次で一旦終わる予定。
「で、黒子のシュートについて説明欲しいんだけど。」
リコの声で視線が黒子に集まる。
「すいません。入るようになったのはつい最近だったので、忘れてました。」
「英雄も噛んでんでしょ?どうやったの?普通に練習してても無理だったのに。」
黒子から英雄に注目が移る。
「ああ、やってたことはシューティングとボウリング。」
「ボウリング?なんで?」
英雄の回答で頭に『?』を浮かべるメンバー。
「そもそも、なんで黒子のシュートが入らないのか。簡単に言えば、スナップに癖があったから。だからひたすら真っ直ぐに転がせることを続けたんだよ。」
手の振りと手首の使い方を意識して、あまり重力に逆らわずに投げるだけ。これだけでボウリングは真っ直ぐに転がる。
黒子に必要なのはその手首の感覚だった。このじっくりゆっくり自分のペースでできるやり方は黒子にマッチした。
徐々に上達していく中で、玉の重さも増やしていった。結果改善したスナップと副産物として下半身強化にも繋がった。
そこから、ついてのシュートフォーム改善などを行い今に至る。
英雄の説明を聞いたメンバーはあまりにも自由すぎる発想に言葉を失った。
「まあこんな感じ?それより、これまでよりもこれからの話をしていいですか?」
「残りあとあと4分弱か...。ちょいまずいなぁ。」
今吉は得点板を見る。
あくまでもリードしているのは桐皇。それを後半維持していた。
それでも精神的な疲労はたまったものではない。
追う側と追われる側、それを維持したまま約15分。断然追われる方がキツイ。
「それにしても桃井、11番のシュートは予期できひんかったんか?」
汗を拭いながら桃井を見る。
「すいません。中学の時点ではシュートに関して全く上達してなかったので...。まさかこの短期間で...。」
桃井は申し訳なさそうに俯く。
「まあしゃあないやろ。それよりもこっからどうするかが問題や。」
「んなもん決まってんだろ。俺が全部決めて終わりだ。てかそれ以外ありえねーだろ。」
「てめえ!ここまできて調子に乗りすぎだ!」
若松は青峰に詰め寄る。
「若松、ええからちょい黙っとれ。まあそれが1番確立が高いのはわかっとるやろ?」
「っく!!」
「では、そういうことで決まりです。全員勝つことに拘りなさい。誠凛がどんなことをしようとも確実に得点を重ねれば負けることはありません。」
原澤が最後に締めたが、後半途中からのピリピリした雰囲気が少し懸念していた。
「テツがシュートね...。この目で見ても信じらんねーぜ。全く変わってねーって言っちまったけど、見間違えたか...。」
青峰は遠くの黒子を見つめていた。
「ホントやっぱかっこいいな。それにしても、帝光でもどうにもならなかったのに、どうやったんだろ?」
桃井も青峰につられて思いを馳せていた。
「あんた...本気で言ってんの?」
少し怒気が混じりながら英雄を問い詰めるリコ。
「..うん。こっからはできることだけやってたら負ける。その為にコルセットを外す。」
今まで桐皇からの当たりをなんとか耐えていたのは、コルセットで衝撃を緩和していたからだ。
それを外すというのは、自殺行為のようなもの。故にリコは賛成できない。
「けどお前。それで残りもつのか?」
日向もあまり良い顔をできない。
英雄の試合時間は約10分にも関わらず流している汗の量は普通ではない。負傷した上での激しい運動は、体を痛め酸素の供給を妨げていた。
普段の数倍の疲労を抱えていた。それでも騙し騙しここまでやっていたのだが、これ以上は怪我の悪化は免れない。
「お願いします!大事な場面で置いていかれたくない!後悔したくない!」
英雄が頭を下げて懇願する。
「...はぁ。日向君、この馬鹿をよく見てて。ホントにやばいと思ったら直ぐに下げるから。」
他のメンバーが沈黙する中、リコがため息をつきながら指示を出す。
「ああ分かった。」
「それじゃあ、最後は英雄の提案どおりにいくわよ。最後まで諦めるな!」
「「「おお!!」」」
ビーーーー
「英雄。」
コートに戻る途中日向が話しかける。
「ん?どうかしましたか?」
「作り笑いもいいが、やるならしっかりしろ。顔、引きつってんぞ。」
「うっす。」
『誠凛メンバーチェンジです。』
桐皇は誠凛ベンチを見る。
水戸部 IN 伊月 OUT
「そうきましたか...。」
原澤は理解した。
「確かに1度だけ試したことは知ってますが、まさかここで!?」
桃井も理解したが、驚きが勝る。
「ということはマッチアップはわしか?」
今吉は苦笑いをし
「これは結構やばいかもな...。」
青峰は言葉と裏腹ににやりと笑っていた。
誠凛の最後の1手。つまり...
