9課のダイブルームの中では、イシカワが接眼式ディスプレイを覗きながら少佐から解析を頼まれたファイルを入念に調べ上げていた。まず分かったのは、このファイルが、実在しない職員の個人フォルダーに保存されていたということだった。
その名前は『ヘリオス』で、開発次長が残したあのメモに書かれていた内容と一致する。所属は剣菱重工原子力事業部となっていたが、それ以降の詳細な部分については空欄となっていた。ファイルが置かれていたのは、原子力事業部の部内共有サーバー直下に作られた個人用領域だった。だが、その領域の所有者情報は不自然に欠落しており、課や係を示す情報も得られていない。
つまり、このファイルは何者かが正規でない方法で作成した可能性が高いのだ。それだけでも十分に怪しいのだが、最も怪しかったのはこのファイルのサイズである。このファイルは、内容から予想される量よりも不自然に大きいデータ量を持っていたのだ。
それが示していることは、ただひとつ。何らかの情報がファイルの中に隠されているということだ。だが、単純なテキストデータの埋め込みだけではこれほど容量が大きくなるとは考えにくい。増えたサイズがいったい何に費やされているのかということは、イシカワでもいまだに掴めていなかったのだ。
ところが、先ほどバイナリデータからファイルを隈なく調べた時に、彼は防壁迷路が張り巡らされているような感触を覚えたのである。並みの分析官でもバイナリデータからそういったことを推測できる者はいない。しかしイシカワには、長年の経験に裏付けられた直感に近いものがあった。
それを少佐の言うゴーストの囁きと呼んでよいのかは分からない。だが、構造解析の結果、彼の直感は見事に的中していたことが明らかとなった。解析により、これまで見ていたのは迷路に誘導された囮のデータで、本当のデータは張り巡らされた防壁の奥深くに眠っていることが分かったのだ。
「こりゃ、潜るしかねえか」
イシカワはため息混じりにそう言うと、ダイブ装置のQRSプラグを自分の首元のインターフェイスに接続する。視界が急速に切り替わり、現実味のない電脳空間が目の前に広がった。間もなく、球状に表現された目的のファイルにイシカワは近づく。少佐のようなアバターを使用していない彼を表現する記号は、瞬く間にその内部へと吸い込まれていった。
サイバー戦に精通する彼でも、ここまで悪戦苦闘したのは久しぶりだった。ファイルにアクセスしてから既に数十回ほど深部へのアクセスを試みているが、すべて浅い領域に誘導され、偽データを掴まされてしまう。これで、あらかじめ見当をつけていた突破可能性の高いルートはほぼ潰されてしまった。残っているとすれば、一見すると無関係なように見える隠しルートだろう。
だが、その場合は先ほどのルートの絞り込みに使ったような深部周辺を経由するという条件が使えないため、総当たりでアクセスしていくことになる。アクセスコードがあれば難なく通過できるのだが、それがない以上、地道に攻めていくしかなかった。
仕方なくタチコマのバックアップを要請した彼は、タチコマが到着するまでの間、電脳空間上に留まってファイルの深部を眺めていた。アクセス自体は、時間を掛ければ不可能ではないが、これは明らかに一般ユーザーができる仕事ではなかった。ここまで巧妙な防壁を張り巡らせることが出来るのは、少佐のような特A級ハッカーや軍のサイバー戦部隊といったところだろう。もしくは『笑い男』のような例外もあるかもしれないが、それほどのスキルを持つハッカーなど、世の中には皆無に等しい。
最も可能性が高いのは、このファイルの作成者自身が防壁を構築したのではなく、どこからか盗み出して利用したということだろう。この段階で『盗み出した』と決めつけるのには、理由がある。市販のセキュリティソフトなどの暗号化や防壁などの機能は強力過ぎると犯罪捜査の上で非常に脅威となり得るため、その能力には一定の制限がつけられているのだ。ゆえに、もしこれが市販ソフト由来の防壁なら、規制値を大きく超えた違法改造品に当たる。
