風邪を引いたらシンフォギア装者が看病してくれた(旧題:風邪を引いたらきりちゃんがデスデス言いながら看病してくれた) 作:リベリオン
※規約に触れる恐れを指摘されたので一部変更しました。
ドーモ=ミナサン。
覚えていますか? この間風邪を引いてしまい、切歌に看病された者です。
ええ、まだ風邪引いてます。でも熱はそれなりに引いて動く事は出来そうです。無理は禁物ですけど。
ピンポーン。
おや、誰だろう。あまり人が訪れる事がないから来訪者なんて珍しいが、流石に長時間対応できるほど回復はしてない。
どうせ訪問販売とか新聞の勧誘とか、その類だろう。そうタカを括ってベッドで寝ることにします。
ガチャガチャ…。
うん? 今鍵を開ける音がしたような……時間を見れば夕方だし、案外切歌がもう1度お見舞いに来てくれたのかもしれない。
だとしたら存分に癒される事にしよう。あの子弄られているとかわいいからね。ただし薬と同じで用量間違えると魂を両断されるから要注意。
「お…お邪魔します」
はてさて、やって来たのは切歌ではなく。
かと言って我が愛しの天使にして女神なわけでもなく。
かと思えばオカンな年長者ではなく。
「ああ、起きていたのか。勝手に上がってすまない」
現れたのは時代がかった独特の言葉遣いをするSAKIMORIなお人。
日本が誇るトップアーティスト。
現在は世界を舞台に歌ってる真っ最中。
風鳴翼さん――。
「風邪を引いて寝込んでいると聞いて、お見舞いに来たんだ」
――訂正。風邪を引いて無理無茶な動きは禁物だけど、戦わなければ生き残れなさそうです。
/
Q:ナズェココニイルンディス!?
A:お見舞いに来た。
Q:ビィドゥディダケディスカ?
A:ああ。皆都合が付かなくてな。
ダンティコッタイ……。
ああ神よ、バビロニアの神よ、なんでこんな仕打ちを! よりによっていっちばん来てはいけない人を寄越したんです!? フィーネ! やっぱり世界はこんなにも残酷だよ! 統一言語取り戻しても無理だよ!
「むっ…やはり顔色が悪いな。あまり無理はしないほうがいいぞ」
いや、あなたに危機感抱いているからなんですけどね! なんて口に出来るわけもなく……。
大丈夫、問題ないと身体に鞭を打って起こすが、ゴホゴホと咳き込んでしまう。
「言った通りではないか。無理をしたら治るものも治らないぞ」
呆れてそう宥めながら、翼さんは背中を擦ってくれるが……。
いつ無理をするの? 今しかないでしょ!!!(ブーメラン
これが他の面子なら大人しく寝ていましたよ。切歌は危なっかしかったけど一生懸命看病してくれたから。
けれどあなたアレでしょう!? 聞いてますよ! お見舞いに行ったら汚部屋だとか、ちっちゃい頃から片付けられなかったとか、色々聞いてるんだ! 全部緒川さんがやってくれてるんだろ!
考えろ、何とか彼女の機嫌を損ねずに丁重かつ早々に退室してもらう方法を!
「ん?『風邪を移してしまっては大変だし、大変申し訳ないから帰ったほうがいい』だと? ふっ、気にするな。そんな事で患うほど、この身を剣と鍛えてはいないさ」
あー、デスよねー。
今考えられる中で会心の策は、じっつに男前な微笑で一蹴されました。この人が風邪でダウンするなんてイメージ、全然浮かばないもんね。
その後翼さんは身体を横にするのを介添えしてくれて、さらには毛布まで掛け直してくれた。
「それに私の心配をするより、今は自分のことを大事にしたほうがいい。快方に向かっているとは言え、ここで無理をしたら逆戻りだ」
無理しなきゃどっちにしても逆戻りなんですよぉぉぉぉ!(血涙
翼さんは悪い子じゃないんだ。それは良く分かる。
だからこうしてお見舞いに来てくれたのも、善意からだというのも理解しているし納得もしている。
けど……そう、『けど』なんだ。ここに彼女だけでなくあと1人居てくれれば安心できた。
しかし彼女1人だけの場合不安しかない。表では華々しく活躍し、裏でも防人として戦場を一陣の風となって勇ましく駆ける彼女の姿は見ていて憧れる、惚れ惚れする。
でも日常生活があんな感じじゃ……ねえ?
