第6話 最悪の第一印象
ISという超兵器が発表されてから、世界各国の代表達が会合を開いた。
その結果、圧倒的な戦力を持つISが戦争に使われた場合、どれ程の被害をもたらすのか見当もつかない。ならば
それがアラスカ条約だ。
まぁ
ドイツには軍部にIS部隊が設置されているだの、
アメリカとイスラエルが合同で
噂されており、何処まで効果があるのか分かったモノではないが。
では戦闘にISを使わないのであれば何に使用するのか。お蔵入り?それこそあり得ない。これほどまでに強力のモノを余らすのは世界に、人類にとってデメリットでしかない。
そうして提案されたのが篠ノ之束が発表した『宇宙開発の為のマルチスーツ』とはガラッと変わり、『ISをスポーツ競技の為に利用する』事だ。
だがそれには育成する為の施設がいる。
限られたISコアがそれぞれの国に分配され、大国でも二桁あれば良いような状態で、各国バラバラに施設を作ったのでは効率が悪い。
ISの成長には
ならば一箇所に集めてISの事を学べる学校を作ろう、となり日本の東京に『IS学園』が作られる運びになった。
そして時は4月。桜舞い散る出会いの季節にIS学園も入学式を迎える。
(………………臭うな)
見渡せば女子、女子、女子。
その一人一人が思い思いの香水をつけている為か、男子には少々、いやかなりキツイ教室の中に康介はいた。
あの事件でISを動かしてしまった康介はその後政府の人間に連行され自宅へ。
その後すぐに父と母を交えた話し合い、という名の脅迫。
色々と言っていたが要は、
(にしても流石は主人公。この場の
この教室の席順は入学式直後らしく出席番号順となっている。が、その並び方は少々変わっている。他の者からすればそうでも無いのかもしれないが、康介にとっては違和感を覚えた。
前に設置されている黒板、IS学園ではそれも電子化されているが便宜上黒板と呼ばれているそれに向かって廊下側、つまり右側の前から出席番号1番が座り、そして左に一つずれると出席番号2番の生徒の席、そのまま窓側の席である出席番号5番の席に行くと、2列目の右へ、といった順番になっている。
織斑 一夏は出席番号3番。席は教卓の前という特等席だ。もはや悪意を感じる。
そして康介は出席番号25番。席は後ろから2列目の窓際である。授業を無視していても気付かれにくい位置ではあるが、そんな余裕は康介には無い。
(IS概論、IS戦術論、IS整備基礎、
絶賛勉強中である。2ヶ月ほど前に渡された『必読!IS学園に入る前に読む本!』という何の捻りもない巫山戯たタイトルの参考書。
康介の実家にあった広辞苑より分厚く、おまけに紙が薄く字も小さい。
本来ならIS学園の入試の為に勉強しているので、殆どの生徒は流し読みする、もしくは読みすらしなくても問題ないそれも、康介は読まなくてはならなかった。
「時間が足りない……!ダイオラ○魔法球が欲しい!」
そんな事をボソッと呟いてしまうくらい時間が無い。
「第1章 IS基礎理論」「第2章 ISに関する歴史・法律」までは理解したが、「3章 IS武装について」は途中、「第4章 その他あれこれ」というこれまた巫山戯た章は手付かずだ。
(
康介はISという小説について殆ど忘れかけていた。元々知識があったのも学園祭があった辺り、要はアニメ二期までの範囲だけという事もあるが大きな要因は別にある。
生まれ直して15年。この5月で16年になるのだ。生まれ直したこの世界にISという小説は無いし、読み返す事も出来ない。その状態で忘れても責める事は出来ないだろう。
「はーい皆さんLHR始めますよー。席に座って下さーい」
それを合図に教室で騒いでいた生徒も席に座り、廊下に集まっていた生徒も自分たちの教室に帰っていく。
教室の前のドアから入ってきたのは世にも珍しい緑髪の女性。彼女の名は、
「皆さんこんにちは。これから1年間貴方達の副担任になる
「よろしくお願いします……え?」
その
周りを見ると、殆どが一夏を、康介の周辺の生徒は康介を見ていた。
(いや副担なんだから返事くらいしろよ)
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いしますね!」
「は、はい」
彼女も少し動揺しているようだ。明らかに康介にのみ話しかける。
「それではこの時間は担任、副担任や生徒同士の自己紹介に当てられています。担任の先生は用事が長引いてしまって遅れているので、先に皆さんの自己紹介を済ませてしまいましょう。
出席番号1番の相川さんからお願いします」
「はい!出席番号1番!
