相田スポーツジム。
誠凛は、ジムが定休日の日にプールを使用した。フィジカル強化を行っている。
「まずはスクワット。」
ピッ
水中では浮力が働き怪我をしにくいが、抵抗もある為、かなりキツイ。
英雄は幼少よりコレをこなしている為、メニューがキツくなっている。具体的に言うと、皆が水中でスクワットだが、英雄はしゃがんでジャンプとなっている。
大差ないように見えるが、この違いはかなりしんどい。他がやると後の練習に影響する。
ちなみに、火神は私用で不参加。理由は生活費の支給がどうとか。
ピッ
「はい、一分休憩。」
「マジキツイなプール練。」
メンバーが息を整えていると
「ん?」
まさにボン・キュ・ボンの美少女がそこにいた。
「あのどなた?今日ジムはお休みなんですけど。」
リコが恐る恐る聞いてみると
「えーとテツ君の彼女です。決勝リーグまで待てないので来ちゃいました。」
............。
「「「え~!!!」」」
「黒子!お前彼女いたの!?」
「違います。中学時代のマネージャーだったひとで桃井さんです。」
「(決勝リーグって次の対戦校なの?)」
その後、黒子と桃井の馴れ初め(?)を聞いたが付いていけなかった。
「ちょーと胸が大きくてちょーっとカワイイだけでみんな慌て過ぎよ。ね、日向君?」
「うんそうだね。(ちら)」
「チラ見してんじゃねーよ!」
リコの一撃で日向はプールに叩き込まれた。
「日向さん死んじゃいますよー。」
「あれっ?俺の事知ってる?」
「知ってますよー。キャプテンでクラッチシューターの日向さん。イーグルアイを持つPGの伊月さん。無口な仕事人でフックシューターの水戸部さん。驚異的なスタミナをもつファンタジスタ補照君。小金井さんと土田さん。で、ギリギリBの監督リコさん。」
「ふざけんな~!!」
「あ、俺も知ってる。」
桃井の発言に取り乱すリコの後ろで英雄が爆弾発言をする。
「っておい!なんでアンタが知ってんの!?」
「いや、おっさんが勝手にしゃべりだしたんだよ。すげードヤ顔で。でも安心して、俺は美脚派だから。」
「意味分からんわ!!」
リコのボディーブローは見事に決まり、英雄は一時的にチアノーゼになりました。
「みんな決勝リーグの出場校出たわよ。」
Aブロック・誠凛
Bブロック・桐皇学園
Cブロック・鳴成
Dブロック・泉真館
ジムから戻って、リーグ表を見ていた。
「なんか新鮮なリーグ表だな。」
「結局青峰ってどこよ?やっぱ王者?」
「違うわ。桐皇よ。」
「聞いたことねぇ。」
「過去の実績はないけど、最近全国から有望な選手を集めてるそうよ。特に今年は秀徳と比べてなんら遜色ないそうよ。」
「そいや、俺ここに声掛けられたよ。バスケで。」
英雄が何か思い出したかのような顔をする。
「何か知らんけど、俺がバスケに再起するってことを知ったらしくて。」
「ふーん。まあ中学上がるまではアンタもそこそこ有名だったからね。」
「うぃーす。」
リーグのことで談話していると火神が合流し、練習が始まった。ただ気になったのが火神の様子が少し変だった。
練習後、火神・黒子・英雄はマジバに来ていた。
「そいやあ火神?」
「あんだよ。」
「今日合流する前に何かあった?」
「それ僕も思いました。練習中なにか思いつめていた様に見えました。」
「そうそう。それに練習する前から少し疲労が見えたし。」
火神に対し、2人で問い詰めた。
「...今日、青峰とやった。」
「!」
黒子が顔色を変える。
「そんとき言ってた。黒子、お前は昔の光だとな。ただ同じチームだったとは聞こえねぇ。お前ら中学ん時、何があったんだよ?」
そして中学時代の出来事が語られた。
青峰は誰よりもバスケが好きで、練習量も1番だったこと。
青峰が1番早く才能が開花したこと。
強さ故に相手がいなくなり、バスケに対して不真面目になってしまったこと。
「...ふーん。一言言うなら、ちょーしのんなボケ!ってぐれーだわ!強くなりすぎてつまんなくなっただぁ?腹でコーヒー沸くぜ!」
「お茶です。」
「さくっと勝って、目ぇ覚まさせてやらぁ!」
火神が黒子に拳を向ける。
「...はい!」
黒子も遅れて拳をぶつける。
英雄は、テーブルに肘をつけ、つまらなそうな顔をしていた。それは、予選トーナメントで秀徳の試合を観た時の表情だった。
「...そっか。『俺に勝てるのは俺だけだ』か。」
英雄が小さく呟く。
「英雄君?」
「ああ、ごめんごめん。今日さ、桐皇のDVD見たんだ。」
「んなもんあったのか!?」
