品に隠し

「そういうのはまだダメだよ」と言ってくる。

 

残念無念また来年。

そんな気持ちでへこんでいる俺を見て、先輩は困ったような苦笑を浮かべると

そっと頬を寄せて俺の頬に合わせてくれる。

そして、「今度ね……」と耳元で優しく囁いてくれた。

 

今度するなら今でもいいじゃないですか…… と泣きたい気持ちをグッと堪えて頷くと

先輩と二人、ゆっくりと石段の残りを降りる。

そうして先輩を家に送り届けた後そのまま帰っても良かったのだが、どうにも気持ちが

高ぶってしまい、それで先輩の家から五分ほど自転車を漕いでここまで来たのだ。

 

月明かりに照らされた浜辺をてくてくと歩き、座り心地がよさげな場所に腰を下ろすと

詩人らしく物思いに耽る。

 

もうちょっと駄々をこねれば良かったかしら……

俺のへこんだ姿を見ただけで先輩は頬をすり寄せてくれたのだ。

少し涙でも見せれば頬に唇を当ててくれたりしたかもしれない。

プライドを完全に捨て、おもちゃ売り場でたまに見る子供にように「やだーやだー」と叫びつつ

手足をジタバタでもさせれば、唇を重ねてくれたかもしれないのだ。

 

俺にもっと勇気があれば……

そんな口惜しさで悶絶しながらも、そこまでプライドを捨てた俺を見て

愛想を尽かした先輩に俺が捨てられるかもしれない。

それに気付き、あれで良かったかもと思い直す。

そうして俺は先輩に触れてもらえた箇所を今度は自分で触れそのときの感触を思い出すと

低い唸り声をあげながら砂の上でゴロゴロしだす。

 

そんなことを二時間ばかりしていると、来た時は日の出前というのもあって浜辺には

人っ子一人いなかったが、日が昇るとすぐに犬の散歩をする人たちが姿を現す。

千葉の朝は早いのだ。

 

そのおかげで身悶えている俺を見た犬が吠えること吠えること。

飼い主のおじさんおばさんが「こ、こら! やめなさい」と必死に犬を抑えるが

犬たちはやめるどころか、さらに吠えまくる。

居た堪れなくなった俺は仕方なく家へと帰ったのだった。

 

 

× × ×

 

 

家に着いてリビングに入ると、六時前だというのに小町はキッチンで朝ご飯の用意をしていた。

小町は高校に入学してからこっち、仕事で忙しい両親のために家事全般を一人でこなしている。

立派な子。そんな小町の朝は早いのだ。俺? いちいち聞くなよそんなこと。

がたりと椅子を引くと、お玉でお鍋をかき回していた小町がぱっとこちらに顔を向ける。

 

「あ、お兄ちゃん、おかえり~」

 

「おお、ただいま」

 

答えると、小町はお玉を流し台に置いてずずいっと俺ににじり寄ってきた。

 

「お兄ちゃん。めぐりさんとは会えたの?」

 

「おう、会えたぞ。……えっ?」

 

なんでこの子知ってるの……。CIAとかKGBとかその手の機関のメンバーなの?

そうなると俺は国家から監視されるレベルの逸材なのか! まいったな、ガハハハ!

などと思う暇もなく小町がネタばらしをしてくれた。

 

夕べ先輩の誘いを受け家を出た俺だが慌てていたため携帯を家に置き忘れていた。

そして待ち合わせ場所を御宮としか決めていなかったことに気づいた先輩が

御宮の境内で待っていると伝えるため何度も連絡をくれたらしい。

何度着信音が鳴っても俺が電話に出ないことに隣の部屋で勉強をしていた小町がいらつき

文句を言いに俺の部屋に入ると、そこへちょうど先輩から連絡がきたので対応したとのこと。

 

「それでね、お兄ちゃん。めぐりさんが『夜分遅くにお兄さんお借りしてごめんね』って

言うからさ。『あげるので、よかったら貰ってください』って言ったんだよ。小町は」

 

「お、おう」

 

俺の知らないところで、俺がプレゼントされていた。

そうやって俺をいらないもの扱いするの止めてくれませんかね……

 

「そしたらね、めぐりさんが『そんなこというと、本当にもらちゃうよ?』って言うからさ

『えっ!』って小町が言ったら、めぐりさん『今日はそのつもりで呼んでるし』って!

それで小町も気になちゃってさ、寝ないでお兄ちゃんを待っていた訳さ」

 

そ、そうだったのか……。

そう考えると俺はまんまとめぐりんトラップにはまった哀れな獲物。

文字通り飛んで火にいる夏の虫だったわけだ。

めぐりん……恐ろしい子

 

「で、どうだったの、お兄ちゃん?」

 

問われて口篭もる。

妹に自分の恋愛事情を知られるのは年頃の男子としては些か気恥ずかしいからだ。

だがここまで事情がバレているならまあ構わないかとも思い、小町に今日の出来事を

言いづらい部分を省いて語って聞かせることにした。

話を聞き終えた小町は感心したようにほーと声を出す。

 

「じゃあ、お兄ちゃんはめぐりさんと正式にお付き合いすることになったんだね?」

 

「まあ、うん。そういうことになるな」

 

「そっかー! 小町は嬉しいよ。あのお兄ちゃんがねえ」

 

小町はしみじみ言うが、言葉とは裏腹になにやら浮かない表情を浮かべていた。

そんな小町に訝しげな視線を向けると、俺の視線に気づいた小町が困ったような顔で口を開く。

 

「そういえばね、お兄ちゃんに連絡つかないからって

小町の携帯にいろは先輩から電話がきたんだけど」

 

