技術というものは常に進歩し、時代にそぐわないものは絶えず淘汰される。旧型の半導体式集積回路は、1998年に兵庫県播磨研究学園都市で開発されたニューロチップから始まる一連の電脳技術ビッグバンにより、完全に時代遅れの代物と化した。だが、そうして普及したニューロチップの中でも、常に技術革新が進んでいるのは言うまでもない。
ここ、新浜大学の地下3階に構築されているのは、そんな競争が生み出した産物の1つだった。高速演算を可能にする高性能ニューロチップを多数搭載し、データさえあれば仮想人格をもシミュレーションできるほどの超高度並列演算も可能なスーパーコンピュータ『ヘプトンケイル』。一大学の研究用ということもあり、スペックは世界最高水準の『デカトンケイル』には及ばないものの、並みのサーバーと比べれば桁外れの計算資源を有していることに変わりはない。
運用に当たっては、あらかじめ契約者間で計算資源の利用枠が定められている上、悪用されることを防ぐために制御室は厳重にロックされている。IDパスを持つごく少数の関係者のみが、その内部に足を踏み入れることができるのだ。
しかし、つい最近不正アクセスで計算資源の一部がゴーストハックに利用されるという事件が起こったため、警察が捜査に乗り出していた。その関係で部外者立ち入り禁止の制御室にも、捜査関係者がしばしば訪れるようになった上、大学側もセキュリティ強化のために保守作業を行い、来訪者は普段の倍になっていた。
だが、今日の来訪者はそんな者たちからも程遠いものだった。大学の工学部キャンパス前に停まったバンから降りてくる4人の男たち。そのうちの2人は明らかに筋肉質で体格の良い大柄の男だった。他の者はごく普通の若者で、大柄の2人さえいなければここの学生のようにも見えるだろう。
彼らは無言でキャンパスの玄関を抜けると、正面の通路から階段を降りて地下へ向かった。すれ違った学生たちは見知らぬ男たちを不審に思えども、特に声を掛けることはなかった。なぜなら、彼らはみな普段学内で働く清掃員の作業服を着ており、胸元には偽造された入構証が下がっていたからだ。そうして、何事もなく地下3階までたどり着いた彼らは、ヘプトンケイルの制御室へと向かう。
部屋の前では、既に1人の男が待っていた。扉は鋼鉄製の重厚な造りで、高電圧や電波関連の警告標識が張られている。彼らが来たことを確認したその男は、壁に埋め込まれた端末にIDパスをかざし、手のひらをスキャナーに押し当てた。電子音とともにゆっくりと扉が開くが、その先にはもう1つの扉が立ち塞がっており、左右の壁と天井には等間隔に小さな穴が開いていた。全員がそこへ入ると、間もなく反対側の扉が閉まり、そこから勢いよく風が吹き付ける。
体に付着する細かな埃や塵を、制御室に持ち込まないためのエアシャワーだ。やがて15秒ほどで風はやみ、先ほどの男は再び壁の認証端末にIDをかざす。開きゆく扉を先に通ったのは、大柄な2人の男たちだった。
2つの扉の合間で待機していた残りの者たちの耳を、途端に響いた鋭い銃声がつんざいた。すべては数秒のうちに終わり、大柄な2人が部屋に入るように手でサインを送る。彼らは慎重に部屋の中に入り、肩から提げていたカバンを机の上に置いた。しかし、机のモニターやキーボードは生々しい血で赤く染められていて、さすがの彼らも不快感をあらわにする。
机はもちろん、壁にも無数の表示盤や端末類が埋め込まれているこの部屋では、天井にも3台ほどのモニターが吊り下げられ、まさにスーパーコンピュータの心臓部と呼ぶにふさわしい。だが、隅には血まみれの職員の死体が無造作に転がっていて、至る所に血が飛び散っている。本来なら塵一つ許されないはずの室内は、完全な無秩序へ変わっていた。
カバンから取り出したラップトップ端末や記憶メディアなどを制御室のコンピュータに接続している間、大柄の男はまだ銃身の熱いグロック17を机に置いた。背負っていたリュックサックからSMGや手榴弾、それに大量の予備弾倉を取り出すと、清掃員服の上からボディアーマーを着込み、それらを装備していく。
