青臭さもたまにはアリ?
ついに始まるインターハイ予選
「いくぞぉ!!」
誠凛バスケ部は、会場に向かう。
「うぅ...。」
目を充血させている火神。
「また寝れなかったんですか?」
チラリと見て黒子が言う。
「うるせぇ。」
試合の順番は最初。例えれば開幕戦である。独特な雰囲気を醸し出し、選手の緊張を煽る。
現在、開始前の練習中。
本日の対戦相手『新協』の要注意選手、通称お父さんにより黒子が子ども扱いされていた。
実力的にとかではなく、本気で子供だと思われていた。
堪らず他のメンバーは、腹を抱えて失笑。
英雄は堂々と
「ははははは~。」
笑っていた。
「いろいろイラっと来ました。」
その言葉に、笑うのを直ぐ辞めた。英雄以外。
「くくっくっく...。おわっ!」
顔擦れ擦れにボールが飛んできた。
「すいません。手が滑りました。」
只今、試合前の作戦確認の最中。
「スターターは、海常と一緒。ディフェンスはマンツー。火神君、お父さんをお願い。英雄はベンチ。」
「うっす。いよいよか、楽しみだぜ。」
「ってゆーか、英雄出さなくて大丈夫なのか?」
火神がテンションを上げる中、日向が1つ質問する。
「いや~。出たいのはやまやまなんですけど。一応俺秘密兵器なんで。」
「その設定まだ生きてたのか?」
「大丈夫よ。3クォーターから出す予定だから。そしたら、いきなり試すからそのつもりで。」
「分かった。」
「さ、こんな序盤で躓くわけにはいかないわ。」
「分かってる。いくぞ!!」
「「「おう!!」」」
ティップオフは、お父さんが制し新協ボール。
そのまま、速攻でお父さんに渡り、打点の高いジャンプシュートで先制。
誠凛もすぐさま攻撃をしかける。
シュートを打つが、軽々ブロックされる。序盤早々、圧倒的な高さを見せ付けるお父さん。
しかし、黙っていない誠凛。火神がお父さんにプレッシャーを与え続け、自由にプレーをさせない。
シュートの制度が一気に下がり、新協の得点が伸びない。
そこに、火神・黒子のコンビプレーによるダンクが決まる!
新協も直ぐ取り返そうとするが、
「なっ...!」
スパン!
突如として現れた黒子により、パスを弾かれた。弾かれたボールをそのまま掴み火神のダンク。
誠凛は流れを完全に掴んだ。
第1クォーター終了。新協 8-23 誠凛
第2クォーターは黒子を一旦ベンチに下がることに。英雄は第3からなので小金井が入る。
黒子がいないので、ディフェンス重視の作戦。
お父さんは持ち直し、シュートの打点が更に高くなっていた。
対する火神も負けていない。身長差をものともしない跳躍力でシュートを防いでいった。
その活躍は、ベンチを沸かせる。それを意味深に見つめていた黒子。
「ど~したの?そんな顔で見つめて。何かあったの?」
英雄は黒子に話しかける。
「いえ、別に。」
「まあいろいろあるだろうけど、アイツは大丈夫でしょ。」
「...どうしてそう思ったんです?」
「ん~勘かな。」
「勘ですか。」
「黒子君ラスト5分いける?」
2人が話しているとリコが問いかける。
「とゆーかもうちょっと前からいけてました。」
「そう。じゃあゴー!」
ここまで新協に巻き返されていたが、黒子の再登場で点差をどんどんつけていく。
そこからは、正に猛攻。
更には遂に、2mから放たれるシュートを火神がブロックする。
第2クォーター終了 新協 34-56 誠凛
ハーフタイム
「お疲れ~テツ。あ、もう出番ないからよろしく~。」
「はい。よろしくお願いします。」
「そうそう。もうテツのパスは勿体無いからね。」
「英雄!いつまでもへらへらしない!」
リコが英雄に一括する。
「無~理。あ水戸部さん、ここからは火神だけじゃないってところ見せ付けてやりましょ。火神も今度は俺の番だから獲っちゃ駄目だよ。」
「...(こくり)」
「はっ!言ってろ。」
「まったく...。」
「しょうがねーよカントク。こればっかりは。しっかり結果だせば文句は無い。」
「そうね。万が一の場合は...ふふっ♪」
なんとも言えない笑い声が木霊する。
「...さてと。期待に応えますかね。俺の為にも。」
アップを終えて、後は待つのみ。
(落ち着け!3年待ったんだ。数分くらい待てるだろ!)
