粉砕された窓からは、絶えず強い海風が吹きこんでくる。地上では消防車の赤色灯が輝き、騒々しいサイレンの唸りが響いていた。剣菱本社ビルの開発次長室では、トグサとボーマが残って室内を調べている最中だった。気絶していたパズも目立った怪我はなく、サイトーとともに撃たれた開発次長をティルトローターで病院まで護送しているという。しかし、容体は絶望的で記憶の回収すら危うい状況だった。
「机の裏には音響閃光弾が2、3個ほど仕掛けられていた痕跡が見つかった。起爆装置は爆発の衝撃で粉々で、解析するのは難しそうだな」
「にしても、この開発次長は何が目的で開発中のセボットや武器を流出させたんだ?」
トグサは机周りを調べているボーマの隣で、散乱した事務書類を拾いながらそう言った。書類はすべて仕事に関係するもので、今のところ開発次長が何者かと取引を交わした形跡は残っていない。
「上に誰かがいたんだろう。高給取りの次長が、生活を危険に晒してまで動いた。それなりの見返りがあったはずだ」
ボーマの考えにはトグサも同感だった。だが、イシカワに彼の口座を洗わせているものの、賄賂らしき大金は振り込まれていなかった。勘付かれることを恐れて、受け渡しには何か別の方法を使った可能性もある。セボット流出事件の実行犯たちに銀行口座から報酬を支払った次長のやり方とは大違いで、それなりに頭の切れる人物だと予想される。
「そういえば、開発次長から受け取ったあのMMDの中身の手掛かりになるようなものはないのか?」
「一応、次長のパソコンを調べたんだが、怪しいファイルはなかった。本当に申し訳ない」
溜め息をつくボーマの肩を、トグサは軽く叩いた。今回ばかりは仕方ない。拳銃弾が効かない相手にライフルなしで戦いを挑むのは、いくら9課の課員といえども勝ち目がないのだ。次長を撃たれてしまったとはいえ、2人とも無事でいたことには少佐も安堵していたくらいだった。
「次はファイルサーバーのデータでも調べるか」
ボーマはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。その時、彼の上着からクシャクシャになった1枚の紙切れが落ちたことにトグサが気付く。しかし、それを拾い上げてはみたものの、両面とも何も書かれていないただの白紙だった。
「これはあのMMDが包まれていた紙だな」
それを見たボーマは、気にしているトグサにそう答えると、紙切れをポケットの中へ戻そうとする。だが、ポケットに突っ込みかけた時、不意にその手が止まった。
「どうしたんだ?」
トグサがそう訊いたが、ボーマは何も答えないまま再びその紙切れをポケットから出すと、机の上においてしわを伸ばした。目を凝らして紙の表面を見ていたトグサは、ようやくボーマの行動の意味を理解する。紙の表面にはインクこそ付いていないものの、何かが書かれたような筆跡が残っていたのだ。
すぐに机の上を漁って、ボーマは証拠保全用の透明フィルムを紙の上に重ねると、その上から鉛筆で薄く色を乗せていった。すると、驚くことに次々と文字が浮かび上がってきたのだ。これにはトグサも驚きのあまり息を呑んでしまった。
「数字が書いてあるな。011367と362451だ」
ボーマの言う通り、その紙には殴り書きのような汚い字で、その数字が書かれていた。その下には、誰かの名前と思われる漢字が書かれていたが、赤蠍にMMDを奪われた時に運悪く破り取られたのか、下部の3分の2がなくなっていて判読不能だった。
「数字の上にも、何か書いてあるみたいだ」
トグサにそう言われ、ボーマは紙の上端すれすれを同じように塗っていく。現れたのは『Helios』という文字だった。
「ヘリオス? どういう意味だ?」
「何かの隠語かコードネームか。まあ、とりあえず数字の部分だけでもID検索を掛けてみるか。手掛かりが得られるかもしれない」
