黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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回想はここまで。
次から本編に戻ります。
サッカー用語が少し混じりますが、お付き合いください。


私とアイツ 後

 

英雄は、目立っていた。

入学して間もないはずなのに、・・まぁ理由はなんとなくわかるけど。

この時点で身長は175で常にヘラヘラしており、天然パーマと合わさればどこぞのホスト・もしくはチャラにしか見えない。

 

当然のように誰よりも早くバスケ部に入部してた、仮入部という順序を無視して。

以前から、仲のよかった日向君、その後に伊月君と交流を深めていた。

既に、並みの中学生レベルを凌駕している英雄は上級生であろうが一蹴。

 

当たり前といえば当たり前だ。

往年といえ、元日本代表選手と1 on 1をしてきたのだから・・・。

 

 

1週間後、他の新入生はまだ仮入部の段階だ。

 

私は、バスケ部の関係者というわけではないので、偶に様子を見に行くだけであった。

ジムでトレーニングをしている英雄の表情に陰りが見えた。

本人に聞いてもこたえないので日向君に無理やりきいてみると、英雄に嫉妬した3年生が悪質な悪戯を始めたとの事だった。

 

 

 

日に日にその行為はエスカレートしていき、必要以上にきつい、あたりやパスにより体に痣を作ることもあった。

そして、他の1年生の本入部が決まる頃には、誰も止めなくなっていた。

その事実に、日向君や伊月君は憤っていたが

 

「あいつらが引退するまで放っておけばいいことですから、気にしないでください」

 

英雄がそう言う以上なにも言えないままだった。

 

 

 

次の日から、日向君と伊月君は部活終了後、英雄と練習をしてくれることになった。

私は、偶に見に行くくらいだが、ほぼ毎日続いたらしい。

英雄は、2人との練習と父との1 on 1だけは楽しそうにしていた。

何度か差し入れを作ってみたら、食べた3人は3人は一斉にトイレに駆け込んで行った。

 

いくら美味しくなくても、それは酷いと思う。

といってみたら

 

「「「お願いします!味見をしてください!!」」」

 

と、泣きながら土下座された。

 

 

 

 

 

そんな日々が続いたある日。

いつものように部活終了後、残って練習を始めようとしたとき----

 

「いつもいつもご苦労様でーす。やっぱ才能ある人はちがうねぇ。」

 

悪辣な3年共がイラつく顔を並べてやってきた。

英雄は、慣れたように挨拶だけ済まし柔軟運動を始める。

それが気に入らなかったのか、標的を日向君に変えて挑発を続ける。

 

「未来のエース様に、今から媚るなんて情けねぇと思わねぇの?」

 

「・・・。どっちにしろ今の先輩らよりは、マシだと思うっすけど。」

 

「おいっ!日向!!。」

 

堪えきれず日向君が言い返してしまい、遅れて止める伊月君。

 

「あ?なめてんの?」

 

3年達は、そう言って殴りかかる。

 

「ぐっ!!」

 

日向君は殴られながらも、睨み付ける。

私は見ていられず止めに入る。

 

「ちょっと!やめないよ!!」

 

「うっせーよ!」

 

なにもできず突き飛ばされ、倒れる。

 

 

----ッドッカ!!

 

 

音がしたほうに振り向くと、英雄は私を突き飛ばした男子を殴っていた。

 

「なんなんだ。テメェ!・・がはっ。」

 

あっという間に、3・4人はいたであろう人数を打ち倒していた。

その後、顧問の先生がやってきて事態の収集を明日にするとの事でそのまま解散した。

下校中、英雄の表情を沈んだままだった。

 

 

次の日、事情はどうであれ暴力事件として扱われていた。

このままでは公式戦出場停止とまで危ぶまれ、責任を取る形で3年らは退部となった。

英雄と共に。

 

私と日向君、伊月君で抗議はしたが覆ることはなかった。

その日から、1週間。

英雄は学校を休んだ。

中学に入学してからの1ヶ月間、これが体育館で見た最後の姿だった。

 

 

 

ここからは、聞いたことがほとんどで、あまり話もしてない。

英雄は、同級生の誘いでサッカー部に入部したらしい。

ジムでのメニューもサッカーのものに変更され、顔を見る機会も減った。

父もあれだけ面倒臭がっていた割りに、残念そうな顔をしていた。

そんな状況を改善できず、私は高校へ進学することになった。

日向君達は、熱心に頑張っていたのだが試合に勝つことができなかった。

それに加え、1つ年下の「キセキの世代」の圧倒的な才能に絶望し、バスケをあきらめていた。

そのこともあり、バスケについてあまり関わらないようにしていた。

無意識にバスケ部の無い『誠凛高校』を選んだ理由なのかな?

