黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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新規一転
何事も切り替えが大事


効率よく練習するには、具体性が必要だ。

目標を決めて、その為にどうやって目標に近づくかを決める。その過程をなぜやるかを把握しなければならない。

 

決勝リーグが終了し、翌日。

連戦後ということで、練習を軽めにすることになった。

その前に、決勝リーグの試合を見て反省点・改善点を明確にする。

 

「やっぱり層の薄いウチが勝ち上がって行くには、もっとスタミナが必要ね。後の2試合なんかは主導権を取られっ放しでふんばる体力が足らなかった。」

 

映像を見ながら発言するリコ。

 

「ああ、DFで手一杯になって後手後手で負けたからな。結果、気持ちが先走ってシューターとしての役割を果たせなかった。」

 

「桐皇戦で思ったけど、PGであれ程までチームが変わるなんてな...。」

 

日向と伊月も改めて感想を言う。

 

「まあ、失敗は成功の母とも言いますし、負けたことはしゃあない。という訳で次っすよ。」

 

顔の痣が薄くなった英雄が言う。

 

「みんな、分かってる?冬にできなかったら、全裸で告ってもらうわよ?」

 

「「「マジで!!」」」

 

「今年最後の大会、ウィンターカップか?」

 

「そうよ!全てをぶつけるのはそこよ!」

 

「それでできなかったらマジで全裸やるぞ、この女。」

 

「んふふぅ~。」

 

リコのイイ顔に一同絶句。

 

「あと、もう直ぐ帰ってくるわ。鉄平が。」

 

「え、マジ...?」

 

「こりゃなんか起こる...かも。」

 

「あの、鉄平さんて?」

 

2年は妙な表情をするが、1年は知らない。

 

「ああ、1年はまだ知らないか。ウチの7番だ。」

 

「へぇ、そんな人がいたんですね。」

 

「あ、そろそろ視聴覚室の使用時間になるからみんなは体育館に移動して。」

 

「俺片付けとくんで、先行って下さい。」

 

話がきりよく終わったので、調整程度の練習に行く。英雄はドクターストップの為、参加できない。

 

「おう。頼むわ。」

 

 

 

 

「火神君。財布忘れるとか、どうすれば出来るんですか?」

 

「しょうがねーだろ。筋肉痛でポケットに入れたまま座ると痛むんだよ。あと、その言い方やめろ。すげー腹立つ。」

 

途中で教室に引き返した2人。

 

「ん?」

 

教室の入り口手前の位置でリコと日向が突っ立ている。

 

「おう、火神に黒子。どうした?」

 

「いや、忘れもんなんですけど。先輩達こそどうしたんですか?こんなところで。」

 

「ああ、ちょっとね...。後で持って行くから先行ってて。」

 

「ここまで来たから自分で取りますよ。」

 

火神が教室に向おうとすると、リコが邪魔をするように立ちふさがる。

 

「いやマジで、邪魔なんすけど。」

 

「火神、黒子、すまんが今教室に入るな。」

 

日向もここを通す気が無いようだ。

 

「僕は別にいいですけど...何かあるんですか?」

 

黒子が質問した時、教室から呻き声が聞こえた。

 

「...くし....ち.....う。」

 

それは普段とは想像できない英雄の声だった。

 

「...何が『負けちまった』だ。それすら共有できなかったくせに..!どんな顔して言ってんだ!こんなところでつまんねー怪我なんかしやがって!俺は...一体...何を...。」

 

涙交じりの声は廊下にも響き、火神は力が抜けてリコと日向は俯いた。

 

「...あいつは間接的に負けたのよ。敗因なんかも曖昧で、受け止めようとしても想像でしかない。それでも必死に切り替えようとしているの。チームの一員としてね。」

 

「...あ。」

 

「笑っちゃうわよね。確かに、桐皇戦では勝てなかった。でも負けなかった。英雄が必死になって繋いだチャンスを無駄にしたのは私。でも今できることは見守るだけなんて...。」

 

