黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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今月は更新が遅くなっております。
閲覧いただいております皆様には大変ご迷惑をおかけします。
個人的に、大事件が起こりまして後処理で執筆時間が減って降りました。


笑えねーよ

「ここが試合の分岐点や。誠凛が挽回できなければ、そこで終わりや。」

 

TOが終わり、コートに入っていく両チームを見ながら桐皇の今吉は呟く。

 

「...今吉さんだったらどうします?」

 

横に座っている桜井がしきりに質問を飛ばす。

 

「少しは自分で考えてみい。」

 

「あ、すいません!ホントすいません!!こんなことも分かんないでレギュラーしててすいません!!」

 

「いや、そこまで謝らんでも...。」

 

「最近調子こいててすいません。うざくてすいません!!」

 

「うざいって言う前に謝んなや!ていうか調子こいてたんかい!?どのへんが!?」

 

謝り倒す桜井と、最近わざとやってるのかと思い始めた今吉であった。

 

「今吉さん、めんどくさいから桜井のスイッチ入れないでくださいよ。」

 

桜井の横に座っていた若松がだるそうな表情で諌める。

 

「すまん、すまん。で、なんやったっけ?わしやったらか...。パスが通らんのやったら、1対1に持ち込むのが定石やろうなぁ。実際にやってみんとはっきりとは分からんけど。ま、じっくり見ときや。誠凛はどうすんのやろ?」

 

 

試合開始。

いつも通りのOFフォーメーションをとる。

水戸部がロー、英雄がハイポストに配置。

霧崎も先程と変わらず、パスコースを限定するDFを展開。

伊月はいきなりパスワークを開始させるなどせず、じりじりと花宮との距離を詰めていく。

 

「(こいつ...。)」

 

花宮は伊月の表情・雰囲気から内情の変化を読み取った。

 

ドン

 

気が付くと英雄が体を預けていた。

 

「スクリーン!?」

 

「っち。(ベタな手を...。)」

 

思わず仕掛けられた花宮も舌打ちをしてしまう。

伊月はそのままゴール下へと侵入。

 

「ははっ。(想定内なんだよ!)」

 

霧崎は日向がベンチに下がった為、DFをインサイドで固めていた。

 

「(今、ゴール下には1人。パスを警戒して適当に打たせりゃリバウンドは取れる。そのままカウンターだ。)」

 

花宮の考えを多少でも理解できるのは瀬戸のみ。しかし、日々の練習によりいくつかの決まりごとは存在する。

大体の試合展開は、花宮により相手PGは封殺される。当然、花宮にスクリーンを掛けたチームは山ほどいた。

瀬戸はそのまま伊月にマークを変える。

伊月は足を止めてしまい、後ろから来た花宮にボールを弾かれる。

 

「しまっ...!!」

 

ボールが古橋へ跳ねていく、そこに英雄が飛び出す。

 

「こ..のぉ!」

 

ボールとの距離が離れており、ギリギリ指先が触れる。

瀬戸は弾かれる方向を先読みしてボールを奪おうとした。

 

「(よし。カウンターだ。)」

 

ギュン

 

「な!!ボールが離れていく...!?」

 

バウンド後のボールが逆再生の様に真反対へ跳ね上がる。

先程英雄が触れたときに強力なスピンが掛けられていた。英雄は何事もなかったかのようにボールを手に収めた。

直ぐに伊月にパス。

 

「何度でも!!」

 

この一連の流れで、霧崎のDFは乱れていた。

原がヘルプに来る。火神がフリーになっているのだが、火神へのパスをスティールしようと花宮が待ち構えている。

しかし、伊月はパスどころかゴールに向かい突っ込んできた。

 

「(ここでカッコ悪いことなんか出来るか!俺だって!!)」

 

パスと予想し、気を抜いていた原は後手に回ってしまい伊月のシュートを許してしまった。

 

誠凛 47-60 霧崎第一

 

「ナイスっす!!強引なプレーとかシュートを意識させれば、もっとパスが活きますよ!この後もガンガン行きましょう!!」

 

インターバルでの態度が嘘のように、伊月の得点を本気で喜ぶ英雄。

 

「英雄...。ああ!!」

 

攻守交替

流れを奪いたい誠凛にとってこのDFは重要である。

先程のワンプレーでうまく集中しはじめている伊月は花宮にプレッシャーを与え続ける。

 

