「やっとこっち向いた」
結衣先輩を睨みつけたはずのわたしは、予想外の目力に思わず身を竦めた。
「謝んないよ。まるっきり冗談ってワケでもないし」
ちっとも悪びれる様子のない、それどころか一層こちらを煽ってくる彼女を前に、萎縮した身体が再び熱に焼かれる。
「なお悪いですよ。それだけは訂正してください。いくら結衣先輩でも許せません」
「だって気持ち伝える気がないんでしょ? ならこの先は要らないってことじゃん」
「ないんじゃなくて出来ないんですっ!」
みっともなく怒鳴ってしまった後で、わたしは悲しくなった。
今までにだって女の子同士で言いあった事はある。けど、結衣先輩とここまで本気でぶつかることになるなんて──。
そんな感傷を込めて彼女の目を見た瞬間、ちょっとした違和感に気が付いた。
今までわたしを罵ってきた相手とは何かが違う。確かにエネルギッシュではあるけれど、その奥に黒い感情が見当たらない。
どう言葉を取り繕おうと、結局は自分が気に入らないから相手を叩く──そういう自分勝手な感情から動いている人間の目には、とても見えなかった。
そもそも彼女にとって、わたしが動けないでいるのは望ましい状況のはずだ。敢えて挑発するメリットがない。
「…すみません、大声出しちゃって」
そう思ったら、あれだけ激しく燃え盛っていた怒りが、すっと収まってしまった。
「それで、わたしを焚き付けてどうしたいんですか?」
「あれっ、もうバレた!?」
叩きつける様な視線の圧力を一気に緩めた彼女は、くしくしとお団子髪を弄って苦笑いを浮かべていた。やっぱり、さっきのは単なるポーズだったらしい。
「結衣先輩にそういうのは似合わないと思います」
「えー? でもいろはちゃん、今わりと本気入ってなかった? 目とか超怖かったし」
「そりゃ、あそこ突かれたらマジにもなりますよ」
「ヒドいことゆったのはゴメン。…けど、あたしも怒ってるのはホントだから」
演技を引っ込めた彼女ではあったけれど、確かに純粋な憤りは消えていない。真正面から受け止めきれずに、わたしは再び手の中の空き缶へと視線を戻した。
「それは…そうでしょうね。あれだけやりたい放題やっておいて全部ナシとか…ほんと何様ですかってカンジですし」
「ううん、そっちじゃなくて。いやちょっとはあるけど…もう済んじゃったコトだし」
「じゃあ何を怒ってるんですか?」
「今だよ。離れるでもない、くっつくでもない、宙ぶらりん。どうしたいの? 見ててイラつく。超イライラする!」
「…覗いてたんですか?」
「の、覗いてなんてないし! 距離感のハナシ!」
…ホントに覗いてないですよね?
「だったら見なきゃいいじゃないですか」
「目に入るんだもん。同じひと見てるから」
彼女の言いたいことは分かる気がした。思い返せば、かつて先輩達に対してわたしがうっすらと感じていたモヤモヤの正体が、正にこれだったのだろう。
二人と同じ立場になりたいって思ってたけど、まさかこんな形で実現するだなんて、ほんと皮肉だなあ。
言い返す気配のないわたしに対して、結衣先輩の舌はさらに熱を帯びていく。
「こんなんだったら、こないだまでのがまだ良かったよ。悔しかったけど…でも、あたしにできないこと堂々とやってたから、すごいなって気持ちもあったし。
なのに、あっさり『無かったことにして』とかゆってさ。じゃあどうするんだろって思って見てたらコレでしょ?