「ところでお腹は減っていないか? お見舞いに果物を持ってきたのだが」
そう訊ねつつ、翼さんは籠を軽く持ち上げる。
病院とかのお見舞いで見かける、なんか色々果物が入った籠を。生で見たのはじめて見た。って言うかただの風邪で、こんな高そうなものを貰っていいのかと気が引けてしまう。
「気にするな。少し待っていてくれ、今切ってこよう。台所を借りるぞ」
ああ、はい。どうぞ。生返事を返すと翼さんは頷いて席を立ち、台所に行ってしまう。
まあ……切るくらいなら大丈夫かな。実際斬撃はあの人の得意分野だし。
そう楽観視していると――台所の方で不穏な声が。
『むっ…洗い物がそのままだな。ついでに少し洗っておこう』
えっ――と、思わず声を上げてしまう。
確かに洗い物をする気力までは湧かなかったから、とりあえず水に浸けてそのままにしていたんだ。治ってから纏めて片付けようとしていたんだけど……。
振り返っている間に水を流す音が聞こえ、カチャカチャと食器同士が擦れる音が微かに響いてくる。
聞いている限り問題なさそうだし、なんだ、これなら大丈夫そうだな……そんな風に安心していた矢先、
パリーンッ!
『……………』
何かが床に落ちて、粉々に割れたような音。
今の音は明らかに食器が落ちて割れた音じゃないだろうか。
『す…すまない! 手が滑って割ってしまった……すぐに片付け――あぁっ!?』
慌てて謝罪した直後、ドンッと何かをぶつけるような音がして、更に慌てる翼さんの声。次の瞬間、
ガチャガチャパリンパリーンッ!
……積み上げていた食器を根こそぎ落として割ったのだろうか。
だがあえて何が起きたのか……とは聞くまい。
『ご……ごめんな…さい』
若干涙声で謝る翼さん。
うん――楽観視するのは大きな間違いだったらしい。
/
「本当にすまない……割った食器は全て弁償する……」
そう言って隣で正座をして小さくなっている翼さん。
気にしなくていいよ。100均で買った安物だし。そう言って彼女が切り分けたりんごをシャクシャク食べる。お高いものはやっぱり甘い。
「うぅ……」
けどそのフォローはどうにも彼女の良心を苛むものらしく、申し訳なさそうに項垂れていた。
なんだか、こんな翼さんを見るのって久しぶりだな。その姿を見ていたらなんとなく呟いてしまう。
「久しぶり……?」
その呟きに顔を上げ、小首を傾げる翼さん。
うん、と彼女の疑問に頷いた。
なんというか、この頃の彼女は防人であろうと、剣であろうと徹してるあまり妙な方向に進んでいるような気がしてならなかった。言葉遣いなんてその典型。
「そうだろうか……あまり自分では意識していなかったのだが」
自分でも気づかなかったということは、殆ど無意識のうちにやっていたことなんだろう。
彼女の夢である世界を舞台に歌いたい気持ちも分かるし、防人としての矜持も理解できる。けど……もうちょっと、歳相応なことをしてみてもいいんじゃない?
「歳相応なこと……か?」
そうそう。とまだ良く分かっていない翼さんに頷く。
例えば……そう、前に響と未来の3人で遊びに行ったこととか。
「ああ……あれか。確かに楽しかったな、あの時は……知らないことばかりを体験して、驚きもしたし楽しかった」
そうだそうだ、それが普通なんだ。
刃を鍛え、研ぎ澄ませるのも結構だと思うが、鍛えすぎて余分なものも捨ててしまったらいけないと思う。色んな経験をしてそれを糧にするのも大事な事じゃないだろうか。
硬くて鋭い刃は、それだけ鋭い切れ味を見せるだろうが、逆に柔軟性に欠けて折れ曲がりやすい。あんまり真面目一直線だとポッキリ折れそうで不安になるんだ。
「……………」
言い終えると、なぜか彼女はぽかんと呆けたような顔をしていて首を傾げる。
何か変なこと言っただろうか。それとも気に障ったのだろうか?
「いや、気に障ったとかそういうのではないんだ。……前にも同じことを言われた気がして、ついな。こちらの事だから気にしないでくれ」
そう語る彼女の顔は何かを懐かしむようだった。きっとそれは彼女にとってとても大切な事で、深く踏み入ってはいけない話なのだろう。
「色んな経験を糧に……か。そうだな、なら君の風邪が治ったらどこかに出かけよう」
え。いいの? 感傷に浸っていた彼女をそっとしておこうとした矢先、そんな話を振られて思わず戸惑ってしまう。
「もちろんだ。君が言ったのだろう? もっと色んな経験をしろと」
いや確かにそうだが、トップアーティストと出かけたりすれば大騒ぎになるのは間違いないだろう。
そもそも自分みたいな、何の取り得もないただの人なんかと出かけて楽しいのだろうか?
