前のお話はあれで一応終わりだったのですが、前のお話を書いた後「あれ?この流れであの話を入れられるんじゃ……?」などと思いついたため、今回「続」となりました
***ロロナのアトリエ***
「よしよーし、良い子だね」
「…………(そわそわ)」
「も、モコ……」
アトリエ端のソファーに座って、モコモコの姿になっている僕を膝の上あたりに乗せて撫でまわしてくるトトリちゃん
そして、その隣……とは言っても、何故か一人分ほど間を空けて座っているミミちゃん。なんだか落ち着きが無い気がする
……それにしても、僕も慣れたというか、諦めがつきやすくなったというか……もう膝に乗せられるのも、撫でまわされるのも、抱きしめられるのもいつのまにか慣れてしまったので、もう抵抗する気も起きなくなっている
そんな感じで、『冒険者免許』の更新前の様子を探りに来た僕だったけど、ノンビリとした雰囲気のせいで、そういった話題があがりそうになかった
……でも、そうなると、今度は出ていくタイミングをどうしようか?
以前のように、ミミちゃんが出ていくときに一緒になって出るのがいいかなぁ
僕がそんな事を考えていると、不意にトトリちゃんの撫でる手が止まった。そして「そう言えば……」というトトリちゃんの声が僕の背後から聞こえてきたため、僕は膝の上に座ったまま少しだけ後ろを振り向いてみる
「この子ってどういうモンスターなんだろう?」
「どんなって……『青の農村』に住んでるってだけだと思うけど、それ以外ってこと?」
トトリちゃんの問いに、ミミちゃんがそう返す
その感じからすると、どうやらミミちゃんはトトリちゃんの疑問の意図を計りかねているみたいで、返答にも少し困っているみたいだった
「えっと、ほら、『青の農村』っていろんなモンスターがいるけど、同じ種族のモンスターもいたりするよね? でも、この子と同じようなモンスターはいないなーって思って」
「ああ、そういえばそうね……。それに『
「うーん……毛の感じとか『暴れヤギ』あたりに似てるかな? でも、
『暴れヤギ』というのは白に近い灰色のふさふさの毛を持った獣だ
近縁種を飼えるようにした『ヤギ』が『黄金平原』あたりで育てられていて『ミルク』がとれたりするんだけど、『暴れヤギ』は名前の通り気性が荒いから人を襲ったりする
なので分類としてはモンスターらしい…………『アーランド』の分類って色々と微妙な部分があるよね。今はどうなってるか知らないけど、僕がこっちに来てすぐあたりで見た図鑑では、『盗賊』といった人もモンスター図鑑に書かれてたし……
「それに……」
そう言っていたトトリちゃんの声が止まった……っと思ったら、僕の肩あたりにあったトトリちゃんの両手が僕のそれぞれの足へと伸びてきた
「モココ!?」
「あっちは四本足で、この子は二本だよね」
「そこはどっちかといえば『たるリス』に近いわね。耳が大きいあたりなんかもそうかも」
そう言って、今度はトトリちゃんの隣に座っているミミちゃんが手を伸ばしてきて、僕の右耳を触ってきた
「モ、モコッ……!(く、くすぐったい……!)」
最初はチョンチョンと軽くつつく感じだったけど、次には親指と他の指とで僕の耳の表と裏を挟み込むようにしてムニムニしだした。さらに、ズイズイッとトトリちゃんのそばまで寄って、耳だけじゃなくて頭までモフモフと触りだした……こっちのほうが慣れてるから気にならないや
「……ミミちゃんが耳を」
「ん? 何か言ったかしら?」
「ううん、なんにも言ってないよ」
…………うん、トトリちゃんが何か言ったけど、聞かなかったことにしよう
「……あれ?」
ふと、首をかしげたトトリちゃん。それに気づいたミミちゃんが、少し呆れ気味に小さくため息をついて口を開く
「トトリ? 今度は何?」
「少し気になることがあって」
「気になること?」
トトリちゃんが気になっていることといえば……モコモコが他にいないって話かな? もしかして、似たようなモンスターを実は見たことがあったとかかな?