ボーマは机の上の次長のノート型端末を開いた。パズとボーマの2人が身柄の拘束に来たときに慌ててログオフするのを忘れたのか、幸いにも次長のアカウントでログオンされたままだった。机の裏の音響閃光弾が炸裂した時に衝撃で机から落下したため、モニターは少し液晶割れを起こしているが、作業に支障はない。
「ファイルサーバー内を検索。管理ID 011367」
しかし、検索結果は彼らの予想とは裏腹なものだった。ヒットした文書は0件。内部文書関連のフォルダーからさらに階層を上げて、ルートディレクトリから検索を掛けたものの結果は変わらない。もう片方のIDも同様に調べてみたが、やはり検索結果は0件のままだった。
「一筋縄じゃいかないか…」
トグサがそう言った時、廊下が急に騒がしくなった。何事かとトグサが部屋から出ていくと、関係者以外が無断で入らないように見張っていたタチコマと、白いベレー帽を被った軍服の一団が睨み合っている。
「ただの機械の分際で、我々の正当な捜査活動を妨害するというのか。責任者はどこにいる!」
「ただの機械とは失礼な!ボクはこう見えても成長型ニューロチップを搭載した高性能思考戦車なんだぞ。発言の撤回を要求する!」
そんなやり取りを慌てて止めに掛かるトグサだったが、軍人たちは執拗に室内の捜査を要求してくる。電通で指示を仰ごうとも考えたが、課長はいま、重要な人物と会談している最中だった。
「我々は陸上自衛軍中央警務隊の者だ。武器不正取引の容疑でここの安藤次長に任意同行を求めに来たのだが、どうやら遅かったようだな。だが、室内での捜査、および証拠品の押収を行いたい。中に入れろ」
鋭い眼光で睨みつけてくる警務官たちに、トグサは困惑しながらも冷静に答える。
「あのなぁ、事情は知っていると思うが、今回の事件の捜査は俺たち公安9課に一任されているんだ。悪いが、お引き取り願いたい」
だが、向こうもそれだけでは引き下がらなかった。
「そのような書類はまだ受け取っていない。書類上での手続きがなされない以上、我々の捜査権は有効だ。さあ、そこをよけろ」
トグサは半ば呆れ果てていた。バトーから話は聞いていたが、ここまで強引な連中だとは思っていなかったのだ。だが、仲間を6人も失っているのだから、容易に引き下がれないのも理解できない訳ではない。自分も本庁勤めの時には、公安にヤマが取られることを快く思っていなかった1人なのだから。
「あらそう。なら、その書類を今渡すわ」
突然響いた少佐の声。後ろを振り向いたときには、いつの間にか彼女はすぐ隣に立っていた。光学迷彩で誰にも気づかれずに、この騒ぎに駆け付けてくれたらしい。さすがの警務官たちも驚いて声を上げ、呆気にとられている。一方、書類を受け取った警務官の1人は、それをじっと見つめていた。
「上層部からの直々の命令書か。仕方あるまい」
悔しげな表情を浮かべながら、渋々その警務官は部下に引き上げるよう命令を下し、その場を去っていった。だが、彼女の洗練された超高感度の感覚器官は、去り際に警務官が吐き捨てた言葉を聞き逃しはしなかった。
「小娘が」
確かにあの男はそう言っていた。そして、近くのゴミ箱を蹴り倒した態度には、トグサの神経にも障ったらしい。
「物に当たるのは良くないですね~」
「仕方ないわよ。彼らだって、仲間の仇を討ちたいんだから」
タチコマにそう言った少佐は、警務官たちが立ち去るのを見届けると部屋の中へと入っていった。トグサもその後へと続く。いまだにファイルサーバー内を探していたボーマは、少佐たちが入ってくるのを見ると、あの紙の件について彼女に報告した。
「なるほど。けど残念ながら、該当する文書は見つからなかったというわけね」
俯きがちのボーマにそう言いながら、彼女は自分自身の手で改めてそれを確認する。やはり、ボーマの言う通りにファイルサーバー内にはこのIDで登録された文書は存在しないらしい。しかし、少佐は何か妙な感覚を抱いていた。この数字の羅列は、以前にも見かけた気がするのだ。
