「という訳で、合宿よ!!」
昨日、桐皇との宣戦布告を行った誠凛メンバーは、現在旅館近くの体育館に来ていた。
「まあ、簡単に帰れるとは思ってなかったけどな...。」
伊月が冷静な感想を言う。
火神は早朝に旅館を発っているので、ここにはいない。
「何すんだろ?」
既に着替えを済まし、バッシュの紐を結んでいた。
「あー待て待て。バッシュはまだいい。」
そこに、リコの父である相田景虎が現れた。
「出たな~。この親バカめ。」
「シバくぞ、コラ。」
「今回はカントクのお父さん!?」
「誰がお義父さんだ!カゲトラさんと呼べ!!」
「バカじゃん。」
「おい、”親”が抜けてんぞ。クソガキが。」
メンバーが驚く中、英雄は景虎をなんとかいじってやろうと口撃をぶつけ始める。
「リコに頼まれてお前らを強くしにきてやったんだろうが。もっと歓迎しろ。」
「「「はあ...。」」」
メンバーは状況を把握しようとした為に生返事になっていた。
「でだ。始めに1つ聞いておく。...リコの裸を覗いた奴は出て来い。」
「「「えぇ~!!!」」」
景虎はモデルガンをメンバーに突き出し、脅し始める。
迫力のあまり、突きつけられた側は本物の様に思えた。
「いや、なんと言うか。...失敗したというか。むしろ見られたというか。」
「はいはいはーい!僕、逆に見られましたー!!」
「てめぇ!リコの目を汚すんじゃねー!」
「「「どっちみちか!?」」」
モデルガンは英雄をロックオンした。
それを英雄は口でくわえ始める。
「ふぁふぁふぉひふひふぇ。ふぁふぇほふぁひ。(訳:まあまあ落ち着いて、ダメ親父♪)」
「...。『パシュ』」
「うぉおえぇぇえぇ!!ゲッホッゲ!!」
「「「(容赦ねー!!)」」」
意図を察したのか、容赦なく引き金を引いた。BB弾は喉を突き、英雄は咽あがる。
「リコの裸を見ていいのは俺だけなんだ!!」
「そんな訳あるかー!!」
景虎の発言がヒートアップしてきた為、リコは止めにはいる。
「そんな...。いや、そうだ。彼氏なんて認めんぞ!!」
しかし、既にオーバーヒート。
「...ふふふ。おっさん、あんたは1つ見落とししている事がある!見たくないのか?...あんたは孫の顔が見たくないのか!!!!」
「!!!!!!!」
この言葉に景虎、電流走る。
「しまった....。俺とした事が...。いやしかし。でも、見たい!ぬあああああ!どうすればいいんだー!!」
そして、膝を着き頭を抱えて悩みだした。
そこに勝者と敗者の構図が完成してしまった...。
「「「いや、なんでだよ!!」」」
リコ含め、展開に残された者達が意義を唱えた。
リコの事であるが本人はほったらかしである。
「とまあ、冗談はここまでにして。」
「長いわよ!」
「すまんすまん。とりあえずお前ら、全員服を脱げ。」
上半身裸になり整列し、景虎が確認していく。
「まあいんじゃねえの?お前ら2組に分かれろ。んでもって、3時間くらいケードロしてこい。負けた方はフットワーク倍な。」
「「「ええぇ!?」」」
メンバーの台詞がこんなのばっかりである。
「英雄は錘を外してけ。その代わりフットワーク倍な。」
「既に!?」
メンバー全員は素直に従い、山林を目指して行った。
2人きりになり、リコは意図について問い始める。
「これは、ファクトレクってこと?」
「そうだ。【自然という変化に富んだ地形を走ることで、全体的な筋力アップができる。】ってのもあるけどな。筋肉を馴染ませるって意味合いもある。ただ筋肉つけても意味が無い。筋トレしても効果が中々でないのが通常だ。それには山ん中を走らせるほうが手っ取り早い。それは、英雄にも言える。」
「英雄も?」
「確かに下半身については認める。しかしその分、上半身とのバランスが悪いとも言える。まあ、上半身を後回しにしてる理由も知ってるから駄目だとは言わんがな。ファクトレクでついた自然な筋肉なら問題ないだろ。」
そのままメンバーが戻ってくるまで、今後の方針について相談をつづけた。
「「「戻りましたー。」」」
ケードロから戻ったメンバーは再び整列する。
「お前らの次の相手のDVDを見せてもらった。個人技主体の攻撃型チーム。でもな、俺から言わせてもらえればあっちの方がチームプレーができている。」
「え?」
「できているかどうかで言えばな?勘違いすんじゃねぇよ。チームプレーっつっても個人プレーしなくていい訳じゃない。そもそもDFが1番警戒するのはシュートだからな。まずはそこからだ。パス回すだけじゃチームプレーなんて呼ばねえんだよ。」
景虎の厳しい一言にメンバーは絶句してしまう。
「おっさん、おっさん。そんなの分かってるよ。とっておきだってあんだよ。ね!順平さん!」
