攻殻機動隊 -ヘリオスの棺-   作:変わり種

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第42話

「クソ!どんだけデカい図体をしてやがる!」

 

バトーが悪態をつきながら、足場と足場の間を飛び越える。先ほどまでいた足場はアームの直撃を受けて大きくひしゃげ、間もなく崩れていった。セブロを操縦席に向けて放つものの、もう片方の腕が覆い被さって銃弾を逸らし、完全に防がれてしまう。

 

タチコマがいたら、状況は変わっていただろう。しかし、彼は自分の盾になってあのアームの直撃を受け、押し潰されてしまったのだった。身を挺して守ってくれたことにバトーは感謝しきれない思いだったが、同時に自分を情けなくも思った。油断せず周囲を警戒し、アームが迫っていることを気づいていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのだ。

 

バトーは手榴弾からピンを引き抜くと、レバーを握ったまま階段を駆け上がる。ちょうど後ろからアームを伸ばす機械音が聞こえてきたので、振り返りざまに彼は手榴弾を投げつけた。伸ばされたアームを避けた手榴弾は、まっすぐに操縦席のもとへ向かっていく。ガラスは先ほど粉砕したので、そのまま届くはずだった。

 

だが、そこで思いもかけないことが起こる。

 

操縦席を覆うように折り畳み式の装甲が展開され、投げ込まれた手榴弾が弾かれてしまったのだ。無惨にも跳ね返ったそれは空中で炸裂し、大量の破片をまき散らすものの装甲に阻まれて肝心の赤蠍には届かない。

 

どうやら放射線が大量に出るようなシビアアクシデントの時に、操縦者を保護する鉛入り複合遮蔽板らしい。瓦礫への防護も考慮して、表面には鋼鉄製のプレートが埋め込まれており、並みの銃弾では貫通できないようだ。

 

舌打ちをしたバトーは、そのまま階段を上り切って原子炉の真上までたどり着いた。分厚いコンクリートの床は緑色に塗られ、奥には使用済み核燃料を保管するためのプールがある。中央部にはシールドプラグと呼ばれるマンホールのような巨大な円形のコンクリートが埋め込まれており、格納容器上部を覆う遮蔽蓋に当たる部分だという。もちろん、このすぐ真下に炉心があるわけではなく、原子炉格納容器や圧力容器など、何重にも防御壁がつくられている。

 

そこへ、赤蠍の操るアームスーツが迫ってきた。足場や配管に巨大な腕や脚を乗せ、亀のようにゆっくりと登ってくる相手。一見無防備なようにも見えるが、あの腕のリーチは想像以上に長く、下手に近づけば串刺しにされてしまう可能性があった。バトーはひとまず逃げ場を探そうと周囲を見回す。あいにく先ほどまでの下層部と違い、ここには身を隠せる遮蔽物が少なかった。だが、天井に渡された巨大なクレーンが目に入ったバトーは、すぐさまその制御室を探した。

 

ちょうどそれは、赤蠍が来るのとは反対側の方向にあった。急いで駆けるものの、その時には赤蠍も足場を登り終え、自分のいる最上部のフロアにたどり着いていた。地響きを轟かせて一気に追いかけてくる赤蠍。真下に原子炉があることなど気にも留めていないようで、侵入禁止のフェンスを蹴り飛ばして右のアームを伸ばす。

 

まるでハエ叩きでもするように、赤蠍は巨大なアームをバトー目がけて振り下ろした。それに気づいた彼は、素早く横に転がって躱す。地震のように辺りが揺れ、コンクリートの床が深々と抉られた。

 

牽制とばかりに、バトーはセブロの弾倉に残った弾を操縦席目がけて撃ち尽くすと、すぐに走り出した。反対のアームで攻撃を防いだ赤蠍も、後を追いかける。金属製のステップを駆け上がり、クレーンの制御室までたどり着いたバトーは、あることをひらめいた。

 

すぐに制御盤を探した彼は、首元から伸ばしたQRSプラグを迷うことなくそれに差し込む。天井に渡されている巨大なポーラクレーンは、点検や燃料の再装填時などに使われるものだが、通常はAIが操作を担当し自動化されている。バトーはまず電源を入れると、総合制御室での集中制御になっていた動作モードを変更し、現場盤だけで操作可能なようコマンドを送った。