確か、剣菱の中央サーバーにハッキングを仕掛けた時だったはず。そう思った少佐は、すぐにその時にダウンロードしたデータの一覧を表示させる。すると、一覧の最後の方にようやくそのファイルが見つかった。管理ID 011367の文書だ。
もう一方のID 362451の文書は、ダウンロードしたデータからも見つからなかった。おそらく、ダウンロードする以前に既に消されていたのだろう。それにしても、なぜ開発次長はこのファイルを紙に書き残したのだろうか。一応、ダウンロードした全てのファイルは確認を終えていて、このファイルには特に有用な情報はなかったはずだ。
試しにそのファイルを開いてみたが、前回開いたときから何ら変化はない。サーバーに保存されていたときの保存場所を調べてみると、部内や課内で使われるような共有フォルダーではなく、通常検索の対象から外れた個人用領域に保存されていた。そのため、開発次長室の端末から検索しても表示されなかったのだろう。もっとも、それが誰の個人用領域なのかまでは、この場では確認できなかったが。
このファイルについては、もう少し調べる必要がありそうだ。そう考えた少佐は、イシカワに改めて詳細な解析を命令した。また、ヒットしなかったもう1つの文書についても、詳しく調べなければならない。回収したMMDのデータがすぐに手に入ればよかったのだが、あいにくそれは不可能なのだ。
「そういえば、バトーはどこに行った」
「旦那ですか?それなら、部屋を制圧した後すぐに少佐を追っていきましたけど」
トグサの言葉に、少佐は呆れてしまった。そう、彼はあの後、少佐の援護のために一人で部屋を出ていったきり戻ってきていなかったのだ。しかし、噂をすれば影で、バトーが荒い息で入ってくる。
「やっと見つけたぜ。派手に燃えていた防火シャッターを迂回してきたら、遅くなっちまってよ。パニクっていた社員もいて、大変だったんだぜ」
「遅い。こういう時こそ、あなたの高出力義体が生かされるんじゃない」
「しょうがねえだろ。シャッターに開いた穴は俺には小さすぎたんだよ」
いつにも増して厳しく追及する少佐に、バトーが必死の言い訳をしている中、課長から電通が入った。
「いつまで無駄話をしておる!捜査が済んだらさっさと戻ってこい!解決しなければならない問題は山積みだ」
久しぶりに聞いた課長の剣幕に、少佐は静かに「了解」とだけ返すと、トグサやボーマにも引き上げるよう命令して部屋を出ていった。この後の詳しい調査は所轄の警察が行うことになっている。既にビルの玄関には多数の警官が待機し、鑑識陣が現場の開放を待ち侘びていたのだった。
「先ほど会ってきた公安1課の課長から、ある重要な事実を伝えられてな」
本部のブリーフィングルームの中では、9課のメンバーが一堂に会していた。奥の椅子に座っている荒巻課長は、机の上で腕を組みながら説明を続ける。
「37分前、1課が潜伏中の亡国の使者のアジトを突き止め、急襲をかけたそうだ。銃撃戦の末、テロリスト4名の射殺に成功したが、大半のメンバーは既にアジトを離れた後だったらしい。問題は、そのメンバーたちがどこに出発したかということだが…」
「新浜市中心部」
唐突にそう言った少佐に、課長は少し驚く。
「知っていたのか。確かにその通りだ。だが、完全に場所を絞り込めたわけではなかろう」
課長は後ろのモニターにある建物を表示させる。それは、9課の人間ならば誰もが知っていると言っても過言ではない企業だった。
「メガテクボディ社じゃねえか!」
バトーが声を上げた。メガテクボディ社といえば世界でも有数の義体・アンドロイドメーカーであり、政府関係者向けの高性能義体の製造から、そのメンテナンスまでを担う。高性能義体を装備する9課のメンバーも多かれ少なかれ、メガテクボディ社との繋がりを持っていることは言うまでもない。
