閲覧いただいた皆様に感謝しております。
折角なので、この機に何か変わったことをしようかと考えております。
案としては、『もし英雄が帝光に入学していたら』をコンセプトにした帝光中の日常を描いた外伝です。
別にシリーズにするつもりはありません。
その内の投稿を予定しています。
緑間のファールにより、2本のフリースローを与えられた火神。
表情は見てとれるくらいに硬い。
均衡状態でまた外してしまったらと考えてしまい、集中しようとするが不安が頭に残ってしまう。
実際、フリースローを外してしまったことで調子が崩れてしまい、第3クォーターはチームの足を引っ張ってしまった。
「火神気楽に行け。」
「ああ、落としても気にすんな。その為に俺たちがゴール下で張ってんだから。」
日向と木吉が優しく声を掛ける。
聞こえているのだろうが、火神の表情に変化は無い。2人の表情も曇る。
「駄目っすよ、それじゃあ。おーい、へタレ~。聞こえてんのか?このジャンプ馬鹿。そんなんだから、なんちゃって帰国子女とかいわれんだよ。」
英雄が火神の頬をぺしぺしと叩き、罵倒する。
「んだと...このニヤケ野!喧嘩売ってんのか!?後、最後のは関係ないだろ!!」
「つか、あちらさんにまた落とす事を期待されてんよ?」
「おい英雄!いくらなんでもストレート過ぎだ。」
「っぐ...。」
英雄の率直な事実を告げられ火神が噛み締める。
「いやいや、こいつにはこれくらいじゃないと...。言っとくけど、こっから先はエースのお前次第だから。いつまでもウジウジしてんなら、ベンチに戻って。」
「...わかってるよ。」
「それじゃ、お節介ついででもう1つ。硬いから硬すぎるから、見たら誰でも分かるから。ポーカーフェイスは無理そうだから...うーん、困ったらとりあえず笑っとけば?そしたら...空も飛べるかもよ?」
「ピーター○ンか!」
「ぷぷっ!よくわかんないけど、緑間がピーターパ○のマネしてるとこ想像しちゃった。『空など簡単に飛べるのだよ。』なんつって。」
「脈絡なしか!」
『早く位置について下さい。』
審判に促されて、それぞれが位置に並ぶ。
火神はフリースローラインに立ち、ボールを受ける。
「(...ホントはっきり、言ってくれるぜ。俺次第か。)」
火神はちらりと緑間を見て、試合の状況を考えた。
「っぶは!!」
すると、緑間と目が合い、英雄が言ってた緑間ピー○ーパンを想像してしまい、吹き出す。
その間も時計は進み、残り10秒。
笑いを堪えようと顔が引きつり、焦ったままシュートをしてしまい1本目を落とす。
「いや、何やってんのよ?」
英雄がやれやれと言わんばかりに呆れた顔で問い詰める。
「ほとんどテメーのせいじゃねーか!!シュートの前に緑間で思い出し笑いしちまったんだよ!」
「な?地味にくるだろ?」
この期におよんでこのドヤ顔、火神としては1番イラっとする。
「ぜってぇ後で、泣かす。」
「おう!だったらこの試合をサクっと終わらせとこ?つかどの道このまま130に届かなかったら、リコ姉に泣かされるんだけど。」
「知るか!」
『早く位置に着いてください!』
審判の声がだんだん強くなってきたので英雄は移動した。
2本目のフリースロー。火神の体から力みが消えていた。
「(調子狂うぜ...。あいつなりの気遣いなのか?...いや、ないな。まあとりあえず、さっさと打つか。)」
ショッ
火神が打った直後に、リバウンド争いが始まる。
木吉と英雄も競り合うが、ポジショニングは秀徳が有利。一斉にゴールを見上げる。
ザッ
『10番2本目はしっかり決めた!』
誠凛 89-88 秀徳
「よし!」
火神が小さくガッツポーズをしていると。
「緑間ぁ!」
大坪のリスタートで緑間に渡る。
「っくっそぉ!また気を抜いた!」
火神のフリースローに気を取られて、緑間の注意を怠ってしまった。
緑間のモーション中にブザーが鳴り、ブザービーターが決まる。
「また、このパターンかよ!」
誠凛ベンチから、悔しさが篭った声が上がる。
「はぁ..はぁ...。」
「ナイス!緑間!」
きっちり3Pを決めた緑間の下へ高尾が走り、称えた。
「おい大丈夫か?」
「..ふん。余計な心配なのだよ。」
肩で息をしていた緑間がむくりと上体を上げて、あからさまな強がりを言っている。
