許して下さい何でもしますから。
セシリア、一夏、そして康介。
1組クラス代表決定戦と名付けられた今回の模擬戦の噂は、この一週間で学園中に広まっていた。
だからだろう。舞台である第三アリーナは満員とはいかないまでも、それなりに多くの人が集まっている。
康介たちが所属している1組の生徒がいるのは勿論、1年生の他のクラスの生徒も見受けられるばかりか、2年生、3年生、教師もいる。
1組のクラス代表になるであろう人物の偵察という目的から、単なる野次馬根性が働いた者まで様々だ。
その中心人物の1人、織斑一夏は控え室にて幼馴染の篠ノ之箒に詰め寄っていた。
「なぁ箒。俺はお前にISの事教えてくれって頼んだよな?」
「あぁ」
「箒はそれに了承してくれたよな?」
「そうだな」
「俺この一週間剣道しかやって無いんだけど?」
「…………」
「こっち向けって」
「し、仕方ないだろう!お前の専用機は届いて無いし、訓練機も借りられなかったんだから!」
「いや、でも勉強とかさ……」
「それは!その……」
そう、一夏はこの模擬戦が決まったあの日から一週間、ISについて全くもって触れていない。
これは物理的な事だけではなく、知識面でも授業の事以外はやっていないのだ。
毎日道場が使用できる時間ギリギリまで箒と試合をして、帰って体を洗い夕食を摂ると泥のように眠る。
それを繰り返していた。
勿論康介が鍛錬している姿も見ているし、一緒にしようとも思ったのだが、近づき辛さを感じたし、何より箒が頑として認めなかったので2人のみの稽古となった。
「はぁ。俺大丈夫かなぁ……ISもまだきてないし……」
「そ、そうだな!いつになったらくるのやら。全く!」
一夏の専用機は運搬が遅れているらしい。
開始時間まであと数分といった時間になっても、来る気配すらない。
今回のクラス代表決定戦は、
一夏vsセシリア
セシリアvs康介
一夏vs康介
の順に総当たり戦形式で行う。
これで勝ち星の数を競い、万が一同数だった場合は試合終了後に残っていた
一夏たちがまだかまだかと待っていると、控え室のドアが開いた。
「やっと来たか!」
「ん?やっと?予定時刻はまだのはずなんだが」
「あ、康介」
入ってきたのは康介だ。康介の試合開始はまだ先のだったので、整備室にて機体の最終チェックを行っていたのだ。
「織斑、お前いい加減ハッチ行って準備しないとマズイ時間だろ。そろそろ行け」
「一夏で良いぞ。いや、まだIS来てないんだよ」
「はぁ?まだって、じゃあ間に合わないだろ。どうすんだ。あと名前呼びは考えとくよ」
「どうするも何も……なぁ?
そっか。気が向いたら呼んでくれ」
なんともごちゃ混ぜな会話をして2人に近づいていく康介。
そこにまた1人入ってくる。
「入るぞ。守崎はいるか?」
「あ、千冬姉」
「織斑先生だ」
「いますよ。どうしました?」
またも出席簿で頭を叩かれ悶絶する一夏。IS学園に入学してから彼の脳細胞はどれだけ死滅しただろうか。
「……守崎、一夏は放っておいて良いのか?」
「ダメだと思うなら篠ノ之が構ってやってくれ。好感度上がるぞ」
「おい大丈夫か一夏」
「……お前は妙に篠ノ之を手名付けているな。
まぁ良い。織斑のISの到着が遅れている。その為お前とオルコットの試合を先に行う事になった。オルコットにはもう連絡を入れているから、お前の準備が終わり次第試合を始めたいのだが」
「聞いています。準備も問題無いですよ」
「そうか。すまんな。ではハッチに急いでくれ」
「了解です。じゃあな、織斑、篠ノ之」
「おう!負けんなよ!」
「応援している」
「ありがとよ」
それきり言葉を発さず歩き出す康介。
その口は弧を描いていた。
(勝ち目は充分、とはいかないが、ある事にはある。あとは、自分を信じるだけ)
一歩進む毎に緊張と、試合に対する興奮が高まるのを感じる。カタパルトの目の前まで来た時には、その心臓は激しく鼓動を刻んでいた。
『それでは守崎くん。ISを展開してカタパルトに接続して下さい』
スピーカーから今日の試合進行を行う我らが副担任・麻耶の声が聞こえる。それを合図に康介は自身のIS・黒鉄をイメージする。その動作に移ってから周りを粒子のようなものが舞い始めた。