「アジトを捜索した結果、メガテクボディ社の本社ビルの見取り図が見つかったそうだ。亡国の使者の次の目標は、メガテクボディ社と考えて間違いはないだろう」
そう話す課長に、少佐が言った。
「赤蠍も新浜中心部の犯行を予告してたけど、1つ気になることを言ってたのよ。どうやら、このテロは犯行予告を流すための演出に過ぎないようね。つまり、本当の目標は別にあるということよ」
「その目標は何なのかは分からねえのか?」
「残念ながら。だから、現場でテロリストを見つけても、情報を吐かせるまでは死なせるな」
バトーの質問に淡々と答える少佐。そんな彼女に、課長が頬杖をついて考え込みながら話しかける。
「問題は、なぜ赤蠍が亡国の使者のテロを知っていたのかということだな」
「剣菱の本社で赤蠍と接触したんだけど、どうも奴は亡国の使者と協力関係にあるらしいわ。何が目的で協力しているのかは分からないけど、おそらく赤蠍を雇っているクライアントの指示でしょうね。本人も亡国の使者との協力はあまり乗り気ではなかったようだし。それにC4やHEIAP弾、セボットの件も、赤蠍と同じクライアントが関わっていると思われるわ」
少佐からの返答に、ますます課長は考え込んでしまう。少佐はさらに続けた。
「連続爆薬盗難事件も、断定はできないけど赤蠍本人が関わっている可能性があるわ。一連のテロで亡国の使者に使用された爆薬は、いずれも盗まれた爆薬と同じ型。しかも、他殺体で発見された盗難事件の実行犯たちがサイボーグだったことも、亡国の使者が直接犯行に及んだのではなく、奴が手を回したと考えれば説明はつくわ」
「納得いかねえのは、なぜ赤蠍のクライアントがわざわざ雇った凄腕の傭兵に亡国の使者の手助けをさせているのかってことだな。そこまでして亡国の使者にさせたい何かがあるんだろうが、直接赤蠍にやらせた方が早いんじゃねえか」
首を傾げながらそう言ったバトーに、少佐は答えた。
「もしかすると、亡国の使者がやるからこそ意味があるんじゃないかしら。逆に、他の誰かにやらせるのは意味がない。いや、むしろ他にやらせると達成されない目的があるのよ」
「その目的って何なんだよ?」
「それは何とも言えない。ただ、ろくでもない連中が亡国の使者を利用して、相当ヤバいことをしようとしているってことはだいたいの想像はつくわ」
その時、オペレーターからの電通が入った。
《先ほど、新浜中央病院の集中治療室で治療を受けていた安藤開発次長が死亡しました》
報告を受けて、バトーは軽く舌打ちをする。これで貴重な証人の一人が消されてしまったのだ。彼に指示を出していた上の人間の存在は分かったが、依然としてそれ以上の進展は得られていない。手掛かりになるものといえば、次長がボーマに手渡したMMDとそれを包む紙に記されていた謎の数字くらいだった。
「イシカワ、あのファイルの解析状況はどうだ?」
「今のところ進展はありませんが、何となく違和感があります。巧妙な防壁迷路が張り巡らされているような気もするので、もう少し調べてみますよ」
少佐の問いにそう答えたイシカワは、心なしか眠たそうにしていた。実際、ここ2、3日彼はセボットの分析などの関係で寝ることができていないのだ。
「何か分かったらすぐに連絡するように。残りのメンバーはメガテクボディ社周辺で不審な人物がいないか警戒に当たれ」
少佐に続いて、課長が立ち上がると力のこもった声でその場を締めくくる。
「テロリスト側に悟られないよう、警察当局は警備体制を表立っては強化していない。我々の真価が問われている。各自、そのことを肝に銘じて作戦に当たるように。なお、この件では1課も動いている。くれぐれも、問題を起こすなよ」
「了解」