1番、2番と順当に進み、クラスメイトが注目している3番目、一夏の自己紹介が始まる。
始まるはずが、いつまでたっても難しい顔をしたまま黙り込む。
それを見た麻耶も少しずつ焦っていく。焦りすぎて涙目になっている。元来気弱な性格なのだろう。
「あ、あの、織斑くん?自己紹介、次、『お』だから織斑くんの番なんだけど……自己紹介、してくれないかな?ダメかな?ゴメンね??」
「あ、いえ、しますします」
「本当?!約束!約束ですからね?!」
何がそんなに嬉しいのかピョコピョコ飛び跳ねながら喜ぶ麻耶。自己紹介なのだからするのが普通なのだが。
そんな事より康介は飛び跳ねている麻耶の胸部装甲に目をやっていた。
(これが……これが元日本代表候補生の実力か。凄まじいの一言に尽きるな)
教室に現れた時からインパクトを放っていたそれは、既に何人かのクラスメイトの戦意を喪失させる程の威力だ。心なしか一夏も見つめているように見える。
「えっと……織斑 一夏です!」
(……残念な事にそれだけではこの飢えた獣達は満足しないぞ織斑)
周りのもっと何か無いの?!?と言った視線にたじろぐ一夏。深呼吸をして、一言。
「以上です!!!」
「自己紹介もまともに出来んのか馬鹿者」
右手に持った
「げぇ!関羽!!」
「誰が三国志の英雄だ」
(そっちじゃなくてアニメの方じゃないか?)
もう一発特大の一撃が入る。一夏は
「入学式早々HRを任せてすまないな山田くん」
「いえ、副担任ですし……」
「助かったよ。
さて、諸君。私が担任の織斑 千冬だ。諸君をこの1年でそれなりのIS
覚えられない者は一から全て叩き込んでやる。いいな?」
暴君、もしくは鬼教官のような口振りだ。普通であれば大ブーイングだろう。そう、普通であれば。
「キャァァァア!!千冬様!千冬様よ!!!」
「生まれて良かった!!!受験頑張って良かった!!!!」
「私千冬様に会いたくて来ました!!北九州から!!!」
「流石ですお姉様!」
これだけで受験が報われるなら良かったなとか、このクラスには海外から来た人間もいるぞとか、はいはいさすおにさすおにとか色々ツッコミたかったがグッと堪えた康介が口にしたのはたった一言。
「み、耳がぁ!」
痛みに対するものだけだった。
「まったく、毎年毎年私のクラスには馬鹿者しか集まらんのか……。いや、集められている……のか?」
「流石ですお姉様!」
「叱って!」
「もっと罵って!」
「そして偶には優しくして!」
なぜ煽るのか。そして魔法科高校の劣等生が無いこの世界で何故そんなにもさすおにネタに拘るのか。
「静かに!他のクラスもHR中だ!……そして織斑。なんだ今の自己紹介は」
「いや、千冬姉、俺は__」
「織斑先生だ馬鹿者」
またも煌めく出席簿による一閃。あの威力を叩き出してなお、その外装は歪みもしていない。煙は出ているが。
(え?織斑君って千冬様の弟?とか、じゃあもう一人は?とか周りが言っているが姉弟報道は出ていただろうに。
あと俺については報道された苗字を考えろ。まったく未成年なのになんで報道されてるんだか……)
そんな事を康介が考えている間にいつの間にか康介の番が回ってくる。一学生が使うには随分ハイテクな机の立体ホログラムに康介の名前が表示される。
「あー……結構報道されているけど一応。守崎 康介だ。字は表示されている通り。
中学は普通の市立中学で、特技は特にない。趣味は……読書、かな?
