ザシュ
英雄がマークにつく前に3Pを決める。
「口ほどにもない...。」
「1本決めたくらいで、何言ってん?」
表情を変えない英雄に、逆に緑間が眉をピクリとさせた。
あくまでも練習なので、エンドラインからの3Pはしない。基本はハーフコート内である。
英雄もそこまでタイトなマークはしていなかった。お互い、1on1を意識している。緑間の3Pは非常にブロックしづらい。ブロックする前に放たれる。無理に止めに行くと、フェイントに引っかかり抜かれていた。
その日、緑間は10本の3Pを決めた。
誠凛 87-96 秀徳
自力の差を見せ付けられた。緑間・英雄以外の所でも、力負けした。
翌日も合同練習を行い。
「馬鹿め...昨日で懲りなかったのか?」
「ん~。もうちょいでいけそうな気がすんだよね。」
「何度やっても同じなのだよ...。」
昨日に引き続き、緑間と英雄は競い合う。
「緑間!」
高尾から緑間へパスが渡る。
英雄が対する。木村がスクリーンをかけるが、あっさりすり抜ける。
「スクリーンの使い方下手じゃね?」
「うるさい黙れ。」
緑間はドライブで抜きに行くが、英雄も当然のようについて行く。
結局、高尾にリターンで返した。
「あれ?もうこないの?」
「っく。...いいだろう。徹底的に思い知らせてやるのだよ。」
「くっくっく。いいね、そうこなくちゃ。」
誠凛ボールになり、伊月から英雄に渡る。
「な!!」
ノーフェイクで3Pを放つ。緑間の出足が1歩遅く、ボールに届かない。
「ざまあみろ!」
「子供かお前!」
攻守交替。
再度、緑間と英雄が対峙する。
緑間はマークを外そうと動き回り、英雄はパスカットを狙う為わざと距離を開けて追従する。
切り返しで緑間がパスを受けるが、英雄の指先がボールに触れる。
「おしい。」
なんとかボールをキープする緑間だが、シュートを打てる体勢ではない。
「少しくらいは認めてやる。が、まだ甘いのだよ。」
緑間はバックステップからの3Pを狙う。190の緑間から放たれる高弾道の軌道はブロックを許さない。
「...もう、それは飽きたよ...。」
リリース前のボールを下からすくい上げるように弾く。
「なんだと!」
弾かれたボールはコートの外へと転がる。
「ふぅ~。確かに、お前の3Pは凄え。でも、そんなに怖くない。」
汗を拭いながら英雄が言う。悔しさのあまり緑間が睨みつける。
見ていた周りも騒然とする。
「(昨日は、めちゃくちゃ決まってたのに...なんでだ?緑間がこんなにあっさり止められるところなんて始めてみた。)」
高尾も目を見張り、頭を巡らせる。
火神のように、豪快なブロックを決めた訳ではない。そこまでのジャンプ力はない。だが、ポイントを間違えなければボールの下部分を触ることはできる。
「(でも、緑間相手にそう簡単にできるもんなのか?)」
その日、緑間が決めた3Pは5本。明らかに昨日に比べて、防がれている。
誠凛 90-89 秀徳
「へぇー。想定外だが、いい影響を得られそうだ。」
秀徳の監督・中谷は1人考えていた。
緑間は、キセキの世代。部内には1対1での練習相手がいなかった。故に、フォーメーション練習以外はシューティングに費やしていた。
中谷としても悩みどころであったが、偶然にも合同練習でしかも緑間をやり込める程の選手との練習を図ることができたのだ。
夜になり、走りこみから火神が帰ってきた。昨日より距離を伸ばしていた為、入浴時間に間に合わなかった。
「風呂...終わりっすか...。」
今にも泣きそうだ。
「火神...こっち、こっち。」
声のする方に向くと、英雄が手招きしている。
「なんだよ...。」
「風呂、間に合わなかったんでしょ?俺もなんだよ。だから...。」
民宿から少し離れた砂浜にて。
「this is GOEMON!?」
