黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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天才の底力

歴戦の王者・秀徳と新鋭・誠凛。

会場の声援も真っ二つに分かれた。

両者ともコートに踏み入り、互いを睨みあう。

秀徳は点差を前にしても、闘志を萎えさせてはいない。

これっぽっちも油断など出来ない。

 

「補照。」

 

「ん?」

 

第3クォーター開始前に緑間が英雄に近寄る。

 

「どうゆうつもりかで敵に塩を送ったのかは知らん。しかし、そのふざけた態度を後悔させてやるのだよ。」

 

「わかってるよ。これで負けたんじゃ、順平さん達に顔向けできねえからな。でも...楽しみにしてるよ。」

 

「...いいだろう、楽しませてやるのだよ。ついでに敗北もくれてやる。」

 

英雄に感化されたのか、緑間の表情に固さが緩和されていた。

 

「おもしれー。」

 

「おいおい、真ちゃん。俺らも忘れてんじゃねーよ。」

 

後ろに火神と高尾が立っていた。

 

「そんじゃま、始めますか!」

 

互いのチームがコート中央に集結する。

 

「つか、てめーがシキんじゃねー。」

 

「いいじゃん!たまには。」

 

良い雰囲気で再開するかと思わせたが、火神と英雄のせいで台無しになった。

 

「だぁほ!お前らは、いちいちオチがないといけねーのか!」

 

 

 

第3クォーター開始。

会場にいた秀徳以外の人間はいきなり驚愕させられた。

 

『緑間が...ポストアップ!?』

 

火神は前半同様、オールコートで緑間をマークの予定だった。

しかし、緑間は粛々とハイポストに入った。

 

「(こいつ...。3Pで体力勝負じゃなかったのか?)3Pは諦めたのか?」

 

火神はそのままインサイドに張る緑間のマークを行う。

 

「...黙って見ていろ。」

 

緑間は火神の発現に興味を示さない。為すべきことを為すために。

そして、秀徳は動いた。

緑間が走り、伊月に近づく。伊月は、虚をつかれて反応が遅れる。

伊月の側面に体を押し付け、高尾をフリーにする。

フリーになった高尾は、インサイドに侵入しシュートを狙う。

木吉がヘルプに向かうが、その横をボールが飛び、大坪に渡る。

大坪のジャンプシュートが決まり、第3クォーターの先制ゴール。

このOFの一連のプレーは実に基本的で、特筆することもない。しかし、

 

「緑間っちがスクリーン!?」

 

観客以上に黄瀬が驚愕し声を上げる。

帝光時代を含め、これまでの試合で見たことも無い。

それどころか、インサイドのプレーなど絶対にしないと思っていた。

黄瀬自身、帝光中バスケ部に入部したのが中2からなので知らないだけということもある。しかし、本格的に才能が開花し始めたころには、3Pのイメージしかない。

 

「あのプライドの高い緑間っちが...なんで!?」

 

「ミドリン...。」

 

桃井も含め、嘗てのチームメイトの見たことのない姿に目を奪われていた。

 

「緑間君...。」

 

それは黒子も同様だった。ポイントゲッターではなく、裏方とも言えるスクリーナーをしている姿など知らない。

 

「(緑間が、更にチームに順応し始めてる!?)」

 

「火神!足止めんな!!」

 

「あ...うす!」

 

はっきりと見てとれる変化に戸惑いを隠せない火神を日向が声を出しゲームに集中させようとするが、日向も内心は度肝を抜かれた。

前半以上に意図が読めない。ここからのゲームの展開が。

 

「とにかく点取って、突き放すぞ!!」

 

秀徳DFが整う前にアーリーOFを仕掛ける。

伊月が起点になり、そこからパスワークで繋げていく。

 

「木吉!」

 

伊月→日向→火神→英雄→伊月ときて、インサイドの木吉にボールがまわる。

直ぐさまシュートを狙う。

 

「させん!!」

 

大坪のブロックが阻む。

 

「む。」

 

「鉄平さん!!」

 

英雄が空いたスペースに向かい、走りこんでいる。

ポジショニングが良いというのは、外から見ると地味ではあるが、味方からすると頼もしいものである。

積極的に得点に絡む火神の様な派手さはない。しかし、スペースからスペースへと走ることでDFの芽を引き、他の味方が対応できないルーズボールを拾うこともできる。

 

