やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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書いてる私が思っていたよりも長く、姿が消えていたいろはすさんの回です。
いい加減季節に合った話を書きたい……。
こたつに入って夏祭りの話とか書くの、こうなんていうかあれじゃないですか。




第二章 番外編。彼女たちの夜
小町ちゃんとの電話


先輩の家で秒速を観た日曜日の夜。千葉でひいろと合流した私は二人で家へと帰る。

そして家に着くとひいろの部屋に押し掛けて、仲良し姉弟トークという名の尋問を開始する。

 

「ひいろ、ちょっとそこに座りなさい」

 

「やっ、いろはお姉ちゃん。僕、友ちゃんにメールしたいんだけど……」

 

「話が終わったらね」

 

「え、ええ~……」

 

「話してくれたら、お姉ちゃんの分のアイス食べていいから」

 

「それならまあ、話すけど……」

 

我が弟ながらこんなにも簡単に物に釣られるとは嘆かわしい。

まあ私も物に釣られやすいから人のこと言えないんだけど。

そんな事を思いつつ、ひいろから私と別れた後の先輩と城廻先輩のことを尋ねる。

そして聞き捨てならない言葉を耳にする。

 

「……じゃ、じゃあ、キスしてたの、あの二人」

 

「んー、僕は暗くてよく見てないんだけど……。

駅へ向かって歩いていたら『あっ、あの二人、チューしてる!』って友ちゃんが言ったんだ。

それで見たら、はちまんとめぐりお姉さんが顔を寄せ合ってたから、多分……」

 

一体いつの間にあの二人がそんな関係に……

まあ本の話を仲良さげにしているのを何度も見たけど、

それでもそこまで距離が詰まってるようには見えなかったのになあ……

 

「いろはお姉ちゃん?」

 

「あっ、ひいろ、ありがとうね。もういいわよ」

 

「うん。……その、大丈夫?」

 

ひいろの言葉に、私は自分が思ってた以上に動揺していたらしい。

心配げに私を見ているひいろの頭をひと撫でして、なんでもないよと言って安心させると

自分の部屋に戻る。

 

ベットに横になり、目を閉じて考える。

これはちょっと確かめないといけないなぁ。

先輩本人に聞いても多分はぐらかされそうだし、そうすると……

考えが決まりベットから起き上がると携帯を手に取る。

 

えーっと、こ、こ、こ、あった小町ちゃんの電話番号。

時間もまだ早いしメールだと返事を待つ時間が面倒だから電話で直接聞いちゃえ。

そう思って電話をかける。

 

『はーい、もしもし~、小町です~』

 

『あっ、小町ちゃん? ごめんね~夜遅くに』

 

『いえいえ~、全然平気ですよ~。それで、今日はどういった御用件で?』

 

なんか新人サラリーマンみたいだな、この子。

思いつつ、単刀直入に聞いてみる。

 

『えっとね、その、小町ちゃんのお兄さんのことなんだけど……』

 

『もしや兄が何か失礼なことでもしでかしましたか?』

 

『やっ、そういう訳ではないんだけどね。

その、お兄さんってさ、城廻先輩と、なに、こう、付き合ってたりするのかな?』

 

『そうだったらいいんですけどねえ……』

 

いやいや良くないから。

でもやっぱり、そういう関係って訳じゃないのかな、これは。

単に先輩が小町ちゃんに話してないって可能性もあるけど。

もうちょっと探りを入れてみるか。

 

『でもさ、小町ちゃん。あの二人、なんか仲良さげじゃない?』

 

『ん~、どうなんでしょうねえ。

以前のことなんですけど、結衣さんと結構いい感じだったんです。

それでも結局、友達止まりでしたし……』

 

あーやっぱり、結衣先輩、先輩のこと……

雪ノ下先輩はちょっとよくわからないけど、結衣先輩は多分そうだろうなって思うこと

結構あったしなぁ。

 

ふむう。これはちょっと小町ちゃんを巻き込んで、

上手くいくよう手を貸してもらった方が良いかもしれないなあ。

でもその前に、小町ちゃんから見ての良い感じってどういうのだろう。聞いてみようか。

 

『んと、良い感じって例えばそのどんな感じ?』

 

『えっとですね。結衣さんの家の犬、サブレっていうんですけど預かったことがあったんですよ。

それでですね、そのお礼にってことで結衣さんに夏祭り一緒に行こうって誘って頂いたんで

兄だけ送りだしたんです。なんというか、小町居たら邪魔じゃないですか?』

 

確かに。妹同伴デートとかちょっとね。

まあ小町ちゃんなら場を盛り上げてくれそうだし居てもいいかもだけど。

それにしても、花火デートまでしてるとは。

私も一度、先輩と二人で出掛けたけど、騙して連れ出したようなもんだしなあ。

 

『あのう~、いろは先輩?』

 

『やっ、ごめんごめん。聞いてるよ~、続けて』

 

『はい。えーっと他にも雪乃さんの誕生日プレゼント買いにいったりとか

色々二人で出掛ける機会があったんですけどね。

なんかそれでもそこまではいかなかったみたいで……』

 