コンピュータの接続を終えた彼らは、手始めにいま実行中の全タスクを強制終了した。そして、ここを除く学内端末からの管理系アクセスを遮断する。一方で、外部の計算資源共有ネットワークへの接続だけは維持した。ここまでスムーズに操作ができる最大の理由は、彼らがこの分野に精通しているエキスパートであるからに他ならない。
「作戦開始時刻が迫っている。急ぐぞ」
中央のメイン端末を操作するリーダー格の男がそう言った。彼こそがこの部屋のロックをIDパスを用いて開錠させた張本人なのだが、偽造や強奪などでIDを奪ったわけではなかった。そう、彼はこの部屋の入室許可者リストの中にもある歴とした関係者で、この新浜大の大学院生の1人だったのだ。
これこそが、岸田が進めていたテロ計画の1つだった。すべてがネットワークと接続した現代社会において、これを利用しない手はない。だが、岸田たち電脳化・義体化に反対するテログループは電脳戦において大きなハンディを抱えていた。そこで、宗教上やむを得ず義体化できない人々の中から目的に合う優秀な人間を探しては、あらゆる手段を駆使して組織に勧誘したのだ。
その成果がこの3人だった。彼らは優秀でありながらも、義体化できないハンディから社会にもあまり適応できずに、孤立しつつあった。操作効率も電脳化をした者たちから比べれば足元にも及ばないが、彼らには1つ、大きな武器があった。
発想力と経験である。それらをフルに活かして開発したのが、まさにいまヘプトンケイルに入れられようとしているクラッキングAIだった。幸いにも、ソースコードの一部は岸田が連絡を取り合う謎の男、赤蠍から提供を受けており、その完成度は非常に高い。おそらくは剣菱辺りから漏れたものだろうと、3人は予想していた。
持ち込んできたラップトップ端末から、そのクラッキングAIはヘプトンケイルの基本システムに侵入し、最高権限アカウントを乗っ取る。あらかじめプログラムされた通り、続いて大学施設の警備システムを掌握すると、火災警報を発報して大学関係者全員を施設内から追い出した。
防犯カメラ映像を見る限りでは警察はまだ来ていない。その間にすべての扉を遠隔施錠し、防火シャッターや防火扉を封鎖し、制御室の2重扉のID認証はすべて無効にした。ここまですれば、警察のSWATも突入はおろか、この2重扉の間にさえ来るのは容易ではない。
壁面に設置されたアナログ時計の針は午後5時をさしていた。いよいよ、作戦決行の時が来たのだ。緊張した面持ちで、その男はAIに最初の指令を出す。全国各地の大学や研究機関で、スーパーコンピュータのコントロールが奪われるという事態が発生したのは、その数分後のことだった。
同じころ、9課のオペレーティングルームの中では、課長が厳しい表情で壁面の大画面モニターを見つめていた。緊急動員されたオペレーターが席を埋め、キーボードの音が絶え間なく響いていた。彼らが行っているのは、報道機関とネット掲示板への強力な情報管制である。しかし、早くもそれには陰りが見え始めていた。
「対象書き込み、バーチャルシティα内にさらに拡散」
「個人サイトへの書き込みを確認」
「F4デコイでは妨害が間に合いません」
抑揚の少ない機械的な音声で、オペレーターたちは現状報告を行うも、そのほとんどが芳しいものではなかった。報道協定を破り、ネタをリークする悪質な報道機関があるという噂も耳にはしているが、今回はそれとは無関係だと課長は予想していた。この書き込み速度は、到底人間業とは思えないほどだったのだ。
その書き込みの内容は典型的な犯罪予告であるものの、唯一の異なる点が実行犯が顔写真付きで名乗っている点だった。その人物こそが、一連の爆薬盗難や爆破テロなどに関わっているとされるテロリスト、岸田茂であった。
「我々、亡国の使者は本日午後6時より、愚かな民を正しき道へ導くべく、行動を起こす。いまや神の与えられし運命にも背き、生き永らえようとする者たちに報いを受けさせ、この世界の理に従った真の世界を実現するのだ。そのためには、この世界には静止してもらう必要がある。もちろん、義体化や電脳化に無縁な善良な者たちには、何一つ危害は加えない。だが、それ以外の者たちは、今日から地獄を見ることになるだろう」
