風邪を引いたらシンフォギア装者が看病してくれた(旧題:風邪を引いたらきりちゃんがデスデス言いながら看病してくれた)   作:リベリオン

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きっかり2年も空いてしまった……すまない、本当にすまない……。

理由としては単純に後半のシーンを書くのが辛かったんだ……。

と、言う訳できりちゃんが大好きな諸君、約束は覚えているか? ちゃんとお見舞いしてやるから1d100でSAN値チェック逝こうか(白目


しらきりを遊びに連れていったー

「ここが……」

 

「噂に名高い……」

 

「「遊園地!」デーッス!」

 

 目の前にあるゲートの向こうに広がるアトラクションを見て、目を輝かせているしらきりたち。

 と言うかそんなに感動する事なの? 2人して空飛んだり地上疾走したりしてるのに。

 

「ギアで飛んだりするのとは全然違うデスよ!」

 

 素朴な疑問を口にすると、切歌は妙に力を込めて力説して、調も同調してうんうんと頷いている。

 そこまで違うのか……個人的には2人の方が凄いし憧れると思うけど。だって調のアレ……なんだっけ、なんか巨大一輪車とタ○コプターみたいな技。

 

「一輪車……」

「違うデスよ! アレにもちゃんと立派な名前があって、ひ、非常……えっと……」

「『非常Σ式・禁月輪』と飛行するのが『緊急Φ式・双月カルマ』なんだけど……」

 

 小声で説明しながら、ずーんと沈み込んでしまう調。いや、だって名前難しいじゃないか。切歌はアレ、メチャクチャ読みづらいけど。

 

「なんデスとぅ!?」

「私の技の名前は、きりちゃんほどヘンじゃないよ」

「へ、ヘンデスか!?」

「うん。ヘン」

 

 右に同じく。

 2人に肯定されてよほどショックだったのか、切歌の背後で稲妻が落ちたイメージが見えた気がした。

 まあ、2人の技名に関しては置いておくとして、何故2人とここに来たのかと言うと先日お見舞いに来てくれた切歌のお礼が何がいいかと訊ねたところ、「遊園地に行ってみたい」と答えが返ってきたたためだ。(なお勉強を見るのはまた別腹)

 2人ともこういったテーマパークは今まで来た事がないらしくて、2人の経歴を考えてみればそれも頷けた。近場で遊べる所は連れて行ったけど、遊園地は少し遠いし敷居も高いイメージがあって見送っていたからなぁ。

 けど今回は要望を受けたことだし、いい機会だから連れて行こうって決定したんだけど。

 って言うか切歌はいつまでフリーズしているつもりなのか。いつまでもここにいたら遊ぶ時間減っちゃうけど。

 

「ってそうデスよ! 今日は遊び倒すって昨日決めてたデス!」

 

 我に返った切歌は言いながら自分の手を掴んできて、そのままぐいぐいと引っ張って入場口まで連れて行かれる。

 いや引っ張んなくてもいいし急がなくてもアトラクションは逃げないから!

 

「ごめんなさい先輩。きりちゃんずっと楽しみにしてたから」

「えぇっ!? 調は楽しみじゃなかったデスか!?」

「確かに楽しみだったけど、先輩を困らせたらダメだよ」

「うぐっ……ごめんなさいデス」

 

 窘められて切歌は申し訳なさそうにしながら手を離して謝った。

 それに気にしてないと返し、今日はとことん付き合うと答えると切歌はぱぁっと顔を輝かせる。

 

「いいデスか!? やったー!」

「あ、きりちゃん! 1人で先に行くと迷子になっちゃうよ!」

「2人とも早く来るデスよー!」

 

 先走った切歌に慌てて調が声をかけ、振り返った切歌が自分たちを呼びながら元気に手を振っている。

 満面の笑みに調と顔を見合わせて微苦笑し、揃って切歌を追って歩いていった。

 

 

 さて入場口でチケットを購入して園内に無事入場したけど、何から乗ろうか。

 この遊園地はジェットコースターやゴーカート、バイキングにメリーゴーラウンド、ティーカップや観覧車等々、定番のアトラクションは入っているし……あとは空中ブランコとかホラーハウスもあるんだっけ。

 

「ここはやっぱり定番中の定番! ジェットコースターに決まってるデスよ!」

 

