あれから日曜になり、スポーツバッグを肩に掛け誠凛高校を目指しているのだが。
「あーづーいー」
夏も終わりに差し掛かるというのに、涼しくなる兆しも無い。
当然、歩くペースも落ちていく。そう遠くないはずの距離が倍歩いているように感じてしまう。
「迎えに来てくれるとか、優しさがあってもいいと思うんですけどねぇ。」
などと、独りで愚痴る。
そして、やっとこそれらしき建物が見えてくる。
「へぇー。なかなか綺麗気じゃん。んー迎えは無しね。つか勝手に進入しても大丈夫?」
本当は、事務局から許可をもらうべきなのだろうが...。
「っま、いいか。なんかあったら、リコ姉に押し付けよっと。」
考えた挙句、面倒くささが圧勝してしまい、そのまま体育館に向かう。
インターハイ予選の決勝リーグで敗北してしまったが、なんとか持ち直しつつ次に向けて練習をしているのだが...。
「そういや、カントク。今日の練習って誰か知らねーが参加するんだっけか?」
日向は、先日から聞かされていた今日の予定を確認する。
「その予定なんだけど...。一体どこで道草を食ってるのかしら?」
発案者の『カントク』こと、相田リコが言う。
「どんな奴なんだ?」
小金井が興味津々に聞いている。
「うーん。なんていうのかなぁ。中学の知り合いよ。年下の。」
カントクは、なにやら企んでいるようで、含みを持ちながら話す。
「年下の?ってことは中学ん時のバスケ部の後輩か.?」
誰なのかはわからんが、ここまでもったいぶる理由が分からない。
「そーじゃないけど、知ってるはずよ。伊月君もね♪」
どーやら最後までもったいぶるらしいリコは答えない。
「えっ?俺も?」
伊月も心当たりがないのか、予想外の表情で答える。
「すいませ~ん。今日、練習に参加させていただく者ですが~。」
そんな中、体育館の入り口から男の声が響く。
「英雄遅刻よ!何してたの!」
いきなり、リコ姉に叱られる。
「いや~あの~、すいませんでした。勝手に入っていいものか悩んでいましたら...。とゆ~か、迎えに来てくれればよかったのでは?」
一応で言い訳をしてみる英雄だが
「それならそれで連絡しなさいよ!」
と、一蹴される。
「ですよね~。」
ぶっちゃけわかってました。はい。
「まあいいわ。皆集まって!」
リコ姉の声に部員全員が集まってくる。
「今日の練習に参加する補照 英雄よ。」
「よろしくです。」
紹介を始めるリコ姉に便乗し挨拶をしていると、見たことある顔があった。
「あれっ?順平さんに俊さん?御2人ともこちらの学校でしたかぁ。」
「あ、あぁ。お前だったのか...。」
日向は驚きを隠せず、戸惑いながら言葉を返してくる。
「久しぶりだな本当に。それはそうと、練習に参加してくれるのは助かるが、遅刻はいかんぞ。それに言い訳もなっ。」
俊さんも驚いていたが、直ぐ平常に戻りいつも通り話しかけてくれる。
「!!はっ。言い訳...言い訳しても...いいわけ。
「.........。」
「伊月..ほんと...死んでくれ。」
「(うん。変わってないや。)」
順平さんは頭を抱え、ぼやきだす。
しかし英雄はここで負けまいと、自前のバッグからタッパーを取り出し
「これ差し入れで持ってきたんですけど、実は隠し味かあるんです。」
突然始まった俺の説明に、周りが困惑していく。
「どーいうこと?」
意味が分からな過ぎて、リコ姉が聞き返す。
「しょーゆーこと。です。」
そして、ドヤ顔。
このコンボを決め表情を戻すと、伊月はゆっくりと近づいていく。
英雄もゆっくりと歩み寄り
『ガシッ』
力強く握手を交わす。
「あーもう!馬鹿やってないでさっさと着替えてきなさい!」
リコは痺れを切らし、怒鳴り始める。
さすがに、これ以上は今後の展開において不味そうなので素直に従う。
「日向君。案内よろしく。」
「了ー解。」
「すんません。おねがいします。」
日向の案内で部室に向かっていると、
「...ところで、聞いていいか?」
「ん~。はい。答えられる範囲なら。」
「...バスケ、また始めるのか。」
前を歩く日向は真剣な表情で筆問をぶつける。
「正直なとこ、決めかねてるんです。とりあえず、今日はお姉様のお願いを叶えるつもりッす。」
「そうか...。まぁ、いい練習になるよう期待しとくぞ。」
