そうして、一色いろはは本物を知る   作:達吉

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■最終話 わたしにとっての本物

<<--- Side Hachiman --->>

 

 退院を明日に控えた俺は、最後の穀潰し生活を心ゆくまで堪能していた。

 

 と言っても、基本的にはスマホを弄っているだけなんだけどな。これさえあれば時間なんていくらでも潰せちゃう。あと一か月くらいこのままでも全く困らないと思う。

 

 ちなみに、スマホに夢中でろくすぽ前も見ずにフラフラと歩く──いわゆる「歩きスマホ」が巷で問題になっているが、海外ではあれを「スマホゾンビ」というらしい。ならば既にゾンビ呼ばわりされている俺の場合、何と呼ぶのが正しいのだろう。感染が新たなステージへと突入し、逆にダッシュゾンビとかに進化したりしないだろうか。

 

「しかしな…小町との履歴がゼロってのは、違和感ありすぎるだろ…」

 

 この部屋にはかれこれ一か月近く世話になっているはずなのだが、その割にはあまりにも俺の痕跡が少なすぎる。スマホの中身を含めてやけに身辺が真っ白なのは、何者かによる隠ぺいが行われたからではないか──。

 

 そんな陰謀論を弄びながらスマホを触っているうち、ふと「ブラウザ履歴ならば残っているのではないか」という発想に至った俺は、消されずに残っていたブックマークからかつての自分の痕跡を発見するに至ったのであった。

 

「ビンゴだ…ツメが甘いなジャック!」

 

 えっと、どれどれ…。

 

 WEB小説に、ゲームの攻略wiki…pi○ivもあるな。あとはエロCGまとめへの直リンク…。

 

「うーん、あんま代わり映えしないな…」

 

 たかだか三週間。ネットの歩き方が変わるような時間じゃないか。これといって目新しいものは──おっ、何だこれ。THE・KISS(ザ・キッス)? これは新しいエロスの予感…!

 

 wktkしながらそのブクマを開いてみると、キラキラしたトップページにキラキラしたアクセサリーがずらり。見るからに女子向けのネットショップの類であった。

 

 (´・ω・`)シューン

 

 期待して損した…。小町あたりが勝手に使った名残だろうか──っておいおいそれはマズいだろ。そしたらこの履歴も見られてるって事じゃん。兄の性癖が丸裸にされてしまう!

 

 身体に触れるのを猛烈に嫌がっていた先日の小町を思い出し、よもや手遅れなのではと俺が青くなっていると、

 

「いろはちゃん居るー?」

 

 おざなりなノックと共に、入り口から由比ヶ浜が顔を出した。

 

「なんで一色が居る前提なんだよ」

 

「だって毎日来てるでしょ」

 

「いや、最近は見てないけど」

 

「えっ!?」

 

 先日、生徒会の仕事がたまってるから暫く来られないかも、と謝ってきた一色は、それきり顔を出していない。そして皆勤賞が途絶えた彼女の代わりに来たのは、よりにもよって材木座だった。

 その顔を見るなり「チェンジ」と言い放ち、ヤツを涙の海に沈めてしまったことは申し訳ないと思っている。しかしあまりのスケールダウンに気落ちしているこちらの心情も、少しくらいは斟酌して頂きたいものである。

 

「もしかして来なくなったのって、一昨日から…?」

 

「そうだけど…もしかして何かあったのか?」

 

 あちゃー、と言わんばかりに天を仰いだ由比ヶ浜。その口から「あのネコ…」などというボヤキが聞こえてきて、俺は密かに衝撃を受けていた。

 

 意外ッ! いろはすは誘い受けッ!

 ヘタレの由比ヶ浜こそが攻め(タチ)だったらしい。

 百合の道は、げに奥深きものであることよ…。

 

「まー、ヒッキーが気にする事じゃないよ」

 

 そんな誤魔化しに、二人の意味深な関係への疑惑をますます深めた俺は、

 

「何もなかったとは言わないんだな」

 

 と探りを入れてみた。

 すると、ちょっと思案気な顔をしていた由比ヶ浜から、さらに思わせぶりな返しが。

 

「…気になる?」

 

 なるよ! 超気になるよ!