一色から? なんだろう。

視線で先を促すと小町はお茶を一口呑んでから先を続ける。

 

「えっとね、勉強会の合宿のことらしいんだけど」

 

合宿? 初耳だな……

頭を捻っている俺を見て小町は「お兄ちゃんも知らないの?」と聞いてきた。

頷くと「細かいことは今日お兄ちゃんに直接話すっていってたよ」とのこと。

 

合宿ねえ……、と思いつつ着替えるのに部屋へと向かう俺の背中に小町から声がかかる。

 

「ねえ、お兄ちゃん。ちょっと聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

尋ねてきたのは小町なのだが、当の小町はなにやら言いづらそうにもじもじしている。

 

「小町。どうしたんだ?」

 

「んー、や、なんかね。その、お兄ちゃんはさ、いろは先輩のことどう思ってるの?」

 

「どう思ってるって、どういう意味でだ?」

 

「まあなんというか、女の子としてみて」

 

問われて少し考える。暫くして考えがまとまったので、ひとつひとつ口にする。

 

「まあ顔は可愛いよな」

 

「うん」

 

「中身も可愛いちゃ可愛いし」

 

「うんうん」

 

「でもまぁ、あれだな。なんつーか小町ポジションなんだよ、一色は」

 

俺の言葉に、小町は自分を指差して首を捻っていた。

上手く伝わらなかったか、と思い、言葉を続ける。

 

「手間のかかる年下の女の子っていうのかな。

困っているなら手を貸したり世話をするのもやぶさかではないというか」

 

「でも、手間かかったり世話してるの、どっちかというと小町だよね?」

 

「ですね……」

 

速攻で論破された。まあ確かに小町にはいつもお世話になっているので反論できない。

 

「それと、小町と一緒ってことは、大好きってことだよね?」

 

確かに俺は小町が大好きだが当の本人からここまであけすけに言われると

どんな顔をしていいのか困ってしまう。

そんな俺を見て小町は楽しそうに笑うと、少しだけ声の色を落として呟く。

 

「そっかー、いろは先輩、小町と同じなのかあ……

じゃああれだねえ……、女の子としては近すぎて絶望的な距離だね」

 

「近いのに絶望的なのか?」

 

「近いじゃなく、近すぎるからだよ」

 

それってどういう意味だ? と聞き返そうとすると、そこへ親父たちがリビングに入ってきた。

俺の姿を見た母親が呆れた感じで口を開く。

 

「八幡。あなた、夕べはどこにいってたの?」

 

「や、ちょっと、ほら、あれで」

 

「おいおい八幡。こんなに早く帰ってきたら、家の鍵を交換する時間もねーじゃねーか」

 

こちらはもちろん親父の言葉。

このあと親父と口喧嘩しながら朝食を食べ、小町と二人学校へと向かい

昇降口で別れ、教室で自分の席に着いたとき。

小町に言葉の意味を聞きそびれた事に気づく。

 

× × ×

 

終業式を終え迎えた放課後。

言い忘れていた合宿のことを話したいと一色からメールがきたので

待ち合わせ場所として指定された俺のベストプレイスへと向かう。

てってこ足を運んでいると、途中、葉山と戸部に出会い話しかけられる。

 

「おっ、ヒキタ二くん! この前約束した勉強一緒にするあれ決まったからよろしく!」

 

「えっ、お、おう、えっ?」

 

戸部のよくわからんよろしくに戸惑っていると、葉山が苦笑しつつ口を開く。

 

「ちょっと遠いけど良いところだから、比企谷も気にいると思うよ。

まあ詳しいことはいろはに聞いてくれ」

 

葉山は言うと、俺の肩を軽く叩いてよろしくーと連呼する戸部と去ってしまった。

 

自分の知らないところでなにやら不吉なことが進行していることに怯えつつ

ベストプレイスに到着すると、一色はすでにベンチに座って俺を待っていた。

 

「あっ、せんぱーい。すいません、わざわざ来てもらちゃって」

 

「や、それはいいんだけど……。ところでさ、合宿ってなに?」

 

「そのことなんですけど、ちょっと長くなりそうなんですよね、話」

 

一色は言うと、お腹を撫でて困ったような表情を浮かべる。

そういや今日は午前中で上がったから、ちょうど昼時か。

 

「一色。それじゃ飯でも食いながら話すか。奢るからなんでも好きなのいってみ」

 

「えっ、自分の分は自分で出しますよ?」

 

「いや、別にかまわん。こう、あれだ、なんつーか、お礼の気持ちも込めてっていうの?」

 

「なんか私、しましたっけ? そういや先輩。今日はなんだか楽しそうですね」

 

「そ、そうか?」

 

「はい。なんか楽しいっていうか、嬉しそうというか」

 

顔に出てたか。まあ確かにちょっと気持ちが浮ついてるところはあるな、うん。

 

「まあ、あれだ。一色の言葉で俺もちょっと踏み出せたことがあってな。

それで色々嬉しいことがあったから、そのお礼ってやつだ」

 

言うと、一色はぽけっとした表情で俺を見ていた。

そして頬を薄く染めると俯いて小さく呟く。

 

「え、えーと、先輩のなにかわかりませんけど、お役に立てたなら嬉しいです」

 

「おう、すげえ助かったぞ。だから好きなの食ってくれ」

 

「そんなこと言うと、回らないお寿司が食べたいとかいちゃいますよ?」

 

一色は顔をあげ悪戯っぽい表情でそんなことを言うと、嬉しそうに微笑んだ。

 

 




それでは次回で

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