ISには待機状態というものがある。
圧倒的戦力を持ったISを装備した状態では大手を振って生活出来ない。
そこでISの能力の一つ、本来なら
この開発者は
展開されていくIS。
さながらアニメのように、瞬く間に康介の全身を装甲が覆い、粒子が消える。
その様子を管制室からモニターで見ていた千冬はこう思う。
(ほぅ……
一般的に展開するISの情報量が多ければ多いほど展開に時間がかかると言われている。フルスキンタイプのISが主流ではない理由の一つがコレだ。
康介が展開に費やした時間は約1秒。
熟練のISランナー達はこの1/3程で展開するという。
展開した黒鉄の脚部をハッチのど真ん中に陣取っているカタパルトに接続する。
ガゴンッと重厚のある音が鳴り接続が完了すると、再びスピーカーきら麻耶の声が響く。
『カウント3から数えます。それが0になったらカタパルトから射出します。
相手は国家代表候補生ですが、気負わずに全力を出して下さいね』
最後の一言だけ先程までとは違う優しい、いつもの麻耶らしい声だった。
またほにゃっとした笑顔を浮かべているのだろう。
『それではカウントを始めます。
3』
黒鉄がカタパルトに注がれる電力が高まっていくのを感知し、伝えてくる。
『2』
カタパルトからモーターが回るような音が聞こえ出した。生憎と康介には聞こえていなかったが。
『1』
康介の意識はもうハッチの中には無い。
飛び出した先に待っているであろう
『0!カタパルト射出します!』
「いくぞ黒鉄!」
ドンッという音と共に、康介の身体は押し出された。
不安は感じない。高揚感がそれ打ち消している。
感じるのは、セシリアから送られる視線。自分の心臓の音。機体の、身体の状態。
全力をぶつけよう。
そう思って身構えている康介に、自身の専用機・ブルーティアーズをその身に纏いレーザーライフルを手に持つセシリアが話しかける。
「……レディを待たせるなんて、紳士の風上にも置けませんわね」
「それは織斑の専用機を運んでる奴らに言ってくれ。
それに、生憎俺は紳士じゃないんでね」
「そうですか。それもそうですわね。ところで、最後のチャンスを差し上げますわ」
セシリアは胸に手を当て、高らかに宣言する。
「私が勝つのは自明の理。もし貴方が泣いて許しを請うと言うのなら、まぁ、痛めつける手をほんの少し緩めてあげない事も無くってよ?」
見下すような笑み。その笑みに康介は返答を叩きつけた。
「結構だ。寧ろ本気を出して貰わなくては困る。そうでなければ意味がない。
分不相応かもしれんが、頼むよ」
「っ!!バカにして!」
「別にバカにした訳では無いんだけどな。
俺は紳士じゃあ無いが、武人であるつもりなんでな。試合で手を抜かれるのは好きじゃない」
セシリアはどちらも同じだと叫ぶが康介が譲る事は無かった。
『織斑くんの専用機の到着が遅れている為、繰り上げて試合を行います。
1年1組クラス代表決定戦第1試合。セシリア=オルコットさん対 守崎 康介くん。ブザーがなりましたら試合開始となります。指定の位置まで移動してください』
「ふん!ならばお望み通り叩きのめして差し上げますわ!自身の愚かさを恨みなさい!」
スタート位置であるアリーナ中央、地上20mの所に2人は待機する。
セシリアはブルーティアーズの初期装備の一つであるレーザーライフル、『スターライトMk.Ⅲ』を、
康介は黒鉄の同じく初期装備である大太刀型近接ブレード、『村雨』を、それぞれ構える。
お互いISの背丈ほどある武器を持っているが、その
(あの男が動き出す前に一発当てる。そうすれば動けないでしょうし、『ブルーティアーズ』を使うまでもない、誰でも出来る簡単なお仕事ですわ)
一般人であるなら自身に銃撃が当たれば大抵怯む。その隙にライフルを当て続ける。それだけで
確かにそれは正解なのだろう。
だがそれは一般人に対しての話。
彼女がこれから相手取るのは
騒ついていたアリーナが段々静かになっていく。
中心にいる2人は、もう何も語らない。ただただ
ビーーーッ!