「応!」

 

後出しの権利によって出されたパスは、英雄にではなく向かっているスペースに出されていた。

英雄の動き出しは速く、数秒マークについていた宮路を振り切りミドルシュートを決める。

 

「ナイスだ、英雄!」

 

自陣に戻りながら、木吉は褒めていく。

そこに秀徳の速攻が襲う。

最前線を緑間が走り、パスを受けてゴール下に切り込む。

 

「何!?」

 

予想外の事に火神の反応が遅れて侵入を許す。

ゴールとの距離が短い為、ほぼ垂直に放たれるジャンプシュートで直ぐに取り返した。

 

「意外か?俺が3P以外で得点することが。」

 

前半までのプレーから、別人のような変わり様に火神は困惑し、緑間に更に揺さぶられる。

 

「火神気にすんな!取り返しゃいい!!」

 

すかさず、日向のフォローが入る。しかし、火神の心の隅に引っかかっていた。

 

「行けぇ!」

 

パスワークから火神に渡り、ドライブを仕掛ける。

 

「っく!」

 

格段に上手くなった火神の突破力は緑間であろうとも簡単には止められない。

緑間を抜き去り、大坪のブロックの上からダンクを狙う。

 

「させるか!!」

 

ピーーーー

 

『ディフェンス黄色6番。ツースロー。』

 

緑間はファールになりながらも、ボールを掴んでいた左手ごと弾き、ダンクを防いだ。

これは、夏合宿の際に告げた火神のウィークポイントを狙ったものだった。

火神の左手のボールハンドリング技術は向上していたものの、未だ完璧と言えず、咄嗟の対処に追いつけないでいた。

誠凛のアーリーOFを防いだものの、秀徳の劣勢は続く。

この2本のフリースローを決められれば、点差は埋まらない。長期に渡り、点差が続くと選手の士気に関わる。

秀徳側の祈るような視線を背に受けながら火神のセットシュートは放たれた。

 

ガン

 

ボールはリングに嫌われて弾かれる。

それを見た会場はざわめきだす。

 

「ドンマイ!火神。次決めていこう!」

 

今までフリースローの機会が少なかったが、火神の成功率は決して低くない。しかし、事実外してしまった。

火神を落ち着かせようと、木吉が声を掛ける。

 

「だ...大丈夫っす。(次、次さえ決めれば。)」

 

火神は木吉の声に応え、目を瞑り集中を高める。次をしっかり、決めれるように。

それがいけなかった。

 

ガン

 

失敗に焦り、肩に力が入った為、またしてもショットは弾かれた。

緑間の急激な変化に混乱し、対応で頭を一杯になってしまった。

フリースローは流れからのシュートと違う状況でのものとなる。

特に精神面を問われ、少し力が入ってしまうだけで、軌道が変化し入りにくくなる。もっとも、緑間が意図したわけではないが。

 

「「「リバウンドー!!」」」

 

この好機を逃さず、秀徳の大坪、木村、宮地がボールに跳びつく。

フリースローの場合、ファールした側のポジションが優位の状態になる。

つまり、英雄も秀徳から奪うことはかなり厳しくなる。

大坪がきっちりリバウンドを奪い、秀徳OFに切り替わる。

 

「マズイ!!」

 

ベンチで見ていたリコから焦りの声が漏れる。

 

「戻れ!!速攻来るぞ!!」

 

日向の指示で一斉に自陣に戻る。

 

「順平さん!!違う!!」

 

その動きに火神もつられてしまったが、英雄の大声で重大なことを意識から外してしまったことに気付く。

 

「やばい!気ぃ抜いた!!」

 

日向もそれに気付き、そのプレーヤーを探す。

大坪からロングパスで緑間に渡る。

 

「遅い!!」

 

第3クォーターが始まってから、緑間の今まで見なかったプレーを目の当たりにした。

インサイドでの攻撃参加。速攻もミドルシュート。

その異常事態につられてしまった。

 

【次も速攻で来る】と

 

キセキの世代とあって、通常のプレーもさすがと言えるレベルで全国にも通用するだろう。

しかし、緑間真太郎の最大の武器は、超距離3Pである。

 

