攻殻機動隊 -ヘリオスの棺-   作:変わり種

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第28話

トグサは空調用の点検ダクトの中にいた。隅々まで管理が行き届いている原発内とはいえ、ダクトの中までは掃除されることはなく、酷く埃が溜まっていて目が痛み、鼻がムズムズしていた。だが、くしゃみでも出してしまえばテロリストたちに気づかれてしまう。そのため、必死に彼は鼻のかゆみをこらえていた。

 

ダクトに入った理由は単純だった。ずっと同じ場所に隠れていると、いずれ見つかる可能性が高いからだ。しかも、移動しようにも張り巡らされた監視カメラ網に引っかかる危険もある。むしろ、入らない理由はなかった。

 

だが、音を立てないよう匍匐前進し続けるというのは至難の技だった。特に生身の彼にはずっと同じ態勢を取り続けるというのは厳しいことであったし、何より埃が先ほどから鼻の粘膜を刺激し続け、鼻水が垂れていた。

 

せめて鼻でも義体化すればよかった、と少し本気で考えながら、トグサはペンライトで暗闇を照らしながら慎重に進んでいく。しばしば下から話し声や足音が聞こえることがあり、彼はその度に足を止めて息を殺した。そのため、次の換気口に出るまでかなりの時間がかかってしまった。

 

ようやく換気口に到着したトグサは、格子の隙間から漏れる光に目を細めつつ、ゆっくりとその隙間から室内の様子を窺う。たどり着いた先は、部屋というよりは地下駐車場の一角のようだった。だが、自分が車を駐めたところとは違うようで、駐められている車はどれも業務用のバンやトラックなどが大半を占め、どれも同じ車種のものばかりだった。

 

「時間がない、急いで設置しろ。ただ、信管は確実に刺せ」

 

声が聞こえたとき、トグサは体を硬直させた。ゆっくりと首を動かして覗き込むと、すぐ真下にテロリストと思しき覆面の男が立っていた。肩にはAK-47がさげられ、軍用のボディアーマーも着用している。そしてその近くには、同じく完全装備の男2人がコンクリートの柱の前で作業をしていた。

 

会話から察するに、爆薬を仕掛けているようだ。他の柱には既に大型ドリルで開けたと思しき細い穴に詰め物がなされ、それぞれに細いケーブルがつながっている。使っているのはおそらく、これまでに強奪した工業用含水爆薬だろう。

 

「設置完了」

 

「よし、導通確認のち撤収だ」

 

男の指示の後、彼らは軽く最終確認を終えると足早にその場を去っていった。トグサはしばらくそのまま微動だにせず、様子を窺う。額には冷や汗が流れ、頬を伝って顎から滴り落ちた。彼らの姿が見えなくなってから5分ほど経ち、自分の呼吸以外何も聞こえなくなってから、ようやくトグサは動き始めた。

 

音を立てないようゆっくり格子を外し、ダクトから飛び降りる。すぐに車の陰に隠れて周囲の様子をうかがった彼は、改めてその場に誰もいないことを確かめると、ケーブルに注意しながら柱に設置された爆薬に近づいた。

 

強引に穿たれた直径3センチ程度の穴の奥に、電気信管が突き刺さった赤い塊が見える。ケーブルを揺らさないよう、信管の刺さった爆薬を慎重に少しだけ引き出すと、赤いポリフィルムでパッキングされた円筒形の含水爆薬が姿を現した。ほかの柱を見回してみても、この区画のほとんどすべての柱に爆薬が仕掛けられている。それらから考えると、テロリストたちはここを爆破して崩落させ、突入部隊の侵入路を塞ぐつもりらしい。

 

一つ疑問なのが、ここを爆破すれば彼らの逃げ道もなくなるということだ。しかし、連中が最初から生き残ることなど考えていないのであれば、妥当な結論だった。たとえ生き埋めになって閉じ込められてでも、作戦を遂行する。テロリストたちは決死の覚悟で行動しているのだ。

 

このままにしておけば、厄介なことになるのは確実だろう。トグサは柱の陰に隠れると、心を落ち着かせてから少佐に電通を繋ぐ。

 

