翌日、事件の捜査は急転した。午前6時頃に生き残った警備員から得た証言とほぼ同じ車両が、事件現場から10キロほど離れた県道のIRシステムに引っ掛かったのである。
だが、即座に非常線が張られたものの一向に逃走車両は見つからない。昼前になってようやく、近くの街の駐車場に乗り捨ててあるのが発見されたが、そこには頭部を撃ち抜かれた犯行グループと思しき3人の死体が乗せられていたのだった。
盗まれた爆薬は車からは発見されず、また電脳も潰されていたので記憶を調べることはできなかった。駐車場の防犯カメラの映像も当然ながら捜査対象に入ったが、ローカル記録だけでなく、外部サーバへ送られるはずの同期データまで破壊されていた。通常の削除なら痕跡は残る。だが、今回は監査ログごと念入りに潰されており、9課の鑑識陣ですら復元は困難だった。
殺された男達の身元だけは判明し、ほとんどが傭兵や退役軍人だということは分かったものの、それ以上の情報は掴めなかった。ただ現場の状況から考えると、彼らは仲間によって殺された可能性が高かった。傭兵という職務上、彼らはみな高出力の義体を装備しており、加えて自動拳銃やSMGを隠し持っていたことが分かっている。そんな彼らが全くの無抵抗で殺されるというのは、仲間割れ以外では考えづらいのだ。
所轄署には目撃者がいないか聞き取り捜査をさせているが、今のところそれらしき証言は得られていなかった。またもや、捜査は暗礁に乗り上げてしまったのだ。
「俺たちが捜査に加わった途端これだ。まるでトカゲの尻尾切りだな」
高性能身代わり防壁付きの本部の巨大なダイブ装置に座っていたイシカワが、1人そう呟いた。死体は黒幕や情報源を吐かない。課長や少佐がいつも口にする言葉だった。自分達としては、何としても殺される前に身柄を押さえたいところだったが、みすみすしてやられたわけだ。
しかし、犯行グループが消された以上、その上に別の指示系統があると見るべきだった。単純な仲間割れという線も考えられなくもないが、3人のサイボーグを殺して証拠も完全に消し去ることなど、普通の人間にできる業ではない。だとすればこの3人は何らかの組織に雇われ、口封じに殺されたと考えた方が筋は通る。少佐の見立ては正しかったのだ。
おそらく、黒幕は犯行グループの1人を殺されたことで顔が割れ、他のメンバーも逮捕されて情報が漏れることを恐れたのだろう。随分と短絡的な理由だが、消し方は完璧だと言わざるを得ない。それに盗まれた爆薬をちゃっかり回収しているあたり、黒幕はまだ何かを企んでいるはずだ。犯行グループを皆殺しにしてまで隠したい何かを。
「だが、ここまで手掛かりがねえと、どうしようもねえな」
彼はダイブ装置から起き上がり、軽く背筋を伸ばす。いま分かっているのは殺された男たちの身元と犯行に使われたバンが盗難車だったということだけ。黒幕に繋がるような情報は何一つ得られてはいなかったのだ。
気付けばもう6時間は、この穴倉のようなブースで情報収集に当たっていた。時計を見ると、すでに午後2時を回っている。
こういう作業をしていると、朝も昼も食べ忘れることがある。情報部時代には日常茶飯事だったし、本人としては別に何とも思っていなかったが、少佐やバトーからは冗談半分に「ご老体なんだから無理をするな」と言われている。そのため、最近は食事だけは欠かさないようにしていた。
自動ドアを抜けて、休憩所に向かったイシカワはその途中でトグサに会った。笑い男事件の時はその強い正義感が仇となり、半ば私兵団と化していた麻薬取締局強制介入班の襲撃で瀕死の重傷を負いながらも、記憶を守って捜査に大きく貢献した9課の新人。今では一人前の隊員として捜査活動にあたっている頼もしいメンバーだった。
「何か情報は得られたのか?」
缶コーヒーを片手に、そう訊いてくるトグサ。目の下に深い隈ができているあたり、彼もそれなりに疲れているようだ。
「いいや何も。そういえば少佐はどこに行ったんだ?」
「確か、課長と一緒に県警と打ち合わせをしに出かけたような気が。それより、随分疲れてんなあ。あんまり無理するなよ、旦那」