ブザーが鳴ったと同時に動き出した2人。先に仕掛けたのはセシリアだ。
「お別れですわ!」
スターライトを構え、スコープを覗く。
そこからは康介が直進してくる姿が見える。狙うはその顔面。
引き金を引き、放たれたレーザーは康介の顔へ吸い込まれる様に命中した。
それでも康介が止まらないのはセシリアにとって誤算だったが。
「む、無茶苦茶しますわね!」
「シッ!!」
斬り払いながらセシリアの横を通り抜ける。
嘲り、見下していたところに加え予想外の事態への動揺。
それらが全て後押しをして、康介の一撃を届かせたのだ。
「きゃぁあ!や、やりましたわね!」
ブルーティアーズのスカート部分の装甲が砕ける。
(なんとか開幕の
康介は、先日の楯無との訓練を思い出す。
「最初の立会いは譲るな?」
「そうよ」
データも取り終わり、訓練に移った康介と楯無。
楯無の最初の教えは初撃の重要性だった。
「まぁどんな武術においても大事な事だし、知ってるかもしれないけれど。
けれど今回、セシリアちゃんとの対戦ではその重要性は更に上がるはずよ」
自身より下だと見下している相手に、先手を取られる。機体へのダメージ以上に与えられる影響は大きいだろう。
「セシリアちゃんのISは遠距離を得意とする射撃型。康介くんの黒鉄は近距離メインな上に、現在
だから流石に1発2発は当てられるでしょうけれど、それを無視してでも自分の一撃を当てに行きなさい」
だからこその捨て身。無謀に見える特攻こそ、楯無が提案した『策』だ。
(なるほど、確かに有用ですよ先輩。目に見えてオルコットの動きが雑になった)
「あぁ!なんで当たりませんの!」
最初は当たっていたレーザーも、康介は徐々に躱しつつある。
その理由としては、康介の経験だ。
(一々スコープを見てくれるおかげでタイミングは分かりやすい。
要は刺突の延長だ。放たれる瞬間にその場にいなければいい。
それに……織斑先生の突きの方が早い気がする)
レーザーよりも早い一撃を放つ化け物染みた自分の担任相手によく生き残れたものだと思いながら、レーザーを躱していく。
だがその実、躱せるだけだ。近づけない。
「くそ!」
村雨しか表示され無い武装一覧。たった
(遠距離武装無しって本当に近距離特化過ぎるだろうに!)
躱し、時に籠手で弾き、ダメージを受けないように立ち回る。
最初の一刀からお互いにダメージを受けていない場面が続いた。今の所、僅差ではあるが、康介がリードしているその様に
「守崎君思ったよりやるねー」
「セシリア相手にここまでリードしてるなんて予想外だよ!」
その歓声がセシリアの神経を逆撫でした。
「私とブルーティアーズを前にしてここまでもった人は貴方が初めてです……ってちょ!」
「ゼァア!」
セシリアが口上を述べようとして出来た隙を康介は見逃さずに斬り込んだ。
結果は彼女の前髪を数本斬り落としただけだったが。
「ほ、本当にバカにして!手加減は無しですわ!いきなさい!『ブルーティアーズ』!!」
セシリアのISのアンロックユニットから分離した4機の
その先端からレーザーが放たれた。
「クッ!ファ○ネルか!」
「ビットですわ!」
4機のビット。黒鉄から康介に送られたデータでは『ブルーティアーズ』というらしい。
(機体名と武装名を同じにするなややこしい!)