 

そこへ、赤蠍が力の限りにアームで殴りかかってきた。迫りくるアームにバトーが伏せるのと同時に、制御室の窓が粉々に砕け散り、コンクリート片とともに窓枠が吹き飛んだ。アームを引き抜いた赤蠍は、もう一度殴りかかろうと大きく振りかぶる。

 

安全インターロックのうち最低限だけを残し、バトーは現場操作権限を奪った。同時に所内ネット経由で自分の電脳にも直結したので、この制御盤と有線で接続しなくてもクレーンはコントロールすることができる。

 

バトーはQRSプラグを抜き取ると、すぐにコマンドを送ろうとする。だがそこへ、赤蠍の二撃が来た。辛うじて持ちこたえていた窓側の壁がぶち抜かれ、アームの先端が部屋の奥の壁に突き刺さる。咄嗟に躱したものの、瓦礫から這い上がって出口から顔を出したころには赤蠍は目の前まで迫っていた。

 

気づいたバトーがすぐに飛び退こうとしたが、赤蠍の方が一瞬だけ早かった。扉ごとアームでバトーを吹き飛ばし、近くの壁に叩きつける。辛うじて意識は保ったものの、全身を打ち付けたバトーは動けない。

 

そこへ、アームが伸ばされてくる。バトーは薄れる意識の中で、最後の力を振り絞ってクレーンにコマンドを送る。もしかしたら、間に合わないかもしれない。だが、こいつを道連れにできるなら、それに越したことはなかった。バトーは覚悟を決めていたのだ。

 

伸ばされたアームの先がバトーの体を捕らえる。そのまま体を挟み込んで圧し潰そうとしたときだった。すんでのところで、動き出したポーラクレーンに備えられた大型マニピュレータが赤蠍の操るアームスーツに激突したのだ。後ろにひっくり返ったアームスーツは、すぐに起き上がろうとするものの、真上から迫るマニピュレータがそのボディを押さえつける。

 

そのままの出力で降下を始めたマニピュレータとコンクリートの床との間に挟まれた赤蠍のアームスーツは、まるでプレス機にかけられたような有様になった。懸命に逃げ出そうともがくが、相手は何十トンもあろうかという原子炉の蓋を持ち上げるようなクレーンである。力の差は圧倒的なものがあった。

 

絶えず金属の軋む恐ろしい音がメキメキと響き続ける。やがて、鼓膜が突き破れるほどの凄まじい破壊音が響くと、アームスーツは完全に押し潰された。マニピュレータはようやく止まり、今度はアームスーツの残骸を掴み上げる。もはや、丸めた新聞紙のようにクシャクシャに潰れたアームスーツを、マニピュレータは本来取り外した原子炉の蓋を仮置きするであろう場所まで移動させる。

 

その様子に安堵したバトーは、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

張り巡らされた防壁迷路は、十分に機能していた。外部へのアクセスを完全に遮断し、相手側のすべてのゲートを塞いでいる。迂闊に強行しようものなら、迷路の中に引きずり込まれて一生抜け出すことはできなくなるだろう。その上、タチコマがすべての通信をモニターしているので、万が一のことがあっても対応できる。

 

少佐は赤蠍の電脳を物憂げな瞳でじっと見つめていた。そして、自分に流れ込んできたあの記憶を思い返す。

 

果てしなく続く砂漠、乾き切った喉、焼け死ぬような暑さ。そして、家族の元へと帰りたいという望郷の念。非常に生々しい記憶だった。最後に見せられたのは、延々と続くようにも思える凄惨な拷問。電流を流されたり、頭を水中に押さえつけられたり、奥歯の神経を引き裂かれたりと、飽きることもなく相手は彼を痛みつけ続けた。

 

あれは、おそらく中東だろう。少佐はそう感じた。この出来事がいつ起こったのかは分からないが、今も地球は歪な形をしているのだ。半分が電脳ビジネスで莫大な富を得る一方、もう半分は飢えに苦しみ、その日を生きるのですら危ない状況が続いている。

 

赤蠍から流れ込んだのは、そんな中東のどこかに送られた欧州連合の兵士の記憶だった。敵の攻撃で仲間が全滅し、一人生き残ったその男は何日も砂漠を彷徨ったのだろう。だが、彼は運悪く味方ではなくテロリスト側に見つかってしまった。