《少佐。どうも奴らは大量の爆薬で侵入路を塞ぐつもりのようです。地下駐車場の柱に爆薬がセットされています》

 

《そこの正確な場所は分かるか?》

 

トグサは周囲を見回すが、位置を特定できそうな情報はない。しかし、柱にオレンジ色のラインが引かれていることから、それが区画または階層を示しているのだろうと考えた彼は、少佐にそのことを伝える。

 

《オレンジ色か。分かった、後で見取り図と照会するわ。爆薬の種類は?》

 

《形は細い筒状で、色は赤。表面に商品名が黒字で印刷してありますが、例の爆薬盗難事件で盗まれたものと同じです》

 

《そう。無力化できそうかしら?》

 

少佐の問いに、トグサは少し緊張する。

 

《調べてみますが、見た限りでは工業用発破資材の流用です。発破器か中継装置を切り離せれば、少なくともこの区画の起爆は止められるはずです》

 

《分かった。ただし、無理はするな》

 

《了解》

 

トグサはそう答えると、電通を切る。あらかじめ予想はしていたが、爆薬の無力化を任されるとは。彼はゆっくりと深呼吸して意識を落ち着かせると、自分に言い聞かせる。

 

(大丈夫だ。訓練通りにやれば問題ない)

 

あらゆる状況に遭遇する可能性のある9課では、簡単な爆発物処理に関する知識も身につけなくてはならなかった。基本的なことはボーマから教わったものの、実際に行うとなるとやはり彼には一抹の不安があった。

 

爆薬に繋がっているケーブルを静かにたどっていくと、通用口の前にたどり着く。もちろん、監視カメラがあるので、その視野に入らないよう注意しながら回り込んだ。ちょうど奥にケーブルの中継装置と思われる樹脂製の黒い機械に無数のケーブルが差し込まれているのが見えたので、彼はケーブルを使ってそれを手繰り寄せようとする。これを無効にすれば、この辺りの爆薬はすべて無力化できそうだと考えたからだ。凝ったテロリストの手製爆弾だと、細心の注意を要するためこうも行かないが、見たところ工業用発破資材の流用なので、発破器側の中継装置を切り離せば、少なくともこの区画の爆薬は起爆できなくなるように思われた。

 

もちろん、あまりに急に引くとカメラに気づかれる恐れがあるので、ゆっくりと慎重に手繰り寄せた。だが、あと2、3メートルほどのところで通用口のエレベーターが動き始める。彼はとっさに身を屈め、近くのトラックの陰に隠れた。

 

足音は2人ほど。どうやら爆薬の確認に来たらしい。1人が中継装置をじっと見ていたので、トグサの緊張は急激に高まる。幸い、その男は別の爆薬の確認に向かったので事なきを得たが、いまだに動悸が激しく冷静を保つのが難しかった。一方、もう1人の男の方は信管が深く差し込まれていなかったのか、爆薬の前で文句を言いながら再チェックをしていた。

 

そうして、2人は確認を終えて荷物をまとめると、通用口に戻っていく。エレベーターのボタンを押し、乗り込んだのを確認したトグサは、再び中継装置のもとに向かおうと陰から顔を出し、周囲の様子を確認する。

 

その時、不意に後ろに気配を感じた。

 

(しまった!)

 

気づいた彼が抵抗する間もなく、首元にはナイフが突きつけられていた。その刃は正確に頸動脈を捉えており、1ミリでも動こうものなら皮膚に刃が食い込むほどである。間違いない、後ろにいるのは赤蠍だ。しかし、彼は少佐によって殺されたはずだった。

 

「両手を上げてひざまずけ。知っているとは思うが、このナイフには猛毒が塗られている。下手な気を起こすとあの世行きだ」

 

しぶしぶ指示に従い、トグサはゆっくりと両手を上げる。そうして、静かにひざまずいた。通用口のほうからは、あらかじめ示し合わせていたのか先ほどのテロリスト2人と、もう1人の男が歩いてきていた。皆、アサルトライフルを携行している。

 

「赤蠍、そいつを知っているのか?」

 

「ああ。こいつは公安の人間だ。俺が公安とやり合った剣菱のビルで、捜査にあたっていた連中の1人だ」

 