「ああ、言われなくてもわかってるさ」
新米に心配されるなんて、自分もそろそろ歳だろうか。そんなことを考えつつトグサの横を通り過ぎようとしたとき、彼が缶コーヒーとは反対の手で何かを持っていたのが見えた。一瞬だったのであまりよく見えなかったが、おそらくあれは娘の写真だろう。そういえば、この間長女が幼稚園の発表会の劇で主役をやるとか言って、かなり喜んでいたのが思い出される。これだから所帯持ちってやつは…、とイシカワは呆れていたが、同時に彼の事を微笑ましくも思った。
休憩所の自動販売機で適当な飲み物を買った彼は、通勤時に買っていたコンビニ弁当を食べ始めた。課員共用の冷蔵庫に長い間入れていたので、すっかり冷え切っていてご飯は固くなっている。今度はご飯ではなくサンドイッチにでもしようかと考えていると、カシャカシャと音を立てて廊下の向こうから1機のタチコマがやってきた。
「イシカワさん、お疲れ様です~。そういえば、前から気になっているんだけど、食事をする時ってどんな気分ですか?」
「え、どんな気分って言われてもなぁ…」
相変わらずこいつらは突拍子もない質問をしてくる。少々困惑しながらも、彼は箸を止めて答えた。
「そう言われても、当たり前のこと過ぎて何も考えてねえかな。まあ、強いて言えば、3食欠かさずに食べられることに感謝しているといったところか。戦争中じゃ、いつ食事にありつけるかも分からん時もあるしな」
「ふ~ん、そうなんだ。ボクたちはAIだから、食事を取ることはできないけど、つまりバッテリーの充電にあたることなのかな。でもさ、人間って食事に単なる生理的欲求を満たす行為だけでなく、何か他の意味も求めているようだけど、それって知ってる?」
矢継ぎ早に質問を投げ掛けてくるタチコマ。イシカワはタチコマの質問に真面目に答えたことを少し後悔していた。身近なことに興味を持つのは良いことだが、このままではいつまで経っても昼飯を食べ終わる気がしないのだ。ここは、適当なことでタチコマを誤魔化してさっさと飯を食うしかないだろう。
「あー、それは多分コミュニケーションとかそういうことだろ。皆で飯を食うと会話も弾むし、だから宴会とかそういうのがあるじゃねえのか」
それを聞いたタチコマは、突然手を叩いていかにも納得したかのような仕草を見せる。いつどこでそんな仕草を覚えたのか、まったくイシカワには見当がつかない。
「なるほど~、つまり食事には情報の並列化を促進させるという意味合いも含まれているってことだったんですね。それにしても、何かきっかけがないと並列化できないなんて、人間は情報共有に関しては随分と面倒くさいプロセスを経るんですね。やっぱり、空腹が満たされる満足感から気分が弾んで、普段話さないことも食事の場でなら話しちゃうのでしょうか…」
「ま、まあな…」
「そうだ!今思いついたんですが、今度から取り調べの時は皆でご飯にしてみるのも良いのではないでしょうか。あ!だから人々が持つ一般的な警察の取り調べのイメージの中に、カツ丼が出てくるというものがあるんですね。おかげで謎がまた一つ解けました。イシカワさん、ありがとう!」
「……。」
いや、最後のはちょっと違うだろ。変な学習させて、後で少佐やトグサに怒鳴られないだろうか…。と、ややイシカワは心配になったものの、ひとまずタチコマは手を振りながらハンガーの方へ戻っていったので、昼食を再開することができた。どうやら、タチコマはこのことだけを訊きにわざわざやってきたようだった。相変わらずマイペースだ。
タチコマといえば、9課襲撃の時に海自の海坊主に殺されかけていたバトーを助けたことが思い出される。個性化が進み、兵器としての性能に疑問を抱いた少佐によってラボ送りにされたが、それでもなお彼らは自分たちの大好きなバトーを守るために、手に入れかけた命《ゴースト》までかけて、彼を救ったのだ。
そんな感傷に浸っているイシカワだったが、突然、荒巻課長から緊急の通信が入った。
