誠凛はDFを1-3-1ゾーンに変更。
対して、正邦は無駄のなく早いパスでゴールを狙う。
「俊さん!無理に獲りにいかないで。コースをしっかり切って!ロングシュートを必ずチェックして下さい。」
「おう!。」
「順平さんはじゃがいも君のパスの受け際を逃がさないで下さい。1人だけテンポが遅いので、ねらい目です。」
「おっしゃ!つかじゃがいもってあいつでいいのか?」
「小金井さんは、とにかく走り負けないで下さい。速攻時には必ず前にいて下さい。」
「おっけ!」
「水戸部さんは俺とインサイドを支配します。このDFが正邦のDFを破る鍵になります。しんどい役目ですがお願いします。」
「...(こく)。」
「あくまでもゾーンなので、出過ぎないようにお願いします。来ますよ!」
あえて、津川へのDFを弱めてパスコースを空ける。その分他のパスコースはチェックをしっかりしている。
正邦は堪らず、津川にパスを出す。日向は一気に詰め、パスカット。
その瞬間、正凛が走り出す。
「速攻!」
日向の前には既に小金井が走っている。正邦は間に合わず、簡単に得点を許す。
再び、正邦の攻撃。
またも津川のみ、DFが緩くなっている。これにはさすがの津川も表情を歪める。
誠凛は既に、正邦の動きの癖を見抜いている。津川が絡む場合、テンポが僅かだが遅くなっているところを集中して狙っている。
ならばと、正邦は春日・岩村で仕掛ける。古武術を抜きに考えても勝算はあった。
しかし、なかなか春日が切り込めない。マンツーと違い、1対1にはならない。パスをするが、どうにもゴールに近寄れない。
「いいから持ってこい!」
岩村が叫ぶ。残り時間を気にしながら、高めのパスを出す。誠凛のインサイド陣との身長差は無いが、フィジカルで勝てると踏んだのだった。
が、伊月がコースを削ってきた為、中途半端なパスになった。英雄にはそれで十分だった。
伊月にコースを限定されてパスなど、実に読みやすい。などと言わんばかりのインターセプト。
小金井はそれを確認した後、直ぐに走り出す。先程と同じ状況となり、レイアップで得点。
ーーーーーーーーーーーー
「黒子っち達が下がってどうなるかと思ったんですけど。あっという間に主導権を奪ってるっスね。」
観戦に来ていた黄瀬は感心していた。
「ああ。こんな風に正邦のDFを封じるとはな。実際、正邦のDFを破ったわけじゃねえ。極端なトランジションゲームに持ち込み、DFが戻る前にシュートを決めているだけだ。」
冷静に誠凛の作戦を読む笠松。
「それはわかるっスけど。ここまで、あっさり嵌るもんスか?」
正邦は全国レベルである。いくら何でも、そんな単純なことで劣勢になると考えにくい。
「いや、正邦の弱点を正確についている。そもそも正邦は絶対的エースがいない、レベルの高いパスワークと無駄のない動きで勝つ。そんなチームオフェンス中心のチームだ。対して誠凛のゾーンDF、有効なパスをポストに入れさせねえ。正邦のインサイドの威力が半減してる。外から打つしかなくなるが正邦にそこまでのシューターはいねえ。」
笠松も誠凛のゲームプランに感心する。
「達人もこうなっちゃあ、形無しっスね...。」
ーーーーーーーーーーーー
第2クォーター終了
54-31
正邦は窮地に追いやられていた。
後半に何かを仕掛けなければ、そのまま敗北してしまう。だが、攻めようにもターンオーバーからの速攻が脳裏にチラつき、攻め手を欠いている。
しかし、それでも名門。岩村は決断する。
「全員聞け!この試合を予選などと思うな!インハイの準決勝ぐらいのつもりでいけ!。」
「や~や~、火神にテツ君。実に暇そうだね。休めているかい?」
「そうですね。少し退屈です。」
「暇すぎる。」
得点差がほぼ安全圏に入り、余裕が見える3人。
「あんたたち~、いくら点差ができたからって油断すんじゃないわよ?」
リコに白い目で見られた。
「恐らく、正邦は何かしら仕掛けてくるはず...。それでも決して引いちゃ駄目。そのまま勝利を掴みとるの!」
「「「おう!!」」」
ビーーーー
第3クォーター開始
開始早々、ボールを奪った正邦が先制。
「あ。」
「こら英雄!油断すんなつったでしょ!」
リコは大声で怒り出す。
「分かってるから!名指しは止めて!ハズいから!」
そんなやりとりを無視し、小金井が再開しようとすると。
「DF!いくぞ!!」
正邦がオールコートプレスを仕掛けてきた。
「っく!」
王者相手に20点差をつけたという事実により、気が緩んでしまった誠凛メンバー。
虚を突かれ、焦ってパスを出す。しかし、甘いパスを許してはくれない。
即座にパスカットされてしまい、連続得点される。
それにリズムを掴んだのか、一層圧力が増した正邦。
「気を抜くな!一気に点差を詰めるぞ!」
浮かれず、全体に指示を飛ばす岩村はさすがだ。
正邦のオールコートが奏し、そのまま6点追加した。
「伊達に王者名乗ってないってか!」
日向は険しい表情になり、パスコースを探す。
「順平さん、『風林火山』っすよ!」
「なるほどって、どれだよ!?林か!山か!?英雄頼む!」
走って近寄る英雄にパスする。
「うぃ~す。」
向かってくるボールを、自分の股下を通すように弾く。マークに付いていた岩村の股も抜く。
岩村は一瞬ボールに目を移した。英雄はその一瞬を逃さず、岩村を置いていく。
すかさず津川のヘルプ。英雄はボールをキープし、ダックインで津川の構えているところより低く飛び込む。
もはや、油断もしていない津川は必死で食らい付く。
「(!?。ボールは?どこだ!?)」
ボールが英雄の手元から無くなっていた。直ぐに見回すとループ状に浮かんでいたボールを伊月がキャッチしていた。
英雄も津川が目を離した隙に移動する。
「水戸部!!」
伊月から水戸部へパスが渡る。既に、ポストアップいた水戸部はシュートモーションに入る。
同時にカバーリングでマークが変わった岩村も飛ぶ。
「(このフォームは...。こいつフックシューターか?!」
通常のブロックでは止められず、誠凛の第3クォーター初得点。
「水戸部さん。ナイスです!」
パァン!