 

 思わず前のめりになった俺は、しかし続く彼女の言葉を聞いて、一気に冷静になった。

 

「──あたしより、いろはちゃんのこと、気になる?」

 

 その言葉の裏には、とても分かりやすいメッセージが仕込まれていた。

 素人であればもうこれだけで「こいつ俺の事好きなんじゃね?」と思うところだがお生憎様。訓練された俺はこの程度で騙されたりしない。

 自分に興味を持ってほしいというのは、老若男女を問わず誰もが持っている承認欲求の一端だ。"いいね"の数が多ければ幸せで、ボタンを押したのが誰であるかなど気にも留めない。アイドルはファンから好かれたいと思っているが、ファンをいち個人として意識しているわけではないのである。

 

 ならば甘い言葉をかけてやる必要はない。

 自然な上目遣いがどれほど心臓に悪かろうと…。

 ちょっぴり拗ねたような口調がどれほど愛らしかろうと…ッ(血涙)

 

「いや…目の届かない方を気にするのは当然じゃねえの?」

 

「ゴメン。ちょっとヘンだったよね、あたし」

 

「別に…お前が国語苦手なのなんて今さらだろ」

 

「それはカンケーないし」

 

 軽く笑ってやると、はにかんだ由比ヶ浜は両手を後ろに組んで言った。

 

「その…明日だよね、退院。…そのあと予定とかって入ってる?」

 

 あれ? いつものパターンだと「予定なんてないよね?」ってくるはずなのに。初めて人並みの扱いをされた気がするぞ。

 

「いや、特になんも」

 

「ホント? 誰かに呼び出されてたりしない?」

 

「誰かって誰よ…」

 

 呼び出しってなんぞ? 西山の仲間のお礼参りとか?

 

「じゃあさ、退院祝いにみんなでどっかいかない? ヒッキー座ってるだけでいいから」

 

 多分俺の身体に気を遣って言ってくれてんだろうけど、ご心配には及びませんよ。大体いつも座ってるだけだからね。まあそれ以前に──

 

「んー…俺はともかく小町がな…」

 

 俺がトリップしている間に、我が校の入学試験は終了してしまっていた。この大事なタイミングで応援どころか全力で妹の足を引っ張った愚兄に出来ることは、平謝り以外にない。幸い、「合格の暁には不問に処す」という寛大な沙汰を受け、俺は現在執行猶予の身である。退院を祝ってもらえるのはありがたいが、小町の抱き合わせくらいが丁度いいと思っていた。

 

「あ、そっか、発表待ちだっけ…。うーん、タイミング微妙だー…」

 

「いや…だから俺の方はそういうの気にしなくていいから」

 

「別にヒッキーだけの話じゃないし。色々大変だったから、みんなお疲れ様ーって会だし」

 

 そういう体裁なら、俺がいちいち口を挟む謂れもないのだが…。

 そんな慰労会にお疲れの元凶たる俺が顔出したら、針の(ムシロ)になるだけなんじゃないの?

 

「その席、実現するか怪しいから今のうちに言っとくけど──」

 

 少しだけ居住まいを直して、俺は小さく頭を下げた。

 

「今回はほんと、迷惑かけたな。すまん…」

 

「きゅ、急にどしたの? あたし別に何もしてないし」

 

 色々大変だったんじゃないのかよ。謙遜下手すぎるだろ。

 

「刺された時のこととか──あと記憶飛ばしてる時は分からんけど、覚えてる範囲でも、何度も見舞いに来てもらっただろ。…時間使わせて悪かったな」

 

「そこはさ、ゴメンよりありがとうって言って欲しいんだけど」

 

「…誠にありがとうございます。大変感謝しております」

 

「うむっ! よろしい♪」

 

 何やら芝居じみたやりとりになってしまったが、素直に言えた柄でもないので助かった。気配りの上手いヤツだから、狙ってそういう空気にしてくれたのかもしれない。

 

「…ね、ねえ、ヒッキー」

 

「ん?」

 

 見れば由比ヶ浜は、しきりに前髪を弄っていた。心なしか顔が赤いような…。

 

「あの、さ……あたし……」

 

「…お、おう……」

 

「……………あの」

 

 かつて何度か見た事のある、熱を帯びた由比ヶ浜の瞳。

 胸をざわつかせるその目をこちらにじっと向けていた彼女は、しかしおもむろに俺から目線を逸らす。何もない──()()()()()()壁の一角をじっと見つめ、ポツリと呟いた。

 

「…もしもあたしだったら、どうなってたかな」

 

 何が、と聞く前に、彼女はこちらを振り向いて言った。

 

「ヒッキー、ここまでしてくれた?」

 

 まったく、何を深刻そうにしているかと思えば…。

 いつも言葉が足りない由比ヶ浜ではあったが、今回ばかりは聞き返す必要もない。その無意味な仮定を鼻で笑って一蹴する。

 

「一色だったからこんな展開になったんだ。お前の時に同じになる保証は無いだろ」

 

 むしろ同じになってたまるか。間男でもないのにあんな修羅場は二度とゴメン被る。

 

「じゃあ、今度あたしがストーカーに狙われたら…?」

 

「そん時は真っ先に警察にタレ込むわ。これでも俺は学習するぼっちだからな」

 

「あはは…そっか…だよねー」

 

 ぼっち関係ねえ、というツッコミは返ってこなかった。

 ってか、なんで俺が解決する前提なんだよ。金貰ってる本職に頼んでくれよ。下請け扱いするならこっちも公務員待遇にしてくれ。でないと労基に通報しちゃうんだからね!

