始める前にいろはす視点のウォーミングアップとして書いたパートですが、
本編オマージュの短編みたいになっちゃいました。おっかしいなー。
原作読み直してまでチェックする根性がないので、一部想像で書いている箇所があります。
矛盾するようでしたら、ご指摘頂けるとありがたいです。
女の子を主人公にして書くのって、とても難しいものですね。
「はぁ~、なんだろな~」
着替えもせずにベッドに突っ伏し、お気に入りのクッションに顔を埋める。
「あ~…もぉ!」
出掛けに一時間掛けてセットした髪を、なかった事にでもするかのように、わしゃわしゃっとかき回す。
「わたし、どうしたいんだろ~、ほんと」
今日は先輩との初デートだった。
わざわざ葉山先輩の名前を出して、断りにくくして、逃げ道をふさぐために、まくし立てるように念押しして。
自分でもちょっとおかしいな、と思うくらい必死になってまで取り付けた約束。
葉山先輩の代役が先輩というのは、たぶん誰に説明しても納得してもらえないだろうなぁ。
「てか、そんなの、自分だって騙せていないんだけどね…」
けど、そこまでしてでも、どうしても先輩とお出掛けしてみたかった。
予想通り──ううん、予想以上にデートっぽくないデート。
なら楽しくなかったのかと言えば、そんなことはないんだから、よく分からない。
『映画館に行って、見るのをやっぱりやめて、卓球して、ラーメンを食べて、喫茶店でお話して、帰ってきた』
文字にして並べてみるとすごくダメダメだし、事前に知っていたらドタキャンしたくなるレベル。
本人を前に、100点満点の10点だと告げて帰ってきた。
赤点どころか即退学レベルの採点だ。
それなら、鏡に映ったこの顔はどういうことだろう。
葉山先輩を追っていた頃のわたしは、なんというか、もうすこし、その、勢い? そう、勢いがあった気がする。
いっぱいお話できた日の夜はすごくテンション高くて、興奮して眠れなかった。
今の私も確かにニヤけているんだけど、あの頃とちょっと違う気がする。
えっと、これは──。
そう、『ユルい』だ。
ふにゃっ、とか、ほにゃっ、とか、そんなカンジ。
真冬のコタツで眠くなってきたときのような。
み、認めたくないけど、この顔は…その、幸せそう…にも、見える…かも。
ふかーーーーーーっ!!
* * *
お風呂から上がってパジャマに着替え、さっきメチャクチャにしてしまったシーツを直しつつ、改めて今日の事を整理してみる。
自慢じゃないけど──ううん、自慢かなぁ、わたしはこれまで、かなりの数の男の子とお出掛けしている。だからわたしのデート経験値は、歳のわりにけっこうなモノのはず。
小学生、中学生、そして高校生。
たいていの相手は、さも気軽に選んだようなそぶりで、じっくり検討したであろう場所へ連れて行ってくれる。
年相応に、あるいは不相応に背伸びをした男の子が、いろんなところにエスコートしてくれた。入念な下調べをして、ともすれば待ち時間の話題まで事前に用意してくれてて。
そんな風に自分のために四苦八苦する姿が見たくて、わたしは笑顔でこう言ってきた。
「どこでもいいよ」、と。
そんなわたしにとって、今日は開幕から調子が狂いっぱなし。
「で、どこ行く」だなんて。
ほんとそれ、わたしのセリフなんですけど…。
けど、今まではいつも誘われる側だっただけで、今回に限っては、わたしから誘ったみたいなものなんだよね。それに相手は先輩なわけで、二重の意味でエスコートを期待したわたしが間違いだったのかも。そういう意味ではわたしにとっても初デート、なのかな。
葉山先輩にもいろいろ声掛けたけど、結局一度も二人でお出掛けしたことはなかったしなぁ…。
それにしても、映画館に二人で行って、別々の映画を見るとか、ほんとないよねー。発想から斬新過ぎて、あれには怒る気力も失せちゃった…。先輩って、映画館でのシチュとか想像したことないのかな?
今日は久しぶりにヒールだったけど、先輩が意外と身長あったことには驚いちゃった。なんだかんだで、時々年上って実感なんだよね。あれで姿勢も直せば、わりかし様になってるっていうか。
でも、今くらいの身長差なら、隙を付けば簡単に──
「いやいや! ありえないから! 先輩ととか!」
じたばたとベッドの上で大暴れ。
誰に言い訳してるんだろ。
棚の上のぬいぐるみと目が合って、急に我に返った。
なんか、見透かされてるようで恥ずかしいなぁ…。
今日の卓球勝負には負けてウヤムヤになっちゃったけど、もしも勝ってたら、文句言いつつも律儀に約束守ってくれそう。そういうとこ、あると思う。
だってわたしが負けた時の言い分、我ながらめちゃくちゃだったけど、やれやれって顔で許してくれた。勝負は譲らないけど、ワガママは聞いてくれるってところ、いかにもお兄ちゃんっぽい。
先輩がお兄ちゃんか…。
わりかしハマってるかも。
うんうん、意外と…。
無意識に弄っていたスマホにふと目をやると、そこには「先輩」のメールアドレスが表示されていた。
えー、なにやってんのわたし。
ちょおキモいんですけど。
ホーム画面へと戻し、スマホを充電スタンドへ返す。
おっかしいなぁ、いまちょっとだけ、待ち受けに先輩の写真ほしいとか思った自分がいる。デートに女の子をラーメン屋へつれていくような、あの先輩のを…?
でも、今日の私は、ほんとうに先輩が好きなものを知りたかった。仮にそれが自分にとって美味しいと思えなくても、たぶん良かったんじゃないかな。じゃないと、わざわざ無難なパスタというチョイスを却下した理由が説明できない。
そして実際、ラーメン屋に連れて行かれたとき、わたしの満足のほうは半分諦めモードだったわけだけど。
…ついでにかなり文句言っちゃった気がしないでもないわけだけど。
でもでも、考えてみると、あの先輩と和やかにトークしつつ食事するって言うのはそもそも違うって言うか。お洒落なお店でお通夜ムードはカンベンしてほしいけど、あのラーメン屋なら、むしろ軽口を叩いたらNGって空気だったし。
何より、あの無駄に美味しいラーメン屋さんの敷居は、わたし一人じゃ絶対にくぐれない…。
つまり先輩は、彼の身の丈にあった、ベストの選択肢を選んだ──と言えないことも、ない。…かもしれない。
それにしても──。
ふふっ、思い出しただけで笑っちゃうなー。
「ラーメンとか。デートでラーメンとか…ぷふっ」
先輩の前、最後にデートした相手は誰だっけ。
そのときは、いったい何を食べたっけ。
さらにその前は?
あはー、まいったなぁ。
…ぜ~んぜんまったく、覚えてない。
わたし、けっこうヒドい女かも。
けど、これだけははっきりしてる。
「ほんと、忘れられそうもないなぁ…」
さてさて。
本編は真面目な話なので、こんなにほにゃほにゃしてないかもしれませんが、
興味のある方は応援してくださると頑張ります。