 ぐっと力説する切歌に、調はどうかとみる。確かにジェットコースターは定番だけど、絶叫系は苦手な人も多いからどうだろう。

 

「私は絶叫系でも平気だからいいよ」

 

 ただ、どう考えてもこの2人が過激なアトラクションが苦手というイメージは全然湧かないわけで。じゃあ最初はジェットコースターに乗ることにしよう。

 特にジェットコースターは人気だし、待っている人で行列を作っているだろうから早いうちに制覇した方がいいだろうし。

 満場一致でジェットコースターに決定し、ジェットコースターの場所まで移動する。ここのジェットコースターはなかなかにスリリングらしいけど。

 

「あ。あそこだね」

「えっ。なんで乗ってる人宙吊りになってるデスか……」

 

 待っている間に流れていくコースターを見ることができて、切歌が思わず疑問を口にした。

 ジェットコースターといえばレールの上に車両が乗っている形が一般的だけど、ここのコースターはレールの上じゃなくて下に車両が付いている。切歌の言う宙吊りっていうのは正にその通りだろう。

 あー、ここってこういう吊り下がり型なんだ。地上丸見えだからこれってかなりスリルあるんだよねーと暢気に呟いた。

 確かに凄そうだけど、それでもやっぱり2人からすれば味気ないんじゃないかなぁ。

 

「さすがにあんなスピードまでは頻繁に出せないし、そうでなくても初めてだから楽しみだよ」

「そ……そうデスね。すこーしだけイメージと違っていたデスけど」

 

 調の言葉になるほど、と頷く。しかし切歌が気持ち尻込みしているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「い、いやいや気のせいデスよ!」

 

 慌てて否定する切歌に、ならいいんだけど……と呟いて列が動き出したので後に続く。

 そうしてコースターが2周した所でようやく自分たちの番が回ってきた。

 さてどこに座ろうか? 迫力を楽しむのならやっぱり先頭だけど。

 

「きりちゃんはやっぱり先頭だよね?」

「ひぇっ!?」

 

 え、違うの? 当然のように話しかけてきた調に対して驚く切歌に、思わず聞き返した。あんなに楽しみにしていたなら、てっきり先頭に座るとばかりに思っていただけに、その驚きは結構大きい。

 

「あ、えーっと……当然デスよ、先頭以外絶対に絶対、ありえないデェッス!」

「そっか。じゃあ私は2番目がいいから、先輩はきりちゃんと座ってくれる?」

 

 んー……まあ絶叫系はそこまで苦手じゃないし、構わないよと調に答えて切歌と先頭の席に座ると、係員の人が安全バーを下ろす。

 そう言えば前に何かで「ジェットコースターは最後尾が1番Gが掛かる」云々って見かけたような……先頭はやっぱりスリルが大きいのかどうかはさておいて、

 

「あわ、あわわわわ」

 

 切歌が思いっきりビビッてるんですが。

 えっと、やっぱやめておく? と気遣うように言うと切歌はブンブンと頭を振り、

 

「だ、大丈夫デス! これはー……そう、武者震いデスよ!…………あの、ちょっとだけ手を繋いでもらってもいいデスか?」

 

 それってやっぱり怖いんじゃ……という出掛かった言葉をぐっと飲み込み、別にいいよと言って差し出された手を掴む。

 

「それでは発射しまーす」

 

 係員の合図と共にコースターがゆっくり――ではなく急速発進。

 

「デェェェス!?」

 

 急に掛かったGに思わず唸るけど、隣の切歌の絶叫がそれをかき消す。後で知ったけどここのコースターはリニアモーターで加速する方法を採用しているらしく、一般的なチェーンリフトでは味わえないような加速感や速度を実現しているとか。

 

「デデデデース!?!?!?」

 

 連続ループや連続コークスクリューの区間を直前で再度加速して高速通過――っていうか切歌騒ぎすぎ!

