また、感想にて指摘された箇所を訂正しました。
大筋は変わっておりませんが、若干変化しております。ご了承下さい。
「申し訳ございませんでした」
防弾加工が施された車の中で誠心誠意謝っている康介。
謝っている相手は先程康介が
「怪我も無かったし、気にしなーい気にしなーい。ふふ、でもまさか、手刀と勘違いしたとはね」
そう、勘違いである。楯無が言った驚かせようとしたとは、恋人がよくやる後ろから目を隠して「だーれだ♪」というアレをやろうとしただけだった。
それを彼女は自身の全力をもって気配を消し、常人では知覚できない速度で行おうとした結果、康介が手刀と判断しただけであった。
技術の無駄遣いである。
「こっちこそゴメンねー。まさかあの速度に反応出来ると思って無かったからさ。無駄に警戒させちゃったかな?」
「いえ、まぁ、驚きましたが。その後の蹴りを躱された事も含めて」
剣術がメインとはいえ無手にも手を伸ばしている康介の蹴り。体制が悪かったとは言え武術家の渾身の蹴りだ。
「んっふふー。お姉さんも色々とやってるからねー。年下には負けられないわよ?」
いつの間にかもっていた扇子で口元を隠しながら嫌らしい笑みを浮かべる楯無。その後開かれた扇子には『学園最強』と書かれていた。
「さっきも言ったけどお姉さんはIS学園の生徒会長よ。ここの生徒会長は選挙で決めるんじゃないの。決めるのはその実力をもってして。
つまり、私はIS学園最強って事になるわね」
「…………織斑先生より?」
「うん、生徒最強よゴメンなさい」
一度扇子を閉じ、また開くと書かれていた文字は『生徒最強』に変わっていた。
「色々とツッコミたいトコロがあるんですが……それどうなってるんです?」
「いやん♪乙女のヒミツを詮索する男は嫌われちゃうぞっ♪」
「アッハイ」
扇子の仕組みは機密事項の様だ。康介にとっては残念極まりないが。
「にしても生徒会長
「そうね。でも世の中物騒じゃない所なんて無いわよ。日本が比較的安全なだけで」
康介がISを動かすキッカケになったあの事件の様な事が起こっている限り日本も安全とは言い難いだろうが、という言葉は飲み込んだ。
「それもそうですね。今日のこの車も、そして貴方も。そういうのから俺を守る為にいるんでしょうし。本当にすいません」
「ふふ、それも気にしないで。今回の事に関しては、寧ろ私から言い出した事だもの。
それにお姉さんとしては、そこはありがとうって言って欲しいなぁ?」
康介に近寄り上目遣いで挑発する。
口元はまた『謝罪不要』と書かれた扇子で覆われているが、恐らく弧を描いているのだろう。
「……ありがとうございます。実際感謝してますよ」
「ん♪よろしい♪」
んふふ、と笑いながら満足気に元の姿勢になる楯無。飄々とした彼女の態度に康介はやりにくさを感じる。
「ところで康介くん。お姉さん質問があるんだけど良い?」
「えぇ、なんなりと」
「ありがと。今日の機体の受け取りだけど、それなら1日で済むじゃない?受け取り場所のNLCの研究所だってIS学園からそう遠くないんだし。なんで外泊届けを?」
「あぁ、それですか」
その理由は至ってシンプルだった。
「IS学園のアリーナが予約出来なかったんですよ。土日はいっぱいだって言われまして。
だから向こうで受け取った後アリーナを使わせてもらう事になったんです。
開発チームもその方が調整だとか楽みたいで。一番の理由は自分達が作った機体が飛んでるところを生でみたいって理由らしいですが」
ぶっつけ本番で飛行する、なんて事が出来るとは思えない。小説の中では一夏は搭乗機会もなくセシリアと戦っていたが、それだって事前にある程度別のランナーが飛行状態のチェック等を行っているだろう。
だが、康介の場合それが出来なかった。
何しろ康介の専用機は康介にしか反応を示さなくなってしまった。他のランナーが搭乗しようとすると、拒絶するかのようにPICを使って弾き飛ばす。
何よりデータが足りない。
完成したとは言っても、あくまで一応なのだ。
「なるほど。データ取りと訓練の両方でって事ね。納得したわ」
とは言いつつ楯無は事前に知っているのだが。
彼女が聞きたかったのは、どれだけ康介が事態を把握しているか。受動的に、流されているかいないか。それを知りたかった。一応、合格といったところか。
「そっかそっか。じゃあお姉さんがその訓練のお手伝いしてあげようか?」
「よろしいので?」