 

「あのな、分かってると思うけど…一色がワガママ言わなきゃ、今回だって最初から──」

 

「どうしてワガママを聞いてあげたの?」

 

 どうしてって…そもそも一番最初に支持したのお前だっただろうが。

 

 しかし彼女は、俺の反論を待たずに言い直した。

 

「ううん…どうして助けようと思ったの?」

 

 どうやらもっと根本的な意味での問いかけらしい。

 

「そりゃ…だから……あれだ、なんつーか……」

 

 唐突に、俺の語彙力が由比ヶ浜よりもお粗末になってしまっていた。

 

 なぜ一色を助けたのか。助けようと思ったのか。

 似たような自問をしたことがあるような気がするが、どういう結論に至ったのだったか。それほど答えに悩むような命題ではないはずなのに。

 

 一色に対する責任があったから?

 違うな、ストーカーは生徒会選挙とは一切関係ない。ぶっちゃけ俺のせいじゃない。

 

 単に可哀想だと思ったから?

 それはある。でもこれは、満足のいく答えじゃない。

 

 

「依頼だったからって、言わないんだね」

 

「──っ」

 

 

 こちらの気持ちを見透かしたかのような目で、彼女はそう言った。

 

 何故だろうか。

 思いつかなかったというよりも、真っ先に除外していたような気がする。

 

「そりゃあ……」

 

 確かに、あの日一色が部室に逃げ込んで来たのがきっかけではあるし、部活の一環みたいなノリで進めていた側面は否定できない。しかし実際の心情はそこまでビジネスライクなものではなかったはずだ。ましてや由比ヶ浜に至っては、そんなこと心にも思っていないだろうに。

 

 

「考えて」

 

 

 言葉に詰まっている俺を慈しむ様な──あるいは惜しむ様な、複雑な色の瞳が見守っていた。

 

「ちゃんと、考えてあげて。いろはちゃんの為にも」

 

 そして彼女は「──あたしの為にも」と零した。

 

 俺に聞かせる気があるのかないのか定かではない、それは何とも中途半端な呟きだった。

 

 

 一色の事を考えることが、なぜ由比ヶ浜の為にもなるのか。その設問自体はあまり難易度の高い物には思えなかった。けれど、あと一息というところでゴールに辿り着けない。決定的なピースが足りていないという実感がある。

 

 そして、恐らく欠片はこの先も手に入らない。

 俺が諦めてしまったからだ。手を伸ばすことを望まれていないのなら、と。

 

 だから、このパズルはいつまで経っても完成しない。

 ピースの欠けたままに、思い出という名の額縁に収められるのだろう。

 

「──チッ」

 

 そんな光景を夢想して、小さく舌を打った。

 悶々とした心持ちのまま、ベッドの上を転がり続ける。

 

「なら、どうしろってんだ…」

 

 零れ落ちた呟きに応じる声は、既にない。

 

 気が付けば、病室には微かな柑橘の香りだけが残されていた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 待ちに待った退院当日。

 

 ──などといった思い入れは特になく、未だに軋む身体で通常業務に復帰しなければならないのかという憂鬱さを全身にまとった男子高校生が、冬の弱々しい日差しを受けて、病院の中庭に突っ立っていた。

 

「なんでこんな吹きっさらしに…中入ろうぜ、中」

 

「先輩が話があるっていうからわざわざ来たんじゃないですか」

 

「いや、別に屋内でよかったんだけど」

 

「でもほら、今日はすごくいい天気ですし」

 

「太陽光線が痛い。紫外線が肌に刺さる」

 

「シャキッとしてください。今からその調子じゃ、春になったら溶けちゃいますよ」

 

 およそ一か月に及ぶ入院生活のせいですっかりモヤシと化した俺の背中には、口調のわりに労りを感じさせる小さな手が添えられている。急に姿を見せなくなった一色には色々と不安を煽られたりもしたものだが、こうして退院の日にきちんと顔を出してくれたことに、心底ほっとしている俺がいた。

 

 誰もが触れようとしない空白の入院生活。そこで何があったかはこの際置いておくとしても、忙しい合間を縫って世話を焼いてくれたこの後輩にも、改めて謝意を伝えておくべきである。ならば退院するこのタイミングがベストであろう。

 

 そう思った俺は、集まってくれた関係者の祝辞に返礼しつつ、一色が独りになる機会を虎視眈々と伺っていたのだが…。

 自らに注がれる危ない視線を感じ取ったのか、彼女は逆に自分から声を掛けてきた。そして話を切り出そうとした俺をこの寒々しい中庭までずるずると──いや優しく寄り添いつつ、連れ出してきたのであった。

 

「ところで先輩、さいきん結衣先輩と話とかしました?」

 