だが、軍や機密情報を扱う特定企業の場合は話が違ってくる。機密情報などは流出した場合の損害が計り知れず、その影響は国家レベルにも及ぶのだ。そのため、機密情報の保持には、官民一体となって取り組んでいる現状がある。それに、この防壁の印象は剣菱の中央サーバー内に展開されていたものと酷似していた。
「イシカワさん、遅くなりました~」
イシカワがそんな考えを巡らせていたとき、ようやくタチコマが姿を現した。相変わらずデフォルメされた青いボディは無機的な電脳空間内においても目立っているが、現実空間ほどではない。
「タチコマ、こいつの構造解析を手伝ってくれ」
イシカワはそう言うと、自分の周りにコンソールを展開させて試行を再開する。タチコマは憧れの構造解析ができることに大喜びしながら、同じくコンソールを開いた。
「イシカワさん、気になったんですけど、なぜわざわざ順路に従ってアクセスしようとするんですか?お許しいただければ、防壁なんて切り崩しちゃいますけど」
ルートを検索中のタチコマが無邪気にもそう言う。それはつまり、障壁に当たってもそれを壊して無理やり突き進むという、少々乱暴な意見だった。
「防壁内部のデータが防壁そのものと一体化している恐れがあるからだ。確かにその方が手っ取り早いが、地雷が埋まっていないとも限らない。それに、順路を進んでいる限りは攻性防壁の反応も出ていない。ここは慎重に進めるしかないだろう」
「はぁ~い…」
イシカワの答えに、タチコマは少し落ち込んだ様子でそう答えた。
それからというもの、黙々と試行を繰り返し続けたイシカワは、しばしばタチコマのお喋りにつき合わされつつも、3時間かけてどうにかルートの特定に成功した。だが、一応罠がないとも限らないので、タチコマを先頭に突入準備に取り掛かる。万が一の時、瞬時に対応するのはAIであるタチコマにしかできないことだからだ。
囮となるデコイや防壁を展開し終えたイシカワは、タチコマに合図を送って一気にルート内へ突っ込んでいった。彼の読み通り最初の方は深部とは無関係の領域を通っていたが、ルート終了を目前にして急に方向を変えて深部へと向かっていく。
ルートの終点に辿り着いたとき、突如差し込んできた眩い光にイシカワは思わず目を押さえた。視覚系に悪影響を及ぼすトラップかとも思ったが、すぐにその光は収まっていく。目を開けた時、目の前に広がっていた光景にイシカワは呆然とする。
赤い絨毯の引かれた薄暗い部屋。壁に埋め込まれた暖炉では、焚べられたばかりの真新しい薪が、ぱちぱちと火の粉を散らしながら燃えている。その手前には木製の椅子が2脚ほど、誰かが直前まで暖を取っていたかのように、暖炉の方を向いて置かれていた。背後には古びたオーディオプレーヤーとともに、大量のCDがラックいっぱいに並んでいる。しかし、辺りを見回しても出入り口らしきものはおろか、窓すら見つからない。完全に閉じ込められてしまったらしい。
「クソ、トラップか」
イシカワは舌打ちし、脱出しようとコンソールを呼び出す。9課の高度なバックアップ体制ならば、無傷で抜け出すことも不可能ではない。
しかし、様子がおかしい。トラップだとするならば、既にこの段階で自分の身に何らかの異常が起こっているはずなのだ。にもかかわらず、この空間からは一切の攻撃や干渉を受けていなかった。
「どうやら、この空間はボクたちに好意的みたいですよ」
「好意的ってどういう意味だ?ここの電脳空間にそんな意志みたいなのがあるっていうのか?」
隣のタチコマの発言に、彼は怪訝な顔で訊き返す。
