やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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明日から帰省するので、書き終わっているとこまで投稿。
R18はちょっとお待ちを。


今も、その後も、ずっと

突然目の前に現れためぐり先輩にあたふたしながらもなんとか誤魔化すことができたので

二人で先輩の家へと向かうことにした。

到着しためぐり先輩の家にお邪魔すると、先輩に手を引かれ二階へとあがる。

そしてそのままつかつかと先輩の部屋に連れて行かれることに。

 

「冷たいモノ持ってくるから、座っててね」

 

先輩はいうと部屋から出てったので、周囲をきょろきょろ見回す。

畳敷きの六畳ほどの広さのそこは年頃の女の子の部屋というより

なんだか田舎の婆ちゃんの部屋のような感じだ。

多分、年代ものの背の低い和箪笥や壁に掛かっている着物等が俺にそう思わせるのだろう。

由比ヶ浜の部屋とは随分と違うなぁ……

そんな事を思いながら手持ち無沙汰を感じ、丸テーブルの横に積まれたモノに手を伸ばす。

ペラペラ捲ってみると、それはどうやら先輩の小さい頃の写真が収められたアルバムのようだ。

うおー、小さい頃のめぐり先輩、滅茶苦茶可愛いなあ。

黄色い帽子を被り満面の笑みでピースしたり、茶目っ気たっぷりなポーズを決めてる写真の数々。

どれもこれも愛らしく、それを見て笑みがこぼれる。

大体年を取ると顔が面長になり残念になるケースが多いのだが、先輩にはそれがなく

ふっくらしたままいい感じに成長した様子。

あの頬っぺたのつつきたくなる感じは昔からなのかあ~と納得していると、

そこへ先輩が戻ってきた。

 

「ちょ、比企谷くん! 見ちゃだめだよお」

 

にやけた顔でアルバムを見ていた俺を見て先輩は慌てたようにいうと、

俺からアルバムを取り上げてしまう。

そしてそれを胸に抱えて、じろっとこちらを睨んできた。

 

「す、すいません。こうなんか、つい。

でも、めぐり先輩。小さい頃からすごく可愛かったですね」

 

いうと、先輩は「そ、そかな?」といって照れくさそうに頬を掻く。

口元は嬉しそうに緩んでおり、まんざらでも無い様子。

機嫌を直してくれた事にほっとしつつ、出された麦茶を口にする。

よく冷えたそれは、夏の暑い道を来た俺の体を心地よく冷やしてくれる。

チリリンっと風鈴の音が耳に届く。

涼やかなその音色に耳を澄ましながら、一口二口、麦茶を啜っていると

先輩が俺の顔を覗き込んできた。

 

「比企谷くん。お腹空いてる?」

 

「いえ、朝飯食べてからまだそんなになんで、空いてないですよ」

 

いうと、先輩はうんっと頷く。

 

「えっとね、お昼、お外で食べようと思ってお弁当にしたんだけど、よいかな?」

 

「いいですね。そう聞いちゃうと、はやく食べたくなります」

 

笑みを含んで応えると、先輩は嬉しそうに「えへへ」と微笑んでくれた。

そうして俺が麦茶を飲み終えるのを見た先輩は景気よく手をぱんっと叩くと

俺の上着の裾をきゅっと掴んできた。

 

「比企谷くん! バンザイして!」

 

「え? あ、はい」

 

言われるままバンザイすると、めぐり先輩がなぜか俺の服を脱がしに掛かってくる。

 

「ちょ、めぐり先輩。な、なんで脱がすんですか?」

 

「比企谷くん、暴れないで。脱がせにくいでしょ?」

 

いや、そういうけどさ。そもそもなんで脱がされてんの? 俺。

「お姉さんが教えてあげる」的な展開を期待してなかった訳ではないが、心の準備があ――と

あれよあれよという間に裸にされてしまった俺が胸を隠すよう乙女なポーズで身を捩っていると

先輩がどこからともなく小瓶を取り出し、その中身を俺にペタペタ塗り始める。

おいおい、いきなりローションプレイかよ! と慄いていると、身体がすーすーする事に気づく。

なんだかトニックシャンプーを使ったような、そんなさわやかな爽快感。

 

「これね、ハッカ油なんだ。すーすーするでしょ?」

 

「はい。なんかこれ、すごく涼しくなりますね」

 

「うんうん。虫除けにもなるしね。

草むしりで暑いとこいかないとだし、それでちょっとでも涼しいようにって」

 

そういう事か。つーかこれ、なんか涼しいってか、寒いんだけど。

 

「もしなんだったら、今から草むしり行きませんか? 

