黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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いざ、WCへ

某山岳部。

アップダウンの激しく長い坂道がある為、合宿場として名のあるところ。

そこで、誠凛はとにかく走っていた。

 

「ファイト!声出して!」

 

「誠凛~ファイ!」

 

「「「おう!!」」」

 

海での合宿と同様に午前中はフィジカル強化を行い、午後にM大学と合流というスケジュール。

アップダウンが激しいと膝への負担がキツイ。更に、徐々に標高も高くなっていき、息も切れやすくなっていることもあり無駄口を叩く余裕などとっくの昔になくなっている。

そもそも、宿泊している場所から体育館は片道3kmとかなり離れている為、たどり着くだけで汗をかくどころではない。

既に合宿3日目になり、疲労は隠せない。

英雄も長袖、錘つき、念のため捻挫防止サポーター、とかなり通気性が悪い。

ちなみに、リコは父・景虎が用意した電動式補助付き自転車でスイスイだ。

海合宿では下半身強化を行っていたが、今回の山合宿では下半身だけではなく上半身も含めた強化を行っている。

インサイドでのボディコンタクトでスタミナを奪われないように。その為、水戸部、土田、火神のメニューは他の倍になっている。木吉は怪我が再発しないように他のメンバーと同じメニューでじっくり仕上げる。英雄はパッと見3倍である。

 

M大との合同練習は体力的に酷使するものではないが、さすがというレベルでプロ並の技術を見せ付けられた。

大学のレギュラーともなれば、高校時代でならした選手も数多く、誠凛メンバーもかなりの刺激になった。

明確な成長のイメージをもった火神や黒子は、やり込められながらも己の技術を研磨させていった。

伊月や日向はM大のゲームメーカーから積極的に話を聞きにいき、バスケIQを向上させた。

水戸部、小金井、土田はスクリーンやリバウンドのタイミング等を参考にして、上手く吸収できるように練習をおこなった。

英雄はM大に他では珍しいポイントフォワードのポジションについている選手がいたので、ストーカーの如く付き纏っていた。後で、リコに苦情が来たが。

何度かミニゲームを行ったが、チームの総合力に差があり午前練習の疲労が残ったまま、尚且つ新しいプレーをどんどんチャレンジしていた為、ミニゲームの内容は悲惨なものになっている。

 

「今日もボコボコにされちゃいましたね。」

 

「やっぱスゲーな。悔しいとかじゃないんだよ。」

 

負けてへらへらしている英雄に説教したいところの日向だが、レベルの違いに素直に感心する。

 

「あちらさんの6番って来年プロ入りらしいわよ。」

 

「あー、納得。」

 

リコの情報に納得する小金井。

 

「キタコレ。納豆食って納得。」

 

「伊月黙れ。」

 

悔しがるよりもとにかく学べるところを学ぼうと選手の動き一つ一つを細かく観察していった。

どこが優れているのか、どう攻略するのかをみんなで確認しながら。

 

「DFパターン増やします?」

 

「あ、それ俺も思った。」

 

「具体的にどうゆうのが必要なんだ?」

 

「ウチはマンツーと1-3-1だろ。ゾーンプレスとかもあった方がいいんじゃね?」

 

「ケースによれば、ボックスワンとかやってるんだけどな。パターンにするほど練習してないしな。」

 

練習後の柔軟の合間に、あーでもない、こーでもないと全員で議論を行っていた。誰かに言われたわけでもなく、自分達に必要なことを話し合い理解しあった。

多少なりとも自分たちのことが分かってなければ、議論などできない。そして、議題については皆が一致していた。集団として同じ方向を見ていないと出来ない。

気付けば、DFからOFパターンについての議題になっていた。カットインのパターンやナンバープレイを作るかどうかまで。

 

「(このチームは必ず強くなる....。)」

 

リコはメンバーのそんな姿に小さく確信した。

 

「でもあれだな...。」

 

議論が落ち着き、日向が別の話題を提示する。

 

「そうっすね...。」

 

火神もうなずく。

 

「「「今から帰るの考えると気が滅入る。」」」

 

「あらっ?」

 

1番の意見の一致。

 

宿泊所に帰宅中。

当然、軽く流す程度だがランニングをいている。アップダウンがキツイ為それでもしんどいのだが。

 

ザザッガサガサ

 

道路わきの雑木林から何やら大きな影が飛び出してきた。

 

「おっ?」

 

「何だ何だ?」

 

「あれは...。」

 

「「「猪だー!!」」」

 

こちらの声に驚き、猪が突進してくる。

 