今日、直接青峰とやりあった火神は当然のように興味をもった。
「はっはっは、伊達にネットの住人してないさ。興味あるなら貸すけど。ほい。」
DVDを差し出す。
「マジか!借りとくぜ。」
「おうおう、気にすんな。実はスマートフォンにコピーなんかしてたりして♪」
趣味が評価され調子に乗り出す英雄。
「す、すげーな。ちょっと見せてくれ!っっ.......これが...青峰..。」
その小さな画面には、青峰のプレーが移っていた。凄まじい程のキレのあるドライブは正に圧倒的。火神も客観的に見るのは初めてで言葉を失いかけた。
「これ倒すのは生半可じゃ無理だよ。それに見る限り、流しながらのプレーなんだよねぇ。さあどうしたもんか...。」
「そんなもん、ぶっ倒すだけに決まってんじゃねーか!」
「火神はそれでいんじゃない?俺は嫌いじゃないし。それよりテツ君に聞きたいんだけど。」
「なんですか?」
「中学の時と比べてどのくらい成長してる?」
「正直わかりません。英雄君の言った通り、青峰君は本気を出していませんから。ただ、恐らく練習はほとんどしていないと思います。」
「にゃるほどねぇ。おっけぇ~、ありがと。そんじゃそろそろ行こうか?」
「そうですね。時間もあまりありませんし。」
そういい黒子と英雄は立ち上がる。
「ん?お前らどっか行くのか?」
「ちょっとボウリング場にね。火神も来る?」
「最近一緒に帰ってると思ったらそんなことしてたのか?」
「はい。英雄君に誘われて。結構楽しいですよ。」
「いや、いい。」
「そっか。そんじゃ。」
「お先です。」
「ああまた明日な。」
火神は英雄から渡されたDVDを見つめていた。
桐皇対策をメインとした練習を続け、試合前日。
調整程度に抑えていたが、英雄はもの足りず1人で夜のストリートコートに来ていた。
「うりゃ!」
英雄のジャンプシュートは綺麗な音を立ててリングに入った。
「コラ!明日に備えろって言ったでしょ!」
「へ?」
英雄が振り向くと仁王立ちしたリコが睨んでいた。
「えっと...なんでここに?」
「わからいでか!あんたのことだから、体育館が使えないならここにくると思ったのよ。」
「ご理解いただき光栄の極み。」
「馬鹿言ってないでさっさと帰りなさい。」
「もう少しだけ~。」
「はぁ~。...それにしても、さっきのシュートは、大分制度が上がったわね。」
「伊達に順平さん達の後輩やってないからね。他のも試合で使えるようになったよ。」
「それにしても、よくもまあこんな暗い状況でできるわね。」
「まあ、これが俺の中学ん時に得たものだからね。」
2人がコート内で談話していると、そこに近づく足音があった。
「そこの君達~?こんなとこで逢引でもしてんの~?」
「ぎゃっはっは、逢引て、今時そんなんいわねーし。」
粗暴な男が複数現れた。
「学生じゃん。子供の時間は終わってから。とっとと帰んな。」
「...英雄、行くわよ。」
リコは顔を顰め、英雄を引っ張っていく。
「英雄?おい!こいつ補照英雄じゃね!?」
「補照って...あんときのクソガキ!!」
「ちょい待てや。」
男は2人を呼び止める。
「なんですか?もう帰りたいんですけど...。」
「お前に用はねぇよ。1人で帰れ。補照ぅバスケ部の先輩忘れるって失礼だと思わねえの?しかも殴った相手だぜ?っくそ!思い出したら腹立ってきた。」
「あんたたち、あんときの....!」
「...お久しぶりです。」
男達は嘗て、英雄が中学時代にバスケから離れた原因をつくった上級生グループだった。
英雄は軽く会釈をした。
「ホントだよな~。つかまだバスケやってんだ?お前のせいで俺らバスケ部辞めさせられたのに。」
「それはあんたたちが悪いんじゃない!」
男の発言にリコが言い返す。
「はぁ?つかお前には用ないんだけど。」
「そうそう、男には男のけじめの取り方ってあんじゃん?」
グループは近づいてくる。
「...ちょっと、何するつもり?」
「リコ姉下がってて。」
英雄がリコの前に進む。
「駄目!もうあんなの見たくない!!」
「...わかってる。」
リコが止めようとしたが英雄は止まらない。いや状況的に止まれない。
男達は襲い掛かってきた。
しかし、素人のパンチなど古武術を嗜んでいる英雄には当たらない。避ける。かわす。かわす。避ける。
かわされ続けた男達は疲れてきた。
「ホント勘弁してくんないですか?」
「...っくそ。涼しい顔しやがって...なめてんじゃねー!」
男は怒鳴り散らして、足元にあった石礫を投げつけた。
英雄はそれを避け.....