「えぇ。こう見えて私ロシアの国家代表選手なのよ?実力は申し分無いと思うけど?」
扇子には『流石先輩!』の文字。
選手としての実力とコーチとしての手腕は別物だろうが、彼女はその両方が優れている事を康介は小説から知っている。
彼女が小説と違うという事は、彼女のこの世界での立場と先程の意図せずして見せつけられた実力が否定している。
康介にとって優秀なコーチはまさに渡りに船だった。
「是非お願いします。ご存知でしょうが、来週までにある程度形にしなければなりませんので」
「ふふ、お姉さんに任せなさい♪
でも動かして数ヶ月の君が国家代表候補生にケンカ売るなんてホントは無茶なのよ?」
「ケンカじゃありませんよ。ただの模擬戦です」
つい先日康介の耳に届いたのは自身の噂。どうもこの対決の事と千冬の意見に逆らった事が学年を超え学園中に広がっているらしい。
中には康介に対し生意気だと良からぬ感情を持っている人間もいるらしい。
(それに対しても対策をしなくちゃな……)
「結果は一緒でしょう?それに、そう捉えてくれない子もいるわ」
「知ってますよ。だから余計力をつけなきゃならないんです」
この先IS学園中外共に敵対者が現れる事は容易に考えられる。
IS学園で生活する為、生き残る為に強くならなくてはならない。
「それもそうね。じゃあ、向こうに着いたら覚悟しなさいね?」
「了解です先生」
そう言葉を交わしてから、車の中は沈黙に包まれた。
康介が視線を窓の外に向ける。景色はどんどん後ろへと流れていった。
車に乗る事2時間。康介達は漸くNLCの研究所に到着した。
その施設は研究所、というより一つの島だ。
NLCが研究している事は多岐にわたる。食品関係、医療、宇宙工学、そしてIS。他にも様々な事がココで行われている。
故にこの広さ。IS学園と同じように土地を埋め立てて島を作り、それを丸々NLCの施設として運用している。
「……予想以上だな。流石世界有数の大企業」
康介が思わずこう呟いてしまう程、凄まじい広さを誇っている。
敷地に入ってから車で移動し数分、目的地であるIS・兵器開発部門の研究所に辿り着く。
(アラスカ条約があるのにその2つを纏めるのは、豪胆というかなんと言うか……流石です大企業)
そして研究所に入る前に、入念なボディチェックが始まる。
本来ISの専用機を持っている人間はココで専用機を預けないと中に入れないのだが、今回は護衛の際にISが手元にないと役目を果たせないだろうとの事で社長直々のお許しが出たそうだ。
中に入ると少し広めのスペースと長く広い廊下が見える。何処も研究者と思わしき人物達が右に左に大忙し、といった様子だ。
「お、やっと来たか。待ちくたびれたぞ康介くん」
近づいてきたのは
康介が聞くところによると成績も優秀で大学もかなりのトコロを卒業し、ポスト・CEOの最有力候補だったそうだが、本人の希望とその能力の高さからIS関係の開発職に就いている。
「お久しぶりです輝さん。お待たせして申し訳ありません」
「あはは、さっき言ったのは形式として、冗談だよ冗談。気にしなくて良いよ」
「そうですか、安心しました。調子はどうです?」
「絶好調だよ。君の専用機の調子も含めてね」
「それは良かった。輝さんがそう言うなら大丈夫ですね」
康介の専用機、改修型・打鉄は彼のチームが担当した。康介が信頼できる彼のチームに任せたいと言った事もあるが、1番の理由はその手腕だ。
「でもまだ実験段階だからね。データが足りないんだよ。
だか今日はテストパイロットとしてしっかり働いてもらうつもりだから、そのつもりでいてよ?」
「当然です。こき使って下さい」
和やかに握手をして笑いあう2人。その2人の顔が今度は楯無に向けられる。
「康介くんの護衛の方だよね?紹介してもらっても?」
「あぁ、すみません。こちらは今回の俺の護衛をしてもらう事になったIS学園生徒会長、更識 楯無さんです。
会長。こちらは自分と前々から親しくさせてもらっている九条 輝さん。自分の専用機の開発チームの主任です」
「ご紹介に預かりました更識です。2日間よろしくお願いしますね」
「へぇ……更識の……」
輝は目を細める。少し警戒している様にも見えるその様子に楯無は余裕を見せているが、康介は少し戸惑いながら話題を変えた。
「あ、輝さん!早速で悪いですが機体を見せてもらっても良いですか?楽しみにしていたので」
「そうかい?それは製作者冥利につきるね。じゃあ行こうか。護衛の方もどうぞ」
3人は長い廊下に歩き出す。