「うーん、どっちかというと、作成者の意志に起因する性質です。作成者はこのファイルにボクたちのような第三者がアクセスすることを期待していたのではないでしょうか?それにこの空間、ある特定の思考傾向を持つ人間がアクセスすると、攻性防壁のような性質を示すようです。ざっと調べた結果なので、いくらかの不確定要素を含みますケド…」
「その特定の思考傾向というのは調べがついたのか?」
「それが、スクランブルが掛けられていて、まだ解読中です」
彼は腕を組むと、タチコマの報告について考えながらゆっくりと歩き出した。まだ不確定とはいえ、特定の思考傾向を持つ相手を焼き殺すというのは穏やかではない。このファイルの奥には、攻性防壁を使ってまでその特定された相手に見られたくない情報が眠っているというのだろうか。
「タチコマ。この空間を抜けるのに必要なキーは分かるか?」
「それが…、調べようとしたら攻性防壁で焼かれそうになって…」
「つまり、俺たちの手でこの中から探すしかないということだな」
「そうなりますね…」
イシカワは改めて部屋の中を見回した。火の灯った暖炉、2組の椅子、端に置かれたチークのテーブルと飲みかけのウイスキー。どれも何ら意味のあるものとは思えない。とすると、最後に残るのは背後にある所狭しと並んだCDとそのプレーヤーだろう。
イシカワはCDの中から1枚を適当に抜き出すと、ケースを開けた。入っていたのはシンディ・ローバーの「Girls Just Want to Have Fun」である。電脳空間内にもかかわらず、レーベルも忠実に再現されており、思わず彼も驚いた。さながら、電子資料館の中にいるような錯覚を覚える。
「イシカワさん、よく見たら机の上にこんなものも置いてありましたよ~」
そう言いながら、タチコマはマニュピレーターを使ってそれを持ち上げた。見たところ、レトロなレストランにありそうな呼び出し用の小さなベルのようである。イシカワはCDをラックにしまうと、タチコマからそれを受け取った。よく見てみると妙なことに、そのベルの側面には小さな四角い穴が開けられていた。振ってみると一応音は出るものの、ひびが入っているらしく、落とすと簡単に壊れそうなほどである。いったい、このベルが何を示しているというのだろう。
イシカワが考え込んでいる間、タチコマはこっそり他のタチコマたちにもこのベルの画像データを送り、意見を求めていた。もちろん、今自分が抜けるわけにもいかないので、議論には音声のみで参加するつもりである。一方、他のタチコマは共有メモリ空間内の広間に集まり、その画像を拡大してじっくりと眺めていた。
《ただの飾りじゃない?他にもウイスキーだの暖炉だの色々なオブジェクトがあるんだから》
一番先に答えたのは少しせっかちな性格のタチコマである。それを、冷静な別のタチコマが遮る。
《いやいや、それはないよ。こんな意味ありげな壊れ方しているベルなんて、何の目的もなしに置いたりしないって》
《意味ありげって、随分人間じみた言葉使うね、キミ》
《じゃあどうすりゃいいのさ。『ファイル作成者の意図の存在が一般的思考論において推測される限り高いと考えられるベル』なんて、長過ぎて使う気しないね。それに、高いってのも随分ファジイ的であいまいだし》
《まあそうだけど、それって俗に言う『へりくつ』というやつでは?》
《違うよ!断じて違う!》
「ケンカしないでちゃんと考えてよぉ…」
痺れを切らしたタチコマがここら辺で本題に入ろうと促す。そこへ、首を傾げるというよりは胴体を傾げつつ、別のタチコマが口を開く。
《そもそもこの空間、いや、このファイル自体の作成者ってのが気になるなぁ》
《そうだそうだ~。作成者欄には誰の名前が書かれてたの?》
「『ヘリオス』だよ」
《ヘリオス?それって、ギリシャ神話に登場する神の名前だよね?》
《そうそう。日本語ではヘーリオスとも言うよ》
