黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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更新が遅れてしまい、申し訳ございません。


転んだら負け

英雄はここぞという時のスピンボールを使い、1人スルーパスで火神を振り切った。

火神にブロックすらさせずにジャンプシュートを決める。

 

「おっしゃ!!」

 

火神は開き直り、力ずくのダンクをぶち込みタイに戻した。

 

「どうだ!!」

 

本来のルールであればここで終了だった。

しかし、引き分けという結果に満足しない2人は、ルールをサドンデスに変更し続行。

 

「この!!」

「おりゃ!」

 

「負けるか!!」

「見たか!」

 

「■▲○!!!!!」

「○◆△!!!!!」

 

終わらない。お互いが1度も外さない為、終わらないのだ。

延長が10回目までされた時、

 

「いーかげんにしなさい!!この馬鹿共!!」

 

さすがに見るに見かねたリコが止めた。

そもそも、今日の練習は軽く流す予定だったのだ。これでは意味が無い。

 

「まってよリコ姉!もう少しやらせて!!」

 

「そっすよ!次で勝つんすから!!」

 

「なんだとー?」

 

「んだよ!?」

 

「うるさーーい!!あんた達、正ー座!!」

 

「「う...。」」

 

それでも2人が騒ぐ為、強制終了。

実はリコの隠れた配慮があった。

このまま続くとスタミナの差で英雄が有利なのは間違いない。

しかし、そんな呆気ない終わり方でよいのだろうか。

そう思ったリコは勝負を中断させた。

 

「-------------以上!わかった!?」

 

3分間全力の説教が終わった。

 

「はい。」

「うす...。」

 

2人は既に意気消沈。気力を根こそぎやられていた。

 

「分かったら、とっとと着替えた着替えた。」

 

「ふーー。」

 

不完全燃焼のまま火神が先に立ち上がる。

 

「火神。」

 

「んだよ。」

 

「また、やろーな。次は...日本一になった後か。まあ、その辺で。」

 

「...ああ。当りめーだろ。」

 

火神は体育館をあとにした。

他のメンバーの大半は火神を切欠に部室へ戻っていく。

見送った英雄はゴロンと寝転がる。そのままストレッチを行った。

 

「結構やばかった。ホントすげーよな。」

 

英雄の素直な感想が館内に響く。

 

「そうね...。」

 

「緑間の時もそうだったけど、あいつら見て凹む気持ちがちょっと分かるわ。少しの切欠でどんどん凄くなる。...負けたくねー。やっぱり負けたくない。」

 

「...アンタもさっさと着替えなさいよ。」

 

「はーいよっと。」

 

英雄はすくっと立ち上がり部室へ。

 

「英雄。」

 

「ん?」

 

体育館入り口で英雄が振り向く。

 

「当たり前な事言うけど、頑張んなさい。」

 

「...分かってる。だから頑張るよ。」

 

少しの間、呆けてしまった後に笑いながら去っていった。

 

 

 

 

そして週末。

予定通り、山間に在る旅館へやって来た誠凛メンバー。

 

「火神君、タオルを湯につけたらいけませんよ。」

 

「え、そーなのか?」

 

「はぁぁぁ堪んないなぁ。」

 

「やっぱ来てよかったな。」

 

「ジャクジー行ってみようぜ!」

 

それぞれが思い思いで温泉を堪能していた。

 

「そういや英雄は?」

 

ふと、伊月が姿を探す。

 

「直ぐサウナに行ったぁ。汗かいて体洗ってから風呂に浸かるんだとぉ。あいつはこういう細かいルールとか持ってる奴だからなぁ。」

 

付き合いの長い日向はぼんやり声になる。

 

「ああ、偶にいるな。そんな奴。Myお風呂アイテム持ってくる奴とか...な。」

 

温泉・銭湯あるあるに小金井が反応し、ふと横に目を向ける。

そこには、泡だらけでシャンプーハットを被り、犬の2号を洗っている黒子がいた。

 

「ホントにいたー!!っていうか泡で2号を...。どっからつっこめば!?」

 

キャッキャ ワイワイ

 

仕切りの向こうから元気な女性の声が聞こえる。

 

「随分楽しそうだな。」

 

「そういえばフロントに女子大生がいたな。」

 

「女子大生!!よし覗こう!!」

 

「なんでだよ!」

 

木吉が素朴な感想を言い伊月が応えていると、小金井のテンションが跳ね上がった。

こういう場合の小金井の行動力は計り知れない。

 

 

その頃、英雄はサウナにいた。

1人ということを良い事にガンガン室温を上げていた為、割とシャレにならない温度で息苦しさもハンパない。

かれこれ10分と少々。

 

「ちょっとやりすぎた感が否めないな。そんでも、この後の牛乳が楽しみだなぁ。」

 

そろそろ出ようかと思った時。

 

『ぎゃあああああ』

 

バキッ

ドスッ

ドボンッ

 

悲鳴と鈍い物音が聞こえてきた。

これを切欠に外へと歩き出す。

 

 

「次ぃ!歯ぁ食いしばれ!!」

 