そうして課員たちが次々とブリーフィングルームを後にしていった。そんな中、バトーも同様に出口に向かおうとしたところで、少佐に引き留められる。あまりいい顔をしていないところから見ると、それなりに深刻な話なのだろう。バトーはそう思っていた。
「バトー、お前のタチコマが今日ラボから戻ってくるわ」
「なに?そいつは良かった!でも、戻ってくるってのに、何でそんな顔しているんだ?」
予想とは裏腹のその答えにバトーは喜びを隠せなかったが、少佐はまだ厳しい表情のままだった。まさかラボの修理で何かあったのだろうか、と心配になってくるが、少佐は黙ったままだ。
「おい、何なんだよ。言ってくれねえと分からねえぜ?」
「タチコマの今後の処遇をどうするか、話を聞きたいの」
バトーはその答えに、緩んでいた表情を引き締めた。
「スラム街での戦闘で、あのタチコマは命令もなく勝手にグレネードを発射して敵の重機関銃陣地を破壊した。結果はともあれ、それは危険な兆候だということはあなたも重々承知のはずよ。で、その原因なんだけど、ラボの解析では仕掛けられていた例のセボットが干渉して、AIに何らかの影響を与えた可能性は否定できないらしいわ」
「だったら、もう大丈夫なんじゃねえのか?」
バトーがそういったのは、既にそのセボット自体が排除されているからだった。その後も鑑識たちの手によって何度もチェックされ、他にセボットの侵入がないことは確認されている。原因が取り除かれたいま、恐れることは何もないのではないか。バトーはそう考えていたのだ。
「いや、その逆だ。セボットは排除したが、AIに与えた影響についてはいまだ特定できていない。プログラム同士の干渉で生じる一時的な障害なら問題はないけど、セボットからの干渉がAIの発達に影響を及ぼしたとすれば話は別よ。それを回復するには、AIの初期化以外には方法はないわ」
突き付けられた現実に、バトーは返す言葉がなかった。確かに、いくらあの男の子を撃たれたとはいえ、あの時のタチコマの行動には今でも疑問符がつく。だが、それがセボットの影響によるもので、それを回復するには初期化しか手立てはないというのは、バトーにとっては心を痛ませた。無理だとは分かっているが、もし自分が最初の工事基地襲撃の時、警備員がゴーストハックを受けていると見破れていれば、こんな事態は避けられたのだ。
「ただ、貴重な経験が消えてしまうという意味では、初期化に伴う損害も大きいのは事実よ。そこで、あなたの意見を聞きたいの。課長と話し合ったところでは、戻ってきたタチコマは他のタチコマとの一切の並列化を禁止し、無期限のハンガー待機にすることになっているわ。そこで会話ログと行動記録を監視して彼の思考傾向などを調べたうえで、最終的な結論を下すのよ。だけど、私が考えているのは、もう一度あなたとツーマンセルを組ませ、作戦行動中における彼の行動を判断材料にしようということよ」
「けどよ、もし万が一、タチコマが暴走した時はどうするんだ?」
「その時はその時よ。場合によっては、あなたがタチコマを手に掛けることになるわね。もちろん、帰ってきたタチコマを何のテストもなしにツーマンセルを組ませるとは言っていないわ。ハンガーで他のタチコマとの会話から、ある程度の思考傾向について調べる予定よ」
バトーはおもむろに俯いた。もしもの時は、自分がタチコマを破壊することになるかもしれない。機械に対して愛情を抱くというのは、一般人から考えるとおかしなことだが、バトーのタチコマへの愛情は本物だった。長い間、作戦を共にしてきた仲間を殺すのは、さすがのバトーでも心苦しいことである。だが、このまま無期限のハンガー待機になるのと比べると、多少のリスクは冒さなければならない。それに、あのタチコマが暴走することは絶対にないと、バトーは心から信じていたのだ。
「分かった、引き受ける」
バトーはそれだけ答えると、静かに部屋から出ていく。その背中は、どこか物悲しげだった。
2018/9/12 一部加筆修正