 

「きりちゃんちょっとウルサイよ!」

「無理デス! 怖いデスー!!!」

 

 あ、やっぱ怖かったのか……調の突っ込みに対してついに漏らした本音に、内心やっぱりかと納得していた。

 触れただけで炭化して即死確定のノイズと勇敢に戦う装者が、こんな絶叫マシンで怖がるなんて……いやこの急降下して地面すれすれまで迫る迫力は確かに怖いけど。

 そして、コースを1周したころにはすっかりぐったりしている切歌だった。まる。

 

「デース……」

「怖いなら無理しなければよかったのに……」

 

 ベンチでぐったりしている切歌に買ってきた水を渡しながら、呆れ顔の調が言う。

 確かにあれは結構怖かったけど、ノイズの恐ろしさと比較すればそんな怖くないと思うんだけどなぁ。

 

「それとこれとは……話が別デスよ……」

「きりちゃんが騒いでいたから、私は逆にそこまで怖くなかったけど」

 

 え、じゃあもう1回乗ってみる?

 

「それはいや」

 

 だよね。さすがに2連続はちょっと遠慮したい。

 とりあえず次は何に乗ろう。何か乗りたいものはある? と調に訊ねてみる。

 

「きりちゃんがこんなだから、次は絶叫系以外がいいかな……」

 

 絶叫系以外……となるとメリーゴーラウンドやティーカップとか、ああいう系が候補に挙がるなぁ。観覧車はどちらかと言うと締めなイメージがあるし。

 ……でもティーカップはやり方によっては絶叫系に転じかねないし、ここはメリーゴーラウンド……に、なるのか。

 

「……先輩はメリーゴーラウンドはいやなの?」

 

 首を傾げる調に、嫌じゃないんだけど……と言葉を濁す。どうにもああ言うファンシーな乗り物って男は少し抵抗があると言うか。

 でもゆっくりはできそうだし、それでも良いかな。

 

「ありがとう。……きりちゃん、動ける?」

「デース……」

 

 さっきから同じ言葉しか繰り返していないが、力なく手を上げたという事は肯定の意思表示……だと思う。

 グロッキー状態の切歌を連れて、いざメルヘンの世界へ。

 到着すると白馬や馬車が並んでいる光景が広がっていて、なんかここだけ別世界のように思えてしまう。

 やっぱりこういうメルヘンなのって慣れてないからなぁ……いやいや、自分が尻込みしてたらいかんだろ、と己を奮い立たせて中に入る。

 見れども見れども白馬ばかり……なんか黒くて大きい馬とか赤い馬みたいなバリエーションはないの……あるわけないか。

 

「先輩、きりちゃんと一緒に乗ってくれる?」

 

 調の頼みにえ、なんで? と聞き返してしまう。

 

「今のきりちゃん、1人だと危ないから」

 

 あー……乗ってる最中に落ちそうだからなぁ。今の切歌は。

 そう言う事なら構わないよ、と快諾し、調が切歌を2人乗りできそうな馬に連れて行って、切歌を乗せた後にその後ろから自分も馬に跨る。

 

「……ひぇっ? な、なんであなたも乗ってるデスか!?」

 

 後ろに乗ってからワンテンポ遅れて気づいた切歌に、今の状態だと危なそうだから一緒に乗ってるんだと答えた。

 するとどういうわけか切歌はあわあわと慌てだすが、近くの馬に腰掛けた調が釘を刺す。

 

「きりちゃん、もう乗っちゃったんだから降りるのはマナーが悪いと思うよ」

「しっ、調っ! でもこれはデスね……!」

「もしきりちゃんが落ちそうになっても、私より先輩の方が助けてくれそうだから」

「うぅ……」

 

 調の説明に切歌はなおも食い下がろうとしたが、メリーゴーラウンドが動き出してしまったため口を噤んでしまった。

 とりあえず切歌が落ちないように腕の間に挟んでおけば大丈夫かなと思って、両手でバーを掴んでその間に切歌を挟む。ちょっと狭いのは我慢してほしい。

 

「い、いえ……別に平気、デス……」

 

 耳まで真っ赤にした切歌はそう呟いて、シャツの端をちょこんと掴んだ。

 

 

 メリーゴーラウンドを遊び終えて、その頃には切歌もすっかり回復して元通り……と言うか気持ち1割り増しで元気になっているような気がしなくもないけど、とにかく元通り元気全開になっていた。

 

「いやー、メリーゴーラウンドもいいデスね!」

「そうだね。ありがとう、先輩」

 

 調にお礼を言われて、別に大したことはしてないよと返す。精々切歌が落ちないように支えていた程度だし。

 

「じゃあ次は何に乗るデスか!?」

 