「ぎゃーす!」

 

覗きを働こうとした不埒な輩を鉄拳制裁。

とうとう最後の1人を湯船に叩き込む。

 

「まったく!」

 

湯船に沈んでいる男共を見下ろしているとため息が出てしまう。

 

「何してんの?えらい楽しそうじゃん?」

 

「別に。教育的指導を...。」

 

リコは後ろから知った声が聞こえてきたので、振り向きながら掻い摘んで説明をしようとした。

リコの目に映ったのは、威風堂々とした英雄の姿。当たり前だが全裸である。

 

「きゃあああ!!」

「きゃあああ!!」

 

同時に悲鳴をあげる。しかし、英雄は前を隠さない。

 

「っておい!なんでアンタも悲鳴出してんの!?つーか前を隠せ前を!」

 

「流石にここまで堂々とみられると多少は恥ずかしいよ。」

 

「話を聞け!ホント隠せよ!いやお願いだから、隠して!!」

 

リコは顔を赤くしながら必死に目を背ける。

 

「はいはい。...おっけー、いいよ。」

 

英雄の声に従い、恐る恐る目を開ける。ドヤ顔でポージングを決めていた。

 

「って隠れとらんやんけ!!」

 

「アウチッ!」

 

リコのハイキックが英雄の顎を打ち抜き、そのまま走り去っていった。

 

「調子に乗りすぎた...か。」

 

ふらついている膝を確認しながら、ちょっとだけ反省。

 

「やっぱ覗きなんかするもんじゃないな。」

 

ダメージから復活した日向も反省していた。

 

「なんすかそれ!なんで俺も誘ってくんないんですか!!」

 

英雄が立ち上がり食い気味で迫り来る。

 

「いやどっちみちオチは同じだからな?つか、近い!お前のジュニアが顔にちけーんだよ!」

 

「わはは!相変わらず賑やかやな。」

 

何時もどおりのやり取りをしていると、聞きなれぬ声が会話を割った。

 

「お前ら...。桐皇...!なんでここに!?」

 

嘗て夏のインターハイ決勝リーグで戦った桐皇学園の面々の登場であった。

 

「まあ、あれや。近くで練習試合しとってな。せっかくやからってことで、ウチらも温泉いこか?ってなったんや。たまたまやで?そんなピリピリせんといてや。」

 

目つきの変わった誠凛メンバーに軽くアイサツをした今吉。

 

「桜井。そーいやアイツは?」

 

「汗かいてないから良いそうです。」

 

「っへ!たりめーだ!試合に出て無いんだからな!!」

 

恐らく青峰のことだろう。どうやら相変わらずらしい。

 

「そういえばこっちも火神とテツ君いないすけど。」

 

「ああ、黒子がのぼせたから火神に任せた。」

 

桐皇の登場により、伊月の反応も硬い。

 

 

 

「...お久しぶりです。青峰君。」

 

「よう。」

 

「...青峰。」

 

浴場の外で3人は再会をしていた。

こちらでも雰囲気は重く、会話らしい会話などほとんど無かった。

 

 

 

一方、女性の2人、リコと桃井も浴場でにらみ合っていた。

 

「良い試合しましょ?」

 

「上等!!ウチの男共を舐めんじゃないわよ!!」

 

明らかに負ける気のない挑発を含んだ桃井の言葉に、リコも正面から応対する。そこに、

 

『うおおおお!?ちょっと待てー!!』

 

隣から男性の声が響き渡る。

 

「「えーと....何?」」

 

雰囲気をぶち壊された2人は仕切りの壁を見つめる。

 

 

 

「だ~る~ま~さんがころんだ!」

 

ピタ

 

掛け声の終了と同時に6人が動きを静止する。

今行っているのは、子供の頃に誰もが経験のある遊び。【だるまさんが転んだ】である。

なぜこれかというと..。

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

「折角やからなんかゲームでもせーへん?」

 

今吉の提案から始まった。

 

「ゲーム?」

 

「そや。負けた方が勝った方にジュースを奢るって罰ゲーム付きで。」

 

「別にいいっすけど。内容は?」

 

なんとなくキャプテンの日向が代表で質問を行う。

 

「サウナでどんだけ長くおれるかってのはどうや?」

 

「それ俺すでに10分以上やったんでしんどいっす。」

 

「そか。ほんならどないしよ?」

 

「こんなのどうっすか?」

 

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

そして英雄の提案に軽い気持ちで乗ってしまった一同。

 

ルールは、両チームから3人ずつ選出し、鬼役も公平を期して1人ずつ選出。

スタートは脱衣所からで、そこから最も遠い場所をゴールと鬼の場所にする。

掛け声は鬼役が順番に行う。

ゲームの最中に鬼に見つかるとスタートからやり直し。

後は通常ルールと同じ。

 

誠凛からは、日向、小金井、英雄。鬼役に伊月。

桐皇からは、今吉、若松、諏佐。鬼役に桜井。

 

開始直後はそれなりに楽しくやっていた。

しかし、英雄の悪ふざけが牙をむく。

 

「だ~~~る~...。」

 

