黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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遅刻者

事件の翌日。つまり、試合の日である。

事件をしらないメンバーは、試合に向けて体の調整をしたり意気込んでいたりしていた。

 

 

 

英雄は病院で1日過ごし、検査の前にある人物と会っていた。

 

「お初にお目にかかります。手前、誠凛バスケ部で杯を交わしております。補照英雄でござんす。」

 

中腰になり片手を下に添えて掌を相手に向ける。江戸時代とかの渡世人の挨拶である。

 

「ああ、キミがリコの言ってた子かい?確かにおもしろいね。ていうかどうしたの?階段でころんだのかい?」

 

「いや、もういいです...。」

 

ボケを殺されて少し凹む英雄。

 

「そうかい?始めまして補照君。」

 

「英雄でいいですよ。木吉さん。」

 

「だったら俺も鉄平でいいよ。」

 

木吉鉄平...去年の中心選手でありインターハイ予選で故障の為、リタイアした部の創設者。故障後この病院に入院していた。

 

「怪我の調子はどうですか?」

 

「あともう少しってところかな。というより、英雄も相当ひどいと思うんだが...。特に右の脇腹なんかがね。」

 

「大丈夫ですよ。ちょろっとひび入ってるくらいですから。」

 

「そうか。ま、頑張るのはいいけどあいつらにあんま心配かけんなよ。」

 

「そう、ですね。ただ、今日はキセキの世代との試合なんですよ。」

 

「...出るつもりなのか?」

 

「わかりません。俺がいなくてもなんとかなるなら任せます。そうじゃないなら....。」

 

「...俺も怪我をしてる身だ。復帰を前に同じことを考えるよ。あまり無理はしないようにな。」

 

「うっす。」

 

 

『補照英雄様、診察室までお越し下さい。』

 

 

呼び出しの放送がなる。

 

「あ、じゃあ失礼します。」

 

「ああ、またな。」

 

 

相田景虎の付き添いで検査を開始した。

検査の結果。脳への影響はなく、最悪のケースは回避された。

ただ、上半身の打ち身・痣が数箇所。右の脇腹の2本にひびが確認された。全治2週間。

激しく動くことを医師から止められもした。

 

「それじゃあ、また来ます。」

 

英雄は笑顔で返し、医師は溜息をした。景虎はただ口を出すことなく英雄を眺めていた。

検査を終えて、車で警察署に向かっている途中。

 

「おい。クソガキ。」

 

「なんすか?」

 

「そのなりで試合に出てどーにかなると思ってんのか?」

 

「確かにお客さんとか変な噂すんでしょーね。」

 

「そっちじゃねーよ。ったく...ホントに馬鹿だなお前。」

 

「昔から言ってたでしょ?『人生を楽しむコツはどれだけ馬鹿なことを考えられるか』って。」

 

「大真面目に実践してるやつ見たことねーわ。」

 

「俺もっす。」

 

「お前のことはどーでもいいが...。リコを泣かせたら覚悟しとけよ。」

 

 

 

リコ side

 

 

『...なんで。』

 

私が呟いた言葉。

 

『なんで抵抗しなかったのか?』

 

あの時、目が開けられなくてなすがままだった。でも、何かしら反撃でいたはず。英雄は実際のところ、強い。素人相手じゃ数人いようが返り討ちにできる。事実上リタイヤとなった英雄を見るとそんなことを思ってしまった。

聞くまでもない。私は知っている。3年前の事件で強制大部になった時、英雄が泣いていたことを。

誰にもばれないように声を殺して。反省と後悔を繰り返し。

だから、英雄はやり返さない。もし殴り返していたら、誠凛バスケ部は出場停止、それどころか一定期間の他校との試合禁止もありうる。

バスケができない辛さを知っているから、せめてと体を張った。

 

アイツはどこまでも前向きだ。ほとんど後ろを見ない。どんなことがあっても前を見ることを止めない。

 

「傍から見てるとフラフラ歩いてるようにしか見えないのにね。」

 

私は、普段のアイツを思い出し笑ってしまう。

英雄が来て1年。ウチに進学すると言ってくれたことは嬉しかった。そして、ウチに齎したものは数え切れない。

できたばっかりで人数の少ない部内に競争。弱点だったインサイドの強化。そして、幾度となく戦況を覆したあの笑顔。

依存してるみたいで駄目ね。だから、今回は英雄の分まで頑張ろう。

その前に皆に知ってもらわないと。

 

「みんな!ちょっと聞いて!!」

 

 

side out

 

 

 