「……ミミちゃんって『青の農村』に行ったことあったの?」
「モコッ?(えっ?)」
え、ええっと……どうしてそういう話になったの? ちょっと話が見えないんだけど……?
そう思ったんだけど、横目でチラリと見えたミミちゃんがワナワナと震えていて、
「な、な、な……! んなわけないでしょ!?」
「えっ、でもさっきわたしが『青の農村』にいるモンスターのこと言った時、「そういえばそうね」って頷いたよね? 行ったことないと言えないと思うんだけど?」
「そ、それはー……言葉のあやというか、なんというか」
ついさっきまでの勢いは何処へ行ってしまったのか。何故かミミちゃんは言葉に詰まってしまっていた
「わたしにはあそこにはいかないー、マイスには会わないーって言ってたけど、実は隠れて行ってたの?」
「本当に最近は行ってないのよっ!」
「じゃあ、前は行ってたんだ」
「ぎくっ!」
トトリちゃんの膝の上で二人の会話を聞いているんだけど……ちょっと複雑な気分だ
ミミちゃんが、トトリちゃんに僕に会いたくないという事を言っていたことが結構ショックだったりするんだけど……でも、この流れだと、もしかするとトトリちゃんが「ミミちゃんが僕を避けている理由」を聞き出してくれるかもしれないという期待感もあったりする
「はっ……! ま、まさか……!?」
何かわかったのか、大きく開いてしまった口に手を当てて驚くトトリちゃん
「ミミちゃんの家も、マイスさんに借金を……!」
「してないわよ!!」
「え、違った?」
本気でそうだと思っていたのか、ミミちゃんが瞬時に否定してきたことにトトリちゃんはさらに驚いた様子だった
「あなた、シュヴァルツラング家を何だと思ってるのよ! というか何よ「も」って。まるで
怒りで肩を震わせトトリちゃんを睨みつけていたミミちゃんだったけど、段々と力強さが無くなってきて……代わりに何かの考えに
「まさか……あんた?」
「ぐふぅ!?」
「ちょ、どうしたのよ!? というか本当なの!?」
ついにはトトリちゃんの肩を掴んで引き、グワングワンと揺らしながら問い詰めだしたミミちゃん。膝の上にいるとトトリちゃんの身体がぶつかってくるため、僕はすぐさまその場から抜け出し、ソファーそばの床に着地した
なお、トトリちゃんとミミちゃんはというと……
「……借りてナイヨー。うん、マイスさんもそう言ってたもーん」
「じゃあさっきのは何だったのよ! あと、死んだ目で人を小馬鹿にするような口調はやめなさい!」
……僕のことに気付かないくらい、騒がしくなっていた
うーん。このまま残っても、もう僕の知りたい情報が出てきそうにもないし……この機会に帰ってしまうのもありかもしれない
そんな事を考えていると、かすかにアトリエの玄関が開く音が耳に入ってきた。でも、どうやら騒がしくしているトトリちゃんとミミちゃんはそれに気づいていないようだった
いなかったロロナが帰ってきたのかと思い、僕は扉へと視線を向けた……
「邪魔するわよ。ロロナはいるかしら……って、何よ騒がしいわね」
アトリエに入ってきたのはクーデリアだった
発言通りの目的ならロロナが目的だろうクーデリアだったけど、トトリちゃんとミミちゃんの騒がしさからすぐにそちらへと目を向けていた
トトリちゃんも、ミミちゃんに揺すられながらもすぐにクーデリアの声に気付いたようで、そっちへと目を向けていた
「あっ、クーデリアさん、いらしゃー……」
「ん? 誰か来たの?」
トトリちゃんの言葉に反応し、そう言ってトトリちゃんの目線を追っていって…………ミミちゃんとクーデリアの目線が合った
「…………」
「…………」
ええっと、なんで睨み合ってるんですか……?