「何を言っているんだ。君はこうして、私に大事な事を気づかせてくれたし、何より私にとって大事な人だ。ただの人ではないさ」
そう言ってくれるのは嬉しいが、なんかそれは愛の告白みたいで勘違いを起こしそうなんだが。
恐る恐る指摘すると、翼さんは徐々に顔を赤くしていき、全体が真っ赤になったところでボンッと音を立てる。
「こっ、こ…告白!? べべっ、別にそんなつもりは……いや確かに君は私の大切な存在で相違ないが、まだそこまでの関係には……な、何を言っているのだ私は!」
いや落ち着け! 錯乱して頭を振り乱す翼さんの腕を掴んでどうにか止めようとする。
が、日頃鍛えていて同年代の男子よりも腕っ節は間違いなく強い彼女。対してこちらは特に運動をしているわけではなく、おまけに風邪で体力ががた落ちしている自分。
結果、彼女を抑えることは叶わず逆に振り回され、挙句ベッドから引きずり出された。
「きゃっ…」
普段の彼女からは滅多に聞けないだろう女の子っぽい悲鳴。
あ、マズイ……頭の中で瞬時に考え、鈍い身体に鞭を打ってどうにか翼さんとの位置を入れ替え、自分が下敷きになろうとした。
次の瞬間、ドスンッと言う音を立てて2人とももつれて床に倒れこむ。
い……ったい。涙が出るほど痛い。受身を取る暇すらなかったから背中も後頭部も強かに打ちつけて悶絶していた。
彼女は……翼さんは大丈夫だろうか。ふと考えて閉じていた眼を開けるが……あれ? なんだか暗い。
大丈夫か、と言葉にしようとしたら、なぜかふがふが言葉にならない声が出て行く。
なんでだろう。なんだろうこれは……謎の現象に内心首を傾げて手を伸ばした。
ふにっ。
「ひゃぁっ!」
? やや上の辺りで聞こえる翼さんの声。しかしこの柔らかいものは何なんだろう。手に収まるくらいの……。
ふにふにっ。
「っっっ!」
次の瞬間、ばっと視界が開く。
なぜか翼さんが俺の上に跨っていた。いや、彼女の下敷きになろうとしてとっさに割り込んだのだから、自分が下敷きになっているのは当然だろう。
ただどういうわけか、彼女は頬を真っ赤にして、涙目になって両腕で自分の胸元を隠していた。
えっと……これは、つまり……あれ、だろうか?
彼女を庇って下敷きになった拍子に、彼女の胸が自分の顔に押し付けられてしまい、おまけにそれに気づかないまま揉んでしまったと。
「……………」
赤らめたまま、翼さんは俺を睨みつけている。
けど待って欲しい。確かにとんでもないことをしてしまったと思うしそれに関しては謝罪するが、これは事故であって自分に責任はないと……。
「――“Imyuteus amenohabakiri tron...”」
こちらの弁解に対し翼さんは何も答えないまま立ち上がり、そのまま聖詠しだした。
一瞬、ほんの一瞬だけ翼さんを光が飲み込むと、同時にどこからともなく曲が流れ出して光が収まった瞬間、ギラリと照明の光を受けて鈍く光る銀色の刃が首筋に当てられる。
「――――♪」
『Beyond the BLEADE』の歌詞、しかも戒名云々とか、辞世の句なんとかかんとかと共に冷たい瞳がこちらを射抜き、ぶわっと汗が噴出した。
あ…つまりそうですか。辞世の句も残してくれないですか。
「悪・行・即・瞬・殺!」
やっぱりこの人がお見舞いに来るとロクな事にならなかったじゃないかぁぁ!