 元気になったとたんに目を輝かせて次のターゲットに狙いを定めようとする切歌に、まあまあと宥めた。

 次のアトラクションもそうだけど、少し早めに昼食をとってもいいと思う。

 

「うん。お昼時になったら人が押し寄せそうだよね」

「あー……そうデスね。腹が減ってはなんとやら、って言うデスから!」

 

 結局切歌も賛成し、ひとまず昼食をとろうという事でフードコートエリアに。切歌たちには場所取りを頼んで自分が2人の分も頼んで受け取ってから落ち合う。

 ちなみに切歌はカレーライス、自分と調は焼きそばを頼んでいた。

 座ってる2人を見つけて歩いていくと、お待たせと言いながらトレーをテーブルに置くと、2人とも「ありがとう(デース)」とお礼を言いながら自分が頼んだものを受け取る。

 

「「いただきます(デース!)」」

 

 切歌たちが手を合わせて言ったのに続いて自分もいただきます、と言って蓋を開けた。

 ソースの焼けた香ばしい匂いが漂い、めんを口に運ぶ……むぅ。

 

「どうかしたの?」

 

 眉根を寄せた自分に気づいた調が、不思議そうに首を傾げながら訊ねた。

 いや、やっぱりこういう所の食事って割高な割りに味はそこまでだよなぁって。切歌のカレーも調理済みのものを温めましたー、みたいな物っぽいし。

 

「十分美味しいデスけどね……」

 

 いやほら、海水浴でもあるでしょ? 海の家の食事って実際はそこまで美味しくけどその場の雰囲気とかで美味しいと思えるみたいな感じ。アレと同じ心理。

 

「今年の海は……」

「斬撃武器が軒並みやられてコンビニに買出しだったデス……」

 

 あ。そう言えばそうだっけ。軽く凹んでいた2人にふと思い返す。

 でもこれなら自分で作った焼きそばのほうが自画自賛だけど美味しいよなぁ。おにぎりでも作っておけば良かったかな。

 

「そう言えば先輩って自炊してるんだよね」

 

 1人暮らしだからどうしたってやらないといけないからね、と調に答えつつ、そこまで大したものは作れないけどとさらに付け加えておいた。

 ああでも、この焼きそばよりは美味い焼きそばを作れる自信はある。

 

「……ちょっと気になるデスね、それは」

 

 食べるのを中断して聞いていた切歌がふと呟いた。

 ……なんだったら今度2人に作ってあげようか?

 

「いいデスか!?」

 

 そんな風に返されるのがよほど意外だったのか、切歌は目を見開いて身を乗り出す。

 あんまり過度な期待をされると困るけど、焼きそば以外だと……切歌が食べているカレーとか、そう言うのは作れるし。

 

「それなら食べてみたいデ……………い、いえ、やっぱり遠慮しておくデスよ」

「えっ?」

 

 途中まで言いかけた言葉を飲み込み、突然断った切歌に調と一緒に驚いてしまう。

 今更遠慮する事なんてないんだし、気にしなくてもいいのに。そう言うと切歌はふるふると頭を振った。

 

「いえいえ、まずは先にクリス先輩が食べるべきデスよ!」

 

 クリスちゃん……クリスちゃんかぁー……。

 

「あれからクリス先輩とは話せたの?」

 

 調の問いかけにふるふると被りを振る。

 あれから話すどころか顔すら合わせてくれない状態が続いていて、どうにもならず凹みっぱなしなんだよなぁ。

 

「まったく、クリス先輩にも困ったものデスよ。素直になれば良いのに、見ているこっちがもどかしいデス!」

「うん……そう、だね」

 

 腕を組んでぷんすか怒っていた切歌。調はそんな彼女に同調しながら、何か言いたげに切歌を見ているような気がした。

 この間も似たような事があったけど、あの時はなんでもないって言われたんだよなぁ。

 

「……きりちゃ――」

「だいたい、あなたもあなたデスよ! もっとぐいぐい行かなきゃクリス先輩逃げ続けるじゃないデスか!」

 

 うわっ、こっちにまで飛び火してきたよ。これでも結構がんばってるつもりなんだけどなぁ……。

 

「『つもり』じゃぜんっぜん足りないデスよっ! だからクリス先輩に逃げられるんじゃないデスかっ!」

 

 バンバンとテーブルを叩きながら力説する切歌の言葉が、ぐっさぐっさと容赦なく胸に突き刺さる。

 ぐっふぅ。仰るとおりで……。でも強引過ぎて嫌われたりしたらって考えると怖いし。

 

「それなら大丈夫! なぜならあなたが強引でヘンな人だってことは周知の事実デスから! なんであなたもクリス先輩も、気持ちは同じなのに肝心な時に奥手になるんデスかね~……」

 

 それフォローしているようでフォローしてないんじゃないの!?