さくっとやる事やちゃった方が、のんびりできますし」

 

「いいの?」

 

「もちろんです。任せてください」

 

とんと自分の胸を叩いていうと、めぐり先輩はぱあっと花咲くような笑顔になる。

そして礼儀正しく「お願いします」というと、ぺこりと頭を下げてくる。

それに微笑みを返し立ち上がると、二人で草むしりへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 

向かった先の家庭菜園は以前訪れた御宮の下にあり、不思議に思って尋ねたところ

高台だと思っていたここは低めの山とのこと。

そしてその山はなんと城廻家の所有地らしく、先日お会いした先輩のお爺さんが

神主さんをしてるというのだ。

おいおい山持ちって漫画やアニメでよく見るけど、リアルで会うのは初めてだぞ。

まあ自前の山は、山と呼ぶにはちょっと物足りないですね!

などと失礼な事を考えながら先輩に告白した時、すぐに先輩が松葉の事に気づいたのは

それもあっての事なのかと思い至る。

元々熨斗というのは、神事にまつわるものだからだ。

それでかーと納得しつつ、気になることがあったので尋ねてみる。

 

「あのう、めぐり先輩」

 

「なーに?」

 

「巫女服とか、先輩着たりするんですかね? その、神事の時とか」

 

「うんうん。お正月とかに着てるよ!」

 

マジかよ。えっ、マジで? 超見てえー!

なのでお願いする事にした。

 

「えっと、めぐり先輩。今度その、良かったらなんですが、着てみてくれませんかね?」

 

いうと、めぐり先輩は前のめりでにやにやしてくる。

 

「なになに比企谷くん。私の巫女姿、見たいの?」

 

「見たいです。絶対、可愛いと思いますし」

 

変に誤魔化さず素直な気持ちを口にする。まあ単に、自分の欲望に素直なだけかも知れないが。

それでも効果はあったようで、先輩は気恥ずかしげにもじもじしだす。

 

「んっ、いいよ。比企谷くんのお願いなら、その、聞く」

 

先輩はいうと、照れくさそうにおさげ髪をいじりだす。

ぐふう~、たまらん。やべー、超楽しみ! 

そんなウキウキワクワクした気持ちで、俺は菜園の草むしりを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

やる気が湧きまくったおかげか、思っていたより早く草むしりは終了。

腰をとんとんと叩き、んーっと伸びをしていると、めぐり先輩の明るい声が耳に届く。

 

「おーい、比企谷くん。お昼にしよー!」

 

先輩はいうと、編まれたお下げをぴょこぴょこ揺らし、こちらにぶんぶん手を振ってくる。

前髪をピンで留めているおかげで丸出しのおでこが、陽光を浴びてきらりと光る。

 

「はーい。今行きます~」

 

大きな声で返事を返し、先輩が座るベンチへと向かう。そして大変な事に気づく。

ああっ、めぐり先輩があんな硬そうなイスに!

よし! ここは俺が、俺の背中で彼女のおしりを癒やす!

誰も損しない、むしろみんなが得をする素晴らしい案を思いついた俺は四つん這い、

通称お馬さんスタイルをしようとすると、めぐり先輩はくすくす笑う。

 

「比企谷くん。ここここ」

 

いって、ベンチをぺんぺん叩く。

いや、俺は先輩のために……と喉元まで出かかったが、その笑顔に釣られ俺もベンチに座る。

 

「じゃ、食べよっか!」

 

二人の間に広げられたお弁当から先輩がお握りをひとつ手渡してくれる。

そして先輩も同じようにお握りを両手で掴むと、いただきますといってそれを口へと運ぶ。

小さいお口で一口、お握りを齧ると、頬を膨らませモグモグし、ごくんっと飲み込む。

なんというか見てるだけで浄化されそうな、そんな愛らしい姿。

食べる前に、お腹がもう一杯になってしまう。

やはり、食べている時のめぐりんのかわいさは異常。

先ほど見せてもらった幼少期のアルバム、遠き青の時代のロリりんは最高に可愛かった。

膝の上に乗せておにぎりとか食べさせたい。

いや待てよ。今からでも遅くはない。そうだ――

 

「めぐり先輩。ちょっとお願いがあるんですけど」

 

いうと、卵焼きを頬張っていた先輩は「なーに?」といった感じで首を傾げる。

 

「その……。先輩のこと抱っこしていいですか?」

 

そんな、今までの俺なら絶対に言えない事を口にする。

なぜそんな事を出来たかといえば、やはりコンドームを買うという経験で

俺のレベルが7上がったからだろう。

ちなみにレベルが300を超えると、千葉から東京まで走っていける。

今のレベルは12。遠いな。

めぐり先輩ははじめ驚いたように目を丸くしていたが、あはっと笑うと

「しょうがないなあ~」といって俺の膝の上にちょこんと座ってくれた。

 

「比企谷くんってたまに、変なこというよね?」

 

膝に乗り向かい合った状態でめぐり先輩はにこにこ顔でいうと、おかしそうにくすくす笑う。

おい、めぐりん。俺がへんなことばっかり言ってるみたいな印象操作はやめるんだ!