決して軽くない足取りでベンチへ向かう。
誠凛ベンチでは第4クォーターのプランについて話している。
「しっかし、最初はたまげるどころか恐怖すら感じたよ。マジつえーな。」
第3クォーターの窮地をなんとか逃れたが、精神的にかなり疲れている日向。
「しかも、秀徳自体が変わったというか去年の状態に戻ってるって感じだな。」
「そこに緑間が上手く合わせてると、冷静に考えてみるとシャレにならんな。」
伊月と木吉も同意する。
「最後に決められたのは正直、痛かったわね。」
「...!」
リコの言葉に反応する火神。
「しゃーないしゃーない。火神気にすんな。その前に決めたフリースローは良かったぜ。」
「っていうか、1本目に何があったの?様子がおかしかったみたいだけど...。」
「っあれは!ピーター○ンが...。」
「ピーターパン?」
「「???」」
「...いや。なんでもない...です。」
「火神、ドンマイ。」
あまりにアホらしいので説明をやめた火神の肩をポンポンと英雄が叩く。
「だから!テメーに言われるのが1番腹立つんだよ!」
「おぉう。」
「あー、なんとなくわかった。原因が何かは。」
火神の様子から英雄が絡んでいることを理解したメンバー。
「っは!肉食動物を模した菓子パンを...。」
「はいはい。チーターパン、チーターパン。」
「...今回は対応が冷たくないか?英雄。」
「順調な結婚生活を送るには、ちょっとした変化が必要らしいすから。」
「漫才してないで、第4クォーターの作戦を伝えるわよ。」
悪ふざけを止めて、リコに注目が集まる。
「緑間君が大分消耗しているみたい。だから、いつでも勝負を掛けれるように注意しておいて。あと、マークをチェンジするわ。鉄平と火神君はそのまま、日向君が宮地君、黒子君が木村君、っで英雄が...。」
「オールコートか。」
「高尾かぁ。そういや、直接マッチアップするの初めてだなぁ。うん、おっけぇ!」
木吉が復唱で確認し、その横で英雄が嬉々としていた。
「分かってると思うけど、アンタが楽にパスを出させれば、ミスマッチが生まれてその分ウチが失点するから完封するつもりで。
「了解了解。」
「ついでに、残り10分であと42点取らないといけないのを忘れずにね。失敗して恥かかせたら、罰ゲームが待ってるから。」
「了解であります。カントク殿!」
英雄は一気に姿勢を正し、敬礼を行った。
「OFは火神君中心にシフトして。あ、でもチャンスがあったら躊躇わずシュートを打ちなさい。」
ビーーーー
「勝負所が来たらサイン出すから、見逃さないように!」
ブザーが鳴り、リコが5人を送り出す。
「ラスト10分走り負けんなよ!!」
「「「おぉし!!」」」
第4クォーター開始。
早いパス回しで攻撃を展開する誠凛。
ボールが行き交い英雄に回る。英雄には宮地がマークについている。
「順平さん!!」
英雄から見て左にいる日向を見ながらパスを狙う。
宮地はパスカットを狙い手を伸ばす。
しかし、英雄の手からボールは離れず、そこからクロスオーバーで宮地の股を抜きながらのドライブ。
「(フェイクかよ!っくそ、マジうぜえ!)」
そのままゴール下に切り込んでいく。緑間が直ぐにヘルプに行き、侵攻を防ぐ。
「まだだ!!」
英雄の横に弾ける様なロールターンにもしっかりと着いて行く。
しかし、英雄のそれはロールターンではなく、ロールの途中でボールを手首で弾きパスに変更。
そのパスを受けたのは火神。ゴールに向かい高く跳び上がる。
大坪がブロックを試みるが、火神の構えたボールはそれよりも高い位置。
「だあああ!」
第4クォーターの先取点は、第3クォーターで不発だった火神のダンク。
「やっぱ、火神のダンクは見ていて気持ちがいいねぇ!」
「おお!ナイスパス!!」
2人はそのままDFに入る。
「やっぱ、止めらんねーのか...。」
木村もさすがに苦い顔をしてしまう。
「そうかもしれん、だがチームの勝敗とは関係ない!」
「お...おう!」
ここまでの秀徳を引っ張ってきたのは間違いなく緑間である。しかし、リバウンドやメンタル面で影から支えてきたのは大坪である。
火神の超ジャンプによりブロックの上からダンクを決められようが、勝利への意志を途絶えさせたりしない。