 

「――全部、――――も――――ない」

「調からもガツンと言って……って今なにか言ったデスか?」

「……なんでもないよ。先輩、」

 

 無自覚に振り下ろされる切歌の刃にハートがボロボロになりかけている自分に、調が声をかけてきた。……なんでしょうか?

 

「えっと……もっとがんばって」

 

 調だからてっきり辛辣なコメントが来るかと思ったら、意外なことに普通な応援が来てちょっと拍子抜けしてしまう。

 もしかして身体の調子でも悪いのかと思って訊いてみたら、ふるふると首を横に振った。

 

「ううん。だって……せっかく遊びに来たのに、あまり先輩を凹ませて楽しくなくなったらいやだったから。ほら、早く食べて次のアトラクションに行こう?」

「あー……それもそうデスねー。それじゃあチャチャっと食べて次に行くデス!」

 

 前言撤回、やっぱりこの子辛辣だった。忘れがちだけど調は見た目こそ大人しそうだけどとんでもない行動派なんだよなぁ……切歌が慌ててフォロー入れるほどに。と言うかちゃっかり切歌まで同意しちゃって結局凹むんですがそれは。

 ……こんな風に意気揚々と2人に引っ張られるままに次のアトラクションに来たわけなんだけど、

 

「「………………」」

 

 ……あの、2人とも引っ付きすぎて歩き辛いんですけど。ただでさえ薄暗くて視界が悪いのに、調と切歌が両サイドでぴったりくっついてというか、しがみついているから。

 だからやめておいた方がいいって止めたのに……ここのホラーハウスは国内でもトップクラスで怖いって有名で、しかも本物も出るって噂があるのに。

 

「つつつつつ作り物がナンボのもんかデデデデス!」

「そもそも悪魔や天使と言った存在はノイズが元になっているんだから幽霊だってきっとノイズだよだけどこの場所にノイズが出たって話は聞かないしそもそもノイズは宝物庫を閉じたから出てこれないつまり噂の正体は場の雰囲気から誤認や錯覚だったんだt」

 

 バンッ!

 

「「ひっ」」

 

 バンバンバンバンバン!

 

「ひゃああああああああっ!?」

「きゃあああああああああああっ!?」

 

 外から大人数で窓を叩いて、しかもべったりと赤い手形が残るのを見てほぼ同時に2人が叫んだ。

 いや、十分驚いたんだけどそれ以上に切歌と調が驚いて引っ付いてきたせいでそれどころじゃないんですがっ!

 

「ち、血が! 血が手形に! 窓にべったりたくさん!」

 

 いや言いたいことは分かるけど日本語めちゃくちゃなんだけど切歌!?

 

「Various shul shagana――むぐっ」

 

 うわー調はパニクって聖詠しようとしてるし! 間一髪で手で口を塞いで防いだけど、なんで皆してパニックになったら聖詠しちゃうの!?

 

「むぐっ、むぐぐ~!」

 

 抵抗する調を引っ張って、そして目を回す切歌は肩に手を回してその場を離れながら「聖詠ダメ、ゼッタイ」と言い聞かせて落ち着かせると、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した調がこくりと頷いたので大きく息を吐きながら手を離した。

 

「……ごめんなさい。迷惑かけて」

 

 申し訳なさそうに謝る調に対して、あれは仕方ないってとフォローする。さすがに聖詠まではやりすぎだがパニック不可避だ。

 ……にしても、あんなに我を忘れてパニックになってる調を見るのは初めてだった。あんなに強がってたけど可愛いところもあるんだなと思い返してついクスッと笑ってしまう。

 

「私にだって怖いものはあるよ……それに、あんなの怖くて当然だし」

「誰がホラーハウスなんか来ようって言い出したデスかぁ……」

 