水戸部が微笑みながら、ハイタッチを受ける。
そこからは、誠凛得意ラン&ガンに持ち込んだ。
正邦の動きをほぼ見切り、ゾーンDFで失点を最小限に抑えた。
失点しても、速攻で取り返し点差を縮めさせない。
正邦は、オールコートプレスにより体力が奪われていく。勝負所をなんとか凌いだ誠凛は止まらない。
内から外、外から内と切り替えながら見ている者全てに、OF力の高さを見せ付けた。
そして...
「順平さん!ラスト、頼みます!」
「おお!」
ポストアップした英雄からのパスが日向に渡る。
日向が3Pを放つ。
スパッ
ビーーーーーー
誠凛 104-48 正邦
「「「「よっしゃあ!」」」」
観客が沸き。ベンチからメンバーが飛び出し、勝鬨をあげる。
「......。」
リコも嬉しさあまり、声にならない。
「みんな...おめでとう...。」
この1年が報われて、涙が溢れ出しそうになる。
「お嬢さん...よかったら私の胸でよければ貸しましょうか?」
英雄が執事の様に、手を胸に当て頭を下げる。
「グスッ...馬鹿、調子に乗るんじゃないの...。」
少し笑いながら、スパンと英雄の頭を叩く。
「そうそう、やっぱり笑ってた方がこっちも嬉しいねぇ。」
「英雄...ありがと。」
「いえいえ~。」
他のメンバーがベンチに戻ってきた。
「ん?どうかしたのか?」
日向がリコの様子に気づく。
「あ順平さん。なんかリコが感動して泣きそうになってたので。」
「そうか。でも、喜ぶのは次に勝ってからだ。」
「...うん。」
「そだよ。これくらいで、泣いてたら全国優勝したらどうなんの??発狂すんのか?それはそれで見て見たいかも...。」
「...黙れ。」
「はい!申し訳ございません!!」
「あっちも終わったようだな。」
伊月が反対のコートに目を向ける。
秀徳高校が圧勝していた。風格を持ち、堂々とコートを去っていった。
「体冷えないようにすぐ上着着て!あとストレッチは入念に。疲労回復にアミノ酸とカロリーチャージを忘れずに。順番にマッサージしていくからバッシュ脱いでて。」
控え室に戻ったが、秀徳戦に向けてリコの仕事が始まった。
「あれっ火神は?」
「スー...スー...。」
火神は腕を組み、眠っていた。
「ちょっと寝たら体固まっちゃうでしょうが。」
リコは起こそうとする。
「まあほっとけよ。途中交代をこいつなりに責任感じてんじゃねーの。それに、力を貯めているように見えるしな。」
日向がリコを止める。
「そうね...って!英雄!なに食べてんの!?」
「何って?...(もぐもぐ)おにぎり以外に見える?ちなみに具は、昆布と梅とシーチキン。」
「何考えてんの!試合中吐くわよ!」
「大丈夫!炭酸抜きのコーラ飲んどくから♪」
「ばっかたれー!」
リコの声は控え室の外にも響いたとか...
「そういや、リコ姉?」
「なによ?」
「あの約束どうしよっか♪」
「げ。」
「そのリアクションはどうなのよ?そうだね、折角だから今すぐしてよ。」
「ここここんなところでできる訳ないでしょ!ああああ後にしなさい。」
完全にうろたえまくるリコ。
「あ~嘘つくんだ...。(ちら)テンション落ちるなぁ。(ちら)結構頑張ったと思うんだけどなぁ。(ちらちら)」
「あーもう!わかったわよ!こっち来なさい。」
「待ってました~。俊さんコレで写真撮ってください。」
「いいのか?おやっさんに見つかったら殺されるぞ。」
「問題なしっす。むしろ宿命?おっさんのとどめを刺すのは譲りませんよ。」
「ああ、よくわからんがわかった。」
「はい、おまた。」
英雄は膝を突き、リコが近寄る。
メンバーがそれを見守る。
.........。
............。
................。
「.......できるかー!」
バチィン!!
「...リコ姉、ベタ過ぎるのはどうなのよ?」
英雄の顔面に赤く手あとが付いていた。
「うるさい!今は試合に集中すんの!」
半ば、やけくそになり大声を出していた。
「英雄こんな写真しか撮れなんだ。」
まさに、現在の英雄の顔と顔を真っ赤にしたリコが写っていた。
「まあ面白いからOKです。ありがとうございました。腹ごなしに散歩してくるよ。」
英雄は携帯電話を受け取り外へ出ていった。
「...ちぇっ。報われないねぇ。ま、これもアリか。」
誰にも聞こえないように、呟いていた。