PG 補照英雄
怪我の為、ゴール下でのプレイには限りがある。が、このポジションならそれが軽減される。
尚且つ、今吉と英雄はミスマッチとなり、今までのOFパターンの情報は使えなくなる。
この終盤で、悪夢のような1手。
桐皇からの再開。
「(こことらんとホントにまずいで)青峰!」
今吉がパスを出す。フリをして左にドライブ。桜井にスクリーナーをさせて抜け出し、そこで青峰にパス。
受けた青峰のドライブは確実に得点に繋げる。
「怪我しとるとこすまんのぅ。こっちも簡単に負ける訳にいかんのや。多少せこくてもかんにんしてや。」
息の荒い英雄に言う。
「別にかまわねっす。こっちもセコイプレーやっちゃってるんで。」
ふっと笑い移動する英雄。
「ここまできたんだ、勝つぞ!!」
この試合、唯一出づっぱりの日向だが気合で体を動かす。
「「「しゃあっ!!」」」
誠凛OFは変わらず展開の速いアーリーOF。リードを英雄が行う。桐皇は本来ならある程度、情報を引き出そうとするが、第4クォーターでそれはできない。今吉は迂闊に飛び込めず機会を窺っている。
英雄は間を開けずにペネレイトを仕掛ける。
「(いきなりかい!)」
英雄のレッグスルーになんとか反応する。
「(ボールが...。!持ってへん!?)」
英雄は股を通したボールをキャッチせずにパスに変化させる。ボールは空いているスペースに向かう。
これに受けたのは日向。3Pラインではなく、ミドルレンジからのシュート。
桜井はブロックに跳ぶが僅かに届かない。
「っち。よこせ!!」
ほとんど青峰のワンマン速攻。火神と英雄が追う。
青峰がそのままシュートに向かい。2人でブロックに跳ぶ。英雄の体が接触してしまい。審判の笛が鳴る。
青峰はボールを背に回し、その体勢でシュートを狙う。決まれば得点が認められてフリースロー1本が与えられる。火神が1度嵌められたプレーである。
英雄は何かを感じ取り、体を捻る。ボールの軌道上に英雄の頭が侵入し、顔面にボールが当たった。
そのまま変な体勢のまま、落下する。受身もままならず、落下の衝撃で呼吸が一瞬止まる。
「んんん!!」
右脇を抱えて悶える。
そんな英雄とは対照的に桐皇は静まりかえっていた。
「あれをギリギリでも止めるとは...。一体彼には、何が見えているのでしょう。」
桐皇・原澤は光景を見つめながら呟く。
「???監督、見えるとは?」
僅かに聞こえた桃井が問う。
「あ、聞こえてしまいましたか。サッカーでいうところの『ファンタジスタ』の定義って知っていますか?」
「高い技術を持ち、想像性の高い選手というイメージを持っています。」
「そうですね。大体はそんなところです。そもそも『ファンタジスタ』というのは、ポジションでも役割でもありません。称号のようなものです。そして、技術があればそう呼ばれるわけではありません。彼らには『見えないもの』が見える。」
「『見えないもの』ですか...。」
「そう。科学的には解明されていないんだけど。」
誠凛ベンチでも同じ質問があり、リコが答えている。
「逸話はいろいろあって...『未来が見える』とかっていう話もあるわ。別に視力が良いとかって訳じゃなくて、感覚的に察知するらしいわ。私としては、『概念にとらわれない多数の可能性の中から嗅ぎ取ることができるプレーヤー』ってところね。」
話を聞いていた誠凛メンバーは無言。
「けど、この感覚がここまで強く感じられるのは1年ぶりね。折角だから、よく見ておきなさい。面白いわよ。」
「面白い...って、そんなんでいいのか?」
小金井が怪訝な表情をする。
「いいの!その方がアイツの力になるんだから。(そうよね...。)」
リコはコートを見つめた。そのときには先程の余裕そうな表情は消え、よろよろと立ち上がる英雄から目を移さなかった。
青峰はきっちり2本のフリースローを決めた。
誠凛のOF。フリースローを決められて速攻を出せなかったので、強制的にセットOFになる。
パスアンドランを繰り返し、得点を狙う。
再び、英雄にボールが回る。受けると同時にワンドリブルで1歩前に出る。
今吉は警戒を強め、英雄が前に出た分引く。直ぐバックステップで距離を開け、ミスマッチを活かして3P。
「(なんなんやこの違和感。止められる思うてブロックしたが、合わん!)」
85-90
「青峰来るぞ!備えろ!!」
日向が声で先程よりも戻りが速い。
「桜井!こっちや!!」
桜井は青峰へのパスを止め、今吉に渡す。
今吉は1つ確信した。英雄の動きが徐々に低下している。顔色も悪い。怪我の状態が良くないのならば、あえてそこを攻める。
華麗に抜き去るのではなく、しつこくパワードリブルで肉薄する。
「ぐぉ...。」
英雄の右肩が落ちる。その隙を突いて、左にロールターン。水戸部がヘルプに来るが、かわすように青峰にパス。