「攻めるぞ!!」
大坪の声に押し出されるように秀徳OFが誠凛に襲い掛かった。
しかし、秀徳は緑間の超ロング3PからのOFパターンが使えない。
高尾との連携・スクリーンでかわしても、英雄がスイッチできる位置にいている。
このパターンのOFは単調になりがちで読まれやすい。距離がありすぎてフェイダウェイも使えない。
よって、ハーフコート内でスタンダードなバスケがメインとなる。
それでも実のところ、メリットもかなりある。
緑間の特性上、どうしても3Pを警戒せざるを得ない。当然、タイトなDFになるのだが。不用意に距離を詰めると
「っく!っそ!!」
火神が距離を詰めようとした瞬間を狙って、その横を抜き去る。
そのまま突っ込みレイアップで得点をあげる。
『おおー!秀徳も負けてねーぞ!!』
そこから4分間、互いのOFを止められず点の取り合いに縺れ込んだ。
集中力も途切れることの無いプレーで全てのシュートがリングをくぐった。
DFも全力で行っているのだが、OFがそれを上回っている。
第4クォーター残り5分と少々。
誠凛 107-108 秀徳
点差にそれほど動きは無く、秀徳のリード。
「(まだか..?まだこないのか?)」
日向を含め、誠凛は待っていた。リコの合図を。
「日向!集中集中!」
「わぁってるよ!」
秀徳にリードを許したまま時間が経ち、焦り始めている日向に木吉が声を掛けた。
しかし、焦りを見せるのは秀徳も同様だった。
DFは機能しきらず点を取られ、ミスの許されない状況で4分間攻め続けた。それでも点差を離すことができない。
そして、1番の懸念は高尾である。
第4クォーター開始から、英雄がマークしてきている。
英雄のDFの前にして、ゲームメイクを行うのは並大抵ではない。
スティールされないようにしてボールを運び、有効なパスを入れる。幸い、緑間のヘルプを視野に入れている為いくらか楽ではあるのだが。
高尾の能力は高い。ゲームメイクと合わせて、黒子のマークを兼ねている。
その前からも緑間の今までにないプレーと3年と上手く橋渡しをしてきた。第3クォーターが上手く機能したのは高尾の力である。
間違いなく全国クラスのPGであるだろう。しかし、少なくない負担を抱えたことで堪った疲労が爆発する。
そして、遂に
パァン。
高尾が英雄に捕まり、ボールを弾かれる。
「やっべ!!(つうか、こいつどんだけだよ!)」
英雄のパフォーマンスは相変わらず落ちてない。直ぐに奪い、速攻。
高尾も直ぐに戻ろうとするが、疲労の為出足が遅れて英雄との距離を開けられる。
英雄を止められる者がいなくなり、綺麗なフォームのレイアップが決まる。
『第4クォーター初のターンオーバーは誠凛だ!』
『下手をするとこのまま流れが傾くぞ!!』
試合の行方の分かれ道に差し掛かり、観客も歓声を沸き上げる。
「ここよ!!あたって!!」
リコから合図が出る。
「DF!!いくぞ!!」
誠凛のオールコートマンツーマンが展開される。
スローインをしようにも、パスコースが無い。木村は時間に追われて、近くにいた高尾にパスを出す。
「っよっと。」
またしても英雄に奪われて、連続失点のピンチ。
奪った状態で踏み込み周りを見る英雄。
高尾はドライブに備え距離を開ける。
しかし、高尾がドライブ警戒の為、英雄と距離を開けたことを見計らい、バックステップからのジャンプシュート。
「(ここで3Pかよ!!)」
後半、ほとんど打たなかった3Pをこのタイミングで決める。
高尾のブロックなど届かない。
誠凛は考える暇を奪うように直ぐにプレスを掛ける。
スローイン役は木村、マークに黒子が着いている。スローイン自体は問題ない。問題なのはこの状況でパスできるのは、ミスマッチになっている宮地だけなのだ。
木村はオーバースローでロングパスを出す。が、途中で木吉がインターセプトしそのままカウンターへ。
「速攻!!」
高確率で宮地へパスすると分かっているからこそ、誠凛は逆にそこを狙った。
ボールは再び英雄の下へと回ってきて、マークは高尾。
プレスでボールを奪うと宮地が英雄にマークできないのだ。
これこそが誠凛の次善策であった。
万が一、緑間が1試合をやりきった場合、ターゲットを高尾に変更する。
高尾と英雄とでは完全にミスマッチになり、シュートを防げない。