「え」

 

 唐突な振りに心臓が大きく跳ねた。

 

 こうして一色に改めて礼を伝える気になったのは、由比ヶ浜にあんなことを言われた影響が大きい。色々考えているうち、どうあれ今回のけじめくらいはつけておくべきだという考えに至ったのだ。

 まさかその辺の事情までバレている訳ではないだろうが…このタイミングで由比ヶ浜の名が出てくるあたりが心底恐ろしい。コイツは最近、俺の行動パターンを掌握しつつあるからな。マジで油断ならない。

 

「…あー、昨日来た時にいくらかは…。何で?」

 

「──いえ。それならいいんです。義理は通したので」

 

「義理?」

 

「女の子同士の話です♪」

 

「…さいですか」

 

 はい、パワーワード頂きましたー。男の子同士の話って言えばヘンタイ呼ばわりされるのに、これホント理不尽よな。いいけどよ。

 

 ちなみに、由比ヶ浜の問いに対する満足のいく答えは、未だに得られていなかった。

 

 なぜ一色を助けようと思ったのか。

 いち男子としては「可愛い女の子に頼られたから」というのが大きいように思う。しかしそれも正解ではない。と言うか、正解であってほしくない気分だった。

 

「…それで、話ってなんですか?」

 

 こちらに向き直った一色の目を──見るのは難しいので、おでこ辺りを見つめながら言葉を考える。

 

「あー、その、な…」

 

 これだけの大事に発展させてしまった事。

 諸々の後始末に奔走させてしまった事。

 

 それらを踏まえればやはり謝罪の言葉から入るのが妥当のように思われたが、こっそり小町に相談したら「ごめんなさいはNG」と再三警告されたし、それこそ由比ヶ浜も似たようなことを言っていた気がする。

 

 見るからに告白っぽいシチュエーションが恥ずかしいが、一色の顔色はどう見ても平常運転だ。呼び出された理由を変に勘繰っている風もない。

 少し肩の力が抜けた俺は、風になびく彼女の柔らかな髪を眺めながら口を開いた。

 

「実はちょっとお前に言っておきたいことがあって」

 

「へえー、奇遇ですね。わたしも先輩にお話があったんですよ」

 

「え、そうなの? んじゃお先どうぞ」

 

 反射的に先を譲った俺に、しかし一色は聞き捨てならない台詞を吐いた。

 

「いえいえ、先輩からどうぞ。わたしのはちょっと重めの話なので」

 

「えぇ…」

 

 さすがに返し方が上手い。今のですげえ聞きたくなくなったわ…。

 

 尻込みしている気持ちが顔に出ていたのか、こちらを見上げた一色はにへらっと相好を崩す。

 

「もー、大丈夫ですよー。別に悪い話とかじゃないんで。それで、先輩のは?」

 

「あ、あー…。こっちも構えるほどの話じゃない…んだけど…」

 

 こいつの話というのも恐らくは俺と同様、事件に関する謝罪の類に違いない。何だかんだでこれまで改まってその話をする機会はなかったし、一色の立場としても、やはりけじめをつけないと気持ちが悪いだろう。

 

「…先輩?」

 

「…わり、ちょい待ってもらっていい?」

 

 一色の顔を見ているとやけに頬が熱くなってくる。動画リピートの副作用に違いない。だいたい否定と謝罪から入るスタイルの俺がそれらを封じられたら、出足から躓くに決まっているのだ。

 くそう、どうせ同じ内容なら先に言わせておけばよかった…。そしたら「こちらこそ」の5文字で済んだのに。

 

「じゃあ10秒待ちますね。じゅ~~う…」

 

「やめ…そういうの焦るだけだから!」

 

「きゅ~~う…」

 

「待て待て待て! ──そうだ、お前今年でいくつになった?」

 

「もうすぐ17歳の誕生日ですね。ろ~~く…」

 

 アカン。時そばやっぱ使えねーわ。

 しかも裏でしっかり残量が減っている。いろはすカウンタはマルチスレッド対応らしい。

 

「あ、あれだ。今回お前には、その、色々と迷惑を…」

 

 とりあえず単語を繋いでカウントを止めようとしたのだが──

 

「ごーよんさんにーいちぜろっ!」

 

「ちょ、はぁ!?」

 

 ようやく滑り出した俺の口を塞ぐかのように、時が加速した。

 無常というか無理やりにカウントを終えた彼女は、呆気に取られている俺を他所に、スカートをパッパッと払い、居住まいを直す。

 

「じゃあ次。わたしの用件ですけどー」

 

「こ、コイツ…」

 

 本当にもう聞く気がないらしい。いや、俺が何を言おうとしていたかは冒頭で理解できたはずだ。その上で封殺された気がする。つまり聞く気がないのではなく聞きたくない、ということか。それなら俺も同じ事してやろうか?