そこには、ドラム缶でできた五右衛門風呂が準備されていた。
「ちとボロイけど、なかなかいいっしょ?」
「おぉ...。こんなんどうやって...。」
「民宿の爺ちゃんに頼んだら貸してくれた。っで、俺もう入ったから、よかったら使っちゃって♪周りは見張っとくしさ。」
簡易式露天風呂に浸かる火神。ちなみに衣服は、柵に布をかけて作ったバリケードで脱いだ。
英雄は周りに気にしながら、バスケットボールでリフティングをしている。
「どーよ?」
「ああ。悪くねぇな。」
「だろ?頑張ったんだぜ。」
「こんなとこで何してるんですか?」
黒子が民宿からやって来た。
「おう、黒子。どうした?」
「おっす。見ての通り、入浴中。ノゾキはよくないよ~。」
「お2人を見かけなかったので探しに来ました。」
「あれ?無視?」
「先輩方も探してましたよ。特にカントクがお怒りです。」
「げ...。マジ?」
リフティングを止めて焦る英雄。
その後、問答無用でリコに捕まり、罰としてデコペン(デコピンをペンで行う)をくらった。地味に痛く、若干内出血下挙句、涙目になった。
合宿4日目。
「は?マジで言ってんのか?」
日向がきょとんとしていた。
「マジマジ~っすよ。折角、これ以上無い程の技術を体験できるんすから。」
ヘラヘラと答える英雄。
「でもなぁ...。」
どうも乗り気になれない。
「大丈夫ですって!日向さんなら!」
「おーい、カントク~。」
英雄に押し負けそうになり助けを求める。
「いいんじゃない?」
「軽いな、おい。」
「別にそういう訳じゃなくて、シューターとして得るものもおおいんじゃない?」
「う...。それはそうなんだが...。」
「はい、決定。」
「鉄平さん、俺は大坪さんもらっていいですか?」
「ああ、かまわん。」
英雄の発案で、緑間のマークを日向、大坪のマークを英雄がすることになった。
「(それはいいんだよ...。問題は...。)」
緑間がものすごく睨んでいる。
「大坪さんお願いします!」
「ああ、こちらこそな。だが...。」
大坪がちらりと緑間を見る。
「え?なんか問題ありました。」
「いや、問題というか...。何故、俺なんだ?」
「全国屈指のインサイドプレーヤーが何言ってるんですか。俺、楽しみにしてるんですから!」
「おい!」
遂に我慢しきれなくなった緑間が英雄を問い詰める。
「一体、どうゆうつもりだ。」
「いや...何で?合同練習なんだから、いろんな選手とやんないと勿体無いじゃん?」
ぷくくくと、高尾が笑いを堪えている。堪えきれていないが...。
「高尾、黙れ。勝負に逃げたということでいいのだな?」
「んなもん、公式戦でやればいいじゃん。...あ、そうか。」
「何だ?」
「構ってあげられなくてすまんね。」
「おい!...もういい!」
高尾は堪える気などなくなり、ぎゃはははと笑っている。
日向がマークについているが、技量に差がある緑間を止めるのは至難である。
それでも、何か掴もうとしがみつく様に必死にDFを続けた。キセキの世代No1シューターのスキルを盗もうと。
インサイドでは、ポストアップした大坪と英雄が競り合っている。その辺りの経験が多くない英雄にとって、大坪との競り合いは実に勉強になり楽しいものであった。
予選ではいなしながら虚を突き続けたが、正面からぶつかると大坪のシンプルなパワーに負けそうになる。正確には、パワーではなく無駄の少ないポストプレーがそれを可能にしているのだ。未だ本調子でない木吉では、こうはいかない。
だからこそ、あえて正面からぶつかり続けた。オーソドックスなセンターのプレーを自分のものにする為に、そのイメージを強く持つ為に。
『損して得とれ』。正にその通りであろう。
試合の結果は誠凛の敗北。しかし、各々は何かしらを得ていた。敗北といっても大差を付けられた訳でもない。