「もしかして、アレか?いや確かに夏から練習してるけどよ。結局、予選じゃあ使えなかったし。もう1個のヤツなんかも更に完成度低いし。」
「大丈夫っすよ!まだ時間は残ってますから!!火神にもデータを大量に渡しといたんで。」
英雄は自信満々に反論しているが、日向達はどこか不安気だった。
「まあ言うのはタダだからな。まずは形にしておけよ。...話がずれたな。とにかく、一人ひとりが武器を持つ事が必要だ。勝負所でも使えるような武器がな。」
そこから、個人へのアドバイス・指示が始まった。
2週間弱、土日はファクトレク、平日は学校で練習を行った。
本日は日曜なので山林近くの体育館を借りている。
「どう?調子は。」
今回、景虎に任せたリコは、途中参加でやってきた。
「1年はともかく、2年は大丈夫だろ。天然ボケ男は既に自分のスタイルを持っているし、プッツンメガネとキューティクルサラ男も方向性は大体合ってたし、他の3人も何とか形になるだろう。」
「黒子君と...英雄は?」
「英雄については前に言った通りだ。復帰して1年と少しでやっとブランクを完全になくし基礎を固めた今、それを十全に活かせるようにすることが最優先だ。」
「つまりはここから?」
「そうだ。例えるなら建築の基礎工事が終わったようなもんだ。まだまだ褒める訳にはいかねえ。まあ、ここからどうなっていくのかが楽しみではあるがな。」
景虎はフッと笑みを零す。
「...そうゆうことは本人に直接言ってあげればいいのに。」
「嫌だ!アイツは直ぐに調子に乗りやがる。あとムカつく。」
「いい歳したおっさんが何言ってんの?」
「お、おっさん。リコには言われたくなかった...。」
リコのツッコミに景虎轟沈。
「で、黒子君は?」
「アレは初めてみるタイプだからなぁ、悪いがあんま具体的なことは言えなかった。後、相談されたよ。『相手を傷つける様なプレーは必要なのでしょうか?』ってな。原因は英雄、だろ?」
「...うん。」
「こればっかは俺がどうこう言うことじゃない。理解と納得は違うからな。直接話し合えとは言っといた。」
「実際はどう思う?」
「今監督してる中にも同じ意見を持ってる奴もいるだろう。実際、英雄のやったことは極端なのも事実。日本国内で言えば、実際にそこまでやる奴も珍しい。逆に薄坊の考え方を温いと言う奴もいる。『それを出来ずして何が最善か』とな。」
「うん。」
「俺としては、どちらかと言うと英雄を支持する。それでも英雄も改めるところはある。リコ、その時の試合、面白いと思ったか?」
「...正直、そんなこと思わなかった。」
「だろうな。確かに、英雄の行動は間違っちゃいない。でもな、あいつのバスケは、本質はそうじゃない。それはお前ら全員が分かってるんだろうが。だから戸惑っている。違うか?」
「そのとおりよ。でも、なんでかしら...?」
「焦ってんのさ。だから勝利という結果に拘り出してるんだよ。」
「...そういうこと。恐らく原因は夏のIH予選...。」
「確かにな。それに2年のブランクは不安の理由としては充分だ。もっと出来てた自分と比べてることもあるだろう。でも、それだけじゃない。というか、お前は知らんのか?」
「え?」
「WCのもう1つの意味だよ。」
「ちょっ...ちょっと待って!何?何のこと!?」
困惑したリコは構わず話を進める景虎を止める。
「この分じゃ俺以外には話してないな?恐らくチームに気を使ったんだろうが。ったく、変なところで不器用だなあの馬鹿は。」
はぁー、とリコを余所にため息を突き出す。
「いいか。よく聞け。-----------。」
そして、景虎から思いもしない事実を告げられ
「......。何よそれ...。」
それ以上言葉が出なかった。
「チャンスは今年のWCがラストだ。ここで結果を出さなきゃ、アイツの夢は4年は遅れるだろうな。」
「夢か...。」
その後、リコは何事もなかったかの様に振る舞っていた。
しかし、今まで気付かなかったというショックは小さくなく、その違和感はメンバーも不思議に思っていた。
数日後、リコは2人の人物を視聴覚室に呼び出した。
その2人とは問題の黒子と英雄である。
「急に呼ばれたと思ったら、そういう感じか。」
「まあ、いつか来るとは思ってましたけど...。」
両者とも3人だけという状況で、既に察していた。
「1人ずつでもよかったんだけど。回りくどいのは趣味じゃないのよね。さ、腹ん中ぶちまけてもらいましょうか!!」
もうこれ以上この状態を続けさせないと決意を目に宿している。
さすがに両者ともこの状況は不本意だが、リコが逃がしてくれそうも無い。
「...そうですね。わかりました。はっきりさせましょうか。」
「...異議なし。」
2人が席に座ったところでリコが出口へと向かう。