「いや、俺もだ。少しピンチになったくらいで足元見失って、挙句に試合中に英雄の姿を探したんだからな。」

 

「俺は...。」

 

「...。」

 

火神と黒子はここで言えることなどなかった。

その日、軽めに練習をした。見学していた英雄の目は赤くなっており、小金井が気付いたとき『目に埃が入ってめっちゃ痛かったっす』と誤魔化していた。

 

 

都内の某オフィス

 

「誠凛高校...。彼がここに?」

 

「はい。確認済みです。」

 

「そうか...。やっと見つけた。」

 

 

 

練習開始前。

 

「まだ疲れが残ってるか?」

 

日向が首を捻る。

 

「さすがに今日からは軽くなんないだろ。練習。」

 

バン

 

「せ..先輩!大変です!!ラモスが!」

 

1年降旗が部室に飛び込んでくる。

 

「うっせぇな、ちょっと落ち着け。で、なんだよ?」

 

「今、英雄に来客が来てて!それが...」

 

 

一同は校長室に急ぐ。校長室周辺には人だかりが出来ていた。

 

「ちょっとどいてくれ!」

 

そこには生徒だけでなく、教師も混じっていた。

 

「君達、バスケ部の。今、相田さんが立ち会ってるから勝手に入るんじゃない。」

 

「じゃあ、ホントに来てるんですか?ラモスが。」

 

「ああ、なんでもサッカーのスカウトだとか。」

 

 

 

校長室では、校長と担当教師、英雄と監督としてリコが話していた。

 

「え..?すいません。もう1度お願いします。」

 

リコは耳を疑った。

 

「単刀直入にいいマス。補照英雄君をヴェルドに下サイ。」

 

反対側に座っている、東京ヴェルドの監督・ラモス炉伊が話す。

 

●ラモス炉伊

プロサッカーの日本リーグ創世記を選手として活躍し、日本代表までなった。その後、東京ヴェルドの監督を務めている。

 

「お久しぶりです、ラモスさん。それにしては急すぎませんか?」

 

表情が固まっているリコをよそに英雄が言う。

 

「確かに、少し強引だと思いマス。それでも君がこのまま埋もれてしまうのが惜しい。はっきり言って才能の無駄遣いデス。」

 

「ちょ..いくらなんでも、言葉が過ぎませんか!?」

 

ラモスの言葉にリコが声を荒げる。

 

「君がカントクだったネ。この間の試合のことは聞いているヨ。君は補照君を潰す気カイ?」

 

「ツッ!!」

 

「こんなところで埋もれてる場合じゃないんダヨ。中学から姿を消して、高校サッカーでも聞かナイ。調べてみたら、この有様。今からでも遅くはない。ウチのユースに入るんダ。君なら直ぐトップチームに合流できるダロウ」

 

「勝手に話を!」

 

「君は分かっていナイ。彼がどれほどの価値を持っているのかヲ。ゴールデンエイジ達が現役を退いている中、次のプラチナ世代がどれほど重要なのかを。私の評価では、世界を舞台にするべき男ダ。」

 

「...。」

 

リコは世界という言葉に反論できなかった。

 

「あの、ラモスさん。」

 

「何ダイ?」

 

「この話、お断りさせてもらいます。」

 

「!?..何故ダイ?サッカーが嫌いになった訳じゃないダロウ?あんなに楽しそうにしていたじゃないカ。」

 

「好きですよ。今でも偶にテレビで見てますし。」

 

「だったラ!!」

 

「でも、ここでバスケをしたいんです。」

 

「世界が君を待っているんだヨ?それに、高校を卒業したらどうするんダイ?精々大学くらい、そこで終わりじゃないカ。ここは強豪という訳でもないようじゃナイカ。」

 

「誰かに言われたからやってたんじゃないんです。トレセンへの推薦状とか書いてもらったり、俺を評価してもらってることは感謝してます。それでも俺にはバスケしかないんです。」

 

「...そうカ。残念だ。」

 