「うわー!でかっ!」

 

「なんでこっちくんの!?」

 

「お前ら騒ぎすぎだ!それに反応してんだよ!」

 

木吉が何とか落ち着かそうとするが、そんな余裕などない。

そのまま、黒子の方に急接近する猪。

 

「黒子!!」

 

「にゃろ!」

 

小金井が石を投げつける。

少しだけ、猪の視線が黒子から離れる。それでも、勢いは止まらない。

誰もが覚悟した瞬間、黒子がすり抜けたかのように猪が綺麗にすれ違っていた。

すれ違った猪はそのまま森へと帰って行った。

 

「え?」

 

「今のは?」

 

メンバーが困惑していると、

 

「できた!僕だけのドライブ!」

 

黒子が1人歓喜していた。

 

「今、猪を抜いたのか...?」

 

「は?どうやって?」

 

伊月や日向は論議をしていたが、リコや木吉は嬉しそうな黒子を見て、どこか満足気だった。

 

 

 

「という訳で、今日は猪鍋よ♪」

 

リコが特大サイズの鍋を笑顔で運ぶ。

 

「...おい。誰か手伝えなかったのか?」

 

「順平さん無理っすよ。あのランニングの後に動ける訳ない。おばさんに捌くのは手伝ってもらったみたいですけど。」

 

「猪の肉って調理するの難しいんじゃ...。」

 

「....。」

 

「水戸部曰く、『調理自体はそこまでじゃないけど、下手をすると臭いがヤバイ』らしい。」

 

「英雄、いけるか?」

 

「さすがに、臭いに耐性はないっす...。」

 

覚悟を決め鍋の蓋を

 

「よし、それじゃあ...開けるぞ...。」

 

日向が代表で開ける。

中は極普通の鍋といったところで、ぐつぐつと煮えたぎっている。

 

「あれ?臭わない...。」

 

「あのね~。いつまでも同じレベルな訳ないでしょ!」

 

むしろ香ばしい匂いを漂わせた為、つい小金井の本音が漏れる。

 

「悪い悪い。...んじゃ、いただきまーす。」

 

みんなで一斉に口に運ぶ。

 

「「「ん~!!!ああああ!!」」」

 

「えっ?何!?」

 

「噛んだ瞬間、臭みが一気に蘇ってくる!」

 

「どーやってんの!?」

 

凶悪なギャップの臭い爆弾ともいえる猪肉に火神、伊月は声を上げる。

リアクションできなかった者はむせっ放しである。通り越して過呼吸になっている者もいた。

 

「水戸部の呼吸がヤバイ!」

 

「なんかひゅーひゅー言ってる!!備品の酸素ボンベもってこい!!」

 

水戸部は木吉に運ばれ、集中治療室状態になっていった。

 

「あ、でも味自体は美味しいですよ。」

 

英雄は鼻栓をしながら食べていた。なんともシュール。

それに習い、全員が鼻栓しながらの食事をした。食事中の会話は当然鼻声。

 

「(なにこれ...?)」

 

リコは自分で作った状況であるが、さすがに顔が引きつりもう少し練習しようと誓う。

この夜は、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて、食事中の笑い声は絶えなかった。

 

翌日、合宿の最終日。

M大は先に引き上げていった為、練習試合はできない。

ミニゲームをしてもいいのだが、スタイルの確立する為に各々の個人練習に当てた。

最近は日々の練習を明確な目標をもってしている。1度整理する必要があったのだ。

だが、バラバラにではなく、複数のグループになって状況を想定しながらの積極性を見せていた。

 

「木吉、どうだ?」

 

「まだ、少し違和感がある。よし、もう1本!」

 

日向は、3Pが生命線だ。しかし、それを生かす為、シュートフォームからのパスを木吉と練習している。同じフォームでシュートとパスを使い分ければ、DFの反応が遅れる。パスを意識させるだけで、3Pの威力は上がる。逆もDFに脅威を与えるだろう。

 

「火神!今、フリにパス出せたぞ!」

 

「スンマセン!もう1回お願いします!」

 

「なあ、今のどうだった?他のパターンって何かあるか?」

 

伊月、火神、水戸部、小金井、土田、そして1年の3人は3on3で思いついたプレイを試しながらその都度、中断し意見交換をしている。火神は視野を広げて空中戦のレベルを上げる為、伊月は意見交換することで多角的な考え方を得る為に。

水戸部、小金井、1年の3人は全力で底上げをしている。それでも、徐々にレベルが高度になっていくことに合わせて、知らず知らずの内に上手くなっていった。

黒子の個人練習に英雄は付き合っていた。昨日、コツを掴んだと思われるドライブへの興味が尽きなかったのだ。

 

