■サークル「はちみつぷりん」様のこがばん本「AMAZING SURPRISE‼」にゲストとして寄稿させていただいていた掌編です。掲載許可をいただいたので。
■渋にも投げてます
“まずい”
赤蛮奇は走る。いや、空を駆ける。
いったいどうしてこうなった。先ほどから蛮奇の脳内にはそんな疑問しか浮かんでこない。
どこの誰が、何の為にやったのか、きちんと説明責任を果たしてもらわなければ勿論気がすまないが、蛮奇が真に求めているのは言い訳などではなく予期せずして起こった理不尽な惨劇についての説明だ。もしも運命というものが存在しているのなら、蛮奇は彼を確実に半殺しにしているだろう。吸血鬼に勝つ自信はないので実際は挑まないだろうが。
とにかく、彼女を探さなければ。
それが蛮奇の目下の最優先事項だった。
ちらりちらりと脳裏に浮かび上がるのは昨晩のこと。懐いてきている付喪神の多々良小傘に呼び出され、妖怪寺に赴いたときのことだ。
道中で天邪鬼と遭遇し、気が進まないながらも『気になっていたこと』の答えを聞き出すべく捕縛令に乗っかり反則弾幕で追い詰めた蛮奇だったが、あと一歩のところで逃してしまう。
天邪鬼の「覚えてやがれ」という不吉な台詞――正直なところ小物の残したただの捨て台詞にしか蛮奇は思えなかったのだが――に不安を覚えたのもつかの間、小傘の【共同ビックリ大作戦】に呆れとダメ出しをすることに専念せざるを得なくなった蛮奇はとりあえず人里で購入した酒を二人で分け合い、吃驚トークに花を咲かせ夜を更かしていった……。
蛮奇の記憶はここまでしかない。が、決して酔いがまわりにまわって意識を手放したということはない。蛮奇にはきちんと小傘に「おやすみ」を言った覚えがある。
なのに。
自分には脱ぎ癖なんてないと蛮奇は知っている。
だのに。
なぜ自分は小傘の服なんかを着ているのだろうか。
甚だ謎である。
とにかく、蛮奇は自身の能力で出せる限界のスピードで幻想郷の空を切る様に飛んだ。なるべく人の目につかないように、草の根妖怪ネットワークの面々にばれない様に、最悪ブン屋にみつからないように、雲に穿てられた点となった。
吹き付ける突風が蛮奇の髪を、スカートをなびかせる。首の断面にヒンヤリとしたものがぶち当たる感覚がどうしてもなれず、時折自然と肩が震えた。
(マントさえあれば)
もう死の季節は過ぎ去り、空気はおろか人も妖も陽気になりつつあるというのに、やはり上空は寒かった。その点、蛮奇のマントは空中で弾幕ごっこをする時にも役には立っていた。
しかし、蛮奇が今纏っているのは快晴をそのまま布にしたような色合いの服だ。視界の端に映るだけでも体感気温が下がる。長袖で、スカートの丈もやや長めなのが唯一の救いだろうか。
それでも、愛用している真紅のマントがないのは寂しかった。
原因として思い当たるのは二つ。
一つは小傘当人。昨夜、小傘はやけにテンションが高く、蛮奇が横になった後もしばらく騒いでいたし、酔うと自制心が無くなりやりたい放題になる典型的なタイプだったので、ひょんなことから思いついて行動したのかもしれない。
もう一つは天邪鬼。
可能性は低いだろうが、彼女の悪戯で服がひっくり返され、そのまま逃亡した線もある、
なにせみみっちい奴のことである。こんなことをしても不思議ではない。与えられたダメージは致命傷になりかねないものだったが。
原因をいくら考えてもあの水色付喪神が見つかることはなく、蛮奇はかぶりを振って意識を眼下に戻し、目を皿のようにして地上の様子を探った。
小傘が目をつけそうな場所を一通りめぐってみたが、茄子色の唐傘の影の形も見当たらず、成果は皆無だった。その場にとどまってじっくりと捜索したかったのだが状況が許さない。
蛮奇は頭を掻き毟ると一つ深呼吸を挟み、苛立ちをなんとか飲み込んで墓場に戻ることにした。
犯人は一度現場に戻る。これに賭けることを蛮奇は選択した。
程なくして寺の屋根が見え、それからすぐにおどろおどろしいオーラを醸す墓石の列が遠目で確認できた。
「あれは!」