「ああ、それと。このチームは最高ですよ。『マイアミの奇跡』なんて周りから言われるかも知れないっすけど。奇跡なんて期待してないんですけど。」

 

 

 

 

誠凛高校の校長室は壁が思いのほか薄く、会話が漏れていた。

英雄とリコは外にいたメンバーと鉢合わせをした。

 

「あら皆さん、聞いてました?」

 

「ああ、悪いな。それよか、いいのか?」

 

「問題無いっす!日本一、なりましょう!」

 

「おお。」

 

「俺、職員室に用事あるんで。」

 

英雄は颯爽と歩いていった。

 

「あの、『マイアミの奇跡』ってなんですか?」

 

河原がおずおずと聞く。

 

「サッカー用語よ。オリンピックで当時のブラジルはスタープレイヤーを集め最高の布陣をそろえて、優勝候補だったの。日本と比べて10回やれば10回勝つと言われていた。それを覆し、歴史的な勝利を収めたの。それが『マイアミの奇跡』。」

 

「...。」

 

「あいつが言ったことを直訳すると、『奇跡なんかじゃなくて、実力で勝ち取ってやるよ』ってことよ。」

 

「ウィンターカップか...。」

 

「もっと強くなんなきゃな。」

 

「ああ...。」

 

大きな栄光よりも自分達を選んだ英雄を思い、拳を見つめ決意した。

 

 

 

その夜。

ストリートコートで火神・黒子と英雄が鉢合わせした。

 

「およ?お2人さん何してるの?」

 

「おめーこそ。怪我はいいのかよ?」

 

「ああ、ウォーキングくらいは許されてるからね。」

 

「じゃあなんでここに?」

 

「...テツ君、みんなには内緒にしてね。」

 

「英雄...。」

 

「ん?どうしたの火神?」

 

「思ってたんだけどよ。どうして俺をエースなんて呼んで、押し上げてくれんだ?」

 

「火神君...。」

 

「認めたくねーが、現状での選手として完成度は英雄が上だ。チームの為と考えたら...。」

 

「エースってさ、いろいろ大変な役割だと思うんだよね~。ここぞという局面でボールが回ってくる。技術も必要なんだけど、精神的な重圧も当然かかってくる。」

 

「何を言って...。」

 

「それでもみんなは火神を認めた。チームとか勝利とかいろいろ背負って高く跳んでくれると信じているから、だからエースはやっぱり火神なんだ。最初の2年対1年の時に見たお前のダンク、感動したよ。そんで、もっとすげー絵が見れると思った。」

 

「絵...。」

 

「桐皇のラストシュート。あの時、テツ君がボールをくれて、俺に出来た最高のパス。それを最高のシュートで応えてくれた。嬉しかったなぁ。」

 

「英雄君...。」

 

「どーせなら楽しい方がいい。だから、頑張れ。」

 

「最終的に頑張れって、おい!」

 

「あはは、んでこれからどーする?全国に行けなかった訳だけど。」

 

「決まってんだろ。今よりもっと強くなる!」

 

「僕も、強くなります。もう英雄君に負担はかけません。」

 

「おいおい、嬉しいこと言ってくれんじゃない。だったら、もう影だからとか諦めたようなこと言うなよ?」

 

「そんなのシュート練習始めたときから、決めてます。馬鹿にしないでください。チームの為に僕個人が強くなります。」

 

「そかそか、そりゃ悪かったね。ま、負担とか考えたことないけど...。なんか話してたらバスケしたくなってきたなぁ~。」

 

「だったら、さっさと怪我治せ。いくらでもぶッ倒してやる。」

 

「俺、やられる前提?つか怪我人に対して冷たくね?」

 

「大体こんなもんじゃないですか?」

 

「ヒドッ!!」




・ラモス炉伊
元日本代表選手をパロってます。
・ゴールデンエイジ(黄金世代)
中村、中田、小野、稲本、高原、の世代のこと。オリンピックでメダルを獲った。
・プラチナ世代
ゴールデンエイジに代わる新しい世代。宇佐美、宮市がいる。
宮市の1人スルーに惚れました。

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