クーデリアのほうはそこまででもないみたいだけど、ミミちゃんの方は明確にさっきまでよりも目が細くなっている
そのまま無言の睨み合いが続くかと思ったんだけど、不意にクーデリアの視線が動いた
「モコ?(僕?)」
僕のほうを向いてきたクーデリアが、静かながら速い足取りで僕のほうへと来て……
ヒョイ
「モココッ!?」
「じゃ、お邪魔したわ」
「「ええ!?」」
僕を片手で持ちあげて、小脇に抱えるような格好で持ちアトリエから出ていこうとするクーデリア
その素早い流れからの退出に、さすがのトトリちゃんとミミちゃんも同時に声をあげてしまったようだった
「ちょ、クーデリアさん!? 先生に用事があったんじゃないんですか!?」
「あったと言えばあったけど、大元はコイツだから。だから持ってくわねー」
「その子、悪い子じゃないですよ!」
「知ってるわよ。こっちだってそう短くない付き合いだもの。じゃあねー」
トトリちゃんからの問いかけもかいくぐり、クーデリアは僕を持っていないほうの手をヒラヒラと振って、これ以上有無を言わせないようにか素早くアトリエから出ていったのだった……
――――――――――――
***職人通り***
「…………で、何してんのよあんたは」
アトリエから街の外への門へと行く道を少し行ったあたりで、クーデリアが歩きながらそう口を開いた。おそらく、アトリエから十分離れたのと、近くに人がいないことを確認したんだろう
「えっと、免許の更新が近づいてきたけど大丈夫かなーなんて思って」
「なんでわざわざ変身してるのよ。何? そういう趣味なの?」
趣味ってなんだろう?……と思いながらも、僕は軽く首を振ってみせた
「ああでもしないとミミちゃんに逃げられちゃうから……」
「ああ、なるほどね…………はぁ」
納得したように思えたんだけど、何故かクーデリアはため息を吐いて首を振っていた。……それに「不安の種が増えるだけじゃないの」って……何のことだろう?
「それで? どんな調子かわかったのかしら?」
「それが全然。こっちから話題を振れないから、どうにもならなくって……」
「あたしのところに来れば、一発だとは思わなかったのかしら?」
「…………あっ」
確かに、クーデリアの言う通りだ
冒険者免許の管理をしている中心人物は、他でもないクーデリアだ。冒険者は数多くいるとは言っても、繋がりがあるトトリちゃんたちのことくらいは資料を探したりしなくとも大体の状況は把握できているだろう
……盲点だったなぁ
「でも、
「普通は教えないわ。でも、あんたは一応はトトリたちの保護者に近い立ち位置でしょ? あたしもそれを把握してるし、少しくらい……ちょっと言葉を
そう言ったクーデリアは「あっ、そうだ」と思い出したように僕に言ってきた
「あんた、ギゼラが何処に行ったか知ってたりしない? ちょっと調べてるんだけど……」
「…………うーん……何処にって聞かれたらわかんないや」
いきなりの問いに驚いてしまったうえ、少し「クーデリアなら言っても……?」と思ってしまったから、少し言葉を返すのが遅れてしまった
やっぱり、グイードさんから「トトリちゃんに言わないように」と約束をしている以上、なるべく話が広まらないようにすべきだろう
だけど、クーデリアに嘘を言う気にもなれず「行き先はわからない」と言葉を濁すことにした。……でも、リオネラさんにはしっかりと口止めをしたうえで話したし……やっぱり、クーデリアにも言っても良かったかな?
悩みに悩み、「念入りに聞いてきたら答えよう」と決めたんだけど……
「……ふぅん、ならいいわ」
クーデリアはそう言って、それ以上は聞いてこなかった