「おぉ!?良いDFっすよ!このまま奪っちゃいましょ!」

 

英雄を中心に声が出始め、DFにリズムが生まれる。

が、それでも無冠の五将。伊月を抜き、フローターシュートを決めて得点する。

 

「ははっ!無能な監督のチームの癖にあんま調子にのんなよ?やろうと思えばいつでも点なんか取れんだよ。」

 

花宮としては大事な場面で得点し、ペースを乱すためのトラッシュトークだったのだが、

 

「...はぁ。...俺もさぁ、偉そうに言った手前、我慢してたのに...。お前、もう笑えねーよ。」

 

押してはならない、触れてはいけないスイッチを押してしまった。

 

再度、誠凛OF

伊月は花宮から少し距離をとった。

3Pラインよりも外である為、花宮はDFフォーメーションを守りも無理に追いかけてこない。

そこで振りかぶる。

 

「な!!?」

 

伊月はオーバースローでゴールに向けて力一杯投げつけた。

今までのプレーを省みても完全に意表をついた。

 

「どけー!」

 

走り込んでいた英雄が跳ぶ。

マークの瀬戸は花宮に合わせてポジションを取る為、花宮同様意表をつかれてあっさりマークを外されていた。

代わりにヘルプに来た原が少し遅れてブロックに跳んだ。

 

「ブチかませ!英雄!!」

 

「当ったり前!」

 

伊月の声に呼応して英雄がブロックをかわさず、力ずくで叩き込んだ。

 

「うぉお!?」

 

『ディフェンス、10番。バスケットカウント1スロー。』

 

原は英雄に押し負けて、コート外まではじき出された。

英雄は原に近寄り、手を差し出す。

原の手を掴み立ち上がらせる。

 

「凛さんのカリは確かに返したよ?」

 

そう言い残しフリースローラインへ移動していった。

口元は笑っていたが、目が明らかに笑っていない。原は少しだけ青ざめた。

 

このフリースローをしっかり決めた英雄。

誠凛 51-62 霧崎第一

 

第3クォーター初得点を決め、波に乗りたい誠凛。

対して霧崎もラフプレーを織り交ぜたOFを展開する。

瀬戸はマークについている英雄に肘をぶつけた。

 

ガスッ

 

「っつ!!」

 

仕掛けたはずの瀬戸の表情が歪む。

 

「(こいつ、脛を...。)」

 

英雄はマークをしながら、要所要所で瀬戸の脛を蹴りつけ削ってきていた。

 

「皆さんの見落としは、こういうプレーを自分達しかしないと勘違いしたことですよ。でも、まあこんなしょうもないことするんですから、やり返されることも想定内でしょ?」

 

瀬戸だけに聞こえる大きさで囁く。

 

「お前...。」

 

「つか、試合中に寝てるとかありえないでしょ?頭が良いのかどうか知らないですけど、そんなんで勝てるほどバスケは甘くねーよ。」

 

瀬戸はまさか反撃をくらうと思って折らず、集中が散漫になりつつあった。

そもそも、瀬戸は単純なCとしての個人能力はチーム内で2番手である。英雄もCが本職でないが、これまでに木吉と練習で競り合い、夏の予選では秀徳の大坪と渡り合ってきた。

ラフなプレーも返されて、徐々に英雄が圧していった。

 

その間にもプレーは続いており、古橋が放ったシュートがリングに弾かれ、両チームがボックスアウトに入る。

瀬戸がポジションを固める途中、英雄が瀬戸の右肩を軽く触った。当然、審判の死角を狙ってである。

瀬戸が右肩の方に意識が向いた瞬間に一気にゴール下に入り込んだ。

水戸部と原も争っており、原の足が水戸部の足を押さえつけていた。これにより、跳ぶタイミングが遅れてしまう。

 

「リバウンド!!」

 

英雄と原がボールを取り合う。

原は水戸部の足を踏みつけている為、微妙な移動ができない。

 

「こういう奴に限って、基本がなってないんだよ!」

 

より良いポジションにいた英雄が悠々とリバウンドを奪う。

瀬戸も黙っておらず、英雄の着地際を狙う。

前半で木吉に行ったことを英雄にもしようとした。

瀬戸と英雄の距離が一気に詰まる。

瞬間、2人がもみくちゃに転倒し

 