「(間に合わねえ!!)」

 

火神も必死にくらい付くが、動き出しが遅れブロックできない。

緑間から放たれたシュートは、この激戦で疲労しているにも関わらず、綺麗な高軌道を描いていた。

 

ザッシュ

 

『決まったー!!』

『やっぱ緑間!!3Pの破壊力ハンパねー!!』

『つか、これで同点じゃん!』

 

誠凛 53-53 秀徳

好機を逃さず、秀徳は遂に同点へと追いついた。

 

「おい英雄。お前が言ってた通りになってきたぞ。どーするつもりだ?」

 

日向と伊月はボールを取りに自陣まで戻る最中に英雄に詰め寄る。

 

「いや~、こりゃすげーっすね!」

 

2人が見た英雄の顔は相変わらず暢気丸出しだった。

 

「勝つ気あんのか!?あぁん!?先輩が聞いたらはっきり答えろや!!」

 

「日向、入っちゃってるよ..。」

 

日向はクラッチタイムに入り、口調が荒くなっていた。

 

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

第3クォーター開始前、英雄は緑間の変化を予期していた。

 

「緑間の変化?」

 

「もう十分変わってんじゃん。」

 

英雄の言葉に伊月は聞き返し、小金井は反論する。

 

「いやいや、まだでしょ~。キセキの世代ってそんなもんじゃないでしょうし。ぶっちゃけ、今のはどっちつかずの半端なプレーなんですよ。」

 

前半で見せた緑間がひきつけて、アウトナンバーを作り得点する。全くチームプレーをしなかった緑間から見ると、とてつもない進歩といえる。

初めは虚を疲れたが、対策がないかと問われれば、そうでもない。

長距離3Pは使用制限があり、火神なら止められる。英雄でも打てる回数を減らすことができる。

そうなると、結論は直ぐに出る。

止めれるシュートは止めて、止められない緑間の全力のシュートは止めない。寧ろ、どんどん打ってもらう。

点差を開けられないようにOF重視にしていけば、緑間の消耗は進み、第4クォーターで必ず失速する。全く動けなくなるまではいかないが、そんな状態なら英雄でも確実に止められる。

そこで一気に勝負をかけて、流れを掴み勝つ。

これが、英雄の言動からリコが纏めた作戦であった。

そしてミスディレクションの効果が切れかけた黒子を下げた、もう1つの理由。

秀徳と正面で戦う為に高さというファクターは重要であった。

そこで、木吉、火神、英雄という誠凛最強のフロント陣である。火神は体力回復の為、1度ベンチにさがったが。

秀徳の大坪198、木村187、宮地191に対して木吉193、火神190、英雄192。

火神の超ジャンプ力を合わせて考えれば、全く引けをとらない。互角の勝負ができる。

黒子を下げて、英雄をフォワードにポジションチェンジしたことでOF・DF共に正攻法のバスケが展開できるのだ。

このままいけば、ほぼ誠凛の勝利になるだろう。

しかし、英雄はこのままでは終わらないと言う。

 

「っていうか、何でそんな知った風な感じなの?」

 

リコは楽しそうに語る英雄を見て、素朴な疑問を問う。

 

「え?だって、そういう風に追い込んだもの。」

 

「あ、なーるほどねー。道理で前半割と大人しかった訳ね。うんうん、そっかー...ってこのバカチンがー!!」

 

リコのチョップが英雄の脳天に直撃する。

 

「...痛い。ノリ突っ込みなんて腕を上げたじゃないか。」

 

「うるさいわ!!なんでそこまでする必要があるの!?アンタ、本当に勝つ気あるの!?」

 

「あったり前田のクラッカー。...痛い。」

 

一切詫びることのない英雄にもう1発チョップを食らわせた。

 

「ふざけるのも大概にしなさい!!」

 

「...ふざけてなんかないさ。俺は本気だよ。」

 

「え?」

 

頭を摩っていた手を下ろし、何時に無く真剣な表情に切り替わる。

 

「全国で勝ち上がっていくってことは、他のキセキの世代と戦うってことなんだ。そしてテツ君曰く、それぞれが急激に進化を遂げている。インハイで見た黄瀬なんかはそうだよね。」

 

「な、何を言ってるの?」

 