今のいろはちゃん、全然すごくない。あたしよりすごくない人になんて譲れない!」
「前は譲ってくれるつもりだったんですか…惜しいことしましたね…」
「い、今のは言葉のアレ! 揚げ足とんなし!」
見当はずれのツッコミで気勢をそがれたのだろう。彼女はふんすっと鼻息を吐くと、二人分ほどの微妙な距離を空けて、わたしの座るベンチに腰を下ろした。
「…告白しろって言うんですか、今さら」
「うん。やっぱそれが抜けてたからモヤモヤするんだと思う。ちゃんとコクった結果なら、お互いスッキリするでしょ?」
「見るに堪えない死にぞこないを玉砕させて、きちんと止めを刺しておこうと?」
「違うし。てか、なんでやる前から決めつけるの?」
「今の先輩にとって一番大事なものは、結衣先輩と雪ノ下先輩です。それが、ちょっと前までの、わたし達の知っている、あのひとです」
「そだね。ちょっと前まではそうだったかも。けど、今はちょっと違うと思うな」
「なりふり構わない泥棒ネコのしでかしたことですか? それならほら、神様がちゃんと辻褄合わせてくれたじゃないですか」
「ひ、ヒクツだなぁ…。ていうか、そんな罪悪感まみれで恋人のフリしてたの? そんなん嬉しくなくない?」
「嬉しかったんです!」
突然声を荒げたわたしに、結衣先輩の肩がぴくりと震えた。
「楽しかったんです。罪悪感なんて気にならないくらい、幸せだったんです…」
思いのままに吐き出して、けれどみんながどう思っていたのかを思い出したわたしの声は、自然と尻すぼみになっていった。
「でも、結衣先輩に何度も言われた通りです。やっぱりずるだったんですよ、わたしのしたことは。だからバチが当たったんです」
わたしが無かったことにしたんじゃない。無かったことにされてしまったのだ。
「けど、人と暮らす喜びを知ってしまったネコは、その温かさを忘れることが出来ないんです。もう飼ってもらえないって知ってても、優しく抱いてもらえなくっても、すり寄っていっちゃうんですよ」
「…………」
とあるネコの懺悔にじっと耳を傾けていた結衣先輩は、話題を変えるように声のトーンを少しだけ上げてきた。
「──あのさ。
「それは…ワガママで、めんどくさくて、超ウザい後輩、ってところじゃないですか」
「そうかなぁ。ホントにそれだけかなぁ」
含みを持たせたその言葉に顔を上げてみると、彼女はガールズトークの最中みたいな自然な笑顔を浮かべていた。
「ヒッキーってさ、結構ダメなとこ多いじゃん? 自分勝手だし、他人見下してるし、マジ空気読めないし、だいたいはやる気ゼロだし」
「…結衣先輩って、ほんっとーに、趣味悪いですよね」
「はいそれブーメラン!──こほん。…ま、たま~に人のために頑張ったりするけど、それもやっぱ正義の味方ってカンジじゃないじゃん。キホン悪役ってゆうか」
「はぁ…まあ…」
何が言いたいのだろう、と眉をひそめたわたしの肩に、彼女はするりと手を回してきた。
「そんな人がさー、ワガママで、めんどくさくて、超ウザくて、超あざとい後輩なんかのために、わざわざ命まで掛けるかなぁ」
女の子同士の他愛ないひそひそ話。
そんな声色で、彼女は悪戯っぽく笑って言った。
「いろはちゃんを助けた人ってさ、そんな"良い人"じゃなくない?」
<<--- Side Hachiman --->>
そいつが俺の元に現れたのは、一色が去ってしばらくしてからだった。
「…何しに来たんだ? まさか見舞いってワケじゃないよな?」
客を客とも思わない俺の言葉を、そいつはお決まりのポーズで軽く受け流す。
「残念だけどそのまさかだよ。もうすぐ退院だって聞いたから、その前に一言と思って」
綺麗な方のH.Hこと葉山隼人は、そう言って、何やら高そうな菓子折りを手渡してきた。
「土産まで…おいマジで見舞いみたいに見えるぞ」
「そう言ってるだろ。あとこっちは戸部から」
ばかに軽い、ぶっちゃけ高級感のかけらも感じられない、紙包装の箱がついてきた。
「ウソだろ…あいつそんな気配り上手だったか…?」
そもそもお見舞い貰うほど仲良くなった覚えもないんだけど。
「今日は用事で来られなかったけど、一度は俺と一緒に病院まで来たんだぞ?」
「そうなのか…」
ほんの一瞬だけ神妙な気持ちになったが、何となく察するところがあって、迷わずに箱の包み紙を引っぺがした。