《太陽神として信仰され、地上のすべてを見ているといわれているやつでしょ》
次々と答えるタチコマたち。しかし流石の彼らでも、ヘリオスという名前だけでは人物を特定するには情報があまりに不足していた。すぐにみなが黙り込んでしまい、無言のまま、しばらく時間が流れる。
《やっぱり、作成者の名前は関係なさそうだね。話を戻して、ベル自体について考えてみようよ。ひびは分からないけど、ベルに開いた四角い穴の方なら何か分かるかもよ》
そんな中、ようやく気を取り直した別の1機が話し始めた。だが、その隣にいたタチコマは呑気にもうたた寝をしていて、体が傾きかけている。
《とはいってもね~。わざわざ穴を開けて使うベルなんていくら検索かけても出てこないんだよね》
周りに展開した大量のインターフェイスの1つをつかみながら、別のタチコマがそう言った。それらには各種ネットでの検索結果の一覧が表示されているが、どれもこれも無関係の情報ばかりである。
《そうだよね。もう少し手がかりがあってもいいのにさ~》
《まったく、ファイル作成者の気が知れないよね!》
文句ばかりが出始めたところで、タチコマの1機がようやくうたた寝しているタチコマの存在に気付いた。
《それよりも、隣で寝てるそいつ、いい加減に起こしちゃえば?》
彼はそう言って、他のタチコマたちにも振り向かせる。多数のタチコマから冷ややかな視線を送られてもなお、相変わらずそのタチコマは気持ちよさそうにうたた寝し続けていた。まさか、この議論の最初から寝ていたのではないだろうか。タチコマたちは、ふとそんな予感を覚えていた。
《いいから、早く起こしちゃえよ~》
《え、ボクが?隣にいるからっていう単純な理由だけでそんな厄介を押し付けないでよ!》
《まあまあ。これも自分の運命だったと思ってさ》
《仕方ないなぁ。今回だけだよ…》
嫌な役回りを押し付けられたのは、そんな彼の隣にいたタチコマだった。ため息をついたタチコマは、マニピュレーターを伸ばして寝ているタチコマをつつく。1回目、起きない。2回目でも、起きない。3回目でようやく、半ば飛び起きるような形で目を覚ました。
《おはよう。AIなのにうたた寝って、どういう神経してるわけ?》
《なんだぁ…、夢かぁ…》
起こしたタチコマの質問にも答えず、相変わらず寝ぼけたような様子でぼんやりしているタチコマに、他の皆はすっかり呆れ返ってしまっていた。
《それにしても、いい夢だったなぁ…》
《夢って、AIのボクらが見れるものじゃないのでは?》
《もちろんそうだよ、当たり前じゃん。疑似体験プログラムだよ。この間、赤服さんがスリープ中にもAI学習を進めるため、試験用のプログラムを入れてくれたんだ》
《なんだそのことかぁ。確か、今までの経験情報を元にしつつ、オリジナルにはなかった新たな要素を乱数的に配置した状況下でシミュレーションすることで、手間を掛けずに効率の良い学習ができるってやつでしょ。ボクもこの間やったばかりだよ》
《だけど、今回のは凄かったぁ…。少佐とイギリスでのSAS研修!キリングハウスでCQBの訓練をできて、とても良い経験ができたよ!突入から制圧までに掛けた時間も最小限で、疑似体験の中とはいえ少佐に褒められたのは嬉しかったな~》
自分の睡眠学習の成果を熱く語るタチコマに、いつの間にか他のタチコマたちもベルの謎解きを忘れて夢中で聞き入っていた。
《いいないいなぁ、イギリスかぁ!テムズ川やビッグベンとか、一度行って観てきたいな~》
《9課じゃ観光旅行は絶対にムリだからねぇ。バーチャル体験はできるとはいえ、やっぱり自分の感覚デバイスを通じて体験しないと得られない情報もあるし》
陽気なタチコマの発言に、他のタチコマたちも次々に反応する。果ては最初に協力を呼び掛けた張本人ですら、その話に参加してしまう有様だった。