掛け声が続くうちに距離を一気に詰める若松。

英雄がすぐ後ろに迫り、腰に巻いてあったタオルをひょいと外す。

 

「ろんだ!」

 

鬼役の2人が振り返る。

そこに何も隠されていない若松がいた。

 

「なんで!?」

 

「若松さん何やってんすか!?」

 

「へ!?うおおおお!?ちょっと待てー!!」

 

桜井のツッコミに若松は素早く股間を隠した。

 

「あ、アウト...。」

 

伊月が素直にアウトを宣言。

 

「そんなのありかよ!?」

 

「あはははは~!!」

 

「アウトです。」

 

「あ。」

 

英雄がケラケラ笑っていると桜井に宣言された。馬鹿である。

 

「ふーん。そんなんアリなんかい。」

 

後ろから見ていた今吉が鋭く笑う。

今吉のスイッチが入った。

 

そこからのゲームはとにかく『酷い』の一言。

 

「おっと!手が滑ってもうた!!」

 

英雄が軽く押されて湯船へダイブ。

 

「...アウト。」

 

お互いが、というか今吉・英雄がそれぞれに妨害を行い、収拾がつかなくなっていた。

湯船に突き落としたり、冷たいタオルを投げつけたり、等々。

終盤には、他のメンバーも感覚が狂ってきたらしく。タオル無くても微塵も怯まなくなっていった。

それでも、参加せず見ていたメンバーも爆笑し、大いに盛り上がる。

 

「ちょっと一体、何事!?」

 

しかし、あまりに騒ぎすぎた為、旅館の従業員に見つかり止められた。

更に事の容態がリコの耳に届き、鉄拳制裁を受けるハメになってしまった。

 

「またお前かー!!怪我したらどうすんの!!」

 

この『だるまさんが転んだ』が思ったより面白かったのか、桐皇での恒例行事になったとかならなかったとか。

 

 

 

「すまんのう。つい悪ノリしてしもうた。あんなはしゃいだのは久しくてのぅ。」

 

さすがに今吉も本音で謝罪を行う。

 

「いえ、発端はウチの英雄ですから。こっちこそすんませんでした。」

 

代表で日向が桐皇に向けて謝罪。

ちなみに英雄は未だに、お説教中である。

 

「お~そやそや。目的忘れとったわ。」

 

「...やっぱり、何か狙いがあったんすね。」

 

「やっぱバレとったか。まあええ。そや、アイサツしよて思うてな?」

 

「アイサツ?」

 

「何言うてんねん。ウチとおたくらゆーたら1つしかないやろ。」

 

瞬間、今吉含め霧皇の表情が激変する。

 

「WCのや。なにせ...1回戦で当るんやからな。」

 

「「「な!?」」」

 

誠凛は急展開についていけず、絶句する。

 

「発表はまだなんやけど、本来なら同じ県同士は1回戦で当たる事はない。でも、特別枠は例外らしいとのことらしいで?そうゆう訳やから、よろしく頼むわ。」

 

 

 

その頃、旅館の談話室では、黒子・火神・青峰の3人がバラバラに座っていた。

浴場での騒ぎが原因で話すタイミングを失い、沈黙が続く中で青峰が口を開ける。

 

「くっくっく...。お前らんとこ、相変わらず騒がしいのな。」

 

「騒がしいのは英雄だけだ。一緒に纏めんじゃねえ!」

 

「大差ないだろ。」

 

「んだと!?」

 

火神は立ち上がり青峰を睨みつけ、青峰は冷静に火神を観察した。

 

「ふーん、”こっち側”に来たのは本当らしいな。でも、その程度じゃ楽しめねーよ。」

 

「ああ!?なんなんだテメーは!?」

 

「...火神君。」

 

「っち。」

 

黒子の一言で渋々座りなおし、そっぽを向く。

 

「テツ、見たぜ。アレがさつきが言ってた新技か?」

 

「...はい。青峰君達を倒す為のモノです。」

 

「ほー。へっ...悪いがそりゃ無理だ。それに1回戦目で敗退するしな。」

 

「!?...どういう事ですか?」

 

「簡単だ。相手が俺らだからだ。」

 

青峰の言葉から数秒の間の後、ふっと黒子が笑う。

 

「火神君。今、やったって思っちゃいました。」

 

「当り前だ。そんなのみんな一緒に決まってんだろ。勝ち上がっていけばどうせいつかは当るんだ。だったら早い方が良い。借りはとっとと返させて貰うぜ!」

 

「...やってみな。」

 

宣戦布告はいたるところで行われた。前回の試合で、勝ちきれなかった桐皇と引き分けたものの拭いきれない敗北感を与えられた誠凛。

目前まで迫ったWC。予想される激戦。その先の勝者を譲らないと言う様に。

 

そして、未だその事を知らず、胸アツな瞬間に立ち会えない男もいた。

 

「旅館まで来て正座はないんじゃない?さすがに恥ずかしいというか『ギロ!!』....いえ、何でもないです。」




そういえば、原作はサウナでトーナメント表見てるけど、紙(?)の材質ってなんでしょう?

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