中身は──独身男性の夜のお供でおなじみ、
おそらく下ネタだろうとは思っていたが、地味にとんちが利いていて腹立たしい事この上ない。禁欲生活と俺の性格をダブルで皮肉ってくるとは…。しかしあの男にこんな回りくどい知性があるだろうか。きっと何者かが入れ知恵したに違いない。
俺に睨まれた容疑者その1は、首を振って嫌疑を否認していた。
「あんにゃろ覚えてろよ…」
後で本人に返品してやろう。海老名さんの目の前でなァ!(自爆テロ)
「と、戸部なりのユーモアなんだろう。許してやってくれ」
ったく、運の良いやつだ。もしこの場にひとりでも女子が居たりしたら、退院したその足でお礼参りに行っちゃうところだぞ。
「…まあ形だけでも礼は言っておく」
「伝えておくよ」
「で? どうせ祝いついでに一言文句があるんだろ?」
あれだけ大見得を切っておいて、結果この有様なのだ。多少の厭味を言われても今回ばかりは何も言い返せない。復学に際して気が重くなる要因の一つだったので、今のうちに済ませられるものは済ませてしまいたかった。
「そうだな…。もしも君が目を覚まさなかったりしたら、言ってやりたいことはあったよ。けど調子も悪くなさそうだし、やっぱり遠慮しておこう」
「それだと、どっちにしても聞かせる気がないってことになるんだけど」
「はは、そうなるね」
いつも通りの思わせぶりな態度にカチンときたが、何もないに越したことはない。高級菓子折りに免じて、今日くらいは許してやることにした。
「本当はもっと前に来たかったんだけど、面会許可が下りなくてさ。後で聞いたよ。最近まで記憶障害があったんだって? そっちはもう平気なのか?」
「ああ。知らない間に私物とか増えてたのは気味悪かったけど…幸い、忘れて困るほどのイベントもなかったしな」
「覚えてないのにどうしてなかったって言えるんだ」
「いや、だって実質寝たきりみたいな感じだったらしいし」
あと、みんなが何もなかったって言うし。
「それで済ませられるあたり、やっぱり君は肝が太いな」
「こういうのは図太いって言うんだよ」
棚の上に置かれた花瓶に目を向けていた葉山は、ふと笑いを引っ込めて言った。
「君は何か言いたいことはないのか。俺に対して」
「何かって?」
「俺は結局、最後まで何の役にも立てなかった。見当はずれの容疑者相手に、刑事の真似事をしていただけだ。君の命懸けの行動がなければ、いろはの身に取り返しのつかない事が起きていたはずだ」
「無能を責めろってんならお門違いだぞ。それに関してはみんな同じ穴の
「でも君は最後の最後で気が付いた。そして間に合った。決定的な違いだ」
それだって、雪ノ下が発見した下駄箱の異変だとか、コイツが引っ張り出した中原の供述があればこその話である。
しかしここで本年度の抜け作決定戦をしていても埒が明かない。せっかく勝手に借りを感じてくれているのだから貸しておこう。それに、ひとつ言っておきたいことがあるのを思い出した。
「そう思ってんなら…一色のこと、今度こそちゃんとしてやれよ。って、俺が言う事でもないけど」
あの日、葉山が部室にきた時の光景が思い起こされる。一色の為に頭を下げたコイツを雪ノ下が
「えっと…話の腰を折って悪いんだけど…それはどういう意味で言ってるんだ?」
「いや、そういうのいいから。もう本人から聞いてるし。今は付き合ってんだろ?」
「いろはが…!? 俺と付き合っていると、自分でそう言ったのか?」
「イニシャル入りのリングなんてもん見せつけられれば、さすがの俺でも分かるわ。HからIへってな」
「指輪って…そんなはず……って、イニシャル? ──あっはっはっ!」
泡を喰ったように慌てていた葉山が、突然弾かれたように笑い出した。
「なるほど、そういう…いや、これは…何て言うか…すまない…ははっ!」
「なに馬鹿笑いしてんだ。こういう事、俺が言ったらそんなにおかしいか?」
「違う違う、そうじゃなくて…しかし、ククッ…参ったな、全然気付かなかった」
一色ん時の反応と全く一緒だな。ひょっとしてあの刻印にはリア充的に気づいて当然のからくりがあるのだろうか。
"H to I"──ははーん読めたぞ。
エッチから愛へ。すなわちエロから始まるイチャラブ生活!