誠凛メンバーは会場に向かう前にリコから、事件について教えられた。

英雄は試合開始時間に間に合わないこと。軽くない怪我をして満足に動けないこと。リコとしてはできれば出したくないと考えていること。

メンバーの表情は固まる。英雄は予選トーナメントでインサイドの中心を担っていた。

火神のような高さは持っていない。しかし、ポジショニングや運動量での安定感はチームに欠かすことができない。実際に、全国クラスのセンター秀徳・大坪と渡り合っていた。

つまり、OF・DF共にランクダウンしてしまう。

特に2年は去年の鉄平のことを思い出してしまう。

 

「みんなのいいたいことは分かるわ。でも、アイツにこれ以上頼ってばかりじゃ全国になんか行けないわ。それにみんなだって成長してる。大丈夫よ!」

 

リコは必死に鼓舞する。

 

「日向君達も。あの時とは違うわ。火神君や黒子君だっている。自分達で勝利を掴むの!」

 

「そうですね。できることを精一杯やるだけです。」

 

黒子が最初に応える。

 

「そーだな。っというか別に英雄に頼ってねーしな。」

 

火神も続く。

 

「むしろ先輩らしく引っ張っていかねーとな。」

 

「それに去年みたいな情けないことなんかできないしな。」

 

2年も表情が明るくなる。

 

「大丈夫です。英雄君がいなくても誠凛は強いです。」

 

メンバーの精神的な成長にリコは息をつく。

 

「とにかく、試合に集中して!」

 

 

 

 

場所は変わって警察署。

事件の加害者である、男数人は逮捕されており、完全な被害者として調書を取られていた。

そんな中、英雄は時計を気にしていた。

警察署から会場まで、車で1時間程かかる。できるだけ速く到着したいと思っていた。

しかも、荷物が自宅にある為、更に時間がかかる。

取調べが終わると景虎の元へ急ぎ、

 

「おっさん!頼みます!!」

 

「しゃーねー。乗れ!」

 

英雄は今自分でできることを考えて、リコにメールを送る。

内容は『試合の状況を逐一教えて欲しい。』

 

 

 

 

誠凛対桐皇

序盤、キセキの世代青峰が遅刻するという事態が発生した。

その為、青峰が到着する前に点差をつけようとした。

しかし、桐皇は青峰抜きにしても実力は高い。とにかく個人技を使い一対一を徹底したチームである。

同じ土俵で戦うのは部が悪い。誠凛はいつも通りパスワークで得点を狙う。

 

それを桃井の収集した情報により、プレーが読まれてしまう。攻撃パターンどころか、どう成長するかも読まれ、特に2年は碌に動けないでいた。

そこで、攻撃の軸を火神・黒子にシフトチェンジする。火神の超ジャンプは分かっていても止められない。黒子に関しては全く読めない。桃井の情報網を掻い潜ることに成功した。

そこから誠凛のOFは息を吹き返し、第2クォーターで遂に逆転を果たす。

 

流れを掴んでいる中、第2っクォーターラスト1分に青峰が到着する。

その間に点が動くことは無かったが、実力の片鱗を見せ付けられた。

ハーフタイムにリコは携帯電話を鞄にしまう。リコは英雄のメールを無視していた。何故なら、英雄を試合に出す気が無い為である。それに、火神と黒子がいれば勝ち目があると思っている。

 

第3クォーター。誠凛は一旦黒子をベンチに下げた。その際に黒子が青峰にこだわっており、試合に出続けると言い出していた。火神がそれを静止させなんとか引き下がった。

開始直後から青峰のアイソレーション。火神と青峰の1on1。

青峰の敏捷性は凄まじく、キレのあるドライブは火神でさえ付いていけない。あっさりと勝ち越しされる。

火神の目が慣れて対応できるようになったところに、青峰の本来のプレースタイルが襲う。

基本の型にはまらない、独自性溢れるプレー。

これまで2人のキセキの世代と渡り合った火神ですらとめられないという事実は誠凛に深刻なショックを与えた。

流れを変える為、黒子を投入。ミスディレクションを利用したパスとスティールで点差を縮める。

が、黒子のイグナイトパスを青峰に止められて、5人抜きの上ダンクで火神と黒子を吹き飛ばす。

第3クォーター残り5分

47-63

点差は広がっていく

もはや打つ手なし、敗北決定かと思われた。

 

『もう決まりじゃね?』

 

観客からもそんな声が聞こえる。

 

「(何か手を...。どこかに突破口があるはず...。ピンチなんていままでも乗り越えてきた。今までなら...。って違う!英雄はいない!)」

 

リコは血が出そうなほど唇を噛みながら思考を巡らせる。コートで必死に戦っているみんなの為に何か戦況を変える手段を取る為に。

 

 

ギィィィ...パタン

 

キュ

 

キュ

 

キュ

 

 

「ん?」

 

小金井は物音のする方へと目を向けた。

 

「あ...。」

 

小金井は口を開けたまま動きを止める。

リコもつられて小金井が見ている方を見る。

 