剣菱のビル。その言葉を聞いたとき、トグサははっとした。重要参考人だった安藤開発次長が殺され、現れた赤蠍も追い詰めたものの、結局はリモート義体で何も成果は得られなかった事件だ。自分はその時、次長の部屋で確かに捜査に当たっていたが、それを知っているということは、赤蠍はあの時あの場にいた誰かに溶け込んでいたということになる。

 

「で、どうする?首を落として制御室にでも飾っておくか?こいつら、例のあの一件にも絡んでいるんだぜ」

 

「そうか、なるほどな…」

 

赤蠍からその言葉を聞いたテロリストの男の表情が、一瞬で豹変した。獲物を捕らえた冷酷なハンターのような笑みだ。

 

だが、例の一件というのは何だろうか。トグサは懸命に記憶を遡る。テロリスト、人類解放戦線…。思い当たったのは、数年前の沖縄沖放射能除去プラントでの戦闘だった。あの戦いでは確かに興国の旅団と激しい戦闘を繰り広げ、相手に多大な被害を与えた。その一件のことを言っているのであれば、自分たちに恨みを持つのは当然ともいえる。

 

自分はもう助からない。直感的に彼はそう感じた。恨みと憎しみを持つ人間がすることはただ一つ、復讐のみなのだ。

 

だが不思議なもので、いざ死を前にすると、もっと恐怖に支配されるものだと思っていたが、頭は妙に冷えていた。アドレナリンが出ているせいなのだろうか。

 

テロリストの男がトグサの顎をつかみ、乱雑に押し上げる。相手の顔を強く睨みつけるものの、相手は冷たい眼光で見つめてくるだけで、特に何かを仕掛けてくる様子はなかった。

 

やがて、顎から手が離される。このころには、恐怖と緊張で体の感覚が遠のいていた。自分のものとは思えない達観した感情が意識を支配し、ただ死ぬのを待つだけだったのだ。

 

「お前、公安の人間なのに電脳化しかしていないようだな。なぜだ?」

 

突然そう訊かれたトグサは、若干戸惑った。テロリストにそのようなことを訊かれるなど、予想もしていなかったのだ。だが、すぐに言った。

 

「お前らに答える必要はない」

 

相手がふっと笑った瞬間、顔面に強烈な衝撃を受けた。思わず押し倒されたが、赤蠍がナイフを解いたのか首に刺さることはなかった。あまりの強烈さに、最初誰が殴ったのかもわからなかった。だが、目眩を感じる中で起き上がると、先ほどの男がやったのだとわかった。握っているライフルの銃床に血が付いていたからだ。

 

トグサは口の中の血を吐き出すと、再びナイフを突きつけられる。

 

「面白い奴だ。こいつは生かしておく。そのまま連れてこい」

 

男がそう言うと、すぐに仲間たちが目隠しを被せて視界を奪った。そして、無理やり猿ぐつわを噛まされる。暗闇の中、彼はもはや抵抗することはできず、押されるがままに歩き続けるしかなかった。それでも、彼は諦めなかった。自分の聴覚情報を電通を使って、少佐たちに送信し続けていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全機、発電機を解列。タービンを停止しろ。原子炉は低出力保持だ」

 

中野の指示のもと、仲間の職員が手元のコンソールを操作し始めた。それとともに、けたたましいアラームが響き、発電機出力とタービン回転数を示すグラフが急激に下がる。原子炉出力も定格出力から大きく低下し、タービンバイパス系制御に切り替えられた。

 

「発電機解列、タービン停止、確認!」

 

「主冷却系圧力・温度ともに異常なし」

 

ここは新大浜原発の大深度地下にある総合制御室。普段は厳重なセキュリティによって守られ、アンドロイドのオペレーターと人間の運転員がそれぞれ半分の割合で原子炉の運用を行っている。しかし、今日は全く様子が違っていた。

 

覆面をかぶり、アサルトライフルで武装した男たち。彼らが制御室に入ってきたのは、5分ほど前のことだった。入ったといっても、正確には制御室側から入れてもらったという方が正しい。制御室長の中野をはじめ、職員の数名がこのテロリストたちの襲撃とほぼ同時に、この制御室を占拠していたからだ。

