やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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やっと二章終わりました。ようやく三章に入れてほっとするやらなんやら。
今回、かなり短めです。めぐりん視点はめぐりんが普通の子すぎて書くのが難しく
文章が浮かんでこないんですよね。




変わらないその姿のままに 

月曜日の夕暮れ。

比企谷くんに連絡を入れ彼と会う前に、色々と準備を済ませようと思った私は

ベットから起き上がる。

そして、昨日観た桜花抄のような素敵な時間を彼と過ごしたいと思い、

二人で食べるお弁当を作りお風呂に入るとお気に入りの浴衣に袖を通す。

 

後はお化粧してっと鏡台の前に座り、少し考え思い直して

そのままで行く事にした。

比企谷くん、ロ……じゃなかった幼い感じの子が好きみたいだし

すっぴんの方が彼の好みに合いそうだしね。需要に合わせて供給しないと。

 

髪型をどうしようか迷い、いつものお下げ髪でいこうか考えたけど

横に流しておくだけにする。

ただでさえ童顔でさらにすっぴんなのにこれでおでこをだすと

いくらなんでも子供っぽすぎるかなって思ったから。

それでそういう対象に見られなくなっても困るし。

 

最後に、用意していた長羽織を身につけ鏡の前に立つと

くるりと回って自分の姿を色々な角度で確認してみる。

自分でいうのもなんだけど、なかなか良い感じ。

 

「これでよしっ」

 

満足した私はベットに腰を下ろし、携帯を手に取る。

感想を伝えるメールは書き終わっているので、後は送るだけ。

もう勉強会も終わっている時間だから、勉強の邪魔にもならないはず。

 

そう思って送信ボタンを押そうとするのだけど、どうしても躊躇ってしまう。

メールをしてもし返事が返ってこなかったら。お月見に誘ってもし断られたら。

そして自分がそうすることで、一色さんを悲しませることになるかと思うと

そうしていいのか迷ってしまう。

 

一応、二人の関係について、比企谷くんに昨夜の帰り道でそれとなく尋ねたので

二人が付き合っていないのはわかっているけど。

それでも、他の誰かの好きな人に横から後から想いを寄せることに、

なにやら罪悪感めいたものを感じてしまう。

 

そうやって、うじうじぐだぐだしながら時間だけが過ぎていき夜も深まった頃、

比企谷くんからメールが届いた。

驚かせてしまうと知りつつも声が聞きたくて電話を掛けてしまいその声を聞くと

我慢できずに彼のことを呼び出してしまう。

彼の今日という時間が私じゃない他の誰かに占められている。

そう思うと、そのことが耐えられないくらい嫌だったから。

 

そうして私は、比企谷くんに会える喜びと一色さんへの後ろめたさを抱えながら

待ち合わせ場所へと足を運んだ。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

月明かりの下、彼と会えた私は嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。

ぽーっとした様子で自分の浴衣姿に見惚れてくれているようなそんな彼に

言葉にできない満足感を覚えながら、その手を引いて自分のお気に入りの場所へと誘う。

 

本殿の軒下の縁側のようになっている場所に二人並んで腰を降ろし

彼のことを教えてもらい、自分のことを知ってもらう。

好きなこと、苦手なこと、将来のこと、過去のこと、あれこれ話し楽しい時間を過ごす。

 

会話の途中、慣れない茶目っ気をだし、なんとか次の約束を取り付けて嬉しい反面

いつ彼が一色さんの想いに気付き、彼女に惹かれないかと不安に駆られてしまう。

今そうしているようにゆっくりと、彼との距離を詰めていきたいと思いながらも、

それに気付くと気持ちが急いてしまいどうしようもなかった。

 

そして自分が今からする事が、一色さんから彼女の好きな人を奪い取る行為だと理解しつつ、

彼の気持ちを確かめるような、そんな言葉を口にする。

 

私の問いかけに、比企谷くんは私の望む答えを素敵な古歌で返してくれた。

彼が自分と同じ気持ちでいてくれたことに飛び跳ねたくなるような嬉しさを感じながら

それでも突き刺さり抜けてくれない罪悪感に苛まれつつ、自分の想いを彼へと伝えた。

 

この時のことを後になって振り返れば私は慣れていなかったのだと思う。

全部初めてだったから。恋も、嫉妬も、欲望も。

 

比企谷くんと再会しそれまでとは違う変わった私は綯交ぜになった気持ちで月を見やる。

見上げた月は遠く遠く、私たちを静かに見つめていた。

きっとずっと昔から、変わらないその姿のままに。

 

 

 




それでは次回で。

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