掲示板に書き込まれているのは、これとほぼ同じ内容の犯行予告だった。しかも、巧妙に偽装されてはいるものの、書き込み元は特定の数か所であることが分かった。首都の新福岡大のほか、新浜大、果ては科学技術庁など、国立大学や公立研究機関のスーパーコンピュータ類のほとんどである。
警察庁からの報告によれば、午後4時50分ごろ新浜大学敷地内において発砲事件が発生したらしい。同時に火災の自動通報があり、消防が現場に向かったものの火災などは発生しておらず、防火シャッターや防火扉が完全封鎖されているのみだったという。火災警報で逃げ出してきた警備員からの証言で、ようやく工学部キャンパス地下3階のヘプトンケイルが武装集団5名に襲撃されたということが分かったものの、その時には既に計算資源共有ネットワークを通じて、乗っ取られた新浜大のヘプトンケイルが他のスパコンを制圧していた。
その手口もなかなか巧妙なもので、新浜大では武装集団が制御室を直接制圧したが、他施設ではまず警備システムに侵入し、火災警報を発報させて制御室内の職員を退避させる。その後で無人状態の制御室を完全ロックし、手も足も出せない状態にしてから堂々と攻撃を仕掛けて乗っ取ったのだ。しかも、制御を取り返そうにも誰一人として制御室内には入れないため、問題の解決も容易ではない。
今やデカトンケイルをゆうに超える莫大な計算資源を持つテロリストたちにとって、掲示板への書き込みなど朝飯前の仕事だった。その気になれば、軍の防壁を突き崩し、軍事機密を持ち出すことも不可能ではない」
もう1つ問題なのが、テロリストグループの示した犯行予告時間まで、あと30分足らずということ。関係諸機関に連絡を取り合い、対策を徹底させるにはあまりにも短すぎる時間であるが、情報化の進んだこの社会においては犯行予告のみを拡散させるのには十分過ぎる時間だった。このままでは、対策という対策も取れないまま、国民の多くが犯行予告を知った上で6時を迎えてしまう。そこでもし何らかの犯行があれば、日本の治安機関の面子は丸潰れだ。
先にメガテク社前での爆破未遂は阻止したが、結局は同じこととなってしまった。というよりは、テロリストたちは爆破テロが失敗に終わる可能性も見越した上で、保険を掛けていたのだろうか。だが、わざわざスーパーコンピュータを乗っ取ってまで犯行予告を拡散させることに意味があるとも思えない。やはり、スーパーコンピュータは当初から別の目的のために使う予定なのだろう。
課長の頭の中には、様々な推論が浮かんでいた。しかし、そのどれもが、これから起こるテロ行為が、どういったものなのかを予想するには至らない。犯行予告にあった、非義体化の人間には影響なく義体化された人間だけに危害を加えるというのも、理解しがたいことではある。現実問題として、そんなことは可能なのかという疑問が、課長の頭にわき上がった。
「課長、状況は?」
ドアが開くと、落ち着いた様子で少佐が入ってきた。彼は首を横に振り、芳しくないことを伝えると、壁のモニターへ目線を戻す。今できることは、警察と連携して警戒態勢を強化することだけだが、せめて攻撃対象がどのようなものなのか絞り込めなければ、効果的な対策は打てない。
それに、亡国の使者が行動を起こす以上、盗難されたままとなっている陸自の18式戦車を使用するに違いなかった。にもかかわらず、いまだ1課と陸自からは何も連絡は入ってこない。9課でも独自にNシステムなどで、陸自基地から抜け出した戦車輸送用大型トレーラーを追跡していたが、未明に新浜郊外の国道を通過して以降の足取りはつかめていないのだ。
このままでは多くの市民の命が失われてしまう。
しかし、焦りは禁物だった。一度、冷静さを失ってしまえば判断を誤るリスクも高まり、また重要な手がかりを見失うことにもつながる。深々と深呼吸をすると、目を閉じて気を落ち着かせる。そして、彼は少佐にバトー達の状況を訊いた。バトーとサイトーはちょうど、テロリストたちの手掛かりを追って兵庫県内の廃工場に捜索に入っていたのだ。