 

モニターには、発電が完全に停止したことを知らせる警告が表示されている。これで新浜周辺地域への送電は完全に停止した。最新の電脳都市であろうとも、電気がなければただの鉄とコンクリートの塊である。そのことを、せめて今日一日は思い知るべきだ。中野はそう考えながら、モニターの表示を見つめていた。

 

一世代前の原子炉であれば、主給水ポンプの切り替えとそれに伴う炉内流量の調整、所内電源の切り替えなど様々な操作が要求される。しかし、今日ではすべてAIが制御してくれるため、人間は操作が確実に実施され、各種データが既定の条件を満たしているか監視するだけでよかった。

 

そんな中、制御室のドアが開く。入ってきたのはこのテロリストたちのリーダーの岸田という男と、その仲間が2人。よく見ると仲間たちはもう1人、男を連行していた。手錠を後ろ手に掛けられ、目隠しと猿ぐつわを噛まされているが、間違いない。あれは自分を聴取した公安の捜査官だ。

 

ひとまず殺されずに済んだことに安堵しつつも、顔面には血が流れ、着ていたスーツは見るも無残に乱れてしまっている。彼は緊張を解かずに上着の内側に銃を忍ばせたまま、近づいてきた岸田に言った。

 

「送電は止めた。原子炉は低出力で稼働中だ。これから制御システムのフルコントロールを奪い次第、例の操作をする予定だ」

 

「計画通りだな。ならば、問題ない」

 

岸田は満足げな表情を浮かべながら、メインモニターを見つめていた。主制御システムの最高権限を守る緊急管理鍵は、16ブロック中14ブロックまで突破済みを示す赤色に変わっている。さすがのヘプトンケイルをもってしても、30分以上はかかってしまうほどの強固な認証だが、残りはあと5分ほどだ。

 

コントロールの引継ぎにやや手間取ったものの、警備系のシステムはほぼ完全に掌握しており、防空システムをはじめ監視カメラや警備アンドロイド、それに警備用多脚戦車までも意のままに操ることができていた。今や、原発の高度な警備システムすべてがテロリストたちのものと化していたのだ。

 

「それより、その男はどうした」

 

そんな中、中野はトグサを指しながら、さりげなく訊いた。

 

「ああ、こいつか。こいつは途中で見つけたネズミだ。珍しいことに、こいつはお前と同じく電脳化以外は生身らしいな。公安の連中でもそんなやつがいるとは知らなかったぜ」

 

薄笑いを浮かべながらそう答える岸田に、彼はやや口調を強くして釘を刺す。

 

「何度も言っているが、無駄にここの連中を殺さないでくれ。彼も同じだ。お前たちに危害を加えていないのなら、殺す必要はないだろう。それが守れないのなら…」

 

「消火設備を起動させ全員を窒息死させるのだろう?分かっているさ。こちらの邪魔をしない限りは殺さないでやろう。ただ、少しでも怪しい奴は容赦しない。それが取引だからな」

 

岸田はそう言うと、仲間たちに顎で示して公安の男を制御室長室に連れていった。だが、扉が閉まるのと同時に鈍い音が聞こえる。どうやら、仲間があの男を殴りつけたようだ。

 

「おい!」

 

思わず追いかけて岸田の肩をつかんだが、途端に強い力で跳ね除けられて、操作盤に打ち付けられた。それに気づいた仲間の職員が岸田に銃を向ける。

 

「邪魔するんじゃねぇ。邪魔する奴はお前だろうと潰す。あの公安の男には少し“借り”ってやつがあるんだ。殺しはしねえが、少しいたぶってやるぜ」

 

そう言い放った岸田は、制御室長の席に座ると周りのモニターを見渡す。仲間の手を借りて起き上がった中野は、歯を食いしばってその様子を見つめることしかできなかった。

 