その周囲では康介から見ると何に使うか分からない様なモノまである。
(なんだあのケースに入ったデカイダニ?ノミ?みたいなの……)
輝に聞くと、世の中には知らない方が良い事もあるんだよ、とはぐらかされた。
廊下の突き当たり。その扉の横にあるキーボードを叩き、輝が首から下げている社員証を認証させる。
ピコンッと音が鳴って扉が横にスライドしていくが、康介はそれよりその扉にハザードマークが付いている事の方が気になった。
「あの、輝さん。ハザードマーク……」
「あぁ、アレかい?まぁココにある物に対してじゃないから気にしないで」
「じゃあ何であの扉に?」
「あぁ……中にある物じゃなくて、中にいる
「え?」
「どういう事です?」
その言葉を聞いた楯無は護衛の任の為だろうか、康介に少し近寄る。
「いや、中にいるのが……ちょっとね。優秀なんだけど、うん。何ていうか……特殊、そう!特殊なんだようん」
ここで輝が担当しているチーム、通称・チーム『厄介者』について紹介しよう。
輝のチームの人員採用方式は基本的に輝本人がスカウトして引き抜く形になっている。
だがそれで優秀な人間ばかりを集めれば、他のチームから反感を買うだろう。仕事によっては複数チーム合同で行うものもある為それは頂けない。
だからといってそれなりの人間を集めただけでは実績が出せない。輝だけのワンマンチームではいずれ限界が来る。
ではどうするか。輝の考え出した結論は『優秀だがそのチームに溶け込めていない者』を選抜していったのだ。
故に『厄介者』の集まりだと呼ばれるのだが。
「まぁみんな凄い仕事
そう言ってニッコリ笑う輝だが、康介が安心出来るわけも無く。
「………………………………はい」
濁った返事しか返せなかった。
「よしよし。それじゃあ安心してもらったところで君の相棒とご対面だ。
第二世代型IS、打鉄。それを改修、改造、改良した我がチーム渾身の一機。その名も……
康介が見たのは今のIS業界には珍しい
そして何より1番目に付くのは___
「
アンロックユニットとは、PICによってIS本体との相対位置を固定した
そして黒鉄にはそれが一切無いのだ。ブースターは機体の背面、側面、肩部など様々な箇所に直接付いているし、盾に至っては無い。
「そうなんだ。アレを付けるどうしてもPICの出力が下がっちゃうから、それならいっそのこと外して、その分の出力を機体制御に回そうって話になってね。はい、コレがカタログスペックね」
そう言って康介にデータを渡す輝。
笑顔でISの基本装備の1つを平気で外す。なるほど、彼も
「そうですか。えっと、盾は?」
「あぁ、腕に
「……小さくないですか?」
「安心してくれ。それは特殊な力場を発生させる装置を組み込んであるんだ。そこまで小型化、強度増加させるのは大変だったんだよ?」
「力場?」
「うん力場。簡単に言うとエネルギー消費型のシールドかな。あ、消費型って言ってもちゃんと防御出来ればエネルギーは使わないよ?シールドに何かがぶつかった時に発生する熱を吸収して、それをエネルギーに変換するっていう効果があるから」
逆を返せば無闇に展開し続けている限りエネルギーが減り続けるシールドなのだ。諸刃の剣、どころか持ち主にのみ刃を向けている盾という事になる。
「随所ピーキーですね。大変そうだ」
「そうかもね。でも、その分使いこなせた時の性能は保証させてもらうよ。
それじゃあ、データを取って行こうか!」
楽しそうな子供の様な笑顔で輝が言い放ったこの一言を合図に、チーム全体が動き出した。
データ収集、それが終わり楯無との訓練。必要な休憩を最低限挟んでいるとは言え、中々ハードな週末が終わった。
確かにチーム・厄介者の面々は良い人達だった。偶にホントに厄介だけど。といった感想を胸に行きと同じ車、別のルートで帰路に着く康介。その意識は少しずつ、少しずつ、睡魔に侵されていった。
康介が寝付いた頃、その寝顔を見ながら楯無は考える。
(黒鉄……今のIS界の常識とはかけ離れた機体ね)
アンロックユニットが無い事、全身装甲である事以外にも、様々な点においてIS界という水面に投じられる一石のような機体だ。
その最たるモノは性能だろう。
機動法から戦闘法まで、まさに康介という武人の為に作られたような機体。だが黒鉄の製作開始時期は半年以上前だと言う。
(運命?それで片付けるには重なり過ぎているわね……まさか、NLCは康介君がISを動かせる事を知って……?