 君たち2人が言い出して、自分はやめておいた方がいいって止めたんじゃないか。

 いや、それにしても評判は聞いていたけど予想以上に怖いなここ……とてもじゃないけど1人で来れそうにない。

 このホラーハウス、歩行距離が長い上にその怖さから途中途中にリタイア扉が設置されていて途中退場が出来るようになっている。

 無理ならリタイアするのも手だけど、次の扉でリタイアしようかと尋ねると、2人はそろって首を横に振った。

 

「それだけは絶対にイヤ……!」

「ここで退いたら女が廃るってもんデスよ……!」

 

 なんで2人揃って負けず嫌いなのかな。それに強がってるけど両腕にしがみつかれてたら説得力もないし。

 そんなわけで戦々恐々とする2人に挟まれながらゴールを目指していると……あれ? 通路の先に誰か……女の人?

 

「ま、まさかまたお化けデスか……!?」

「その割には……生きている人っぽいよ?」

 

 いやまあ、お化けもここのスタッフが変装した姿だから生きているんだけど、通路の脇に蹲っていた女性の人は服装的にも自分たちと同じくこのホラーハウスに遊びに来た人っぽい。しかし1人でとはまたチャレンジャーな。

 

「ああ……どうしよう。困ったわ……」

 

 何かを探しているように地面に手を着いているみたいだけど……どうしよう?

 

「他に誰もないし……困ってるなら話しかけてみる?」

「そうデスね。通りかかったのも何かの縁デス!」

 

 2人がそう言うなら、と自分も頷いて、彼女の近くまで行くとどうかしましたかと声をかけた。

 突然声をかけられて女性は一瞬驚いた素振りをするも、こちらに背を向けたままゆっくりと話し出す。

 

「それがこの辺りに大事なものを落としてしまって、あれがないと……」

「落し物デスか。確かにここは暗いデスし、見つけるのは大変デスよ。私たちで良かったら探し物のお手伝いをするデス!」

「まあ……ありがとうございます。助かります」

「それで、何を落としたんですか?」

 

 切歌の言葉に女性は安堵したように肩を下ろし、すぐに調が落し物について詳しく訊いてみた。

 

「ええ……落としたのは、とても大事な……」

 

 あ…れ? 気のせいかな。なんか女性の声のトーンが変わったような……それに今、背筋がぞわってしたんだけど。

 自分を襲った悪寒に内心首を傾げていると、今まで背を向けていた女性がゆっくりと顔をこちらに向けて、頭がそのまま180度回って、

 

「ワ タ シ ノ メ ダ マ」

 

 ぽっかりと空洞になっている目から血を垂らしながら、薄ら笑いを浮かべた顔を自分たちに自分たちに向けてきた。

 

「」

 

「」

 

 ――――――――。

 

 その後のことは、あまり覚えていない。

 気づいたときには3人ともホラーハウスの外に出ていた。リタイアしたのかクリアしたのか……後者は、多分ないと思うけど。何がどうなったのか、思い出そうとするのは絶対にやめようと暗黙の了解な感じで自分たちはホラーハウスのことは無かったことにして他のアトラクションを楽しむことにした。

 

 

「くー……」

 

 肩に頭を預けて気持ちよさそうに眠っている切歌をちらりと見て、くすりと笑みが零れる。かなりはしゃいでいたし、疲れて眠ってしまう気持ちも分からなくもないけど。

 

「きりちゃん、今日が楽しみで昨夜はなかなか眠れなかったんだ」

 

 切歌を挟んで向こうに座っている調が呟いて、それじゃあ仕方ないよと苦笑いしつつ返した。

 小学校の遠足で当日が楽しみで前日はなかなか寝れなかったってよくあるし、かくいう自分にも経験がって切歌の気持ちも理解できるから。

 

「……先輩はきりちゃんのこと、どう思ってるの?」

 

 調からの不意な問いかけに、またえらく唐突だな……なんて思ってしまう。

 どう思ってるのかと訊かれると、良い子だよなぁって思ってる。若干ポンコツな所もあるけど面倒見が良いし、なんだか自分懐かれているし。

 自分は一人っ子なんだけど、妹がいたらこんな感じなのかなぁって思うことがあるかなー。振り回されたりして大変かもしれないけど、嫌じゃないから。

 

「……そっか」

 

 じっとルビーのように赤い瞳をこちらに向けていた調は、こっちの意見を聞いて静かに呟くと目線を下に移した。

 まあ、調との仲の良さには敵わないけど……えっと、何か気に障ることを言ったでしょうか? とついつい敬語で尋ねてしまう。

 

「ううん。……きりちゃんも、嬉しいんじゃないかな。先輩がそう思ってくれて」

 

 そうかな?……そうだったらいいけどなぁ。

 

「きっとそうだと思う。……先輩」

 

 また呼ばれ、少し身体を傾けて調の方を伺った。今度は何を聞かれるんだろう?