ってさすがに引くわ。いくらエロはすでもそんなん指輪に彫るわけねーし。
「…その指輪。いろはは大事にしてたかい?」
「肌身離さずってのは、ああいうのを言うんじゃねーの」
それを聞いた葉山は「だろうな」ともう一度だけ肩を震わせ、こちらに背を向けた。
「そう言えば──君は結局、中原の事を疑いこそすれ、犯人だと断定はしなかったな」
何だ急に。
「…別にあいつを信じてたワケじゃない。何もかもを疑ってただけだ」
「だったら、悪意だけじゃなくて、たまには好意も疑ってみるといい。案外面白い答えが見つかるかもしれないよ」
「いや…何の話だよ」
「犯人が一人とは限らないって話さ」
「…………?」
確かに今回は事件を起こした犯人が複数居たせいで捜査が混乱していたわけだが…お前いま好意がどうとかいってたじゃねえか。そんなん、言われるまでもなく日頃から全力で疑ってるっつーの。
あれ? じゃあ犯人ってのは何の話だ?
「すまん、今のはマジで全く意味が分からん…」
「はは。まあ退院までの暇つぶしにでもしてくれ」
ふざけんな。せっかく学校休んでるのに、何が悲しくてお前から宿題出されなきゃならないんだよ。
思い切り顔をしかめた俺に、葉山は白い歯を見せて笑った。
俺を笑っているのは確かなのに、なぜだか厭味を感じさせない、不思議な笑顔だった。
<<--- Side Yui --->>
ここ数日のいろはちゃんは、色んな意味で見ていられなくて。
命がけで守ってもらったくせに、まだ自信を持てないでいる彼女が許せなくて。
だから教えてあげた。
ヒッキーは、ただの後輩のためにあそこまで頑張ったりしない。
いろはちゃんはとっくに大事な人の仲間入りをしているんだって、伝えてあげた。
「大丈夫。いろはちゃんはもう、あたし達と同じだよ」
うつむいたその表情は髪に隠れて見えないけど、ちゃんと手応えはあった。
ほら、顔を上げたいろはちゃんの目はキラキラと輝いて──
「ちょっと結衣先輩…」
あれっ? なんかそうでもない…てか若干ニラまれてない!?
「今さりげなく悪口増やしましたね」
「え、ウソっ!? あれっ!? なんか間違えた?」
えと…ワガママ、めんどくさい、超ウザ──ヤバっ、いっこ多いじゃん!