一般教科にはそれなりに自信があるがIS関連は御察しの通りからきしだ。
……あとNLC所属のテストパイロットだ。よろしく」
最後の一言で教室が騒がしくなる。当然だろう。NLCと言えば日本どころか世界から見ても有数の大企業だ。偶に変態的な武器を開発する事を除けば、その技術力は倉持技研にも引けを取らない。
「……報告は無かったのだがな。守崎、疑うわけでは無いが、事実なのだな?」
「えぇ。気付かぬ内に
「すまんが報告させてもらうぞ」
「いえ、お任せします」
お気付きの方もいるだろう。
ナイン・ラインズ。
そう。康介が中学のあの事件以来縁ができた九条 誠。彼の両親はNLCのCEOとその秘書だった。
(らしくないと言ったら殴られたけど)
彼も幼い頃から大企業の御曹司としての期待や重圧に晒され、嫌気がさしてグレたそうだ。その結果自分の出自を誰も知らない普通の市立中学入学を希望し、喧嘩を繰り返していたいつの間にか強くなっていた、との事らしい。
「そうか。了解した。では次の生徒」
千冬がそう切り出すと騒々しかった教室が一変。静かに次の生徒の自己紹介を聞いていた。これも織斑 千冬のカリスマのなせる技か。それともこのクラスの面々が優秀なのか。あるいはその両方か。
(ま、何でも良いけどな)
康介はその自己紹介の中参考書を取り出し、隣のクラスメイトの咎める視線を受け流しながら勉強を再開した。
一限目のLHRが終わり、二限目のIS概論の授業に入る。
普通の高校でも学ぶ一般教科に加えISの知識面、技術面、更には操縦による実技と言った事を学ぶIS学園では休める暇などある訳もない。
入学式初日から授業があるのも頷けるだろう。
(良かった。まだ参考書の一章までの内容か。だけど、覚え忘れている単語が幾つかあるな。検索検索、と)
授業中でも机に内蔵されている機器で用語の検索などが出来るのは有難い。画面は教師に監視されているから、授業とは関係の無い事は出来ないが。
「此処まで分からないトコロがある人はいますかー?」
二限のIS全般基礎の分野を担当する麻耶が確認をする。と言ってもまだ必読!以下略の一章。その初めの十数ページに載っているものだ。あくまでも確認。そのつもりで麻耶は尋ねたが、1人だけ顔を真っ青にしている
(ヤバい……何一つ分かんねぇ……)
織斑 一夏である。
「特例入学の織斑くんと守崎くんも、この範囲は大丈夫だよね?参考書の最初の10ページくらいだし」
麻耶はニコニコしながらそう口にして次に進もうとするが、そうは問屋が卸さない。
「あ、分からないトコロがあれば言ってくださいね?教えますから。
なんせ私は先生なんですから!」
「じゃあ……あの……先生……」
「はい!織斑くん!」
意気揚々と指名する麻耶の笑顔。教師として頼られた事が嬉しいのだろう。しかしその笑顔も、次の一言で吹き飛んだ。
「殆ど全部分かりません!!!」
「ぇええぇ?!全部ですかぁ?!」
堂々と胸を張って答える一夏。
流石にジョークだと思ったのか声を殺して笑うクラスメイト。
私の説明がダメなのかなぁ?教師向いて無いのかなぁ?と再び涙目になりながらワタワタ動揺する麻耶。
そして揺れる胸部装甲。
(いえ、ご立派です)
冷静におかしな思考をする康介。まさにカオスだ。
そんな中頭を抑えながら千冬が切り出した。
「はぁ……胸を張る事では無いだろう馬鹿者が。織斑、入学する前に渡した参考書はどうした」
「えっと、あのタウ○ページと間違えそうな程分厚いヤツですか?」
「そうだ。必読、と書かれた黄色いのだ」
「タ○ンページと間違えて捨てまし__」
「巫山戯るな」
またも出席簿が活躍した。
(いや確かに黄色いのとあの
そう、本当に○ウンページに瓜二つなのだ。タイトルと言い外見と言い、巫山戯ている事この上ない。
中身はとても良くできているだけにツッコめないのが余計腹立たしい。
「いや!本当なんですって!」
「余計タチが悪いわ馬鹿者。後で再発行しておくから、一週間で覚えろ。良いな?」
「いやあの量を一週間はちょっと……」
「良 い な ?」
「……………………はい」
まぁ自業自得、とも言えるだろうが一週間で覚え切れれば良いが中途半端に覚えるのも問題だろうに。というのが康介の感想だ。
「放課後私が教えるから一緒に頑張って覚えよう?ね?」
「山田センセェ……」
見事に飴と鞭が成立している。なるほど、学園側がこの教師二人をペアにしたのは正解なのかもしれない。
「ところで環境としては守崎も似たようなものだと思うが、問題はあるか?」
「それは俺が必読と書かれた参考書を捨てる様な奴に見える、という事ですか?」
「そう曲解をするな。勉強出来るはずだった期間という意味でだ」
「それでしたら問題ありません。まだ三章までしか読んでませんが、今のところは」
「本当ですか?!大丈夫ですか?!」