いや考えすぎね)
車に備え付けられている小さ目の冷蔵庫からドリンクを取り出し、口に含む。よく冷えた炭酸が喉を弾くかの様なその感覚で思考を冷やす。
(彼もこの2日間、よく喰らいついてくれたわ。嬉しくなっちゃったじゃない)
「罪な人ね……」
再び康介の寝顔を見る。
この2日間楯無に見せていた決意のある青年の顔付きとは違う、年相応、それ以上に幼い少年のような寝顔。
思わず笑顔になった。
「あ!いい事思い付いちゃった♪」
彼女はケータイを取り出し、彼にカメラを向けた。
月曜日。遂にセシリア、一夏、康介の対決の日だ。
いつものように鍛錬をした康介はその噂の広がり具合を肌で感じる。
(随分と人が多いな。変に視線も感じるし、話し声からすると今日の模擬戦。結構人が集まるかもな)
走りながら先週とは違う視線に違和感を覚えるが、戸惑いはしない。この程度ならハザードチームの面々に厄介な絡まれ方をされた方がよっぽどキツイ。
康介が走り出して20分。そろそろインターバル走に移る頃合いだ。
今日は速度の緩急をいつも以上につけようかと思案しているところに、またいつもと違う視線が向けられる。
「話に聞いていたがなるほど。よく鍛えているな。コレを毎朝か?」
視線の主は白地に黒のラインが入ったジャージを着た千冬だった。彼女は康介に近寄ってくる。
「その鍛錬、弟にも見習わせたいものだ」
「織斑は織斑のペースがありますし、自分は幼少から積み重ねたモノがあります。
織斑から聞きましたが彼は中学の時は家計を支える為にバイトをしていたのでしょう?それも一つの
「それもそう……だな」
「それより今日はどうされたのです?自分はこれから続けますが」
「いやそれを聞いて、少し見せてもらおうかと思ってな。良いか?」
「えぇ。見ても面白いものではありませんが。まだウォームアップですし」
「ふむ。では私も付き合わせてもらうとしよう」
そう言って鍛錬を始める2人。自分の速度にも平然とついてくる千冬に戦慄を覚える康介は、思わずそれを口にしていた。
「……本当に女性ですか?身体能力では父親以外に負けた事が無かったんですが……」
「失礼な奴だな。まぁ伊達に
「すいません。ですがそれ程凄まじいと思ってしまったもので」
「ふん。今日の授業覚悟しておけ」
軽口を叩きながらも康介は型の確認に入る。それを見ていた千冬は感心していた。
「なるほど、よくそこまで鍛え上げたものだな」
「ありがとうございます。ですがまだまだですよ」
「そうだな……右下からの払い上げ。アレをもう一度やってみろ」
「?はい」
康介は上段からの振り下ろしをやめ、払い上げの型へ移る。その途中で千冬にストップをかけられる。
「そこだ。振り出す前にほんの少し身体が開いてしまっている。そうなると刀に上手く力が入らない。もう少し脇を締め、斬る直前まで相手を見つめ続けろ」
「はい」
気を付けていたが、クセが付いていたようだ。
何度か振り、言われた箇所を訂正する。先程の事を意識しただけでも剣閃が変わったのが分かった。
「なるほど。ありがとうございます」
「気にするな。私はお前の担任なのだ。教育をするのは当然だろう?」
「それでもです。こっちに来てからこうして自分の剣を見てくれる人間がいなかったもので」
丁寧に腰を折り、頭を下げる康介に千冬は背を向けた。
「私もこの後予定があるのでな。今日はこれまでだ。また時間があれば見てやろう。
だが遅刻は許さんぞ?」
「はい、ありがとうございました」
千冬が去ってからも遅刻しない時間いっぱいまで鍛錬を続け、シャワーを浴びて朝食を摂る。その最中で一夏と箒がまた揉めながら食堂に入ってくるのに笑い、教室に向かう。
授業を終わり、遂に放課後。
「さぁ、『下剋上』の始まりだ」
はい。セッシー戦はまだなんじゃよ。
中々長引いて予定通りに進んでくれません。セッシー戦入れたら確実に1万字超えちゃうんですよね。今回。
もう少し字数を調整できる様にならねば。
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