「まったくもう…。わたしの好きな人ディスってフォローとか…滅茶苦茶ですよ」
半目をやめたいろはちゃんが、困ったような顔で、でもようやく笑ってくれた。
「それはいいの。ディスったの、あたしの好きな人だし」
「ほんと…二人居れば良かったんですけどね」
「あはは。やっぱ真ん中から割ってみようか?」
あの時もいろはちゃんとこんな話をしてたんだっけ。なんかずいぶん昔みたいな気分だなあ。
「今さらアリなんですかね? こういうの…。あんだけズルしておいて…」
「いいんじゃない? それこそ神様がスッキリさせてくれたんだし」
ものすごくショックだったし、神様ってイジワルだなって思ったけど…今となってはあれでよかったんだと思う。そうじゃないと、あたしもずっとモヤモヤしっぱなしだったから。
そう思っていたら、いろはちゃんがちょっと可哀想な人を見る目を向けてきた。
「…結衣先輩って、要領悪いって言われませんか?」
「いきなりヒドいっ!? え、なんで? さっきのお返し?」
「だってせっかくチャンスなのに、わざわざ不利になるようなことして…」
「あ~…まあ…」
それは言われても仕方がないんだけどね。
「…ホントは今のうちにコクるべきだって分かってるんだけど、どうしてもね…。そりゃ、今すぐ動く勇気がないとかってのもあるよ? けど、それとは別のトコで…。うまく行っても行かなくても、このままだと気持ち悪いんだろうなって思ったら…なんか、さ…。そういう性格なんだろうね、あたしって」
だから要領が悪いってのとは違うんじゃないかな。不利になるって分かってやっちゃってるし。きっと単純にバカなだけだと思うな。
「正直、今もちょっと後悔してる。けど、このままだったら、もっと後悔、しそうだから…」
話してたらじわりと目頭が熱くなって、少し声が震え出した。
泣いてるトコ見られたくないなぁって思ってたら、いろはちゃんはそっと目を逸らしてくれた。
こういうコだから、ぜったい嫌いにはなれないんだよね…。
「…あーそうそう! さっきネコの話してて思い出したんですけどー」
「へっ?」
何を思ったのか、いろはちゃんは突然、場違いなほど明るい声を上げた。湿っぽい空気をぶち壊されて、あたしは目を丸くしてしまう。
「あのコ達って、三日で恩を忘れるって言うじゃないですか。酷い話ですよねー」
「はえ? な、何のハナシ…?」
「でもそれってー、泥棒ネコでも三日は恩を覚えてるってことですよねー?」
流れについていけないわたしを横目に、どこかわざとらしい口調のいろはちゃんはおしゃべりを続ける。
「三日かぁー。そう言えばあと三日で先輩、退院だったっけー」
ヒッキーの退院まであと三日。それまではネコが恩を覚えている…?
ネコの恩返し? ツルじゃなくて?
──あっ、泥棒ネコってそういうコト?
それ、退院までの間にあたしにコクれって言ってるの!?
「ち、違うの! あたしそういうつもりじゃなくて!」
確かに元気づけようとは思ってたけど、そのお礼としてあたしに譲るっていうなら、話があべこべになっちゃう!
「譲ってほしいんじゃないから! それに今すぐコクるつもりもないし──」
三日以内に告白しろだなんて、そんなのゲームじゃあるまいし、急に無理だよ!
「えー? 何の話ですかー? まあ結衣先輩が何を言ってるのか、何をするつもりなのか、わたしにはちっともわかりませんけどー…」
慌てふためくあたしを真正面に見据えて、彼女はぴしゃりと言い放った。
「──忘れないで下さいね。三日経ったら、ネコは
ランランと輝くその目を見て、ゾクリとした。
違う、彼女は何も譲ってなんかいない。
今日のお礼に、ほんのちょっとだけ待つって言ってるだけ。
邪魔はしない代わりに、自分も絶対に止まらないって、そう宣言してるんだ。
あたしの気持ちが固まっていてもいなくても、待つのは三日だけ。
うまく告白できたとしても、ひょっとしてキスまでいっちゃったとしても──
あたしが何をしても、彼女の取る行動はきっと変わらない。どうしたって止められない。
あたしに、ここまでの覚悟があるんだろうか。
何度先を越されてもこっそり泣くことしか出来なかった、このあたしに。
「………わかった。覚えとく」
その答えに満足したのか、いろはちゃんは「帰りましょうか」と立ち上がった。
けれど、あたしはしばらく立ち上がる事ができなかった。
次回、最終話です。
どうぞ最後までお付き合いください。