「間に合った...かな?つかリコ姉、メール無視しないでよ。傷つくじゃん!」

 

そこにいた人物は顔の数箇所に湿布を張り、額に包帯を巻いていた。見た目は痛々しいがいつもと変わらぬ表情で声を張る。コートにいる者も声に気づき目を張る。

 

「16点差か...おっけぇ間に合った!リコ姉、タイムアウト。」

 

誠凛のジャージを羽織り、颯爽と歩いて誠凛ベンチへと近づく。

 

「ヒーロー見参!!ってね。」

 

片手を腰に当て、残った手を反対側にかざしポーズを決める。

リコはタイムアウトを申請し、ふっと笑う。

 

「やっぱ来ちゃうのね...。というかヒーローが遅刻なんて悪い冗談よ。」

 

「だろうね~。」

 

 

その人物の名は...補照 英雄

 

 

『誠凛、タイムアウトです。』

 

 

 

「英雄お前...大丈夫なのか?」

 

日向は英雄の状態を見て心配そうに問う。

 

「いちちち。まあ大丈夫なんじゃないですか?」

 

英雄は顔の湿布をとりながら答える。

 

「けど、その怪我は...。」

 

英雄の怪我を見た伊月は顔を顰める。

 

「ぶっちゃけ、インサイドの競り合いはしんどいっす。でもやりようはあるから大丈夫っすよ。」

 

「みんな聞いて!ここで一気に点差を詰める為に博打を打つわよ。まず、火神君を1度下げるわ。」

 

「だっ大丈夫です!!やれます!!」

 

リコの指示に拒否を表す火神。

 

「勘違いしないで。あくまでも、少し休ませる為よ。今までかなりの負担だったもの、このままじゃ最後までもたないわ。2分だけでいいから休みなさい。」

 

「っく....。分かりました。」

 

「よし!そして黒子君も火神君が復帰したらもう1度下がってもらうから。ミスディレクションも第4クォーターまでもたないでしょ?」

 

「はい。」

 

「水戸部君は火神君が戻るまでインサイドをお願い。」

 

「...。(コク)」

 

「具体的な対策はどうするんだ?俺達は桐皇に読まれちまってるし、なにより青峰を抜けるのか?」

 

日向は英雄に現状を伝える。

 

「う~ん。具体的なねぇ~。」

 

「おい!そんなんで大丈夫か!?」

 

「そりゃあ、あっちの土俵で戦ったら分が悪いのは当然だと思いますけど...。」

 

「土俵?」

 

「あっちはとにかく1対1なんでしょ?そんなの付き合う必要なくないですか?いつも通りにすればいいんですよ。」

 

「そうは言うが...。」

 

伊月もまだ納得していない様子。

 

「流れを掴む為に、こっちもリスクを負ったプレーをしなきゃなんないですけど。そんなに難しく考えなくてもベストなプレーをすればいいんです。『ベストラン・ベストパス・ベストシュート』ですよ。」

 

「簡単に言ってくれるよな...。お前は当然それができると思ってんだろ?」

 

「あったりまえ!っすよ♪順平さんはもっと自信を持ってもいいんです。誠凛のキャプテンなんすから。」

 

「いやな後輩だな...。怪我を推してまで駆けつけたんだ、乗ってやるか!」

 

「俊さんと水戸部さんはもっとチャレンジしてください。それを選択できるレベルまで来てるんすから。」

 

「...。(コク)」

 

「ホント、言ってくれるな。」

 

「一応聞いときますけど、まだ走れますよね?」

 

「当たり前ぇだ。舐めんな!」

 

「テツ君は~うん、なんか硬い。」

 

「は?」

 

「こんなときこそ笑っとけ笑っとけ。自然体ってやつだよ。それともあれかい?笑わせてみろってフリかい?」

 

「...ふふ。わかりました。」

 

いつしか不安に染まった表情は消えていた。

 

「初っ端から奇襲すんで、フォローをお願いっす。」

 

 

ビーーーー

 

 

「っしゃあ!気を取り直していくぞ!!」

 

両チームがコートに戻る。

 

「よお、天パ。」

 

「おお、ガングロ。中華以来。」

 

「お前が誠凛にいたとはな。なるほどな緑間に勝てるわけだ。つかなんだそのなりは?」

 

「これ?イメチェン。パーティーに遅れた分は貸しにしとけよボーイ。」

 

「んなイメチェンあるかよ。つかホントにキャラ変えんな。まあいい、楽しみが増えたんだがっかりさせんなよ。」

 

「怪我人なんだから労ってよ。」

 

「するか馬鹿。つかやっぱ怪我なんじゃねーか。」

 




ヒーロー見参・・・某卓球映画の登場人物・ペコがした決めポーズ

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