そこには先程までの、飄々とした姿は無く。自らの膝に肘をつけ、手を合わせた状態で眉間に近づけて目を瞑り、何かを祈っているような英雄が座っていた。
「おい、急にどうしたんだよ?」
英雄の急変に言葉をかける火神。
「...火神、悪いが少し黙っててやれ。」
事情を知る日向は、真剣に英雄へのちょっかいをとめる。
「時間です。コートに戻ってください!」
リコ・日向・伊月が見守る中、係員からの知らせが来た。
「さあ、行くわよ!」
「「「おう!」」」
『誠凛高校。11番out、15番inです。』
交代のコールの後、英雄がコートに1歩踏み入れた。
その瞬間、今までの想いが溢れ出しそうになり、視界が滲む。
英雄は天井を見上げて誤魔化そうとした。
(まったく、あの馬鹿は何泣きそうになってるのよ...。)
しかし、リコを始め製凛のメンバーは全てを見ていた。
すっかりバレていることに気がつき、リストバンドで目を拭う。そのまま、リコのへ行き。
「ゴメン!1発引っぱたいてくんね?」
モチベーション諸共、消えてしまいそうになった英雄。
「ったく、世話が焼けるわね。行くわよ。」
----バチン
プラン通り第3クォーターからは、ディフェンスをマンツーから1-3-1ゾーンに変更。真ん中に英雄、後ろに水戸部、右に火神、左に日向、トップに伊月。
「大丈夫か?紅葉ができてんぞ。」
「あ、順平さん。目がチカチカしますけど、問題ありません。」
右頬に綺麗な紅葉を残している英雄に日向は心配していた。
「そんじゃま、いくぞ!」
新協は変わったディフェンスに戸惑いながらも、お父さんにボールを集めようとする。
が、そうもいかない。英雄のディナイによりパスコースが塞がれる。
ならばと3Pを狙うが、待ってましたといわんばかりに伊月がブロック。そのまま日向・火神が走り出し、速攻を仕掛ける。
伊月→日向→火神とパスを回して、あっさりシュートが決まる。
「よっし!」
誠凛ベンチのリコがガッツポーズをする。
新協はゾーンが組まれる前にとロングパスを出すが、
「激甘~!」
お父さんとの間に英雄が現れインターセプトされてしまう。
カウンターにカウンターを返され得点を追加される。
新協はお父さん以外ではインサイドの強いプレーヤーはいない。誠凛には火神・水戸部・英雄の3人がいる。そして、水戸部のマークに英雄のパスカットによりお父さんまでパスが回らない。
アドバンテージが見事に引っ繰り返った瞬間であった。
もやは、外からの無理なシュートしか残されていないが、誠凛の3人によりリバウンドも獲れない。
水戸部と英雄のどちらかが必ずお父さんを抑えて飛ばさせない。圧倒的有利の状況で火神がリバウンドを獲っていく。
「カントク、凄いですね!ここまで機能するなんて。」
降旗がチームの活躍振りに声を荒げる。
「コレもカントクのプランの内なのか?」
小金井も質問する。
「正直、私も驚いてるわ。お父さんをここまで封じ込めるとは...。水戸部君にしても、マンツーよりもキレてるわ。リバウンドまで与えないなんて...。」
水戸部は決して、簡単にはポストに入れない。英雄は、相手が体で押し込んでいても、すり抜けてパスカットする。
更に言うと、お父さんが火神を避けようとするので、心理的にも追い詰めていた。
ここからは、一方的な展開だった。
またも、ボールを奪い速攻を仕掛ける誠凛。
新協もなんとか一矢を報いろうと速攻を止めるが、日向が後ろにパスを出す。
そこには、後ろから走ってきた英雄が受け取りドライブしてきた。
アウトナンバー成立のセカンドブレイク。戻りが間に合わずジャンプシュートを決める。
ここで新協の心が折れた。
お父さんはシュートすら打たせてもらえず孤立し、外からのシュートもまともに打てない。
打てたとしても、精度が低い。外してもリバウンドが獲れない。
そして、そこからの速攻は止められない。
じわじわと離れた得点差は40点。そして、試合終了の笛が響く。
結果は
新協 49-90 誠凛
誠凛の圧勝。
「どうよ!見た見た?ちょっとくらい褒めてもバチ当たらんよ。」
英雄はリコにドヤ顔で迫る。
「確かに、お見事って言いたいところなんだけど。なんか腹立つ。」
「まあまあいいじゃねぇか、カントク。実際1-3-1の効果は絶大だった訳だし。」
「確かにな。体力もマンツーよりも温存できた訳だし。」
「そうね。お父さんをここまで封じ込めるなんて大したものよ。よくやったわ。」
「いえ~。ほらほら、水戸部さんも後半は俺らが活躍したんですから。いえ~!」
「...(こく)」
「やっぱり声出してくんねーんすね。」
実は、どこかで水戸部の声を出さそうといろいろしていたが、結局全て不発だった。
「お疲れ様です。」
「おおテツ、ありがと。どうだった?」
「凄かったです。英雄君が泣いたときは少し感動しました。」
「あら、そこ触っちゃう?」
黒子があの一件に触れてきた。
「ああ、たしかに。もう大丈夫か?」
「お前、案外泣き虫なのな。」
「次からは、気づかれないようにな。」
お約束の集中砲火。
「やっぱそうなる~!?ホント勘弁してください!青春の1ページという訳で。」
「しばらくこれで、退屈しねーな。」
容赦なくイジる気満々の2年。
「テツ~。少し恨んでもいいよねぇ?」
「...すいません。でも、時間の問題だったと思うんですが?」
「うぅ。でも、めげないんだから!!」
「はいはい。さっさと着替える。後つかえてるから。」
「「「うぃーす」」」
なにはともあれ、1回戦突破。
水戸部君は、マンツーよりもゾーンの適正が高いと思うんですよね。