 

聞くところ、あいつはレギュラー入りを果たしたらしい。

頑張っているところが想像しやすく、少しほっとした。

 

 

また、再び春。

無事誠凛高校に入学。

日向君と伊月君もここに入学していた。

なぜだかわからないけど、日向君が似合ってない金髪になっていた。

あれほど、一生懸命だった彼のあんな姿を見ると心苦しかった。

あのことを思い出しそうで・・・。

 

 

 

今私は、バスケ部の監督になってくれないかと誘われている。

目の前にいるのは、木吉鉄平君。

最近はバスケのことに疎いが、この名前は知っている。

『無冠の五将』の1人のはずだ。

彼は、新しいバスケ部を創ろうとしている。

あえて、ゼロから始めるなんて変な奴・・・。

ちょっとアイツに似てるかも。

 

 

私は、断った。

誘ってくれるのは嬉しいけど、適当なことはしたくなったから。

中学の時みたいに、最初から勝つことを諦めてしまっている部の監督なんてしたくない。

 

その後、日向君と木吉君が1 on 1で勝負したり、屋上で宣言したりといろいろあったけど監督を引き受けることにした。

日向君は嘗ての熱意を取り戻し、集まった皆は個性的で経験者じゃない人もいたけど、勝利することを諦めず

目標はあくまで全国優勝。

私も全力で挑戦してみよう!

新しい仲間との新しい目標、きっと楽しくなるだろう。

 

 

創部してからは、とにかく練習の毎日。

他校と比べてスタートダッシュが遅れていることもあり、練習のメニューはスパルタにしておいた。

当初、メンバー全員が練習終了後動けないでいたが、何とかシゴキに耐え成長している。

 

今は、自室で今後の動きについて案を纏めている。

みんなのレベルアップに合わせてメニューや、チームの方向性などを考えていると、やるべきことがありすぎて、集中力が散漫になってきた。

気分転換のため、少し散歩をすることにした。

 

 

-----ダムッダム

 

-----ザッシュ

 

 

現在午後11時。

公園のほうから何か聞こえるが、該当などとっくに消えている時間だ。

少し気になり見に行くが、暗くて見えない。

よーく見ると誰かが、バスケをしているようだ。

ボールもゴールもほとんど見えない状況で、よくやると眺めていると

 

「はあっはあ・・。なにやってんだろ俺・・・。未練タラタラじゃねぇか。」

 

(この声って、まさか?)

 

もう1度目を凝らす。

長身で、髪は恐らくパーマ。

そして、何度も見た柔らかなシュートフォーム。

気づいたとき、この場にいることができなかった。

 

 

 

数日後、やっぱり気になった為、もう1度あの場所に行ってみると

---アイツはいた

近くの自動販売機に縋りながら、休憩をとっていた。

自販機の光により、あいつの顔がはっきりと確認できた。

間違いない、あいつだ。

 

(こんなとこで、なにやってるのよ)

 

声を掛けようかと迷っていると、あいつは歩き出し帰って行った。

結局、話しかけることはできなかった。

監督として忙しい毎日だが、完全に忘れることができなかった。

 

 

 

 

夏を向かえ、バスケ部は一丸となってインターハイに挑む。

できる限りのことは、やってきた。

あとは、とにかく全力で挑むのみだ。

誠凛バスケ部は、チームとして若すぎるが、鉄平と日向君を中心に予選を勝ち上がってことができた。

次勝てば、決勝リーグ。

皆の士気も高く、なによりだ。

アイツのチームも相当調子が良いらしい。

お互いに全国に行くことができれば、これをネタに話しかけるのも悪くないだろう。

 

 

 

そして、予選トーナメント決勝に勝利した。

その結果、相手チームの花宮君の策略により負傷、戦線離脱を余儀なくされた。

柱を失った誠凛高校バスケ部は瓦解し、決勝リーグで三大王者を相手に全てトリプルスコアで敗北した。

 

 

次に向け、練習を再開するが、全く’はいっていない’練習が続いた。

私もショックからなかなか立ち直ることができず、ムードを切り替える為、案を巡らせた。

そういえばアイツは、明日決勝戦らしい。

気分転換を兼ね、OGとして応援に行くことにした。

競技は違うが、どんなプレーをするのか興味があった。

前情報として、スポーツ雑誌にこう書かれていた。

 

 

----某サッカー マガジン

 

 

 

○○中学校

 

 

司令塔10番 田中のリーダーシップと指揮、

 

どんな局面でも顔を出すチームのダイナモ18番 補照、この2人を軸にする展開力は期待できる。

 

 

 