『ディフェンス、白15番。』

 

英雄にファールを言い渡され、瀬戸が地に伏したまま英雄のみ立ち上がり、

 

「おっと、すんません。ゴール下は接触が多いから気をつけないとね♪」

 

2人が転倒した瞬間に瀬戸の肘を捌きながら、体重の乗った英雄の肘が瀬戸の腹部に直撃した。

瀬戸が襲い掛かった状況を逆に利用し、ダメージを与えた。

瀬戸はよろよろと原の手を借りながら立ち上がった。

 

観客はこの場面でのファールにため息を漏らしているが、選手側は目を細めた。

 

「カントク、この場面でファールって不味くないですか?」

 

ベンチで見ていた河原は、調子の上がっていたところのファールに不安がる。

 

「...っ。」

 

リコは返答に詰まった。チームの勝敗云々ではない。

これは、明らかな報復行為だからである。

 

「...英雄君が笑っていません。」

 

表情だけで言えば笑っているように見える。しかし、分かる者には分かる。

黒子はこれまでの個人練習などを行う内に、英雄の本気の顔を判別できるようになった。

故に英雄の異変に気付いた。

 

 

 

「あまり気持ちの良いものじゃなくなりましたね。」

 

観戦していた桐皇の桜井も英雄の行為の意味を理解しており、複雑な表情だった。

 

「ふん...。」

 

青峰は興味無さ気に鼻息を鳴らす。

 

「まあ、普通はそやろな。」

 

今吉は言葉に含みを持たせる。

 

「普通は、って。今吉さんはそうじゃないんですか?」

 

「今までどんだけラフプレーやってきたかどうかわ知らんが、ここまでやり返されたことは恐らく無いやろ。霧崎の表情を見てみ?特に5番と10番、ビビリ上がっとる。事実上、今日の試合でラフプレーはほとんどできんやろ。なんせ補照は本気で潰しにきとるからな。好き好んで標的になろうとはせんやろ。」

 

今吉は心なしか笑っている様に見えた。

 

 

 

「伊月さん、お願いがあります。今だけでいいので。」

 

「お、おお。」

 

コートにいる誠凛の4人も英雄の雰囲気に気付いていた。

口元だけが笑っており、目が冷たく細く開いていた。

 

 

 

「瀬戸、大丈夫か?」

 

山崎は表情の青い瀬戸に声を掛ける。

 

「あ、ああ。なんとか...。」

 

「つか、あいつマジでやばくない?」

 

原が花宮に不安を訴える。

 

「っち...何ビビッてんだよ。今更やることは変わらないっつーの。」

 

さすがの花宮も具体的な対策を発言できない。

 

「そうはいうが、いちいちやり返されたらこっちがもたねーよ。あいつの当り、俺らより重たいんだよ。」

 

実害を受けた原は瀬戸を見ながら反論する。

 

「しゃーねーな。見てろ。手本を見せてやる。」

 

「大丈夫なのか?恐らく次はお前が標的になるぞ?」

 

古橋が花宮に注意を促す。

 

 

 

瀬戸が息を整えて、試合再開。

ボールを持った花宮に英雄がマークする。

 

「(こいつ馬鹿か?インサイドを放置して、何考えてんだ?)...くくっ。他の奴等こんな馬鹿にビビリやがって。」

 

明らかな愚策に花宮が笑いを零す。

 

「別にいいですけど、どーでもいいこと考えてる暇あんすか?ほら!」

 

一瞬の隙を見逃さず、ボールを軽く弾いた。

 

「んな!!っくそ!」

 

花宮はあせりボールに手を伸ばす。

しかし、ルーズに強い英雄が譲る訳も無く、気付けば花宮に体を押し付けボールを奪おうとしていた。

 

ズッダン

 

2人が前のめりに倒れ同時にボールに触れる。

英雄はボールを力任せに引っ張り込む。

 

ドッゴッ

 

鈍い音が会場に鳴り響く。

花宮の鼻から赤い血がポタポタと流れ落ちていた。

 

『フ、ファール。白15番...。』

 

審判も少し戸惑う、先程からの連続ファール。作為的なものを感じるが、前半で霧崎の行為を見逃してしまったことでこれ以上の判断ができない。

 

『おいおい!何してんだよ15番!』

『連続ファールって、勝つ気あるのか!?』

 