 

拷問を受けた彼は、凄絶な苦痛と底なしの絶望感の中でも自分の信念を突き通した。外部との通信が絶たれ、救援が来ないことを薄々感じながらも、殺されるまでのあいだ彼はテロリストに屈しなかったのである。だが、唯一の心残りは家族だった。彼のような強い兵士でも、家族への思いは断ち切ることができなかったのだ。処刑の日、彼は涙を流した。しかし、命乞いをするようなことはせず、やがて彼は体をバラバラにされて殺されてしまったのだった。

 

そんな彼は、死の間際にあることをしていた。

 

家族への思いを諦めきれない中、一か八か自分の記憶を自らの脊髄ユニットの小容量記憶領域に書き込んでいたのだ。ネットへの接続もできない中、それが彼にとって唯一の家族と繋がる希望だったのだろう。結果的に、解体された彼の義体はテロリストの手に渡ったが、その脊髄ユニットが調整のためにネットに最初に繋がった時、偶然にも成長途中だったヘリオスの種がその記憶を取り込んだのだった。

 

それだけではない。あの戦争で命を落とした大勢の名もない他の兵士たちの記憶や思念。ヘリオスの種はそれらをも取り込み、吸収していたのだ。死を迎える絶望と、おどろおどろしいまでの生への執着。限りない苦痛と恐怖、憎悪と怒り。記憶に含まれるあらゆる感情が、成長途中だったヘリオスの種の自我形成に大きな影響を与えた。

 

その結果、変異を起こしたヘリオスの種は、自らを人間であると認識するに至った。もう一度生きたい。生きて、愛する家族の元へ帰りたい。その強い気持ちが、成長途中だったヘリオスの種を人間のような人格を持つAIに変貌させ、他の同位体たちの制御下から離れるきっかけとなったのだ。いわばヘリオスの種は、あの戦場で死んだ兵士たちの集合的思念に動かされているといっても過言ではなかった。

 

自らを人間だと思い込んだヘリオスの種は、やがて自分を赤蠍と名乗り、傭兵として活躍し始めた。そもそも赤蠍とは、あの飢えに苦しんだ砂漠で彼が懸命に探し、最初に食料として空腹を癒した生き物だったのだ。もしかすると、そんな記憶が深層心理として働き、そう名乗るようになったのかもしれない。

 

だが、今となってはそれを確かめる術は残っていないだろう。

 

バトーから、赤蠍を仕留めたという電通が入った。同時に防壁迷路に囲まれていた赤蠍の電脳は急激に文字化けし、内部から崩れ去っていく。意味消失し始める電脳を、少佐は神妙な面持ちで見続けていた。形容しがたい複雑な感情がこみ上げてくる。どうか安らかに眠ってほしい。そんな願いを、少佐は赤蠍の記憶の中の兵士に届けたかった。

 

ところが、崩れゆく電脳が形を変えたかと思った瞬間、眩いばかりの光を放った。

 

周りを囲むタチコマが一斉にコンソールを操作するものの、光は収まらない。

 

「少佐!まずいです!赤蠍が…!」

 

タチコマがそう言いかけたところで、彼の持っていたコンソールが吹き飛んだ。懸命に操作していたほかのタチコマたちも、次々にコンソールを吹き飛ばされてたまらず逃げ出す。

 

「やられました!あいつ、あらかじめウイルスを所内ネットに潜り込ませていたみたいです」

 

「報告いいわ!今すぐ奴を止めるわよ」

 

強い口調でタチコマにそう言い放った少佐。もう、ここまでにしてほしい。少佐はそう強く願ったものの、赤蠍にその願いが届くことはなかった。意味消失しゆく中で、最後の力を振り絞るかのように防壁の一点に集中して攻撃が加えられる。

 

少佐はすぐに当該ゲートの防壁を強化しようと試みたが、所内ネットに潜んでいたウイルスがここぞとばかりに彼女を攻撃した。展開させた自衛用の攻性防壁と打ち消し合い、激しい閃光が走る。その間に、信じられないほどの速さで赤蠍を囲む防壁の一部が切り崩され、防壁全体が大きく歪んだ。