《テムズ川とビッグベン…。うーん、もしかして、さっきのベルをベルじゃなく鐘として考えると、特徴がビッグベンの鐘とほぼ一致するのは気のせいかな》
そんな中、読書好きのタチコマの思いもよらぬ発言に、場の空気は一気に変わる。
《本当だ。確かに、これはビッグベンの鐘の特徴にぴったりだ》
《形もそうだし、ひびとこの四角い穴もここまで正確に再現しているってことは、このベルはビッグベンの鐘の模型か何かだろうね》
関連する項目について調べたインターフェイスを持ち寄り、タチコマたちが議論を続ける中、きっかけを与えた居眠りのタチコマはまったく状況が理解できずに、加速度的な勢いで進む話に完全に置いてきぼりにされていた。しかし、そんな彼には一切構うことなく議論は進んでいく。
《でも、何でビッグベンの鐘って、こんなにボロボロなの?》
《ビッグベンを建てたとき、最初に用意された鐘は試験中に割れて使えなくなったんだ。そこで別の鋳造所で作り直されたんだけど、それも設置後にひびが入った。そこでハンマーがひびを叩かないように鐘を4分の1回転させ、ひびの先端には四角い穴を開けたんだってさ。原因はいろいろ考えられるけど、ハンマーが重すぎたことが大きかったみたいだね》
《スゴイ!でも、このベルがビッグベンの鐘の模型だったとして、それが何か関係あるの?》
《ここからはボクの推測だけど、ビッグベンがあるのはイギリスの首都のロンドン。で、このベルは呼び鈴としてテーブルの上に置かれていた。後ろにある大量のCDアルバムには、見たところヒットソングばかり収録されているようだから、この条件が当てはまりそうなものを絞り込むと、答えは1つ。『ロンドン・コーリング』だ。ただ、呼び鈴の『呼ぶ』の部分から『calling』を抜き出すのはちょっと強引すぎるけど》
《スゴイ!多分それだよ、きっと!》
タチコマたちはその推論に次々と賛成し、読書好きのタチコマの周りに集まっている。さすがの彼も、頭を掻くような仕草をして、少し照れ気味になっていた。居眠りしていたタチコマも、結局知らぬ間に議論は終わってしまったものの、とりあえず一緒になって喜び合っていた。
「みんなありがとう!早速、イシカワさんにも相談してみるね!」
協力してくれた仲間たちに礼を言いつつ、タチコマは意識をイシカワのいる電脳空間内に戻す。イシカワは椅子に腰かけ、相変わらずベルを見ながら考え込んでいる様子だった。そんな中、タチコマは視線を後ろのラックへ向けると、並べられているCDの年代をもとにある程度見当をつけてから、それらを漁り始める。突然のタチコマの行動に困惑しながらも、イシカワがそこに近づいた。
「何か分かったのか?」
「はい!多分、ボクたちの推測が正しければ、これで通るはずです」
そう言いながらタチコマは1枚のCDアルバムを抜き出した。緑とピンクの文字で大きく書かれた『London Calling』の文字が、埃をかぶってやや灰色に染まっている。
「これをあのプレーヤーでかけてみましょうよ。多分、それがキーだと思います」
「だといいんだが。まあ、試してみるだけ試してみるか。トラップに警戒しろよ」
「は~い!」
そうしてイシカワはCDを取り出すと、ゆっくりとプレーヤーの中に入れる。流石の彼でもこれほどの旧式メディアを扱うのは久しぶりだったので、少し緊張していた。大容量化が進む今の時代、容量が少ないこんなメディアをわざわざ使うのは、余程の愛好家ぐらいに限られてくるのだ。
ドライブが起動し、ディスクの読み込みが始まった。2、3秒ほどで簡易液晶のフロントディスプレイに『CD』の文字が映し出される。そして、慎重にイシカワが再生ボタンに触れたまさにその瞬間だった。
不意に周囲の風景が歪んだかと思うや否や、突如として床が消えた。そして、そのまま彼らは悲鳴を上げる間もなく、底の見えない深い闇へ飲み込まれていったのだった。
2018/9/15 一部加筆修正