英雄は手を上げながら、花宮に言い捨てる。

 

「本気で勝つ気も無いくせにくだらねーことすんじゃねーよ。次はこんなもんじゃ済まないからな...。仮に事故にあっても、落雷が落ちても、あんたを許さない。...あと。」

 

「っひ...。」

 

花宮の顔は一気に青ざめ、コートに座った状態でずりずりと後退した。

 

世界でも花宮のようなプレーをするプレーヤーは存在する。それ自体は否定しない。しかし、あくまでも勝利の為であり、下衆な目的の為ではない。

霧崎第一は覚悟も信念もない、唯の暴力である。それが許せなかった。

なにより、今英雄がこうして誠凛の一員としてコートにたっているのは相田リコのおかげである。

英雄は今の自分を誇りに思う。己の馬鹿でバスケから離れ、枯れるほど泣き喚き、死ぬほど後悔もした。

それでも、こうして誠凛というチームでバスケをすることが嬉しく思う。今までの自分を肯定できるほどに。

相田リコが否定されるということは、自分自身も否定されるということ。

それ以上にリコを馬鹿にされることは、何よりも許せない。

 

「よく見てろ。無能と言ったウチのカントクが日本一のカントクになるところを。」

 

 

ここで両チームはメンバーチェンジを行った。

花宮の鼻の処置をする為。

英雄はさすがに、これ以上はマズイと思ったリコが日向と交代させた。花宮がいない間を狙い、黒子も小金井と交代。

 

「順平さん、後お願いします。」

 

「...お前は偉そうに言っときながら、抱え込んでんじゃねーよ!」

 

日向の拳が英雄の胸にドスンと入る。

 

「お前も反省して俺らが全国行きを決める瞬間をしっかり見とけ。」

 

「...うっす。」

 

日向がコートに入り、黒子が英雄の前に立つ。

 

「...英雄君。後で話があります。試合に勝ったら、覚悟しといてくださいよ。」

 

表情は読みづらいが、分かる者には分かる。

 

「あ、もしかして怒っていらっしゃる?」

 

「ええ。」

 

黒子はそれを言うとコートへ進む。

 

ズドムッ

 

ベンチに座り、日向達を見送っていると、頭に衝撃が走る。

 

「結構痛い。」

 

「やかまし!あんたやり過ぎよ!」

 

リコの痛々しい顔を見て、英雄はいたたまれなくなる。

 

「あ~!泣くのはマジ勘弁!おっさんにばれたら殺される。」

 

英雄はなんとか空気を変えようと、おちゃれけてみる。

 

「...バカ。」

 

「...ゴメン。」

 

「後、ゴメンとアリガトウ。」

 

「.....。」

 

どうしようもない程に荒れていた心が澄み渡る。

 

「リコ姉。」

 

「ん?何よ。」

 

「やっぱ最高のカントクだよ。誠凛に来て良かった。」

 

英雄の言葉にリコの顔が赤く染まる。

 

「う..う...うるさい!ちゃんと試合見る!!」

 

 

柱を失ったチームは脆い。

加えて瀬戸は軽くないダメージを負っている。

誠凛の全国でも屈指のOF力に抗う力は残っていない。

流れが誠凛に傾き、点差が見る見るうちになくなっていく。

第3クォーター終了時点で逆転した。

 

第4クォーターで花宮が復帰。

何とか対策を試すが、花宮自身が鼻詰まりでパフォーマンスが落ちている。瀬戸も同様。

切り札のDFが使えない。そして、ノリ始めた伊月を止められない。

次々に失点し、逆に点が取れなくなり、見て分かるほどに失速した。

歯軋りをする余裕もなくなり、心が折れた。

 

誠凛 109-79 霧崎第一

 

ビーーーーー

 

「勝ったーーー!!!」

「全国だ!!」

「ぃっよっしゃぁあああ!!」

 

誠凛メンバーは終了のブザーを聞き、勝利の雄叫びを上げる。

 

「英雄、今日みんなに借りを作っちゃった訳だけど。俺は皆に何をしてやればいい?」

 

「さあ?みんなで考えたらいんじゃないっすか?」

 

「ははっ!そうだな。こんなに頼りになる仲間なんだからな。」

 

木吉は英雄の適当なようで真理のような言葉に笑みを浮かべる。


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