なんとわかりやすいのだろう。
小傘はすぐに見つかった。傘の紫が比較的明るめの中性色だったのが幸いしたのだろう。
頭だけでも先に先に飛ばして事情を説明してもらうとした矢先、小傘の陰に隠れてもう一人いるのが確認できた。
部外者に見られてしまったことはショックだが、最悪荒療治がある。手ごろな石もそこら中に落ちている。
自身の首を投げる体制に入ったところで、蛮奇は目にした光景を疑い、そして納得し、ものすごく嫌そうな顔をした。
鬼人正邪。天邪鬼。厄介。卑怯。小物。屑。
この時点で彼女が犯人である確率が三倍ほどになった。
小傘と正邪は何やら口論をしているようで、蛮奇は少し離れたところで降り立ち、墓石の陰に隠れて見物してみることにした。
「ちょっと! 撤回しなさいよ!」
「やだね。私には私の意見を言う権利がある。邪魔はできないよ」
「そうだとしても、このマントがかっこ悪いなんて! 蛮奇ちゃんに謝って!」
「断る!」
ほんの少し耳を傾けただけで虚しさに胸が膨らんだ蛮奇だった。
「蛮奇ちゃんはねえ、こんなマントが似合う素敵なろくろ首なのよ!」
「そのマントがあれって認識はお前も持ってるのな」
「私はそんな蛮奇ちゃんが好きなの!」
「うん、それはわかったからとっととあの妖怪首だけの居場所を吐けって。私はあいつの反応が見たいんだから」
「それを聞いて話す馬鹿がどこにいるの!」
罠、というか確実に嘲笑われるが、出ていかないわけにもいくまい、と蛮奇は隠れるのをやめ、のっそりと二人の視界に入った。
「しつけえ奴だぶっ……お前、やっぱ似合わねえよ」
正邪は蛮奇を見た瞬間笑いをこらえきれずうざったい笑みを浮かべ、
「蛮奇ちゃん今までどこに!」
と小傘は一瞬顔を輝かせ、すぐに心配そうな表情に変えた。
「小傘が迷惑そうにしてたからね。私のツケなのにごめん」
「そんなことないよ!」
「んで、これはあいつが犯人ってことでいいのよね」
正邪を無視して小傘に話しかける。小傘は勢いよく首を縦に振った。
「昨日の仕返しってんでしょ。んじゃあ私だけにすればいいじゃない」
「それじゃつまらないでしょ」
「許さないからね」
「おおう、かっこいいね」
蛮奇が睨んでも正邪はどこ吹く風と口笛を吹く。蛮奇も知ってはいたが、こいつのこんな態度はやはり一発顔面に蹴りを入れたくなるようなものだった。
「こんなところ、誰かに見られたら嫌だから、とっとと片づけるよ」
蛮奇が身構えるが、正邪は剽軽な姿勢を変えない。
何か秘策があるのか、それとも……と蛮奇が疑問を浮かべていると、
「だから言っただろ? お前の反応が見たかったんだって」
「……じゃあもう満足したでしょ」
「いんやぁ? ま、私は最初からお前があたふたしてるのも見れたし、半分ぐらいは溜飲も下がってるんだがな」
「……」
早朝のみっともない姿を天邪鬼に見られていた事実に羞恥心と怒りがこみあげてくるが、天邪鬼はさらに続けた。
「ま、とりあえずこれを見ろって」
そういって正邪は後ろ手に持っていた大きめの紙を見せつけるように広げた。
「今朝の文々。新聞だ。」
「……‼」
「蛮奇ちゃん‼」
声にならない声。
小傘の悲痛な叫び声。
天邪鬼の耳障りな笑い声。
全て遠のいていく。
新聞の一面に大々的に載せられていた写真。それは小傘の服を着た赤蛮奇の、だらしのない寝顔だった。見出しは『孤高のろくろ首の意外な一面! 着衣交換フェチ⁈』
蛮奇のようなタイプは、結構人目を気にするのである。
以降、蛮奇が殺意の波動に目覚め、正邪を執拗に追い掛け回すようになったのはまた別のお話。
読了ありがとうございます。
こちらは2015年春の名華祭にて頒布されたものとなります。
はちみつプリンのサークル主様からの熱いこがばん押しに影響されて生まれた産物です。僕自身も好きなカプなので書けて嬉しかったのですが。
ページ数の制約のせいでかなり短めで正直書きづらさも感じはしましたが。
それでも、ここで言うのもなんですが、お誘いくださってありがとうございました。
それではまたどこかでお会いできればと、思います。