 

 

「好きです」

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

 

 

「わたしは、あなたのことが、大好きです」

 

 

 

 

 呆然と立ち尽くす俺の目をその大きな瞳で見つめながら、彼女は言った。

 

 一言一言、丁寧に。聞き間違える事の無いように。

 

 その面持ちには一切の迷いがなく、ただ最初からそうするつもりだったのだという覚悟だけが浮かんでいる。

 

「…す……え…?」

 

 突発的難聴が発症したわけではない。音としては聞こえているが、日本語としての解釈が追い付かないのだ。またしても言葉を封殺された俺に、彼女は容赦なく畳みかける。

 

「好きです。ていうか、もうこれ愛しちゃってるレベルです」

 

 え? なに? (アイ)しちゃってるってなに?

 いかんて、頭がまともに働かんて! 日本語でおk!?

 

「実際、大好き程度じゃ全然足りないんですけど…あんまり重すぎるのも引かれるかなーと。なのでちょっとだけ自重して、大好きってことで」

 

「言っちゃったら自重した意味ないんじゃ…」

 

「ですね。じゃ、今のはオフレコってことで、よろしくです」

 

「オフレコの意味ねえし…」

 

 忘れられるはずがあろうか。

 これはいわゆる、愛の告白というやつではないか。

 おかしい。さっきまで全然そういう空気じゃなかったのに。

 

 熱を感じる程に身を寄せられ、目を逸らそうにも視界から追い出すことが出来ない。

 孤立無援で背水の陣。戦略的には投降止む無しといった状態である。

 

「そ、それは、あれじゃないか。俺に怪我をさせてしまったという罪悪感から──」

 

「罪悪感でも勘違いでもないです。だいたい、ケガする前から好きでしたし」

 

「へあっ!?」

 

 馬鹿な…そんな素振りは何ひとつ──。

 

「でも、それは……」

 

 改めて思い返すと、それっぽいのがいくつか思い当たらんでもない。

 駄目だ駄目だ、今の思考だと何もかもが自分に都合よく改ざんされてしまう。

 言ったはずだ、訓練された俺は「こいつ俺の事好きなんじゃね?」なんて初歩的な勘違いは──いやさっきからいろはすがそう言ってくれてんじゃねーか!

 

「ひ、ひとまず保留…ってのは、ダメか?」

 

 何度でも言おう。現実はクソゲーだ。イベントの発生は唐突で、攻略サイトもなければやり直しも許されない。ならばせめて一時停止プリーズ、と思っての発言だったが、

 

「先輩。キープって言葉、知ってます?」

 

 返事の代わりに笑顔でそう返されて、八幡頓死しろと思った。ほんの少し表現を変えただけで、先の発言がどれ程に失礼だったかを思い知る。

 

「…正直すまんかった」

 

「聞かなかったことにしてあげます」

 

 仕切り直すかのように再度こちらを覗き込んで来る彼女に、俺は確信をもって告げた。

 

「…やっぱ、お前だったんだな」

 

「何がですか?」

 

「その…入院中、ずっと面倒見ててくれたろ」

 

 ふと、彼女の瞳が淡い哀愁を帯びる。

 素直な好意をぶつけられ、面と向かってその表情を見て、ようやく言葉にする勇気が持てた。言い表せないほどの感謝を何とか伝えようとして、しかし続く言葉に押し留められる。

 

「それは今は関係ありません」

 

「つまりYESってことだろ」

 

 彼女は軽く首を振って、再び強い情熱を目に込めた。 

 

「ノーコメントってことです」

 

「…言えば不利になる事実でもあるのか?」

 

「むしろ有利になります」

 

 何それ。黙秘する意味ないじゃん。

 細かい事は分からないが、つまりは余計な条件抜きでの真っ向勝負を望んでいらっしゃるらしい。普段はこすいくせに、いざとなると真っすぐなんだよな…。

 

「先輩はわたしを何度も助けてくれましたけど、それでもまだ、先輩にとって一番大事ってわけじゃない。それは分かってるつもりです。だから──」

 

 その言い分は、勝手気ままな彼女にしては随分と控えめで。

 

「わたしに、チャンスをください。一番になるためのチャンスを」

 

 けれど、明確な要求として、俺に突き付けられた。

 

「……………」

 

 二人の女の子の姿が頭を(よぎ)る。

 

 分かり合えたような気がして、でもやっぱり分かり合えなくて。それでも分かり合えるようになりたいと思えた相手。

 俺にとって、この子が彼女達よりも優先すべき相手なのか。この考えが失礼とは思うまい。むしろ考えなければ失礼というものだ。

 

 一色いろはという女の子は、俺にとってどういう存在だったのだろう。

 