タン

 

「うお!」

 

「どうですか?」

 

反応できないまま、あっさりと黒子に抜かれる。

 

「こんなん、初見じゃ止めらんないよ。スゲーな。」

 

「昨日の猪君には感謝ですね。」

 

「そういや、シュートの方はどんな感じ?『後は自分でやります』なんていうから、現状知らないんだけど。」

 

「距離はあまり伸びてませんが、成功率はあがってますよ。レイアップシュートもそこそこです。」

 

嬉しそうにボールを見つめる黒子。

 

「そんなテツ君に相談があるんだけど...。」

 

「なんですか?」

 

「テツ君の友達の....あ~、紫原君だっけ?彼のいる高校の映像見たんだけど、あれはヤバイね。2mが3人いるんだよ。」

 

「...そうですか。」

 

「んでもって、俺には火神程のジャンプ力もない。このままいったら、文字通り潰される。だからさ、ハイループレイアップシュートの練習に付き合ってくんない?

 

「シュートですか...。でも、どうして僕なんですか?」

 

「ダイレクトタッチに関してはチームで1番だと思ってるから。実に参考になるね。それに、折角だからシュートのバリエーション増やそうよ。シュート練習楽しんでるの知ってんだよ?」

 

「...そうゆうとこ良く見てますよね。」

 

「趣味だもの。」

 

「はあ...。分かりました。その代わり、僕の練習にも付き合ってくださいね。」

 

「OK~OK~、まかせとき~。まずは、テツ君のドライブからね、さっドンと来い!」

 

そう言いながら、DFにつく英雄。

 

「じゃあ、行きます!」

 

英雄は全力で止めに行き、改善点があれば挙げていった。そして、ケースごとのシュミレーションを行いながら基本的な運用パターンを考えた。そこから、応用できるように。

誠凛一同は個人のスタイル確立の為、まとめを行った。

夏休み最後の山合宿は個人能力の向上以外に、チームの課題を全体で見つけることができたのでまずまずの成果と言えるだろう。

 

それから3ヶ月個人練習からチーム練習に比重を置き換え、OFとDFのパターンの精度を上げていった。

それと同時に、東京予選に出場する相手チームの情報収集も行った。出場権利を持つチームは夏に比べて少ない為、数は限られる。そこから予選リーグに勝ち上がってくると予想されるチームは重点的に。

考え付くことを話し合い、出来る限りのことを納得できるまで。不安を打ち消すように。

その際にスタメン争いも激化していき、チーム内のモチベーションも維持していた。

 

 

「う~ん...。どうしようかしら...。」

 

采配を担うリコは予選が近づくたびに悩んでいた。当然、スタメンのことだ。基本のメンバーが決まらないと戦略も決まらない。

木吉が復帰したことで、インサイドはかなり伸びた。Cはほぼ決まりになるだろう。エースの火神を抜きには考えられない。日向もチームの色と言っていいだろう。キャプテンとして、チームを牽引してくれる。

後は、伊月、黒子、英雄、これが問題だ。個々の能力が伸びていることは素直に喜ぶ。しかし...

 

「カントクとして贅沢な悩みよね~。まったく...。」

 

伊月は、イーグルアイを用いて論理的に最適なゲームの組み立てを行う。広い視野はフォーメーションプレーの起点として活躍するだろう。論理的になり過ぎて消極的になりがちだったが、バスケIQを向上させたおかげで改善されつつある。

黒子は、ミスディレクションでパスの中継役を行う。OFとDFのアクセントになる。更に最近の伸びも良い。連携無しの個人のプレー等が特に。フルタイムで起用できないのが弱点。

英雄は、プレーの幅が広く単独でも切り込める技能をもっている。独特のリズムのペネレイトやパス、そしてDF。なにより、無尽蔵のスタミナとあのメンタル。今までが奇策でしかしてこなかったので、ガードとしてどこまでいけるかが不明点がある。

3人での共存は出来ない。そんなことは選手にも分かっている。だから競い合った。他のポジションの者も作戦次第では、外れる可能性だったある。人事ではない。

スタメンの発表は近々しなければならない。緒戦の相手も分かっている。やることは山ほどある。だから...

 

「よし!決めた!」

 

何度も編集し直したデータがPCに映っていた。

気温も下がり、季節が変わる。

そして、まもなく全国への再挑戦が始まる。




皆様のご意見を参考にさせていただいております。
今後ともよろしくお願いいたします。

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