火神抜きで戦い抜いたという自信もついた。
その晩、この合宿で試合に一切出られなかった火神が不満そうにしていた為、リコがアドバイスを行った。
火神の特性、つまりジャンプ力。この合宿での目的は、その為の下半身強化であった。
そして、もう1つ。利き足は右であることを認識させた。
それが終わると、民宿に戻っているところでイメージトレーニングをしている英雄に遭遇した。
相手をイメージしてDFを行う。暗い場所だからこそイメージがし易い。元々想像力豊かな英雄は、イメージをより現実と近寄らせることが出来る。
相田景虎に教えられてから、このイメトレを欠かしたことはない。サッカーをしていた頃でもだ。
だからこそ、真っ暗なストリートコートでもバスケが出来る。いや、そうでしか出来なかったのだった。空白の3年分の成果は、イメージの動きを体現できること。これこそが、英雄の創造性である。
「今日は誰が相手?見たところ...インサイドプレーヤーだと思うんだけど。」
「ティム・ダンカン。」
「そ、で?」
「やっぱ強いね。ま、イメージだから。つか、直接やってみて~。負けてもいいから!」
「こら。あんまり叫ぶな!その辺にしときなさい。」
「へ~い。あ、火神知らない?」
「下の駐車場にいるわよ。どうかしたの?」
「あいつの参考になりそうな映像があったから渡しとこうと思って。」
「へぇ~それ興味あるわね。ちなみに中身は何?」
「ブレイク・グリフィンだよ。」
「...なるほどね。ちょっとヒント出しすぎのような気がするけど...まあいいわ。」
「じゃ、晩飯までにはもどるよ。」
駐車場に着くと火神が緑間から指摘を受けていた。
「ウィンターカップ予選でがっかりさせるなよ。」
黒子にも言葉を残し、こちらにやって来る。
火神はどこかへ走り出し、黒子も追っていった。
「よっ。なんかアドバイスしてもらったみたいで悪いね。」
無視して通り過ぎようとした緑間に話しかける。
「なんの用だ?なれなれしくするな。」
「あれ?まだおこってるの?」
「真ちゃん、ツンデレだからマークについて貰えなかったから拗ねてんだよ。」
「黙れ高尾。拗ねてなどいない。」
「そっか。だったら1つご忠告~。」
「ふん。言ってみるがいいのだよ。」
「今のままじゃ、その内勝てなくなるよ。」
「なんだと...。」
「昨日、ブロックできた理由がわかんない?あまりにも決まったルールでしか動かないからだよ。正確過ぎるシュート、タイミングも打点も同じ、後は合わせりゃなんとかなる。全国クラスなら俺以外でもこの方法を使うと思うよ。」
「....。」
「高弾道はブロックし辛い。でも、あれをパスに繋いでアリウープにすることは出来ない。しても、時間が掛かりすぎて止められる。つまり、意外性が無い。」
「...意外性。」
「絶対シュートは外さない。逆に言えば、外しそうなシュートは打たない。さあどうする?テツ君に言ってたみたいに、自分のスタイルに固執するかい?俺が気に入らなかったのはそこなんだよ。今まで負けたことが無いんだろうが関係ない。ちゃんと受け止めろよ。ビビってんのか?」
「俺はビビってなどいない。」
「だったら、しっかりチームに馴染めよ。後ろで支えてくれているメンバーをしっかり見つめろよ。チラチラ見んな。」
「....っく。」
「そんじゃ、先に戻るね。高尾、後フォローよろしく。」
「マジで?言いたいこと言ったら帰るんかい!?」
「あー聞こえないー。」
合宿最終日はそんなこんなで終了。
火神は自分の目指すスタイルを明確にし、黒子はキセキの世代を抜くオリジナルのドライブを習得すると決めていた。
他のメンバーも向上するために明確な目標を決めることができていた。
次の日、民宿から発ち、帰宅ではなくインターハイを観戦しにいくことになった。