 

「引けッ!」

 

舌打ちをした彼女は、瞬時に間もなく起こるであろう出来事を察知して後退した。タチコマ達もそれに続いて撤退した瞬間、防壁が真っ二つに破壊されて激しく文字化けしたデータをまき散らし、その場に四散する。

 

同時に中から光の束が押し寄せ、彼女の真横を通り過ぎた。一部は防壁の残骸と激突して眩い光を放ち、意味消失する。それでも光の筋は留まることを知らず、最後の最後まで自らのどこかの電脳へ転送していく。

 

少佐は唖然とするしかなかった。防壁を無理やり突き破り、自己の一部を意味消失させてまで生き残りたいというのか。おどろおどろしいまでのこの執念は、もはやAIのものとは思えない。そこまでして、遺したい何かがあるというのか。

 

同時に感じる深い憤りに、少佐はすぐにタチコマを引き連れると赤蠍が転送した電脳をサーチし、該当空間に向かう。もう十分のはずだ。ここで死んでくれ。そう思う少佐だったが、その瞳はどこか苦悩に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セット完了だな」

 

バトーは制御棒駆動装置の電源盤を開け、中に少量のC4爆薬を貼り付けていた。トグサ経由で制御室長の中野から聞いた話では、もう炉が持たないという。主蒸気逃し安全(SR)弁の働きで圧力こそ抑制されているが、高温高圧の冷却材は圧力抑制室へ逃がされ続けている。炉心冷却材流量はなお不足し、最も熱い燃料集合体では被覆管温度が限界に近づいていた。

 

爆薬のセットを終えたバトーはその場から急いで駆け出す。間もなく、時限信管が起動してC4が起爆し、電源盤の蓋が赤橙色の炎とともに派手に吹き飛んだ。配線がショートして眩い光を放ち、火花が散る。

 

これで、制御棒への電源は絶った。電源を失った駆動装置の電磁石が制御棒を支えきれなくなり、自重によって原子炉の炉心に差し込まれるはずだ。バトーは一息つくと、背後の壁に力なく寄りかかる。すぐに効果が表れたのかどうかは分からない。ただ、区画を震わせていた低い唸りが、わずかに落ち着いたように感じられた。

 

腰を下ろしたバトーは、タチコマの方を見やった。ボディには大穴が空き、丸っこい装甲は一部が潰れて歪んでしまっている。また苦労ばかり掛けてしまったと、バトーは本当に申し訳ない思いだった。帰ったら、少佐には怒られるかもしれないが、天然オイルを渡しておこう。そう考えたバトーは、さっそくどんなオイルをあげようかと考え始める。

 

以前にも渡したオーガニックもののオイルにするか、それとも別の会社の新製品を試してみるか。いや、あの会社のは個人的に好きではない。などと、呑気なことを考えていたバトーの耳に、突然銃声が飛び込んできた。

 

反射的に飛び上がり、セブロを握りしめた彼はすぐに音のした方向に銃を向ける。下層部からだった。そこには、腹部を赤黒い血に染めた一人の男が立っていた。アーマーの上には大量の爆薬が巻かれ、右手でその起爆スイッチを握っている。足場の上から見下ろすような形になったバトーは、すぐに叫ぶ。

 

「無駄なことはやめろ!」

 

しかし、セブロの照準を男に合わせたものの、そこから下手には動けなかった。配管が密集する下層部で、あれほどの量の爆薬で自爆されたら、原子炉が無事で済むか分からない。それに、原子炉が無事であっても冷却水を送る配管やポンプが壊れてしまえば、最悪の事態が訪れてしまう。

 

「お前こそ武器を捨てろ!両手を頭の上で組んでひざまずけ」

 

男は強い口調でバトーに叫んだ。バトーは渋々セブロを近くの足場に投げ捨てると、男の指示通りにひざまずく。その顔には見覚えがあった。9課のデータベースや犯行声明でも見た亡国の使者のリーダー、岸田である。

 

「また会ったな。義眼野郎」

 

相手も自分に見覚えがあるのか、憎悪に満ちた瞳で睨んでくる。自分たちが沖縄沖の放射能除去プラントで戦った興国の旅団の戦闘員として、彼もあの場にいたということはデータベースから分かっていた。

 