 

「重くない?」

 

「柔らかいです」

 

「やっぱり変だよ」

 

流れるようにツッコまれた。

 

「いや、違います。誤解です。俺のせいじゃないです。

みんながえろいから、俺はそれに嫌々合わせているだけなんですよ!」

 

困った俺が必死に訴えると、めぐり先輩は唇に人差し指を当て悪戯っぽく尋ねてくる。

 

「これってえちいかな?」

 

待ってくれ。脳の処理が追いつかない。

さらに困った俺は手を伸ばし、めぐり先輩を抱き寄せる。

抱き寄せられた先輩は困ったようにあわあわしていたが、暫くすると力を抜いて

そっとその身を預けてくれる。

胸が詰まるような愛おしさを感じ、その柔い身体を抱きしめていると、

頭を冷やせとばかりに空から雨がぽつぽつと降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滅茶苦茶いいところで邪魔をされた俺は、恨みを込めて空を睨む。

空は晴れているのに降ってきたこれは、天気雨。雲が消えて雨だけが降る状態から、

雨を涙に喩え涙雨や天泣と呼ばれることもあるらしい。俺も泣きたい。

 

「めぐり先輩、寒くないですか?」

 

「う、うん。寒くはないんだけど、その……」

 

めぐり先輩はかぁっと頬を朱に染め、身体を隠すようにぎゅっと自分の肩を抱いた。

そう先輩は某ラノベ八巻の表紙の子のように、雨ですけすけ状態なのだ!

文字通り降って沸いた幸運に俺は感謝しつつ、ちらちら横目で先輩を窺う。

 

「ひ、比企谷くん。そ、そんな、見ちゃやだよ……」

 

めぐり先輩は首元まで赤くなった顔を逸らし、途切れ途切れに声を出す。

「いや、違うんですよ。目が勝手にオートで」などと言い訳していると、

めぐり先輩は拗ねたように言う。

 

「それに見たってつまんないよ。私の、ちちゃいし」

 

大丈夫、雪ノ下には勝っている! と言いかけたが、それだと他には惨敗だという意味に

取られかねない。それで上手い言い回しを考えていると、先輩はさらに拗ねたようにいう。

 

「由比ヶ浜さん、すごく大きいじゃない。比企谷くんも、あーいう子が好みなんでしょ?」

 

確かに由比ヶ浜のおっぱいはでかい。そうだ、でかいんだ。

忘れないで、そこには夢が詰まっている事を。アンパンマンもそう言ってた(言ってない)

そんな詩的な事を考えながらめぐり先輩を見やると、悲しそうな横顔が目に映る。

 

落ち込んでるめぐりんは、かわいい。

もっと落ち込ませたくなるほど、かわいい。

もういっそ泣かせたいくらい、かわいい。

 

などと不埒なことが思い浮かび、頭を振ってそれを追い払うと、

先ほどのようにめぐり先輩を抱き寄せる。

そしてその可愛らしい(おつむ)を優しく撫でながら、耳元で低く囁く。

 

「めぐり先輩はどんなでも、俺はちゃんと好きですよ」

 

そう、俺は先輩が好きだ。

こうして傍に居てくれる今も、俺を忘れてしまったその後も、ずっと。

 

 

 

 

 

 

 




うんちくです。

熨斗(のし)。一般的には慶事における進物や贈答品に添える飾りである。
元来、熨斗とはアワビの肉を薄く削ぎ、干して琥珀色の生乾きになったところで、竹筒で押して
伸ばし、更に水洗いと乾燥、押し伸ばしを何度も繰り返すことによって調製したものを指した。
「のし」は延寿に通じ、アワビは長寿をもたらす食べ物とされたため、古来より縁起物とされ、
神饌(お供え物)として用いられてきた。

神社。神社(じんじゃ・かむやしろ)とは、日本の土着宗教である神道の祭祀施設。
文部科学省の資料では、日本全国に約8万5千の神社がある。
登録されていない数万の小神社を含めると、日本各地には10万社を超える神社が存在している。
そしてその手の小神社を管理する人に造営木(社の修復用の木材)として、国有地の森の管理を
任される事もある。

それでは次回で

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