 

「そうじゃなくて、きりちゃんをこのまま寝かせて上げたいから、部屋まで運んでもらってもいい?」

 

 あー、うん。確かにぐっすり眠ってるし、起こすのは少し忍びない。女の子1人負ぶって行くくらいお安い御用だ。

 ……と思っていた時期が自分にもありました、はい。2人の暮らす部屋に着くころにはもう息も絶え絶え、へろへろな状態になってました。

 

「先輩……体力無さ過ぎるよ。もしかして私よりも無いの?」

 

 呆れてジト目を向ける調に対して、いやそんなまさかと必死に否定する。

 おかしい、切歌が重いってわけでも部屋までの距離が遠かったわけでも無かったのにこの体たらくはいったい……。

 

「……先輩って風邪が治ってから運動はした?」

 

 運動? いや、そんなにはやってないんじゃないかと。むしろ授業の遅れを取り戻すので忙しかったし。

 

「じゃあ体力が以前より落ちてるんじゃないかな」

 

 ……そう、かもしれない。言われてみれば風邪を引いてずっと寝込んでいたから体力は落ち続けていたし、回復してから運動はほとんどやっていないから前と同じってことは無いはず。

 いやはや、安請け合いしたのにこんなザマとはお恥ずかしい限りです……。

 

「そう言うところも先輩らしいと思う。それよりきりちゃんをベッドまで運んでくれる?」

 

 無理なら私も手伝うけど、と提案した調にいやいやこのくらいできるからと断って、起こさないように切歌を寝室まで運び、無事にベッドへ寝かせてくるとどっと息を吐いた。

 スタミナが以前よりも落ちていたのは予想外だったけど、不幸中の幸いだったのは途中で倒れたりしなかったってことかな。……へとへとだけど。

 

「でも私がきりちゃんを運ぼうとしたら帰れるか難しかったから。だからありがとう、先輩」

 

 いやいや、大したことはしてないから。ぺこりと頭を下げる調に大げさだからしなくてもいいよと慌てながら言う。

 その後少し休んでいって欲しいという調の誘いを丁重に断って、玄関まで見送られながら2人の家を後にする。

 好意に甘えても本当は良かったんだけど……まさかの問題が発覚したし、運動がてら今日は少し遠回りして帰るとしよう。

 

 

 帰る先輩を玄関まで見送ってから、私は寝室にやって来た。

 

「先輩帰ったからもう起きていいよ、きりちゃん」

「……気づいてたデスか」

 

 ベットで寝たフリをしていたきりちゃんに声をかけると、きりちゃんはのそのそと起き上がる。

 先輩は気づいていなかったけれど、私はずっと一緒に居たからすぐにきりちゃんが寝たフリをしているのに気がついた。

 

「うん。私が電車で先輩に訊いた時……実は起きてたよね」

「あはは……やっぱり調には敵わないデスね」

 

 ちょっと困ったように頭の後ろを掻くきりちゃん。

 私はその隣に座ると、ポツリと呟いた。

 

「先輩の事……好きなんだよね」

「……………」

 

 その言葉を口に出すのはとても勇気が要るけど、それでも私は口にした。

 私の呟きにきりちゃんは何も言わなかったけど、こくりと小さく頷く。

 その反応にやっぱり……と私は納得していた。

 最近のきりちゃんは少し様子がおかしかった。具体的に言うと、先輩が元気になった時の快復パーティーから。

 どこか上の空と言うか、思い詰めていると言うか、とにかくそんな事が多かった。

 