 雪ノ下や由比ヶ浜も中々難しかったが、それ以上に分かり合えたことは無かったと思う。俺にとっての彼女はいつだって未知の生き物で、何を考えているかちっとも分からなくて、振り回されてばかりだった。分かりたいだなんて、一度だって思わなくて──

 

「俺は──」

 

 ──本当に、そうだっただろうか。

 

 濡れたマッ缶の飲み口だとか。

 

 ららぽーとからの帰り道だとか。

 

 彼女と時間を過ごす度にいちいち気持ちを締め直して、俺は目を瞑ってきた。

 そんな筈はないって言い聞かせてきた。もう惨めな思いはゴメンだったから。

 逆を返せば、拒絶されれば惨めになるような感情を、俺は彼女に抱いていたという事だ。

 ちっとも分からないから近付くのが怖くて、だから分かろうとしなかった。

 

 今も俺の深いところを見つめ続けているかのような、大きな瞳。

 

 正面から受け止めるのを避けてきた賢しい後輩の目は、いつからか全くの別物になっていた。こちらを捕らえて離さない、逸らすのが惜しいとさえ思わせる、深い感情を湛えた瞳。

 

 いつの間にか、俺はこの瞳の虜になっていたのだ。そして、その感情の正体が一体何であったのかを、今さっき彼女が明かしてくれた。惨めに怯えて縮こまる俺に、その胸の内を言葉で教えてくれたのだ。

 

 断る権利を持っているのは彼女ではなく、俺。

 断られたら惨めなのは俺ではなく、彼女。

 修羅場には違いないが、比企谷八幡にはリスクがないという、全く未知の戦型だった。

 

 ひょっとしたら──

 だったらいいな──

 

 内心そう思いつつ、期待しては自粛して。

 悶々としながらも、誰一人として口にしなかった致命打(クリティカル)

 雪ノ下も、由比ヶ浜でさえも、(つい)ぞ言葉にしなかったそれを、彼女は面と向かって言ってのけた。

 

 単なる蛮勇ではない。喪失を恐れていることは、小さく震えるその肩を見れば分かる。

 

 この勇敢な振る舞いが、何よりも決定的だった。

 

「本当にかっこいいな、お前…」

 

 その感想がいつかと同じであることに気づいたのか、一色は顔を赤くして笑顔を見せた。

 

 ここで「だが断る!」なんて言える男が居るとしたら、そいつどこの神なの死ぬの?──と、ついつい思考がネタに走りかけたところで、非常に残念な事に、重要かつセンシティブな事案を思い出してしまった。

 

 そう言えば居たじゃないですか、この状況で断った(バカ)が。

 

 

 

「──葉山は」

 

 我ながら実に格好悪いとは思ったのだが、どうしても聞かずにはいられなかった。

 

「葉山が好きなんじゃなかったのか」

 

 問われた彼女はこの展開を予想していたのか、さして動揺するでもなく、「まあ、こうなりますよね」と苦笑い。こほん、と小さく咳払いをして表情を改めると、俺の言葉を否定せず、静かに言い直した。

 

「葉山先輩に憧れてた時期は、ありましたね」

 

 随分と懐かしい話でもするかのように、遠い目をする一色。いや、俺の中だとわりと最近の記憶なんだが…記憶が飛んだせいなのか? あれってもう結構昔の話になっちゃうのだろうか。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

「…………………え? 終わり?」

 

「はい。特にそれ以上のものでもなかったので」

 

「いや、だって…指輪とか…」

 

「あれ、葉山先輩からじゃないですよ?」

 

「は!? え、なにマジで分かんなくなってきた! んじゃ誰から──」

 

「ていうか、あのリング選んだのわたしですし」

 

「何それ…自分へのご褒美ってコト?」

 

「そうですね、だいたいそんなカンジです」

 

 急に丸の内のOLみたいなことを言い出した一色は、襟元を緩めて例のリングを取り出した。久しぶりに目の当たりにした白い喉に、思わず追及の手が緩んでしまう。

 

「なので、これのことは気にしないで下さい」

 

「いや…まあこの際リングはいいとして、葉山の方は? …そっちはもう、いいのか?」

 

「うーん…その理解だと…ちょっと危ないかもですね…」

 

 え、もうよくないの? まだ若干アリなの?