残念そうに話す小町ちゃんの声に耳を傾けながら、思ったことを尋ねてみる。

 

『えっとね、お兄さんはさ、彼女とか欲しいと思ってないとか、そういうのあるのかな?』

 

『いや~どうなんでしょうねえ。中学の頃は結構女の子にアタックしてたんですけどね。

ガードされまくりで、その反動であんな風に』

 

なるほど、振られすぎてどうせ俺なんか……状態になちゃったのかな。

そういう事なら、癒しの女神こと、この一色いろはさんが優しく手を差し伸べれば……

 

『ただですね。多分兄は彼女とかそういうのよりも、話し合える相手っていうのを

欲しがってるのかなって思うんですよ、小町的には』

 

『友達とかそういうのかな?』

 

『ん~、それもちょっと違う気がするんですけど……。

でもどうして兄のことなんかそんなに聞いてくるんですか?』

 

むむ、やっぱり聞かれるか~。まあ仕方ないよね。

ここは覚悟を決めて打ち明けて、小町ちゃんに協力してもらえるよう頼んでみよう。

正直自分の力だけでどうにかできるように思えないし、あの人。

それにしても、本人より先にその妹に自分の気持ちを伝えることになるなんて

情けないやら恥ずかしいやら。

 

息をゆっくり吸い込んでゆっくりと吐く。

気持ちを落ち着かせ上擦りそうな声を抑えながら何とか言葉を紡ぐ。

 

『あのね、小町ちゃん。実は、私ね―――』

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

『大体こんな感じですかね』

 

『そかぁ~、ありがとうね。色々と聞かせてもらえて助かちゃったよ』

 

『いえいえ~、あんな兄を欲しがってくれるいろは先輩の頼みなら

小町、なんでもしちゃいますよ!』

 

あんな兄って……。この子もなかなか酷いな、気が合うかも。

 

『それでなんですけど、今の話でなにか良い方法とか見つかりましたか?』

 

小町ちゃんから彼女が知る限り先輩のことを尋ねた私は、話を聞いていて

いくつか気付いたことがあったのでその事をさらに踏み込んで聞いてみる。

その結果、これでいこうか? と思いついたものがあったけど、

まだまだ口に出せるような段階ではないので、黙っていることにした。

 

『ん~、もうちょっと情報が欲しいかなあ。まあ焦らずにいくよ。

それと先輩の誕生日なんだけど、昼に奉仕部の先輩たちと私と小町ちゃんでお祝いするじゃない?  

で、その夜、花火大会があるから先輩を誘いたいんだよね』

 

『いいですね~、花火大会!』

 

『でもね、私が誘っても先輩、絶対に来ないと思うのね』

 

『ですねえ……』

 

ですねえって……。実際そうだけど納得されるとちょっとへこむ。

 

『それでね。出来ればなんだけど、私も弟とその彼女を連れて会場にいくから

小町ちゃんにはお兄さんを連れてきて欲しいんだよね。

それで偶然会った感じにして皆で花火見れたら嬉しいんだけど』

 

『えーっと、二人きりじゃなくていいんですか?』

 

まあ二人のほうがいいけど話を聞く限りその二人っていうのが

先輩が逃げ出す原因なんじゃないかなって思うんだよね。なのでここは慎重に……

 

『うんうん。ほら、私も男の子と二人きりとか緊張するしさ、ね』

 

『そ、そうなんですか? あれ、でも……』

 

『どうしたの?』

 

『えっと以前、兄が言ってたんですけど、その……』

 

口篭る小町ちゃん。これは聞かない訳にはいきませんね。

そう思い、さらにしつこく問いただすと、小町ちゃんは諦めたような吐息を吐く。

 

『その、いろは先輩は色んな男と遊びにいってる遊び人だから、お前はあーなるなよって』

 

『…………』

 

あの人、人をまるでビッチのように……

まあ確かに、色んな男の子と遊びにはいってたけどさ。

 

『やっ、なんていうのかな。せっかくね、好意をもってもらえてるのに

邪険に扱うのもどうかなって思うじゃない? それで遊ぶくらいならってね』

 

『お~、優しいですねえ!』

 

良かった。騙されてくれた。

 

『わかりました! 小町に任せてください。

皆で一緒に花火を見れるように、上手いこと兄を連れ出しますんで』

 

『うん。お願いね。このお礼は、いつかきっと』

 

『いえいえ~、お礼なんて! 兄をもらってくれるなら充分です。

では小町に何か出来ることがあったら、また連絡頂ければ~』

 

『うん。ごめんね夜遅くに。おやすみなさい、小町ちゃん』

 

『はーい。おやすみなさいです、いろは先輩』

 

電話が切れ、静かになったそれをテーブルの上に戻そうとする。

そこでふと思いついたことがあったので、電話帳を開いてその名前を探してみる。

 

あった。でもこの人に頼るのもなぁ……。

まあいいや、ここは恥を忍んで話だけでも聞いてもらおう。

そう思い電話を掛ける。

 

コール音が鳴る。一回、二回、三回……、そして電話にでた彼の声が受話器越しに聞こえた。

 

 

 




それでは次回で

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