「好きになったのって、いつからなの?」

「それが……よく分からないんデスよ。けどあの人がクリス先輩に告白したって聞いた時、胸がチクッて痛くなって……最初は自分でもなんでか分からなかったデスけど。けどそれ以来、あの人の事を考える事が多くなって、その度にもやもやしたり胸がチクッてなったり……好きって気づいたのは結構最近だったんデス」

「だったら気づいた時に告白すればよかったのに……」

「それはダメデス。あの人が好きな人はクリス先輩だから……」

「きりちゃん……」

 

 そんな事……と思わず言いたかった私だけど、口にできなかった。

 電車の中で先輩がきりちゃんをどう思っているか聞いた時、先輩は「妹みたいな感じ」……そう答えていた。きりちゃんは本心を隠していたから……気づけないのも仕方ないのかもしれないけど。

 けれど、もし……もしも、それでもきりちゃんが好きって言ってたなら。

 その時先輩は……やっぱり困ってしまったかも。だからきりちゃんは言わなかったんだ。

 

「そう言う調はあの人の事をどう思ってるんデスか?」

「私?」

 

 突然私に振られて思わず戸惑う。

 好きか嫌いかと聞かれたら私も先輩の事は好きだけど、それはきりちゃんの抱いてる「好き」とは違うものだ。

 先輩は私たちがリディアンに編入してから、響さんたちと一緒に色んな事を教えてくれたり、どこかに連れて行ってくれたり……今日の遊園地もすごく楽しくて、あっという間に楽しい時間が過ぎて。

 確かに先輩がクリス先輩に告白したって話を聞いた時は驚いたし、何故か寂しさのような物も感じたけど、私にとって先輩は兄……のようなイメージを抱いていたからだと思う。歳の近い異性と関わる事なんて先輩に会うまで無くて、異性を好きになると言う気持ちがまだよく分からないから。

 

「ちょっとだけ寂しい……かな」

「寂しい……デスか」

「うん。もちろん先輩たちが結ばれてほしいとは思ってるけど、なんだか急に遠くに行っちゃったような感じ」

「そうデスよね……急過ぎるんデス。クリス先輩に告白した事も、あたしが自分の気持ちに……気づくのも……っ」

 

 ポツリ、ポツリと呟いて、次第に涙声になっていく。

 俯いて泣くのを我慢しようとしているけれど、堪え切れずに溢れた大粒の涙がきりちゃんの頬を伝って零れ落ちていた。

 

「グスッ……初恋は、実らない……ッて、ほんと……デス……ッ」

「うん、そうだね。きりちゃんは頑張ったよ」

「うッ……うぅぅ……ッ」

「よしよし……えらいえらい」

 

 声を殺して泣いているきりちゃんを慰めるように頭を撫でる。

 本当は伝えたかったはずなのに、先輩たちのために何も言わずに身を引いたきりちゃんはよく我慢したよ。

 今のきりちゃんの気持ちの全てに共感できるわけじゃないけど、せめて傍に居てあげたい。

 

「うッ……グスッ……しらべぇ……!」

「うんうん、いっぱい泣いていいんだよ、きりちゃん。きりちゃんの気が晴れるまで傍に居てあげるから」

「あぁ……ッ! あァァ……ッ!」

「泣き止んだらきりちゃんの好きな物、いっぱい作ってあげるね」

 

 優しく言って聞かせてあげるていると、堪え切れなくなったきりちゃんは堰を切ったようにわんわん大声で泣き出した。

 今の私にできるのはこれくらいだけど……大好きなきりちゃんが哀しんでいるのを放ってはおけないから。

 こうしてきりちゃんが我慢してまで引いたんだから、先輩たちは上手く行ってほしいな……。そんな事を思いながら、私はきりちゃんが泣き止むまで頭を撫でていた。




いやー、ただ一言辛い。でもようやく腹括れたから最後を書いたけど、決めていた事とはいえ精神的に辛いわー(白目

ちなみに心理的に修羅場だったのが調ちゃんなのは間違いないです、ええ。

きりちゃんは結局告白しない選択をしましたけど、これが後々伏線になればいいな……とか何とか思ったり。

あ、シンフォギア関連の話するとAXZ終わってXVの放送が決定したり、XDUが配信したりetc

さて次回、我らが防人さんが女(意味深)になる回です。最初のプランから大幅に変更しちゃったけど、それもあのメモリアが悪いわけでつまり俺は悪くネェ!(魔法の言葉

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