 

 その状態で他の男に告白するのだとしたら、これはもう本格的に俺の理解できる思考ロジックを逸脱している。ただ、今時の女子らしいと言えばらしいような気もするので、納得しちゃいそうになるのが怖い。

 しかし今の言い回しを最大限、俺に都合よく解釈するのであれば──

 

「…もしかして、好きと憧れは違うとか、そういうニュアンスか」

 

「そうそれ!」

 

 まさに我が意を得たりという顔で、一色は手を叩いた。

 

「え、ちょっと先輩、ちゃんと恋愛力あるじゃないですか! そこたどり着くのにちょお悩んだわたしがバカみたいです…」

 

「そりゃどうも…」

 

 俺いまこの子に告られてんじゃなかったっけ。だんだん自信無くなってきたんだけど…。

 

 ここだけの話、葉山にキャーキャー言ってる女子を見る度に、彼女らの半分くらいはそういうノリなんだろうなーと思っていた。きっと一色もそのクチだったということなのだろう。そういう事にしておこう。

 

「まぁ良いけどね…よく分からんけど…」

 

「良くないです! 分からんのはダメです!」

 

 んー、と顎に人差し指を当てて、首を捻る一色。

 

 いや別にもう気にしてないからいいんですよ? ただの憧れだった、でわりと納得してますから。むしろ必死に弁明されると不安になるんですけど…。

 

 なんだか最初の緊張感がどこかへ行ってしまった気がするが、「そう!」と顔を上げた彼女の口から出た言葉に、俺は再び身体を固くした。

 

 

「わたしにとっての本物は、先輩だけだったってことです。…これで、伝わりますか?」

 

 

「…っ!」

 

 

 そうきたかー。

 ここでそれ、使ってくるかー。

 

「お前…それは……ズルいだろ」

 

 その瞳で、あの言葉を口にされては、逃げ場などあるはずもない。

 

「言ったじゃないですか」

 

 女心と秋の空。

 そんな風に、いつの日か、一色が心変わりしてしまうかもしれない。

 お前なんて嫌いだと言われる日が来るしれない。

 そんな恐怖はある。あり過ぎるくらいに。

 それでも──。

 

「ちょっとズルいくらいが、女の子らしさってものです♪」

 

 虚言と欺瞞の汚泥から生まれ落ちた、ただ一つだけの本音。

 それすら疑ってしまったならば、この先何かを信じることなど二度と出来ないだろう。

 他人はもとより、死ぬまで付き合っていかなければならない、俺自身の言葉でさえも。

 

「俺も言ったよな。全部の男子に通じる訳じゃないって」

 

「一人に通じれば十分です。その人には通じるって、知ってました」

 

 ピッと立てられたひとさし指は、そのまま俺の鼻先へと突き付けられる。

 すっかりやり込められた気がして、思わず小さな笑いが零れた。 

 

 ああ、どうやら、詰み(チェックメイト)らしい。

 

 やっぱりこいつには、敵わないな。

 

 

「まあ、いいけどな…」

 

  

 引き攣るような俺の笑みとは対照的な、眩しいほどの彼女の笑顔──

 

 まずはこれを飽きるまで眺めてみようと、俺はそう思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──で、先輩。お返事は?」

 

「えっ」

 

 あれ? 今なんか、良い感じに場面終わってなかった?

 

 桜舞う青空にカメラが上昇(パン)していく感じ、しなかった?

 

「なに一人でスッキリした顔してるんですか。可愛い後輩が本気で告ったんだからちゃんと本気でOKしてください」

 

 やだ、この子ったら男前…! 断られる可能性とか皆無!

 つか、自分のターンが終わったもんで完全に開き直ってやがる。

 

「『イエス』ですか? 『OK』ですか? それとも『結婚しよう』ですか?」

 

「ちょ…」

 

 選択肢おかしいだろ。

 

 そう突っ込もうと思ったが、少し考えて納得してしまった。

 俺を相手取った問答としては、これこそが正解なのだ。もしも俺が比企谷八幡を攻略する立場だったなら、絶対に"NO"の選択肢は与えない。あれば必ずそちらに逃げると分かっているからだ。

 

 何かの契約であるかのように──ある意味では正しいのだが──手早く俺の退路を断っていく彼女は、座して審判を待つだけの挑戦者ではなかった。

 

「じゃあ…その…前向きなヤツで」

 

 言ってしまった後で、恐る恐る対面の表情を伺う。そこには笑顔から一転、微妙に眉をしかめた不満げな表情。背筋を一筋の冷や汗がスーッと走っていく感触があった。

 

 もしかして俺、やらかした…?

 

 女子の口からここまで言わせ、選択肢を与えられ、それすらもまともに選べない。控えめに言って最低だ。百年の恋だろうと、一万年と二千年前からの愛だろうと、冷める時は一瞬なのである。ともすれば、悪夢の逆転負けもあり得るのではないだろうか。

 

 それに考えてみたら、彼女は"比企谷ゴメンナサイ(カップ)"における、史上最強のタイトルホルダーである。おそらく今後も彼女の記録を敗れる者は現れないだろう。

 って、いま思い出したら駄目なやつだろそれは。クソゲーさんってこういうフラグにはすげえ敏感なんだってばよ!