《新浜市内のトクラエレクトロニクスの本社ビルで爆発があった。トグサとボーマはタチコマ3機を連れて現場へ向かえ。イシカワは情報収集を急げ!》
こうしてはいられない。すぐさま彼は食べかけの弁当を休憩所に放置すると、例の『穴倉ブース』へと急いだ。
現場には既に大勢の野次馬が集まり、救急車や消防車、それに警察車両が多数駐められている。車を降りたトグサとボーマは現場を封鎖している警官に身分証を見せ、規制線をくぐった。人ごみのせいで到着時にはあまり見えなかったが、ビル低層階の窓ガラスは全て粉砕され、正面玄関は跡形もなく吹き飛んでいる。
トグサはゆっくりとビルを見上げてみる。聳え立つ54階建ての超高層ビルの上部には、トクラエレクトロニクスの銀色のロゴが大きく描かれていたが、未だに立ち上る灰色の煙によってその輝きはくすんで見える。上空には警察や放送局のヘリが旋回しており、割れた窓から落ちてくるのか様々な書類がひらひらと宙を舞っていた。周りの建物も少なからず被害を受けており、窓ガラスがことごとく割れ窓枠も外れている。
足元に視線を落とすと、無数のがれきが散乱しており、足の踏み場のない危険な状態だった。同時にしばしば目に入るのが、真新しい血の跡だった。踏み潰されてクシャクシャになった書類が、消火用水で濡れた地面に貼りついている。その上に落ちた血痕が、赤く滲んでいた。
「調べてみない事には何とも言えんが、おそらくTNT換算で40~50キロってところだろう。低層階でこれだけ吹き飛んでるとなると、柱にダメージが入ってりゃ、二次崩落もあり得るぞ」
「それにしても、無関係の市民を巻き込むなんて本当にタチが悪いな」
トグサがそう言った先には、遺体袋に詰められる犠牲者の姿があった。救急隊員の手当てを受ける市民たちも、降り注いだガラスにやられたのか見るに堪えない怪我を負っている。こんな事件を起こした犯人は、いったい誰なのか。トグサはそいつを早く見つけ出し、報いを受けさせてやろうと本気で憤っていた。怪我人の中には幼い子どもの姿もあり、血を流しながら泣き叫んでいる姿が心に痛む。
「ボーマくん、これってもしやあの工事現場で盗まれた含水爆薬が使われたのでは?」
「その可能性も高いが、これだけではまだ詳しいことは分からんな…」
現場に入ったタチコマはビルの残骸を掴みながらそう言ったが、ボーマは冷静に答える。ビルの中からは火災警報のけたたましい警報音が聞こえ、今もなお救急隊員が破壊された玄関を通って、慌ただしくビルから担架に乗せた負傷者を運び出している。トリアージを行う仮設の救護所には人が溢れ返り、怒号や叫び声が絶えず響き渡っていた。
「まるで、野戦病院だな…」
ボーマですらもこの悲惨な状況に息を呑んでいた。そんな中でも、警察の規制線の外では野次馬たちが集まり、カメラを手に写真を撮ったりする者もいる。中には心配して駆け付けた家族などもいたが、大半が興味本位で訪れた無関係の者たちだった。
《えらいことが分かった。犯行声明が人類解放戦線から出たぞ》
電脳通信を経由して、イシカワの声が2人の脳内に響いた。
だがそれと同時に、現場に1発の銃声が響き渡る。
たちまち辺りから上がる甲高い悲鳴。集まっていた野次馬たちが一斉にパニックを起こし、我先にと逃げ始める。救急隊員や消防隊員たちは混乱の中、目の前の患者を守ることで精一杯だった。トグサ達が銃声のした方向を振り向くと、1人の青年が通行人の若い女性の頭に銃を突きつけ、封鎖線を潜ってこちらに向かってきていた。警戒に当たっていた周りの警官たちが拳銃を向けるが、人質を取られている以上、下手に行動を起こすことはできない。
「やめろ!武器を捨てるんだ!」
トグサとボーマもそれぞれ拳銃を抜き出して男に向けるが、相手は怯む様子を一切見せずにビルの前の階段を上り始める。タチコマも右腕に備えられた7.62ミリチェーンガンを男に向けるが、それでもなお怯える様子は見せない。まるで、死など恐れていないようだった。