 

無名校であるため扱いは小さいが、高い評価を得ているようだ。

 

 

 

試合当日。

会場に私はいた。

相手は強豪校。

試合の展開予想は、7対3で、相手側が有利との事。

こちらは勢いがあるがムラもあり、若いチームなのだ。

少し、誠凛バスケ部とダブってしまうような状況だった。

 

前半は、相手のディフェンスが固く。

アイツの強引すぎる、オフェンスが目立った。

私は、少しがっかりしていた。

バスケをしていた時のものとは、比べたくないほどの自分勝手なプレー。

たしかに、身体能力を使い強引に切り込むプレーは効果的だと思うけど、

今のアイツは、それしかしていない。

当然、マークもきつくなりパスが回らなくなるという始末。

そして、ゴール前で相手にPKを与えてしまい、味方が抗議しレッドカードで退場。

更に、ゴールを決められ、窮地に陥る。

応援席からも、半ば諦めているような声が聞こえる。

 

 

でも、私は見た。

変わらない、あの笑顔を。

ここからのアイツのプレーは、変わった。

1人欠けた状態でも、それを補うようにフィールドを駆けていた。

オフェンス時には、パスコースを増やしマークを引きつける為、空いたスペースに失踪し、

ディフェンス時には、誰よりも早くボールを追い回し、ルーズボールに飛び込んでいた。

それも、常にトップスピードを落とさず。

相手チームもアイツの無尽蔵ともいえるスタミナに翻弄されていた。

なるほど。と思った。

あえて、強引なプレーをすることで相手チームに強く印象付け自分をマークさせ、走らせる作戦。

つられた相手は疲弊し後半の状況が一気に覆る。

1人欠けるというトラブルがあったが、それでも互角に戦えている事も納得できる。

それに、表向きの強引過ぎるプレーに陰になっているが、

ボールを持っていない時のアイツの動きは、凄かった。

味方が有利になるポジションに必ず居て、スクリーンのタイミングも絶妙。

マークが2人になろうとも、逆にそれを利用する。

マークが増えたことにより、審判からの死角の隙を付いてPKを奪う。

あの強引過ぎるプレーもこれの伏線だったのだろうか?

そして、確実に決め1-1で同点。

そのまま膠着し、後半ロスタイムに入った時だった。

 

 

 

味方のシュートを、相手GKが弾きルーズボールになり外に向かってボールが転がる。

何故かアイツはそこに居て、そのままパスを出した。

味方を1度も確認せず、出したループパス。

 

観客を含め、そこに居る全員の視線を奪い、ゆっくりと弧を描いていた。

 

たった1人が走りこんでいて、そのままシュートが決まる。

 

これには、応援席全員が立ち上がり歓声を上げていた。

英雄は全国の切符を手にし、都大会のベストイレブンに選ばれた。

サッカー関係者に『彼の技術はまだまだ荒いが、そんなもの後からでも習得できる。あの精神力と創造性の高さを得るのは、容易くない。

彼の2年後が見てみたい。』と言わせ、『未完のファンタジスタ』と呼ばれるようになった。

 

 

私には2つのことに気づいた。

1つは、これが、これこそが。

あいつが、英雄が。

バスケにおいて、目指していたプレーそのものだったこと。

 

つまり『自他共栄』。

力を合わせるというわけではなく、自分と味方を掛け合わせ、実力以上のプレーをし、更なる高みへ上るプレー。

あのパスは、戦術として決まっていたことではなく、一瞬の閃きと味方を信じぬくことでできたもの。

アイコンタクトという言葉はあるけど、実際に見たのは始めてだった。

自分と受け手を信じきり、そこに味方は走りこんでくれる。

きっとではなく、必ずというレベルで。

 

2つ目は、英雄がバスケ以外で自分の才能を開花させてしまったことへの寂しさ。

英雄が、バスケから離れて会話の回数も減っていく中で、私の中でアイツと呼んでいた。

私は、もう1度見てみたかったのよ。

バスケット選手としての英雄を。

だから、コートに居ない英雄をどこか他人のように見ていたのだ。

 

 

この2つが合わさり、私は少しだけ涙した。

 

だから決めた。

 

もう1度。

 

もう1度バスケをやらせようと。

 

公園で見た英雄は嘘じゃないと思うし、心のどこかで未練があるはず。

 

英雄が何を考えているのか、もうそんなの関係ない。

 

首根っこを引きずってでも、必ずコートに立たせて見せる。

 

 

 

 

・・・結果オーライだけど、気分転換にはなったかな?




・ファンタジスタ
閃きや想像性のあるプレーで観客を魅了するスーパースター級の選手に対しての呼称。


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