 

「ちゃんと自分の言葉で言ってください」

 

 またギネスを更新されるのではと怯える俺を他所に、彼女はやり直しを要求してくれた。

 いやーワンチャンあったか。寿命縮んだわー。神様仏様八幡大菩薩様、マジでありがとうございます。

 

 しかし、ならばどういう言葉なら満足してくれるのか。

 見当がつかず、とにかく思いついたことを言葉にしてつらつらと吐き出してみた。

 

「…あれだ。正直、俺のどこを気に入ったのか、さっぱり分からん。でも、ここ最近、お前を見てて思った。その…もっとお前のことが知りたい。色々と教えて欲しい。知ればきっと、もっと知りたくなる…ような気がする。だから、その──」

 

 綺麗にまとめることが出来ず、頭をガシガシと掻き回す。すっかりお手上げ状態になった俺は、恥ずかしげもなく白旗を上げた。

 

「……こういうんじゃ、ダメか?」

 

「全然ダメですもっとシンプルな言葉でハッキリと言ってもらわないと全くこれっぽっちも伝わりません今すぐやり直して下さいゴメンナサイ」

 

「…ここまで来てゴメンナサイはさすがに予想してなかったわ」

 

 プライドをかなぐり捨てて全面降伏するも、一色陣営はこれを拒否。その上とどめとばかりに十八番の一芸を炸裂させてきた。

 が、今度ばかりは記録にも残るまい。言われて嬉しいゴメンナサイなんてノーカウントだ。合格するまで付き合ってやると、彼女はそう言っているのだから。

 

「普通のでいいんです。カッコとかもつけなくていいです」

 

「いや、俺は普通に頑張ったし、カッコもつけてはいないんだが…」

 

 やっぱり人生さんはクソゲーだった。この期に及んで正解を引くまでループしやがる。

 

 

 えーくそ、なんだ。シンプルに、かつこの場にふさわしい言葉?

 

 

「おっ……」

 

 

 すー、はー。

 

 すー、はー。

 

 

「俺と……」

 

「俺と?」

 

 

 すー、はー。

 

 

「俺と……つ、付き合って欲しい……」

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

 

「……みたいな」

 

「っ!?」

 

 うぐぅ…日和ってしまった…。

 沈黙に耐えられなかった…。

 

 向日葵みたいな笑みから一転、キリキリと吊り上がっていく眉に恐れをなした俺は、

 

「どうか付き合って下さいお願いします!」

 

 折り目正しくも90度に近い勢いで、頭を下げていた。

 

 ここまで来ると、心情的にも告白と言うより謝罪である。羞恥心は概ね消え失せ、声も若干ヤケクソ気味になってしまった。

 

 けれどちらりと視線を上げてみれば、一色は今度こそ満更でもない様子だった。腰の前で組んだ両手をじっと見つめ、指先を突き合わせながら、何度も頷いている。

 

「…ふんふん。そんなに。そんなにわたしが欲しいですか。そうですか。ふんふん」

 

 ん?

 

 んん?

 

 んンンンン?

 

 何かこれおかしくない? 確か俺が告られてたんじゃなかったっけ。

 いつから俺がお願いする側になってたの?

 

 告ったと見せかけて告らせる──これぞ告白巴投げ。

 恋愛組手の名家、一色流の真髄が鮮やかに炸裂していた。

 

 そういやこの子、八幡特効のヒッ検有段者でもあったっけな。

 この戦い、最初から俺に勝ち目なんてなかったわけだ。

 

「…まあ、今日のところは10点って感じですかねー」

 

 ひとしきり鼻を鳴らした後、一色はにっこり笑って一本だけ指を立てた。

 いつかどこかで聞いた覚えのある点数だ。相変わらず採点が辛い。

 

「…なんでそんなに低いのか聞いていい? 俺ちゃんと──むぐっ!」

 

 

 渾身の告白に対する低評価への抗議は、彼女の唇でもって黙殺された。

 

 

 

 

 キスを、されていた。

 

 

 

 

 

 驚愕。

 

 混乱。

 

 興奮。

 

 羞恥。

 

 歓喜。

 

 快感。

 

 

 

 それと、どこから紛れ込んだのか、ほんの一握りの懐かしさ。

 

 

 

 

 細い指が俺の髪の間を滑り、二人の距離をゼロへと近づける。

 どこまでも柔らかく暖かな感触が、乾いた唇を溶かしていく。

 脳髄が痺れて、視界が明滅するようだった。

 肺の中の全ての空気が、彼女の香りに染まる。

 

 背伸びが辛いのか、その身体が小刻みに震えていて。

 無意識に、彼女の腰を抱き寄せていた。

 

 

 

「…相手が先輩だったので…オマケで10点…あげます」

 

 

 

 ほんの少しだけ唇を離し、熱い吐息を漏らしながら、彼女は総評を下した。

 

 

 

「…一応聞くけど、何点満点?」

 

 

 

「ヒミツです…♪」

 

 

 

 悪戯めいた笑みを浮かべ、彼女はもう一度、俺に口づけたのだった。

 

 


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