とある病院の産婦人科にて、今日も産声が響いた。
「おぎゃぁぁああああ!!」
「あらあら。元気いっぱいね。よしよし」
新しく生まれた命は自分が此処にいる事を知らしめるかのように大声を上げる。
特に事故も無く、すんなりと生まれた事にそこにいる全員が安堵の表情を浮かべる。
その風景はありふれているが、幸福に満ち溢れていた。
ただ、一つ普通では無い事があるとすれば………
(えぇぇぇえええええ?!?!
いや、俺死んだんじゃぁぁぁあ?!)
その赤ん坊が一度死んだ記憶がある、という事だろう。
(どういう事だ?あの時、俺は確かに……)
その時赤ん坊は体が震えるのを感じた。死ぬ時の全てが自分から抜け落ちていくような、自分が消えていくような、あの体験したものにしかわからない感覚を思い出してしまったからだ。
(うっ……思い出しただけで尿意が。思い出すのはやめておこう。
でも、ここまで長かったような。短かったような)
そう。彼、
生まれてから、赤ん坊というモノがどれ程不便か身に染みた。
なにせ文字通り何もできないのだ。出来ることと言えば周囲を見回したり、手足をバタつかせたり、うーうーあーあー言ったりするだけである。
そして転生モノで良くある
(にしても本当にどうなってんだ?まさかネット民大歓喜の転生??でも神様にも会ってないし、ア○エール使ったのかって程真っ白な空間にも行ってないぞ?)
気付いたら赤ん坊。気付いたら羞恥プレイ。全くもって訳がわからない。
(あ〜考えてたらお腹すいたなぁ。この赤んボディは燃費が悪いよホントに。という訳で……)
「おぎゃぁぁあぁぁあああ!!」
そうして泣き声を上げると、近くにいた母親が慌てて声をかける。
「はいはい、どーしたのコウちゃん。
さっきオムツ変えたし、ミルクも飲んだでしょー?」
「おぎゃぁぁあぁぁあ!おぎゃあぁああ!(お母さんお母さん、お腹すいたよお腹!)」
「ん〜またミルク飲みたいのかなぁ?
飲む〜?」
驚いた事に、なんの因果か生まれ直しても名前は『守崎 康介』だった。
康介自身、まだ『コウちゃん』としか呼ばれていないので、名前は知らないが。
だが康介はそんな事構いもせずにミルクを飲む。
「あらあら、本当にコウちゃんは食いしん坊さんね。この分なら早く大きくなりそうだわ」
暫くすると康介は満足したのか飲むのやめる。そうしている内に眠くなったようだ。
「ふふ。眠たくなったの?なら寝ちゃいなさいな。寝る子は育つのよ?」
(本当に満腹になったら睡魔がくるなぁ。まぁ、母さんもこう言ってるし、寝るとしますか。おやすみママン)
数十秒後には寝息を立てて眠ってしまった。
「ふふふ。早く大きくなりなさいね」
男性なら皆が見惚れる様な笑顔で母親は康介を寝かしつけるのだった。
あれから4年。康介は好き勝手に歩き回っていた。
「ひゃっほーい!ぼくはじゆーだー!!」
長い間じっとしていた反動だろうか。とても元気だ。
……元気という言葉で表していいのかわからない程度には。
「ちょっ!コウちゃん待って!」
4歳児に追いつけない母親。
なんと哀れな事だろう。それには理由があった。
ミオスタチンと言う遺伝子の一種がある。コレは筋肉組織の発達を抑える役目を持つ遺伝子なのだが、康介にはコレが無かった。
ある種の障害だ。おかげで今では母・咲は追いつけなくなってしまった。
「パパ!Go!!」
「いや犬みたいに言うなよ……」
こういう時は父・亮介の出番だ。
ここで少し守崎家に触れておこう。
守崎家は代々続く武芸一家だ。その歴史は古く、戦国時代から國守流という名の独自の武術を受け継いでいる。
そして当代当主・守崎 亮介もまたミオスタチン欠乏症だった。
「うわっ!」
「ホラ捕まえた。母さんも困ってるし、体動かしたいなら道場で稽古でもしようか」
「はーい……」
こうして康介はほぼ毎日道場にて汗を流している。といっても幼いこともあり、そこまで激しくは無いが。
康介のサイズにあった木刀を型通りにゆっくり、しっかりと振り下ろす。そうして体に覚えこませる。
まだまだ体ができていない今の状態でも、出来ることはたくさんあった。
(もう後悔はしたくない。死ぬ時になってあの時もっと全力でやってたら……なんてまっぴらだ!)
その思いが今日も彼を突き動かす。
そうしていると2年などあっという間だった。気付くと入学式を迎え、小学一年生。ピッカピカのランドセルを背負い、友達100人を目標に、康介は教室に入る。
(うわー……結構広いなぁ。いや、俺が小さいからそう思うのかな?)