なにより、全国クラスのチームのレギュラーだとしても、1年なのだ。キセキの世代とでは比べることすら出来ない壁がある。
そのキセキの世代とやり合える英雄。そして、そのスタミナに対してこの第4クォーターで抗えることは出来ない。
仮に緑間がヘルプに来たとしても
「やらせん!」
緑間をかわすように火神へとパスが出る。
木村がマークチェンジで火神へ詰めると、火神から黒子へとパスが渡り、ドフリーのシュートが決まる。
堪らず秀徳のTOが入り、ゲームを区切る。
しかし、これといった対策が出てこない。
結局、緑間任せの状況は変わらない。それに加えて高尾が一気に失速している。交代も考えるが、この勝負所でベストなプレーができる選手などそういない。仮に交代したとしても、黒子のマークできる者がいない。
泣く泣く、『現状維持でまず1本じっくり得点する』で終わった。
誠凛としては、オールコートで疲労したところで軽く休めるのは好都合と思い、簡単な確認後、特に話もせず回復に努めていた。
再開すると、緑間に預け、緑間がボール運びを行う。
本来、SGというポジションにつく選手はこういった状況で変わりにゲームメイクを行うこともある。
しかし、緑間にゲームメイクの経験は無いに等しい。
それよりもまず、目の前の火神を抜かなくてはならない。
ボールを進めようと、ドリブルを仕掛けるが、
バチィ
黒子が弾き、ボールが火神の元に。
「しまった!」
黒子を意識から外してしまい、スティールされる。
火神は既に走り出しており、緑間も追いすがるが届かない。
火神のダンクが決まり、点差が一気に広がる。
誠凛 116-108 秀徳
流れというものは不思議なもので、上手く行っているときは疲労を感じない。
しかし、窮地に追いやられると一気に噴出す。
現在の秀徳のメンバーは足に錘をつけているかのように感じているだろう。
そこからの試合展開は一方的だった。
誠凛のオールコートプレスにより点差をつけられた。対応しようにも、英雄により高尾は封じ込められてしまい、パスを奪われ続けた。
流れを変えようと、高尾を交代させたが、やはり黒子を捉えられる者がいなくなり、黒子の中継パスによる得点が急増した。
代わりのPGと緑間の連携もいまいちで、ミスが出始めた。
誠凛は残り2分くらいでオールコートを止めて、ハーフコートのマンツーマンに戻した。
高尾がいなくなったことにより、チームが崩壊した為である。
第3クォーターから始まった秀徳のプレーは凄いが、練習なしのぶっつけなのだ。
流れが悪くなればミスも増えていく。
緑間の敗因は気付くことが、遅かったことだろう。
緑間は懸命に抗うが、スタミナは切れかけた状態でできることなどあまりなく。
徐々に開いていく点差を防ぐくらいだった。
最終的には、3Pも全て火神に防がれ、完全に沈黙してしまった。
「英雄君!」
黒子から中継パスで英雄にパス。
ステップインでレイアップを狙う。
「うおおおお!」
振り絞りながら緑間がブロックに跳ぶ。
「...ナイス、ファイト。」
英雄はボールを下げて、背後にパスをする。
待ち構えていた火神のダンクが、緑間が見上げる中炸裂した。
ビーーーーーー
誠凛 141-115 秀徳
「「「ぃっよっしゃああーー!」」」
コート内・ベンチ含め誠凛の勝ち鬨が木霊する。
「あっぶねぇ。なんとか達成したよ...。」
「お前はそっちかよ!!」
「へへっ!」
適当な軽口を叩きながらも英雄は嬉しそうに笑った。
「ホントに達成させるなんて...。全く...って、あ。」
リコはふと目を移した試合のスコアシートに目を移す。
「...?どうしたんだ?」
「...あ、なんでもないわ。」
小金井になんでもないと返答し、リコがもう1度スコアシートを見る。
得点:31点 リバウンド:10 アシスト:14 スティール:15 ブロック:4
「クアドルプル・ダブル...。ちゃっかりとんでもないことやらかしてくれるわね...。他で気付いている人はいないでしょうに。」
・クアドルプル・ダブル
試合で1人の選手が、得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックショットの5つの項目の中で4つ、2桁を記録すること