「現役バリバリの人が、ブランク真っ最中の奴に言うことじゃないですよ。ハードル上げないでくださいよ~。」
そんなやり取りをしていると、部室に到着した。
「空きロッカーがあるから、適当に使え。」
「うす!じゃあこことった~♪」
すばやくロッカーを開け、バッグを押し込む。
「お前は小学生か!!」
英雄は日向のツッコミを軽く流し、バッグから練習着一式を取り出す。
「あ、直ぐ着替えるんで、先に行っててもらってもいいですか?」
「分かった。お前待ちなんだ、直ぐ来いよ。」
日向は、先に体育館へと向かう。
日向を見送った英雄は着替えをさっさと済まし、最後にバッシュを取り出す。
バッシュを軽く履いてみた時、直感的に何かを感じた。
「(あぁ、駄目かもしんない。)」
感情が先走り、爆発しないように抑える以外できなかった。
「で、中学のバスケ部の後輩なんだっけ?」
小金井が話を再開する。
体育館では英雄の待ち状態なので、英雄について話していた。
「ううん。英雄は、サッカー部のレギュラーよ。」
リコは答えられる範囲で答える。
「えっ、じゃあ彼は初心者ってこと?カントクの考えを疑うわけじゃないが、ちゃんと練習になるのか?」
リコの返答に土田が食いつく。土田は唯の人数合わせではないかと心配した。
「そうでもないわ。英雄は全国を経験してるし、身体能力も確かなものよ。」
幼馴染のことだけあって、少し自慢気に答えてしまう。
「それにあいつは小学校のとき、地元のバスケットクラブに在籍していて結構有名だったぜ。」
伊月も一緒になって英雄の過去を語る。
「へぇー、そりゃまた。ところで、なんでまたサッカーなの?」
小金井は何気なく話を掘り下げる。しかし、簡単に語れるような話ではなかった。
「いや、最初はバスケ部にいたんだけd
「伊月君!!」
「あっ!悪い..。」
伊月が答えようとしたところをつい声を荒げて止めてしまった。
「ん?どうかしたか?」
英雄を案内していたはずの日向が1人で戻ってきていた。
「あ、あぁ。補照が中学でバスケをしなかった理由を聞いてたんだけど、不味かったのか?」
小金井君達は状況についてこれず困惑している。
「あぁ、それな。あーなんつーか...。すまんな少し答え辛くてな。」
日向が返答に困っていると、
「別に構わないですよ。中学では噂になって結構有名になりましたから。」
着替えを済ました英雄がいた。
英雄は練習着に着替え、体育館に向かっていると、
「伊月君!!」
リコの大きな声が聞こえてきた。
「補照が中学でバスケをしなかった理由を聞いてたんだけど、不味かったのか?」
「あぁそれな。あーなんつーか...。」
(ああ、なるほど)
どうやら英雄に関する話であることに気が付いた。
「別に構わないですよ。中学では噂になってましたから。」
と、自ら進んで話に混ざっていく。
「なんとなく分かったと思いますが、初めはバスケ部だったんですよ。これでもね...。ただ、馬鹿やらかして、バスケ部から居ずらくなっちゃって。そんでお仕舞いですよ。」
英雄は飄々と答えるが、実際に見た面々からみると実に痛々しい姿だった。
「...上級生をね、ついボコっちゃいまして。いや~俺もまだまだ若かったというしか...。」
「英雄!まだそんなこと言ってるの!だいたいあの時は...。」
「...リコ姉、もういいから。少なくてもそういう風になってんだから。」
「......。」
英雄の冷たく言い放ってしまった言葉に、リコは黙ってしまう。
「あっすいません。気を遣わせちゃったですか?気にしないでください。」
「いやっ。大丈夫だ。そろそろ練習始めようか。」
日向が空気を切り替えようと練習開始を促し、
「...そうね。...始めましょう。フットワークから!皆声だして!今日は3 on 3でセットプレーを重点的にするわよ!」
リコが切り替えて、監督の顔になり指示を出す。
英雄は1度しゃがみ、途中で靴紐が解けてしまわないように強く締め直し、また立ち上がる。
「おっしゃ、いきますか~!」
英雄にとって、過去は胸を張れるものではない。
それでも、そのことでリコや日向に気を使われる方が嫌だった。
もしかしたら、これが最後になるかもと【ありもしない事】を考えながら、久しぶりに履いたバッシュの感触を確かめる。
体育館に響き渡るバッシュの音が、不思議と心地よかった...。
8/15 修正