「我々は人類解放戦線の一派、亡国の使者だ。神から与えられた運命に背き、義体化や電脳化などを進めるお前たちに与えられるものは『死』ただそれひとつ!これより我々はお前たちの命の源を一つずつ着実に、この世から消し去っていくだろう。それが、神のお与えになった運命に背いた、貴様らに下る天罰だ」
男は階段を上ると、逃げ惑ったりその場に伏せて隠れたりしている群衆に向かってそう叫んだ。そして、銃を持つのと反対の手で上着のポケットからリモコンを取り出すと、そのトリガーに指を掛ける。
「危ないっ!」
タチコマは一瞬で射線上の人影と背後の壁面との位置関係を照合し、付随被害が生じない最小限の弾数を撃ち込んだ。見事に手首から先が吹き飛んだ男の手から、粉々になったリモコンが地面に落ちる。それと同時にトグサとボーマが男に飛び掛かろうとしたが、態勢を崩したものの男は女性の頭にしっかりと銃口を当て続けており、手出しすることができなかった。
「ぐああっ!そ、そうか。なるほどな。貴様らが、沖縄ベースを襲撃した例の警察の特殊部隊か…。あの、青い戦車、見覚えがあると思ったら、そういう事だったのか」
男は撃たれた右手を庇いながらそう言った。トグサやボーマには最初、彼の言っている言葉の意味がよく分からなかったが、話から考えるにどうもこの男は自分達9課に深い因縁があるらしい。
「爆発物使用および殺人未遂の容疑で逮捕する。武器を捨てて投降しろ!」
タチコマが右腕のチェーンガンを相手に向けたままそう言ったが、男はまったく動こうとはしない。そんな中、近くに伏せていた野次馬の1人が何を血に迷ったか、男を取り押さえようと不穏な動きを見せる。それを逸早く察知した男は、空に向かって1発発砲すると、覚悟を決めたのか女を突き倒して自らのこめかみに銃口を当てた。
「貴様らに捕まるくらいなら、ここで死ぬまでだ!」
2人の制止も聞かず、男は嬉々とした表情を浮かべながら自分の頭を吹き飛ばした。
すぐに駆け寄った2人は女性を保護すると、頭から血を流して倒れている男の死亡を確認した。上着の隙間からは体に巻かれた円筒形の爆薬が見えたが、手中のリモコンは見事に破壊され、コードは切断されていた。
「えっへん!サイトーさん以上の射撃精度、凄いでしょ!」
「それ、サイトーの目の前で言ったら狙撃されるぞ…」
「う…」
自慢げに話すタチコマにそう言ったトグサは、周りの警官たちにパニックに陥っている野次馬たちをすぐに現場から遠ざけるよう命令した。また、倒れた男の所持品を調べると拳銃の予備弾倉1つと財布が見つかったものの、身分を特定できるようなものは何一つ持っていなかった。電脳化や義体化も一切していないようで、記憶を吸い出すことも不可能なようだ。
《おい、トグサ!何があった!?大丈夫か?》
《ああ、大丈夫だ》
イシカワからの電通にそう答えたトグサは、倒れた男の所持品に目を通しながら続けた。
《それより、今すぐ人類解放戦線の『亡国の使者』という組織について洗ってくれ》
《わかった。だがトグサ、いったい現場で何が起こった?銃声が聞こえたぞ》
《テロリストの襲撃だ。おそらく、騒ぎで人が集まった所を再び攻撃して、被害を拡大させる計画だったんだろう。犯行声明の後、自爆しようとしやがった》
流石のイシカワも虚を突かれたのか、電通の向こうからも驚きの声が聞こえた。
《そうか…。引き続き襲撃には気を付けろよ》
《ああ》
電通を切ったトグサは、一通り倒れた男のチェックを終えると、周りの警察官にその後の処理を任せて車に戻った。まったく、何てとんでもない一日なのだろうか。爆破テロの次に自爆テロを起こそうとするなんて、どうかしている。募りゆく怒りを抑えて、車に乗り込んだ彼はアクセルを踏み込んだ。
本部に着いた頃には、イシカワも犯行を行った組織について調べ終わっていた。驚くことに、公式には人類解放戦線に亡国の使者という組織は存在しないらしい。だが、数日前に兵庫県内の港湾地区で逮捕された武器商人に聴取したところ、どうやらその組織は人類解放戦線の亜流セクト、興国の旅団の残党によって結成されたということが分かった。