今までと違い四方八方から飛んでくるレーザーに押され気味になる。
今までと同じ要領で躱していたが、それでも数発貰ってしまった。
いつのまにか、またも僅差でセシリアのSEの方が多い。
「ふふ。踊りなさい。セシリア=オルコットと、ブルーティアーズが奏でる
セシリアの調子が戻ってくる。康介はそれでも諦めていなかった。
(このブルーティアーズ……ビットの方は俺の反応が遅い箇所を狙ってくる。大抵は背面の左側から。
あとその間オルコット本人が動いていない。いや、動けない。
それに時々、全弾外した時や反撃をもらいそうになれば全てのビットをアンロックユニットに戻すな。エネルギー補給か、それともオルコットなりの仕切り直しか。それでも擬似的な5対1のようなもの……
先輩。あなたの言う通り、中々厄介ですよ)
楯無の示唆したセシリアの長所と短所。射撃に秀でている、狙いが正確が故に、射線を読みやすい事。そして
このレーザーの網を切り抜け、懐に潜り込めれば勝機はある。
しかし近づけない。ならばまず周りを崩せばいい。
(前面に3、背面左側に1。ココだ!)
前に意識が向いている瞬間に後ろの1機のレーザーを当てる。セシリアがそう狙いをつけた時に康介はワザと前面の3機を無視し、背面の1機に近づいた。
「シッ!」
斬っ!と一閃。見事に命中したその一撃で、ビットは爆発した。
その代償に康介はまた2発貰ってしまったが。
「そんな!今のはただのマグレですわ!!」
スターライトを放ちつつ残された3機のビットを戻す。康介が待っていた瞬間が訪れる。
「隙だらけだ!」
スラスターに光が集まる。一度放出したそれを再度取り込み、圧縮する。限界まで圧縮した後、空中を踏み締める様に屈み跳躍すると同時にそれを放つ。
「
康介が初めてISを動かしたあの事件の幕を閉じさせた
そして現状恐らく黒鉄にしか出来ない、特殊な
「い、幾ら速くても直線しか動けないのなら!」
放出、吸収、圧縮、再放出と段階を踏む為、通常のブースト移動よりも時間がかかるという事もその一つだ。
そしてその最大の欠点は発動後の方向転換が出来ない事だ。
それこそ圧倒的な速度を叩き出す
圧縮したエネルギーを複数回に分けて放出する事で、トップスピードは落ちるがその分曲がれる様になる技術も存在するが、超が3つ程付く高等機動だ。
IS大会の最高峰、モンドグロッソの機動部門で見られるか見られないか、と言った程に。
少々脱線したが、要は直線移動しか出来ない。不意をつかなければ移動先が簡単に読めるのだ。
発動中、無理に曲がったり体勢を変えれば体にダメージがいくか、最悪骨を折る。
「貰いましたわ!ブルーティアーズは4機だけじゃありませんことよ!」
その先端から誘導型のミサイルが1発ずつ発射された。
加速度的に縮まっていく康介とミサイルの距離。
それが0になる一歩手前。康介は動いた。
「ザラ゛ァ゛ア゛!」
康介が自身の真横に蹴りを繰り出す。
ダンッ!という音と共に『
「んな?!あ、ありえ__」
セシリアのセリフが言い終わる前に、2人の距離が0になる。
「コレで終わりだ!」
あと事件の時と同じ抜刀の構え。其処から繰り出されるのは國守流居合術の絶技の1つ。
『
その技を端的に言うならば2度居合を放つ。それだけだ。
だが康介のそれは父・亮介に敵いこそしないが、並みの人間では構えてから急に振り抜いた様に見える程、速かった。
あの事件ではISのSEと
ISにあるエネルギーを大幅に使用し、最低限
(浅い!)
好機はココしかない。康介が畳み掛けるつもりで構えた時。
「キャァァアアア!!」
「あ」
康介を追っていたミサイルが、射線上にいたセシリアに命中し、爆煙を広げた。
ブーーーッ!
なんとも締まらないこの瞬間、康介の模擬戦初白星が決まった。
週一投稿早速破ってしまいました。申し訳ない。
それと内容に関しても納得がいってないし、皆さんも納得いかないと思います。セシリアの噛ませ感ェ……。
本当はもっとセシリーつおいんですよ。今回良いようにされた理由は次話にて説明させてもらいます。
まぁ序盤のセシリーはこんなモn((((((