その工場を特定した決め手はその周辺のデータ通信量だった。比較的山奥にあるにも関わらず、工場を含む基地局とそれ以外の周辺基地局との間で通信量に明らかな差が見られたのだ。もちろん、工場は10年以上前に閉じられて無人なので、通信する人間が多数いるとは考えにくい。
加えて、通信内容を遡って調べたものの、高度に暗号化された音声通信が大半で、テキストデータのやり取りは少なかった。当然、暗号を解読しようと作業を進めているが、計算量が膨大であるため、つい先ほど科学技術庁にヘプトンケイルの使用許可申請を出したばかりだった。
あいにくヘプトンケイルは乗っ取られて解読は困難となったが、これほど怪しい施設は他にない。そのため、現場近くで捜査に当たっていたバトーとサイトーのほか、パズとボーマもヘリで向かわせているので、そろそろ到着していてもおかしくはなかった。
「課長、バトーからの報告では、廃工場は既にもぬけの殻だったそうよ。だけど、最近まで何者かが潜伏していた痕跡が残されていたわ。それに工場前の砂利道には複数の車両のタイヤ痕が残っていたけど、そのうちの一台が陸自から盗難された戦車運搬用トレーラーのものと一致したらしいわ」
少佐の報告と同時に、すぐに送られてきた3次元スキャンの結果がモニターに表示される。朝方に降った雨のおかげで路面がぬかるんでいたのか、タイヤのトレッドパターンがくっきりと地面に刻まれていた。そして、その隣には陸自から送られてきていた当該車両のタイヤの画像が表示される。こちらで改めて解析してみても、タイヤ痕は、陸自から送られてきた戦車運搬用トレーラーのトレッドパターンと98%以上一致した。
「このことをすぐに1課と陸自に連絡しろ」
オペレーターに指示を出す課長に、少佐がさらに報告する。
「ボーマから、工場の床に溜まった塵から爆薬の成分が検出されたと今連絡があったわ。詳細な検査をしないとなんともいえないけど、おそらくテロリストのもので決まりね」
これで、ようやくテロリストと戦車の居場所に繋がる手がかりを得られた。問題は、時間までに当該車両を発見し、制圧できるかどうかである。予告のある6時まではあと20分ほど。予告通りテロを起こすのなら、そろそろテロリストたちは攻撃目標周辺に到着しているはずだった。
「課長、公安1課長から通信です」
オペレーターの声に、彼は「繋げ」と答えた。すぐに壁面のモニターには1課長の顔が大きく映し出される。
《奴らの目標だが、姫路港のアジトで見つかったパソコンを解析したところ、ダムの図面が見つかった。兵庫の新奥黒木ダムだ。爆破シミュレーションを立てているところを見ると、ダム堤体を丸ごと爆破するつもりらしい。既に県警機動隊に出動要請を出したが、到着には時間が掛かる。そっちからも人員を出せないか》
「ヘリはあるが、課員が捜査中で出払っている。回収してから現場に向かうとなると、45分は掛かる」
結論から言えば、間に合うはずもなかった。新奥黒木ダムは兵庫県但馬の内陸部にあり、ここから直行してもそれなりに時間が掛かる。まして、テロリストの手には陸自の主力戦車が1両あるのだ。生半可な装備では返り討ちに遭うのは目に見えていた。
それに、課長は何となく違和感を覚えていた。多少の誇張はあると言えども、犯行予告であれほど威勢の良いことを宣言しながら、ダムひとつ吹き飛ばしただけで済むのかということだ。
もちろん、ダムが破壊されれば破片も含めた大量の土砂が土石流となって押し寄せ、下流域に甚大な被害をもたらす可能性がある。また、ダムの爆破と考えれば大量の爆発物を集めていたテロリストたちの行動にも説明を付けることはできる。
ただ、どうも犯行予告のメッセージが引っ掛かっていた。義体化や電脳化とは無縁の市民には害はないが、それ以外の者には地獄となる。そんなことを完全に実現できるとは考えにくいが、これでは下流の人間すべてが被害を受け、彼らが言うように義体化した人間のみが被害を受けるわけではない。むしろ、義体化した人間の方が生存率は高いかもしれなかった。
だとすれば、一体何が目的なのか。深く考え込んでいると、再びオペレーターが声を上げる。
「陸自から、当該車両を発見したとの連絡が入りました」