/
「――では、僕はこれで失礼します。お大事に」
「ありがとうございました……」
ヘルプに来てくれた緒川さんに翼さんは深々と頭を下げ見送り、緒川さんは微笑みながら出て行く。
あの後、正気に戻った翼さんはこちらの状態を見て血相を変え、慌てて緒川さんに助けを求めてきた。
凄いんだね忍者って。呼ばれてすぐに屋根裏から出てきて、分身して手当てをしてくれて、部屋を片付けて、おまけに洗濯物や洗い物も片付けておじやまで作り置いてくれたもん。
って言うか忍者ってなんだっけ。もう日本どころか世界に誇ってもいいレベルだと思う、緒川さん。むしろ婿にさせてください惚れました。
「その……本当にすまなかった。あまりのことに気が動転してしまって……」
ボソボソと、ベッドの横で正座している翼さんは、さっき謝っていた時よりも数段小さい。
そりゃあ、胸を触られて気が動転していたとは言え、病人をボコボコにした挙句瀕死にまで追い込んでいたら緒川さんに怒られもするし、「翼さんは邪魔だから部屋の隅で大人しくしていてください」と毒舌炸裂されれば凹みもするだろうけど。
ちなみに緒川さんが動き回っている間、翼さんは言われたとおり隅っこで正座して、涙目になってプルプル震えていた。彼女にとっては兄のような存在でとても信頼を置いていたし、常に助けてくれていた人だったからそんな風に言われればショックを受けるのも当然かもしれないが。
ただきっかけを作ったのは自分みたいなものだし、緒川さんも翼さんをあまり怒らないで、翼さんも強く責任を感じないでもらえると助かる。
「本当に私は……緒川さんや君が居なければ何も出来ない人間だな」
壊すばかりで何も生み出さない――そう自嘲する彼女にそれは違うと即座に否定した。
翼さんには歌がある。翼さんの歌は人々を癒して笑顔にする力を持っている。それはけして壊す力ではないと。そのことは自分だけじゃなく、皆が知っていることだ。
それに、その壊す力は少なくとも誰かを守るために振るう力じゃないか。翼さんが自分の身を削ってまで防人として剣を振るうなら、自分が翼さんの防人になってやる。
「君が私の防人に……?」
不思議そうに聞き返す彼女に頷き返す。
別に誰かと戦うことだけが全てじゃない。帰ってくる場所を守る事だって立派な戦いだと思う。
だから翼さんが戻ってきた時笑顔になれるよう、ここでいつでも待っている。あまり上手く言葉に出来なかったが、とにかく真剣な思いだけは込めてそう答えた。
「……ふふっ」
すると彼女は呆けていた表情を崩し、柔らかく微笑む。それは……そう、どこにでもいる普通の女の子のように。
「いや、すまない。ただそれをそのまま受け取ると、まるで告白するように聞こえるのだが……?」
……え?
え……?
言われて自分が言った事を振り返る。確かにこれは告白と捉えられてもおかしくないじゃないか……!?
いや、別にそんなつもりはなく、ただ一生懸命頑張る翼さんを少しでも助けられたらいいと思って言った事であって、深い意味はないんですよ、ええ!
「いや、分かっているよ。君の言葉に他意がないことは、聞いていれば分かるさ」
慌てて弁解すると翼さんはくすくす笑って答えた。
なんてこったい……翼さんへの突っ込みが時間を置いてブーメランしてくるとは。こっぱずかしくて顔も見られないじゃない!
恥ずかしさのあまり頭まで毛布を被って顔を隠してしまう。その様子を見ていた翼さんはまだ笑っているらしい。
「――――♪」
ふと近くで歌声が聞こえ、あれ? と耳を済ませる。
間に毛布が挟んでいるから若干くぐもっていたが、間違いなく翼さんの歌声だ。
そろそろ…と頭まで被っていた毛布をずらし、顔を外に出す。
今度はよりクリアに翼さんの歌声を聞くことが出来た。
やっぱり彼女は凄い。波が静まっていくかのように先ほどまで荒れていた心がすぅっと静まって、彼女の歌に耳を澄ませている。
ぼーっとなって彼女の歌を聞き入っていたら、視線に気づいた彼女がこちらに目を向けた。
「お見舞いに来たのに、逆に世話になりっぱなしだから……今日は特別に、君だけのために歌わせて欲しい」
そう言って翼さんは柔らかく微笑む。
これはもう、他の何よりも贅沢なひと時じゃないだろうか。あの風鳴翼が、自分だけのために歌ってくれるなんてことは。
音楽に疎くてどんな曲かは分からないけど、聞いていると気持ちが安らいでだんだんと眠くなってきて……。
いつの間にやら眠っていて、起きた時には翼さんの姿は無かった。
枕元に置かれていた書置きから自分が寝て少しして帰ったことが書かれていて、寝ている間は意識がなかったはずだけど彼女の歌が耳に残っているような気がした。
というわけでSAKIMORIさんこと風鳴翼さんがお見舞いに来てくれたパターンでした。
まあ、大半の人が想像するとおりあの人生活能力皆無に近いから、逆に迷惑掛けまくってましたけど(笑)
翼さんは緒川さんがいないと何も出来ないからね、仕方ないよね。でもそんな翼さんも可愛いと思うんだ。
色々語りたい事はあるけど、あえて多くは語るまい。
ちなみにこのシリーズ、あと2人ほどお見舞いに来てくれる予定です。ちなみに人選は完全に自分の趣味なのであしからず!