興国の旅団といえば、十数年前に今回爆破されたビルのトクラエレクトロニクスの社長令嬢を誘拐したことで知られている。だが、沖縄沖の放射能除去プラントで自分たち公安9課によって戸久良エカ本人とリーダーを務めていたその娘は救出・逮捕され、激しい戦闘で組織も壊滅的な打撃を受けたはずだった。
「なぜ、今頃になって連中がテロを?普通ならば、組織を再建するためにしばらくは波風を立てないようにするはずだが」
ネットへダイブしているイシカワの後ろで、トグサは腕を組みながら深く考え込んでいた。壁面のモニターの光のみが照らすこの薄暗い部屋では、影が強調されて思考に耽る彼の輪郭が強調されて見える。
「それが謎なんだな。それに、リーダーはおろか規模に至るまでまるで情報がない」
「例の武器商人は?」
「記憶を調べてみたのだが、取引相手とは必要最小限の接触のみで、それ以上の情報は得られなかった。それでも、取引された武器は判明したがな。奴ら、戦争でも始めるつもりなのか」
イシカワはそう言うとダイブ装置から離れ、代わりに壁のモニターに情報を表示させた。リスト化された膨大な文字列の中には、AK-47などの軽火器の他、対戦車ロケットやタチコマの装甲でも貫通可能な50口径弾を使用するM2重機関銃までもが含まれていた。極めつけは、高速徹甲弾ことHV弾が数万発である。
そのいずれも、入手ルートは関東招慰難民居住区からで、小型船で兵庫まで密輸されたものだった。難民居住区にも警察は置かれているが、駐在所は中心部から離れた郊外にあり、実質的にはほとんど機能していなかった。夜の難民街は、いまも半ば無法地帯であり、殺人さえ珍しい事件とは言い切れない。日中は幾分良いが、それでも到底安全とは言い難かった。
そんな難民居住区からいくら武器が密輸されても、おかしいことではない。
「驚いたな。この情報に間違いはないんだよな」
「ああ、奴の倉庫に残されていた取引データを、さっき解読したばかりだ。本人も間違いはないと言っているし、近隣の防犯カメラの映像でもそれらしき荷物が輸送されている様子が映っていたぞ」
だが、ここで一つ不可解な点があった。調査の結果、テロリストが自爆に使おうとしていた爆薬は連続爆薬盗難事件で盗まれたものと完全に一致していた。つまり、『亡国の使者』は例の爆薬盗難事件に何らかの形で関わっていると見て間違いなかった。
一方で、今朝判明した犯行グループの構成員は、全員がサイボーグだった。義体化や電脳化に反対するテロリストたちが、サイボーグの犯行グループと結びついている。その矛盾は、どうしても見過ごせない。
謎は深まるばかりだった。これ以上考えても無駄だと考えたトグサは、気持ちを切り替えるために外から持ち帰ってきていた缶コーヒーに手を伸ばす。無糖ブラックの苦味が、絡まった思考をわずかにほぐした。
「輸送先の特定はできたのか?」
コーヒーを飲みながら、彼はイシカワに訊いた。
「いま、オペレーターたちにやらせている。もうすぐ終わるはずだ」
イシカワが言い終わったのと同時に、オペレーターから輸送車両の追跡終了との連絡が入った。すぐさまモニターに投影させると、そこには新浜の地図が映し出されていた。やがて、広域表示されたそれには、兵庫の武器商人の倉庫から新浜大橋を渡って新浜区内に入る輸送車両の通ったルートが表示されている。これも、全国的に展開されている強力な公安監視網のおかげだった。
Nシステムやオービス、それに
新浜市内を右往左往していた車両の軌跡は、やがて新浜市郊外の未開発エリアへと入っていく。厄介な所に入ったとトグサは思った。中心部こそ高層ビル群が軒を連ね、高度な通信インフラが整備されている新浜だが、周辺の一部地域にはいまだに大戦時のダメージから回復し切れずに、半ばスラム街と化しているのだ。
浅いところにはIRシステムが設置されてはいるものの、深いところにはそういった類の監視システムは一切設置されていない。そして案の定、軌跡はそこで途絶える。
「何てこった。すぐに少佐に報告しないと…」
電通で少佐と通話するトグサの顔には、冷や汗が伝っていた。
2018/9/1 一部加筆修正