面白くないか面白いかは、あなた次第!!
少年が伸びていた。中庭の木下にあるベンチに一人寝転がっている。梅雨も明け、日差しが肌に突き刺さるようになってきた今日この頃のことである。気温はもうすでに夏と言っても過言ではなかった。だから少年は伸びていた。あまりの暑さのために。
「あつい・・・」
腕をだらんとベンチの横に垂らし、ズボンの裾を膝あたりまで曲げている。いくら木陰といえど、暑いものは暑い。どうしようもない暑さをしのげず、少年は少しイライラしていた。薄い水色のカッターシャツは汗で濡れている。どうにも喉が渇いた。そう思うが動きたくない。わざわざ日向に出てまで買いに行くものではないと判断された。しかし、不意にだれかの足音が聞こえてきた。
「・・・」
誰だろうかと考えると同時に、頬にヒヤリと冷たいものが触れた。
「!?」
あまりの冷たさにガバッと身を起こして、頬に手を当てる。手の暑さが心地よく感じた。
頬から冷たさが引いたので顔を上げると、少年の目の前にはひとりの少女がいた。少し長い髪を下で二つにまとめている。
「・・・なんだ、流夏か」
「あらら・・・なんだ、なんて随分なご挨拶だね、悠永」
せっかく喉が渇いてると思ってジュース買ってきたのに。と言って手に収めてある缶ジュースをゆらゆらと左右に振る。自然と目がジュースを追っていた。よほど喉が渇いていたのだろう。
しかし流夏はそんな悠永を見ても、なお笑みを深めるだけだ。決して自分からジュースを差し出そうとはしなかった。まったく、どれだけ性格が悪いのだか。悠永は心の中で一人ごちながら、流夏に手を伸ばす。
「ジュース頂戴」
正直に言えば口のなかは砂漠だった。喉の膜と膜が引っ付いていてとても気持ちが悪い。さっさと水を長さ投げれば、唾さえも飲み込めなくなってしまいそうだった。
「あら、せっかく買ってきたのに。もうちょっとありがたーくしてくれないと」
どれだけ注文をすれば気が済むんだ・・・。悠永は再び一人ごちた。
「流夏さんジュースを買ってきてくれてありがとうございます。そのジュースをこの俺にくれるととても嬉しいです」
「すごく見事な棒読み!」
抑揚の「よ」の字もないセリフに翔さんの言葉を送る。流夏は苦笑しつつも悠永にジュースを渡した。結局くれるのならさっさと渡せばいいのに、なんて思っても口には出さない。ありがたく、大切そうにジュースを飲んで喉の膜を潤わせた。冷たいものが喉を下っていく感触がありありと伝わってきて、心地よい。これでしばらくは大丈夫だろう。ホッと息を吐いた悠永は心底安心していた。
「てゆか、良くここにいるってわかったね」
一段落ついて、暫くのんびりと静かに過ごしていたところ、ふと思い出したように悠永が疑問を口にした。
「え?あぁ、ちょうどあそこから見えたの」
そう言って流夏が指差したのは第2渡り廊下だった。この学校は左右二つの対照的な建物で構成されている。その二つを結ぶのが、第一渡り廊下と第二渡り廊下だ。単純に、下が第1、上が第2と読んでいるだけの話である。なるほど、確かにあそこならここもバッチリ見える。悠永は一人納得する。
「悠永さんが干からびていたから、水を与えに来たのですよ」
ドヤ顔を決めながらそう言う流夏を流して、悠永は改めて第2渡り廊下を見た。夏がコンクリートの壁を照らして、陽炎が揺らめいていた。暑い。そう思った。
「それより、昼ごはん食べたの?」
「あー、食べたよ」
ほら、と言って指をさした先には弁当入れが一つ無造作に置かれていた。ひょいと持ち上げるととても軽い。空だと一瞬でわかった。それを元の位置に置いて、ベンチに座る。ちょうど悠永が袖で汗を拭っていた。肘が邪魔だった。
「5時間目なんだっけ」
「確か数学」
「うわ、まじか」
数学、と聞いた瞬間露骨に嫌な顔をする悠永に笑いながら、流夏はしゃべる。
「宿題やった?あれなんか意味わからなかったんだよね」
「あぁ、大問9の(3)だろ?俺もう飛ばしたわ」
「あ、私も飛ばした。あんなの解けないよね」
「無理無理」
「あんな問題作るほうが悪い」
「だよな!解けない俺たちは悪く無い!」
「そうだそうだ!」
アハハ、と笑う悠永につられて流夏も笑う。ジワジワと汗がにじむ、午後1時。青春まっしぐらな若者たちは、宿題の難しさについて主張し合っていた。
最後まで読んでくれた人がいるなんて・・・!私感動しました。
はてさて生温かい目で読めたでしょうか?ものすごく気になるところです。
本作品を読んでくださった方、ありがとうございました。それでは( ´ ▽ ` )ノ