「じゃ、終わったら呼びに来て。施錠義務があるから。結論が出るまで帰さないから♪ああ、それと結論もみんなに発表するからよろしく~。」
リコの言葉の後半に反応し、2人は立ち上がる。
「え、ちょっと!」
「発表!?なんで!?これは...。」
「まさか、ここまでみんなに気を使わせといて『2人の問題なんです』なんて甘い事考えてる訳ないわよね?」
笑顔でそう言うと鼻歌を歌いながら悠々と教室を出て行った。
残された2人は呆然と立ち尽くしていた。
「やられた。全員グルだ。」
「...ここまで、やられたらもう逃げられませんね。」
くすりと黒子が笑った。
「はは、そっかそっか。じゃあしょうがないか。」
久しく見なかった黒子の笑顔につられて英雄も自然と笑顔になった。
しばらく笑い合い、英雄が切り出す。
「とりあえず、謝らせて。...この前はゴメン!!」
頭を下げながら話を続ける。
いきなりの行動に黒子は目をパチクリと動かす。
「少し前にさぁ、リコ姉に『らしくない』って本気で怒られてさ。思い知らされたんだよ。俺、ちょっと自分のバスケを見失っちゃって。」
「はい...。」
「結局、鉄平さんに偉そうなこと言ったくせに、俺自身が自己満足でみんなに意見を押し付けただけだったんだよ。だから、ゴメン。」
「...僕も。卑怯だなんて言ってすいませんでした。」
「え?」
「僕もあれからずっと考えてました。僕は間違っているのか?どうすれば良いのか?そんな事ばかり。」
英雄が頭を下げている途中にポツリポツリと語りだした。
「これは火神君にもお話したことなんですが、僕は元々キセキの世代を倒す為、キセキの世代に認めさせる為に誠凛に来ました。そこから僕は誠凛高校1年黒子テツヤとして、英雄君と火神君とみんなと日本一になりたいと思えるようになったんです。」
「うん。...それで?」
「違うんです。...僕の決意は甘かった。あの時僕は『彼らはそんなことはしない』と言いました。それはまだ心の何処かで彼らに拘っているんです。その結果、頭に血を上らせて先輩を助ける事ができなかった。」
「でも、それはしょうが...。」
「しょうがなくなんてないんです!」
激昂した黒子に押し黙る英雄。
「英雄君はチーム内に勝つ為の努力に対して手を抜く人間を認められますか?違いますよね。僕はみんなで一丸になって、勝ったときに嬉しく思う事が勝利だと思います。その勝利こそが僕がバスケを楽しいと思えるんです。」
「...うん。」
「僕はキセキの世代を言いわけにしたしょうもないプライドで、自分を裏切ってしまった。英雄君にひどい事を言ってしまった。それがどうしても許せない...。だから、すいませんでした。」
黒子が言葉を止めると、英雄はニコリと笑いながら手を差し出す。
「俺は誠凛高校15番、補照英雄。君は?」
察した黒子も手を握り笑顔で答える。
「!!僕は誠凛高校11番、黒子テツヤです。」
「「..ぷっ、くくくく...。」」
お互いの自己紹介後、堪らず手を離し笑い出した。教室内に小さく響く。
「...急になんなんですか?」
「いや、なんとなくなんだけど。...俺はもう見失わないよ、何があっても。次からはみんなに相談するし。」
「はい、お願いします。僕も、もっと強くなります。技も心も。..頑張らないといけないですね。英雄君に負けないように。」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。じゃあさ、後で言うつもりだったんだけど、テツ君も目指さない?」
「目指す?日本一じゃなくてですか?」
英雄は話題を変更し、黒子を勧誘しだした。
「俺の雑記帳見たでしょ?」
黒子はふと内容を思い出す。
「...僕に出来るでしょうか?自信ないですけど。」
「違う。できる・できない、じゃなくて、やるか・やらないか、でしょ?俺はやるよ。」
「...検討はしますが、まずは目の前に集中しないとカントクに怒られますよ?」
「確かに。」
率直な意見に英雄はケラケラと笑う。
「そうだ。また、シュート練に付き合ってください。」
「おっけー!そんじゃ青春ぽく解決したところで、リコ姉を探しますか。つか、どこにいるか教えとけっつーの。」
英雄は先に立ち上がり、出口へと向かう。
「英雄君。」
「ん、何?」
「英雄君にとって『勝利』ってなんですか?」
「ん~、そうさね~。『証明』かな?」
翌日、リコの手によってわざわざ報告書に纏められ、メンバー全員(火神不在)の前で読み上げられた。
2人は大げさな謝罪の場を設けられ、赤裸々に頭を下げた。
そして、元々の雰囲気を取り戻した誠凛はついに全国の強豪たちに挑む。
やっと本戦。
これからも頑張ります。