それでも、こうなる可能性もある程度は見越していた。それも踏まえて、所内の二酸化炭素消火設備を自分の電脳に直結し、自分が殺されたときか、コマンドを入力した時に起動するようにセットしたのだ。大深度地下では空調システムがなければ換気もままならない。ましてや、消火システムが起動したときは区画が完全密閉されて二酸化炭素が充満させられるので、生身だろうと義体化していようと、脳が酸素を必要とする以上、窒息は避けられない。

 

そのほかにもいくつか保険はあるが、手の内を晒すことになるのであの連中には知らせてはいなかった。だが、この脅しだけでもそれなりに効果があるのか、今のところは無駄な殺戮は控えているようだ。ただ、運悪く封鎖した警備室を抜け出した勇敢な警備員たちは命を落とすことにはなったが。

 

「室長、2号機がコマンドを受け付けません」

 

そんな中、部下からの不穏な報告に中野はメインモニターに目を向けた。だが、タービンの回転数は0を示し、発電機は解列され電力網からは切り離されている。その上、原子炉出力も低下し、こちらのコマンド通りにすべての操作は実行されているように見えた。ところが、その部下の手元のモニターを確かめると、定格出力で運転中という情報が表示されており、明らかに矛盾していた。

 

「どうなっているんだ?」

 

今まで経験したこともない事態に、彼は混乱する。だが、冷静に深呼吸を一度だけすると、まずは原子炉が定格で動いているのかどうかを確かめることにした。原子炉が定格運転しているのであれば、必然的に炉内に流入する冷却水の量は多くなる。この発電所では営業運転中はタービン動主給水ポンプを2台フルで使用しているが、低出力での運転であれば出力に応じて1台のみまたは電動給水ポンプに切り替わっているはずなのだ。

 

それを確かめるべく、彼は手元の端末を操作して2号機の冷却系の運転情報を表示させた。やはり、タービン駆動主給水ポンプは2台とも稼働し、電動ポンプは起動していないようだ。

 

念のため、今度は送電系統の状況も調べたが、メーターはどれも通電状態を示していた。つまり、2号機だけは発電機が停止せず運転し続けていたのだ。しかし、この総合制御室から信号を送っても停止しないということは考えられない。もしかすると、制御系に何者かが侵入している可能性がある。 

 

中野が考え込んでいると、しびれを切らしたのか岸田が苛立った様子でやってきた。この原発からの送電が完全に止まらなければ、大停電テロは不完全なもので終わってしまうからだ。

 

「おい中野、何が起こっている」

 

「2号機だけ止まらない。メインモニターの情報はダミーだ。どこからか、偽の情報が流されている」

 

岸田の問いにそう答えた彼は、端末を操作して調べようとするが、全くお手上げだった。そこで岸田が止めに入る。

 

「もういい。それより、炉を止める方法を考えろ」

 

岸田から意外な言葉に、中野は一瞬だけ耳を疑った。驚くことに、原子炉を暴走させるのではなく、止めろと彼は言ったのだ。だが、考えてみると彼も馬鹿ではない。制御できない原子炉を野放しにしておけば、計画通りに事が運ばなくなる可能性があるのだ。それを考えると、荷物になるものは切り捨ててしまうという考えは合理的だった。それに原子炉は2号機を除いても5機は稼働しており、政府を脅す材料にはまだ余裕があるというわけだ。

 

「おそらく、2号機の補助制御室に行けば手動で緊急停止できる」

 

彼は即座に答えた。ここのシステムは完全に頭の中にあるのだ。

 

「そこも効かない可能性はないのか?」

 

「各原子炉の補助制御室はバックアップも兼ねて別系統で動いている。可能性はある」

 

「なら仲間2人を連れてそこへ行け。我々はその原因を潰す」

 

その答えに、中野は思わず訊き返した。

 

「心当たりがあるのか?」

 

「まあな」

 

岸田はそのまま装備を整えると、仲間を集めて指示を出している。制御室に残る部隊、中野に随伴する者、岸田とともに討伐に向かう者の3つに分けられると、すぐに装備を整えて部屋を出ていく。中野もそれに続いていったが、一つ頭に引っかかることがあった。

 

だが、今は自分の目的を果たすために集中しなければならない。中野は一度、それを頭から離すと、2号機の制御室での手順を思い浮かべた。

 




2018/9/23 一部加筆修正
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