「!!」
られずに顔面に命中する。付着していた小さな砂が目に入り、手でおさえながらうずくまる。
英雄には避けられなかった。なぜなら英雄の背後にリコがいた為である。
「英雄!!あんた血が...!」
額から出血し、リコは駆け寄ろうとする。
「タンマ!...大丈夫だから...。」
「よっしゃ...つーかまーえた。」
しゃがみ込んだ英雄の服を男が掴む。
「かっこいいねぇ。ヒーロー気取りかい?」
自分達が優勢になり、感じの悪い笑い声がコート内に木霊する。
「おら!!」
ッガ!!
男達はしゃがんでいる英雄を殴る蹴るの暴行を始めた。
英雄は目がまだ回復していない為、避けられない。
「おいおいもうおしまいかい?」
「根性みせろよぉ。」
「ぎゃっはっは。つかこうなったらどうしようもなくね?」
「たしかに。俺でも無理だわ。」
「お前何様なんだよ。」
「英雄!!止めなさいってば!!
男達はしゃべりながらも暴行を止めない。リコの静止は空しく響くのみ。
「そろそろ飽きたし、とどめ!」
「あ、俺も。」
「そんじゃ順番でいくね?」
交代に英雄の腹部に蹴りを入れていく。
ッメキ。
「っがは!!」
不気味な音が英雄から鳴る。
「ピーーーー。そこで何をやってる!?」
そこに巡回していた数人の警察官がやって来た。
「やばくね?」
「逃げろ!」
男達は走り出す。リコは直ぐに英雄に駆け寄る。
「英雄!!大丈夫!?.....っ!!!」
顔に傷が複数あり流れた血が服を汚していた。そして、英雄が右腹部を抱えている。
「さすがに...痛い。」
英雄は無理やり苦笑いをするが、余計に痛々しい。
「君達大丈夫かい?ってひどい怪我じゃないか!?おい!救急車呼べ!」
警官が話しかけてきた。
「...ん?君達は学生かい?こんな時間になにをしてるんだい?」
「すいません。ここでバスケットをしていたら、彼らが絡んできて無視して帰ろうとしたら...。」
「逆上して一方的に暴行を加えたってことだね?」
しゃべることもしんどい英雄に代わってリコが答える。
「じゃあ調書とるから、あそのままでいいから。」
「はい。」
救急車が到着し、英雄は病院で応急処置を受けていた。
明日、念のために検査と改めて事情聴取をすることになった。
リコは、落ち着きを取り戻し自宅に連絡することに。
「あ、パパ?ゴメン帰るのもう少しかかりそう。うん、実は...」
父・相田景虎に相談することにした。
「―うん。そうなの。お願いできない?...ホント?...ありがとお!!うん...わかった。」
電話を切り、英雄のところへ。
「どうだったの?」
「頭部へのダメージがあるから、今晩はここで様子見ろだって。」
「...そう。....もしかして脇腹...。」
「ん、ひびが入ってるかもって。」
「...ゴメン。私の
「明日さぁ...先に遅刻の申請しといたほうがいい?」
リコの言葉を遮る。
「遅刻?...って試合に出る気?無理よ!そんなんじゃ碌に動けないじゃない!!」
「...そうかもね。でも、相手は桐皇..いや青峰だ。こんな状態でも役立つかもしれない。」
「...なんで。」
リコは俯き呟く。
「それにみんなが知ったら心配して、試合に影響するかもしれない。だったら遅刻にした方がごまかせる。」
「...もういい、もういいから、休んでなさい。明日、パパが迎えに来るから。」
「おっさんが?そっか...ありがと。」
「...じゃあ、ね。そろそろ帰るわ。」
「俺も寝るかね。」
2人はそこで分かれた。大きな不安を抱えて。
それでも決戦は迫る。