千冬と康介の会話に身を乗り出して入り込む麻耶。一夏に精神力的な面で叩きのめされたからだろうが、康介にとっては、そんなに自分は馬鹿に見えるのか、と少し心外だった。
「……えぇ。授業的には問題なかったかと。彼が理解出来なかったのは下地が無かったからでしょう」
「うぐっ……」
「ですが一つ……次のページの中に疑問があるのですが、どうせですし今良いですか?」
「はい!どうぞどうぞ!」
「この
PIC。パッシブ・イナーシャル・キャンセラーはISにのみ付けられている慣性を制御する技術だ。
これがあるが故にISは今まで出来なかった立体的な機動や音速に近い速度を出してもGを感じない上での操作が出来る、ISの強みの一つだ。
「あぁ、折角ですし少し説明しちゃいますね。PICとは文字通り、慣性制御システムの事です。コレはIS、及びランナーに対するGや風圧などを大幅に軽減してくれますが、オート制御ではそれによる欠点もあるのです。
例えば
ですがまぁ、熟練者、それこそモンドグロッソに出場出来るレベルにならないと大抵は銃身の慣性制御に集中し過ぎて期待の制御がおざなりになったり、その逆で当たらなかったりするので、最初の内はオート操作をオススメします」
「その横方向への瞬時加速の時、射撃補正が高い機体でもダメなのですか?」
「ん〜……どうでしょう。今後の技術発展によっては可能かもしれませんし、もう可能な機体もあるかもしれませんが……私はそれが実現した、という話は聞いた事がありませんねぇ……それにさっきのは、あくまでも一例ですので。PICのマニュアル制御の利点の詳しい内容については2学期になってからの予定なので、それまで楽しみにしてて下さい。
あ!放課後とか休み時間に聞きに来てくれるのは大歓迎ですよ?先生やる気のある生徒は応援したいですし♪」
「そうですか。まだ参考書の4章を理解しきれていないので今は無理そうですが、また聞かせて下さい」
「はい!他に質問のある人はいますか?……いないなら先に進めますね」
ウキウキとした表情で教壇に向かった麻耶は、何もないところでコケた。
千冬はまた頭を抑えるのだった。
二限目が終わって休み時間。康介はやはり参考書を広げて勉強に励んでいた。
(ふむ。その他って何かと思えば学者が
提唱しているISコアに関する仮説が主な項目か。こんだけの数の人間が束になっても篠ノ之束1人に敵わないとは……いや意図してダジャレになった訳じゃ、ん?)
「あー、勉強中悪いけど、ちょっと良いか?」
そんな康介の元に一夏がやってくる。一限目と二限目の間の休み時間は何処かに行っていたのか教室にいなかった。何かあったような気もするが、康介には思い出せなかった。
「あぁ構わない。この範囲はそこまで重要度が高くなさそうだ」
「そっか。悪いな。さっき自己紹介でも言ったけど、織斑一夏だ。2人だけの男子だし、一夏って呼んでくれ」
「守崎康介だ。呼び方は任せる」
一夏が右手を差し出す。康介はあまり初対面で握手、というのはしないのだが、流れを壊すのも悪いか、と握手を交わした。
「じゃあ康介って呼ばせて貰うよ。
いや、ホントはさっきの休み時間に話したかったんだけど、
「箒?掃除用具がどうした?」
知っているが一応惚けておく。
自己紹介をしたのだが、まぁ他のクラスメイトを覚えていないのに、
「悪気ないんだろうけどそれ本人に言ったら殺されるから気を付けろよ?篠ノ之 箒って言って、俺の幼馴染みなんだよ」
「それは……苗字も名前も変わっているな。篠ノ之などIS開発者以外で初めて聞いたぞ」
「そうか?聞き慣れれば大した事な__」
「よろしいですの?」
一夏が話している途中に乱入者が現れる。
意図してなのか、そうでないのかはさておき、何とも間が悪いその乱入者は綺麗な金髪に縦ロールという出で立ちだ。如何にもお嬢様然とした彼女から、康介は
(コイツは……)
「よろしいかと聞いているのですが?」
「あ、あぁ。良いけど」
「まぁ!なんですのそのお返事は!エリートであるこの
仰々しく天を仰ぎ、呆れたような視線を向けるセシリア=オルコットと名乗る彼女に対して康介が抱いた
(小説通りアイツと同じ、
最悪だった。
長い。ひたすらに長い。
いや今回に関しては原因がハッキリしてるんですよ。途中のPICのマニュアル制御。あそこいらないかな?とか思ったけれど、こーちゃん頑張ってるよ!っていうの入れたかったんですよ。
予定では金髪チョロコルネさんに白手袋投げつけられる辺りまでいきたかったんですが、次回に持ち越しです。
さてその他二次創作の主人公達がその時々によってやらかしてきた最初の山場。それをこーちゃんはどう乗り越えるのでしょうか。その行く先は、モッピーも知らないので今から頑張ります。
誤字脱字報告、いつも通りお待ちしています。
それ以外でも感想お待ちしてます。よろしくです。