リコを含め、英雄以外のメンバーは耳を傾けるがいまいち要領を得ない。しかし、真剣な面持ちの英雄の言葉を真摯に聴いていた。

 

「仮にキセキの世代と戦って、良いとこまで追い詰めて勝ちかけたとしよう。でも、そこで必ず天才プレーヤーとしての底力が解き放たれる。正直、どれ程のものなのか想像できない。」

 

話を聴いていたメンバーは、その光景を想像して生唾を飲み込む。

 

「だったら、その底を見るのは速い方が良いに決まってる。試合の重要な局面ではこういう経験が大事なんだよ。それに...。」

 

「それに...?」

 

「今やってるのはリーグ戦。仮に、負けたとしてもチャンスは残ってる。秀徳なら泉真館との試合も勝つだろうし。博打を打つ価値はある。...まあ、負けるつもりなんてさらっさらないけどね♪」

 

「「「....。」」」

 

一見、ふざけている様にしか見えない。しかし、話を聞くと『なるほど』と思えるような戦略。

英雄が試合に対して真剣に取り組んでいることは、とっくの昔に理解している。

それでも、英雄の発想に言葉が出ない。どこまで、見据えているのだろうか、と。

 

「で、こっからが私情ね。緑間ってさ、確かに3Pの威力は凄いと思う。だけど、黄瀬や青峰と比べて恐怖を感じない。」

 

「んん。まあ、確かに。青峰と比べればな。」

 

英雄の問いかけに日向が答える。

 

「そこには何か理由があるんだと思う。海合宿のときに確信した。だから、散々煽ってみたんすよ。緑間が形振り構わず、勝利にこだわるように。ホントはもっとスゲー選手のはずなんすから。俺はそれを見て見たい。そして、本気の緑間を相手に更に成長して勝つ。皆さんには苦労かけると思いますが、俺は必ず緑間の底を引き摺り出します。」

 

「「「...。」」」

 

再度、室内が沈黙で満たされる。

 

「くくく。はっはっはっは。」

 

今まで黙って聞いていた木吉が、突然笑い出した。

 

「木吉ぃ、なんだよ急に?」

 

小金井が眉を潜めながら質問する。

 

「すまんな。...いや、俺らも大概バスケ馬鹿だと思っていたが。ここまでの奴は見たこと無い。本物の大馬鹿野郎だ。」

 

「はは!自覚してますもの。」

 

「だから、笑ってんじゃないわよ!!ごめんみんな。ウチの馬鹿が暴走したみたい。でもコイツが責任とってくれるらしいから、どんどん扱き使って!」

 

リコが英雄の頭を叩く。

 

「だから、責任もなにも勝つんだって!なあ火神ぃ?前に言ってたろ?『勝てないくらいがい丁度良い』ってキメ顔で。」

 

「キメ顔とかしてねーし!つか、誰が負けるつもりで試合すっかよ!」

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

誠凛は緑間の覚醒を予期していたが、具体的にどうなるかは実際になってみないと分からなかった。

結果として、緑間のマークの火神は混乱しプレーが荒れてしまっている。一級品のブロックも余り当たらない。

落ち着かせようと声を掛けるが、

 

「大丈夫っすよ!(っくっそ!くっそ!!)」

 

フリースローを外してから、挽回しようと焦り始め、声を掛けたことが逆効果になってしまった。

逆に秀徳は勢いに乗り始め、一気に得点を重ねた。

本来なら火神をベンチに下げて頭を冷やしてもらいたいところなのだが、前半と状況が違いできない。緑間がインサイドでプレーするようになった為、火神が抜けるとミスマッチが起きるのだ。

火神の調子が戻るまで、踏ん張るしかない。

あっと言う間に劣勢になった誠凛はひたすらOFに力を注いだ。

そして、第3クォーター残り2分。

 

誠凛 82ー88 秀徳

 

緑間によって翻弄され続けた誠凛は、遂に逆転を許し、点差を離されてしまった。




・緑間が不遇過ぎたので、今回プレースタイルを改変することにしました。
というか、こだわりなくしたらとんでもないことになりそうです。
身長195なんですよね?何故今までポストアップしなかった?

・火神って1度受けに回ったら、滅法弱そうなイメージがあります。
逆に開き直ったら、怖いイメージです。
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