一瞬で現実に引き戻された彼は、即座に壁面のモニターを見上げる。間もなく表示されたのは、グレースケールで表示された景色だった。これは航空機に搭載された赤外線前方監視装置FLIRによる映像だ。この巡航速度から考えると、恐らくヘリではなく、ターボプロップエンジンを搭載した固定翼無人機から撮られたものだろう。
数秒画面を見ただけでそれと分かった課長は、画面中央に映る白い点を凝視する。森林の中を縫うように走る道路を移動する3つほどの点。よほどの上空から撮影されているのか、はじめは米粒のような点だったが、拡大されるとようやくそれらの形を確認することができた。
道路上を走る2台のバンと1台の大型トレーラー。その荷台にはカバーがつけられていて、内部を確認することはできなかった。赤外線映像でも、通常ならカバー表面の熱分布や張り具合から積み荷の輪郭をある程度推定できてもおかしくない。だが、映像ではそれすらほとんど読み取れなかった。おそらく、これも陸自の装備品の一つだろう。しかし、状況から考えるとこの車列はテロリストのものであるのは明白で、荷台には陸自基地から盗み出された18式戦車が積まれているに違いなかった。
無人機はなおも車列を追い続けている。画面の右下には現在地を示す地図が表示されているが、目標のダムまでは直線距離で1キロを切ろうとしていた。重量制限近い積み荷を積んでいるためか、トレーラーのスピードはあまり出ていないようだが、カーブでもあまり減速せずに走り続けているところを見ると、それなりの運転技術はあるのだろう。
車列は急カーブを抜けると、大きな鉄橋に差しかかろうとしていた。橋の下には黒木川が流れているが、長年の侵食作用のため谷はかなり深く、50メートルはあろうかというほどだ。
「これは総理も見ているんでしょうね」
「ああ、おそらくそうだろう」
少佐の問いに課長は答える。そう、今頃は官邸の危機管理センターにも同じ映像が映し出され、自衛軍の幹部や官僚たちとともに総理も見ているはずだ。そして、おそらく早急に決断を下すだろう。この困難な事態を収拾するためのやむを得ない決断を。
映像の高度が少し下がった。
無人機が降下姿勢に移り、鉄橋を走る車列に近づく。間もなく画面の下から二筋の白い光が放たれ、それらに向かっていった。光は急速に小さくなり、やがて見えなくなる。だが、次の瞬間には画面いっぱいに白い閃光が煌めいた。車列は完全に閃光の中に消え、収まったころには細かな白い点ばかりが画面上に散らばっていた。
映像は単純明快に、目標の殲滅を示していた。
グレースケールで表示された映像の中で、18式戦車を積んだトレーラーは無人機から空爆を受け、爆発炎上したのだ。そして、随伴していたバンも跡形もなく吹き飛び、テロリスト達は一瞬でこの世から葬り去られたのだった。
映像は別のアングルのものに切り替えられた。これはヘリから撮られたものなのか、先ほどまでの映像と比べると全体的に動きが少なかった。画面中央には炎上する車両が映し出されており、バンは先ほどの映像の通りもはや跡形もなくなっていた。一方、トレーラーの方は荷台と運転席部分が引き千切れていて、荷台は道路上に横転していたが、運転席部分は道路下に転落していた。
相変わらず荷台にはカバーが掛けられ、中身を窺うことはできない。その時、遅れて鉄橋が崩れ始めた。爆発で橋桁との接合部が壊れ、自重を支えきれなくなったらしい。やや横方向にねじれるようにして、鉄橋は中央の橋桁の部分で真っ二つに折れると、深い谷底へ吸い込まれていく。
例外なく、トレーラーの荷台も重力に従って、火花を散らせて橋の上を横滑りしていた。そして、ガードレールを突き破って空中に放り出される。そこで、課長は思わず目を疑った。荷台のカバーが衝突の弾みで外れた時、中から飛び出してきたのは無数のドラム缶と鉄骨のみ。
彼は呆然とするしかなかった。トレーラーには戦車は積まれていなかったのだ。
2018/9/19 一部加筆修正
本編途中に登場したヘプトンケイルの制御室については、基本的には原作の『攻殻機動隊2』のデカトンケイル制御室の描写を参考にしています。(エアシャワー等)。ただ、保安ロック等は所詮一大学の研究用なのでザルだったり...