実際、教室の広さはごくごく一般的な広さだ。子供の視線というものを改めて実感する。
ふと周りを見渡してみると、
仲良くお喋りしている子。
教室の隅の方でジッとしている子。
ランドセルを席に置いて走り回っている子など様々だ。
「今日からここに毎日来るんだ。
よし!頑張るぞ!!」
康介は気合を入れて、その子達に向かって一歩、足を踏み出した。
その結果惨敗だったが。
「だ、ダメだ……思考年齢が違い過ぎる……それに今までずっと木刀振ってたから話題が無い……」
そう、どれだけ幼く振る舞っていても中身はもうそろそろ30になろうかというおっさんである。
精神が肉体に引っ張られているのか、少々地で幼い事はあっても良い大人なのだ。会話が噛み合うわけがない。
「はぁ……どーしよっかなぁ」
近くの公園でブランコを漕ぎながらブツブツと考える。
このままでは友達100人はおろか、1人だって出来はしない。全力で生きていくと決めた以上、交友関係で妥協するのは嫌だった。
(正直友達100人はネタだから良いけど、胸張って親友って言える奴が欲しいよなぁ……)
友達と言うものはそれそのものが得難い財産だ。それに誰だって孤立するのは嫌だろう。
そんな事を考えて速度を抑えてブランコを漕いでいると隣のブランコに誰かが座った。
上下黒のスーツを着込んだ、長髪垂れ目の女性だった。
ちらっと見えた美人と言っていい彼女は目に見えて落ち込んでいた。
「はぁ…………」
まるでこの世の負を全て詰め込んだかのような深いため息。
いくら我が身が小学生とはいえ、康介は放って置けなかった。
「おねえさんだいじょうぶ?」
「……え?」
「えっと……おねえさんすごくおちこんでたみたいだったから、だいじょうぶかなって」
「……うん。どーだろ。分かんないや」
「そっか、おねえさんもイヤなことがあったんだね」
「も?」
彼女は首を傾げた。
それはそうだろう。も、と言うからにはこの見たところ小学生の彼にも何かしらがあるのだ。馬鹿にする訳では無いが、小学生が悩み事など、似合わないにも程がある。
「何かあったの?」
「うん……今日入学式だったんだけど、友達できなくて……」
「ふふ、そっか。それは大問題だね」
「あ〜!わらったなぁ!ホントに気にしてるんだからね!」
「あはは、ゴメンね。バカにした訳じゃないんだよ?」
「ふん!どーだか!
……でもお姉さん元気になったみたいで良かった」
「え??」
「おねえさん、いまにも死んじゃいそーな感じだったから……」
「っ!!!」
この子はどこまで見抜いていたんだろう。
確かに彼女は自分の命を絶つ事も視野に入れていたのだ。
自身の能力。それは他者とは比べものにならないモノだと自負しているし、実際そうだった。
自分が作り上げた
たった一人でも良い。理解者が現れればと思い公表したが、どうもこの世界に彼女と同じ
親友も、彼女の思想は理解しても、思考までは理解できていない。
絶望。その2文字程、今の彼女の心境を表すのに相応しい言葉は無かった。
「君は……凄いね。本当に」
「そんなことないよ。すごかったら友達だってできてるよ」
はにかみながら冗談を言う。そんな彼を彼女は心の底から凄いと思った。
こんな事、こんなに胸が踊った事、親友と初めて会った時以来だ。
「それにさ、なにがあったか知らないけれど、全部あきらめて、全部投げ出しちゃうなんてもったいないよ」
「そーかな?君には分からないかも知れないけれど、世界って案外大したこと無いよ?」
「そんなことないよ。自分を信じて、自分をつらぬけば……」
康介はブランコから降り、彼女に向かって両手を広げる。
思っていたより長く話していたのか、子供達は帰っていた夕方の公園。
彼の背には夕陽が差し込む。
「世界はホラ。こんなにもかがやいてる」
そんな彼の笑顔が眩しかったのは、決して夕陽の所為だけではない事を彼女は理解していた。
「そっか……そーかもね。そーだよね!ありがとう!もう一回頑張ってみるよ!」
「うん。僕には何もできないけれど、応援してるね?」
「ふっふっふー!その応援答えてみせよう!なんせ私は天災・
「……………………え゛??」
ちょっと待て。束?え?束って…しかも天災??えぇえ?!?
康介、絶賛混乱中。
「そーと決まれば早速帰って準備しなくては!待たね少年!!見てろよ世界!!!!とぅ!」
「ちょまっ!」
その数週間後、白騎士事件が起きるのだった。
うーむ。原作までが長い。