「お前が岸田か。悪いことは言わねえ、そのスイッチを捨てろ」

 

「それはできない。俺は仲間と兄貴の仇を討つ。貴様らを道連れにしてな」

 

血走った眼を刃物のように細めて、岸田はこちらを強く睨みつける。深い憎悪と殺意にみちたその表情からして、説得するだけ無駄だった。隙を突いて一撃で奴を仕留めるしか、この場を切り抜ける方法はないだろう。そう考えたバトーは、冷静に状況を観察する。岸田はもう片方の手でハンドガンを抜き出すと、静かに口を開いた。

 

「お前たちは機械に過ぎない。せっかくの肉体を悪魔に売り渡し、下手をすれば脳以外すべて義体化したというサイボーグもいる。だが、考えてみろ。誰が自分の脳みそなんて見たことがある?それは本当にお前なのか?補助電脳に操られ、自分が人間だと思っているだけで、実態は機械かもしれないのだ」

 

バトーはそれを聞いて、少佐のことを思い浮かべた。彼女は幼いころに全身を義体化し、今や生身だった頃より義体化してから過ごした時間の方が圧倒的に長い。まだ生身の部分もいくつかある自分と違って、全身義体の彼女はそんな悩みにかられることはないのだろうか。ふと、そんな疑問が彼の中に沸き起こった。岸田は興奮した様子で話を続ける。

 

「お前たちはただ気づかないだけだ。知らず知らずのうちに、機械に支配されているこの世界に。企業の利益のために体を変え、傷つけるこの矛盾を。今や、電脳なしでまともに暮らせる人間など、日本には存在しないだろう。どこかで不便を被ったり、差別されたり、孤立したり。だが、あえて言わせてもらうと、電脳化している人間こそ馬鹿な者どもだ。せっかく脳があるのに機械を埋め込み、それに依存して元々の脳の機能を腐らせる」

 

岸田は血の混じった息を吐きながら、なおも言葉を続けた。

 

「だから、俺はそれに気づかせるために行動を起こした。電気と電脳ネットワークなしでは成り立たない、この脆い世界に」

 

そう言い終えると、静かに歩き出す岸田。片手には起爆スイッチ、もう片方にはハンドガンが握られ、ひざまずいているバトーに的確に狙いが合わせられている。身を翻してFNハイパワーを抜き出せば間に合わないこともないだろうが、運の悪いことに赤蠍との戦いでどこかに落としてしまっていた。

 

岸田はそのまま格納容器へと近づいていく。近くにはタービンなどへ蒸気を送る主蒸気配管が集中している接続部があり、そこを吹き飛ばされると甚大な被害が出てしまう。もはや黙って見ているわけにはいかなかった。岸田が格納容器の周りを通る無数の配管に目を落とした隙に、彼は立ち上がると躊躇いもせずに足場の柵を乗り越える。

 

凄まじい音とともにバトーが着地したとき、気づいた岸田が獰猛な眼で振り返った。飛び掛かろうと近づく彼に、ハンドガンを向ける岸田。だが、突如としてそんなバトーの目の前から岸田の姿が消えた。

 

何が起こったのか分からなかった。

 

衝撃音が聞こえた方向を見ると、3メートルほどの大きさの人型の物体が、岸田を壁に押さえ込んでいる。その姿にバトーが驚愕した瞬間、何かが折れる不気味な音が響き、岸田の体は無惨にも押し潰された。断末魔すら聞こえない、一瞬の出来事だった。

 

派手なオレンジ色のボディを赤黒い血に染めたそれは、今度はバトーに向き直る。惨殺された岸田の亡骸をその場に投げ捨てると、人型のそれは一直線にバトーに突っ込んできた。

 

アームスーツだ。

 

バトーがようやくそれを認識したときには、それは目前まで迫っていた。瞬時に身を屈めると、強烈なフックがすぐ真上の空気を切り裂いて、そのまま後ろの鉄骨をへし折った。

 

まずい。セブロは足場の上に捨てたままだ。

 

丸腰の彼を弄ぶように、アームスーツは彼を壁際まで追い詰める。ハンドガンもなく、ナイフではアームスーツに太刀打ちできない。まさに、絶体絶命の状況だった。

 




2018/10/1 一部加筆修正
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