受けた青峰はボールを下手投げで放る。火神はボールの行方を目で追うが、パスではなかった。ボールは火神の肩越しから逆の手に戻る。
「なに!!」
火神が目を戻した時には既に動き出していて、マークを外される。
青峰のダンク。
ドカッ
ピーーーー
『ディフェンス!!白15番!!』
英雄は無理やりファールで止める。
『3つ目だ!!15番限界か!?』
観客も英雄の異変に気が付き始めていた。
そして、これも青峰はフリースローを決める。
「ここだ!!テツ君!!」
黒子がリングから堕ちてくるボールを直ぐに回転式ロングパスへと繋げる。
青峰のフリースローは落ちない。だからこそ火神をリバウンドに参加させずに走らせた。そして、日向は速攻に向かうフリをして青峰の進行を妨げる。青峰は最短距離を通れない。
完全フリーの火神のダンクが決まる。黒子もOFに参加していなかった為、より一層影を薄めていた。
そして、桐皇もフリースローでしか得点できない為、いまいち流れに乗れない。
87-92
フィールドゴールが欲しい桐皇は速攻を出す。青峰を囮にして桜井にパスを出す。この状況でクイックスローは止められない。
日向は止めることはできなかったが、偶然にも手で視界を遮ることができた。桜井の3Pはリングに弾かれた。
落下点に何故か英雄がいて誠凛ボールになった。
「なんでそこに!?」
シュートした桜井が驚く。
「速攻!!」
「まずい!!戻れ!!」
誠凛絶好のチャンス。前には火神、逆サイドには日向がいる。
英雄は横にパスをした。黒子が走りこみイグナイトパス。の手のフリだったが、黒子はスルーした。その先には日向が待ち構えていた。
ボールにはバックスピンが掛かっており低い軌道からバウンド直後、日向の足元から上に跳ね上がった。
シューターにとってこれ程、シュートを打ちやすいパスはない。ボールの勢いそのままにシュートが打てる。まさに、日向の為だけに出されたパスだった。
黒子もそれを理解していた。英雄ならもっといいパスをくれる。だからこれは自分に対してのパスではない。
英雄の意思はしっかりと伝わっており、迷いも無く3Pを決めた。
決まったと同時に1秒、間を置き歓声が爆発する。
観客はスタンディングオベーションで総立ち。
「(歓声の前にあるこの『一瞬の空白』が堪らない...。)」
英雄は自陣に戻りながら感動に震え、小さくガッツポーズをした。
90-92
残り1分34秒遂に、射程圏内に捉えた。
ムードは誠凛1色。桐皇側はこの状況で得点するには青峰以外の選択肢を失った。
それでも確実ともいえる勝算がある。迷わず青峰へパス。
この試合で何度も行われた、火神と青峰の1on1。1度も火神は勝てなかった。しかし、僅かではあるがついていけるようになっていた。
出来上がっていない体を酷使してそれでギリギリ。火神は青峰との差を理解し、受け入れた。その上で挑戦した。何故ならば、
「(みんなが後ろから押し上げてくれる!俺が成長することでチームの為になるのなら、全力でぶつかってやる!)」
目の前でどれほどの怪我をしようとも前を見続けてる癖に、頼ってくれる馬鹿が『エース』と呼んでくれる。
それが今まで以上に、火神の潜在能力に火をつけた。
予測ではなく勘で青峰に譲らない。
青峰のジャンプシュートに合わせて火神の超ジャンプ。コースを潰した。
青峰はそこから上体を寝かすように変化していく。これもこの試合中に使用した変則シュート。
「っぐ!!まだ駄目なのか!?」
「いや。ここまでもってきた火神の勝ちだ!そっからなら変更聞かないでしょ!」
上体を寝かせた為、ショットの位置が下がったところを狙った。その位置なら多少出だしが遅れても間に合う。英雄のブロックは青峰のシュートを完璧に止めた。
ルーズボールは水戸部が奪い。速攻に出る。
日向から英雄と渡る。今吉は戻りが速く、英雄に迫る。
英雄は空いている近くのスペースにボールを出す。黒子が受け、英雄が黒子の逆に回りこみリターンを受ける。黒子がそのままスクリーンとなり今吉を留める。
マークを外した英雄はステップインでゴール下に向かう。
追いついた青峰がDFに入る。すると英雄のステップが変化していくことに気が付く。
英雄がダンクに跳ぶ。
青峰もブロックに跳ぶ。
が、青峰のブロックはジグザグした英雄のステップでタイミングを僅かにずらされていた。
更に英雄のシュートはボースハンドダンク。青峰のブロックを体で受け止めながら、残された体力を叩き込む。
『青峰からダンクを決めた!』
『同点だ!!』
観客はこのまま誠凛の逆転を期待した。
が、ダンクは決まったが勢いのあまり、体が流されて青峰の下敷きになる。
ドゴオッ
青峰の肘が英雄の脇腹に落ちた。
・ボースハンド
両手持ちの意味
・黒子に関して
イグナイトパスとかできる以上、練習方法をしっかり考えれば上手くなるのでは?
と思いました。いくらなんでも、単純なシュートくらいできるようになると思います。