黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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まずはここから

先制を果たした誠凛。

しかし、桐皇も黙ってはいない。

 

「いきなりやってくれるやないか。ウチのエースもご機嫌損ねてしまいそうやわ。」

 

今吉には英雄がマーク。

ちらりと青峰を見ると、表情がパスを要求しているように見えた。

 

「その辺は慣れていらっしゃるでしょ?お任せします。」

 

「ははっ言ってくれるわ。(さてどないしよ?)」

 

英雄は今吉と青峰の間にポジション取りを行い、且つドライブを警戒していた。お手本のようなステイローである。

ちなみに他のマークは、青峰に火神、桜井に日向、若松に木吉、諏佐に黒子。

 

「(でも、青峰だけで芸が無いと思われても癪やし。)特攻隊長の出番やな!!」

 

逆サイドにいた桜井にパス。

 

「はい!すいません!!」

 

桜井のシュートも磨きが掛かっており、リリースのタイミングが更に速い。

 

「ぐぅ!!(分かってても触れねぇ!!)」

 

日向も懸命に手を伸ばすが届かない。

 

「まあ、そういうこっちゃ。青峰使わせんようするのはええけど、それに付き合う必要もないねん。」

 

DFに戻りながら英雄に挑発を投げかける。

 

「...ふぅ。どうすっかな。」

 

「英雄。パスくれ。」

 

火神が背後からパスを要求してきた。

 

「おお?イケそうか?」

 

「わかんねぇ、とりあえず1回試させてくれ。」

 

「了解。って順平さん、いいっすか?」

 

「早いか遅いかの違いだ。遠慮なくやれ。」

 

「あざっす!!」

 

誠凛のセットOF。

桐皇のマークは英雄に今吉、日向に桜井、黒子に諏佐、木吉に若松、そして火神に青峰である。

英雄に対してミスマッチでも関わらず、マークしているということは、

 

「(様子見ってところかね。)」

 

「英雄!くれ!!」

 

「おお!悪い!!テツ君!」

 

「火神君!」

 

火神の声に反応し、黒子経由で火神にパスを届ける。

 

ざわざわ....

 

会場はいきなりのエース対決にざわめく。

両者とも見らみ合いながら、隙を窺っている。

 

1秒...2秒...と時間が経ち、

 

「火神、パス!!」

 

キキュッ!

 

火神が動いた。全速のドライブ。英雄の声に青峰が反応してしまい、火神から目を離してしまった。

 

「ちぃ!」

 

青峰は反応に遅れながらも俊敏性で追いつくが、体勢は火神が有利。

打点の高いジャンプシュートを狙う火神。しかし、青峰も簡単にはいかせない。

 

チッ

 

ボールの下部に触り、コースをずらす。

コースをずらされてリングに弾かれた。

 

「「リバウンド!!」」

 

木吉と若松が競り合う。

 

「どっ....せい!!」

 

力押しでリバウンドをもぎ取ったのは若松。

 

「うらぁ!速攻!!」

 

またも力任せで今吉に向けてぶん投げた。

 

「うお!!痛いっちゅーねん!!」

 

「ちょっとまったー!!」

 

英雄がいち早く戻り、速攻に待ったを掛ける。

 

「よし!今のうちに戻れ!!」

 

その間にDFに戻る誠凛。

 

「おっ!ええの?ここが空いとるでぇ!!」

 

ゴールに向けてロングパス。

 

「しまった!!」

 

「遅えよ。」

 

火神は遅れて跳ぶが、青峰に追いつけない。

 

ガシャ!!

 

青峰のアリウープ。英雄もみんなが戻る為の時間稼ぎが精一杯で手が出なかった。

 

『キター!!アリウープ!!青峰全開かー!!?』

『いや今吉のパスも凄かった!!』

 

超高校級のスーパープレーに観客は沸く。

桐皇は主導権を掴みかける。

火神は完全に止められた訳ではないのだが、決め切れなかった。火神が引き摺らなければよいが。

 

「もしかして、ビビった?」

 

「うるせえな。てめえが急に入ってくるからびっくりしただけだ。」

 

「そんなこと言って、自分ではそこそこナイスなフォローだと思うけど。」

 

「ちっ。分かってるよ。まだ足りねえってことは。」

 

火神は理解していた。

青峰に勝利するには、実力が不足している事を。

 

「じゃあこの試合中までには頼むよ。前座は任せろって♪」

 

「...ああ、頼む。」

 

 

 

「つったものの。(ちょーっと中が硬いんだよねぇ。かといって外から打つのもリズムが悪いし。)」

 

今吉を前にドリブルをしながら考える英雄。

 

「英雄!!」

 

木吉がポストに入り、ボールを要求。

 

「たのんます!!」

 

受けた木吉はそのままシュートへ。

 

「だぁらあぁ!!」

 

「む!」

 

若松のブロック。

それを後出しの権利でパスに切り替えて、英雄にリターン。

 

「ナイスパス!!ほっ!」

 

英雄はパス・アンド・ゴーで切り込んでいる。

若松思わず苦言が出る。

 

「くそが!!」

 

英雄のクロスオーバーシュートが放たれた。

 

バチィ

 

ゴールかと思われたが何者かに防がれた。

 

「お前かよ!?」

 

ブロックしたのは青峰。英雄がシュートを丁寧に打ちすぎて、その一瞬で追いつきボールを弾いたのだった。

 

「勘違いすんなよ。火神1人で満足する訳ねーだろ。アイツもお前もまとめて相手してやる。」

 

仁王立ちする青峰から、圧迫感が放たれる。

 

ビーーーー

 

『誠凛TOです。』

 

ブロックされたボールはラインを割り、ゲームを中断。

 

 

 

「どう?調子は。」

 

リコが出場メンバーの調子を確認する。

 

「悪くないな。」

 

「まあ、空気に馴染みだしてはいるな。」

 

木吉は手をグーパーグーパーとしながら見つめ、日向は首をコキコキと鳴らせていた。

 

「問題無し!!..です。」

 

「いけます。」

 

火神はTO中にも関わらず今にも飛び出しそうで、黒子は冷静にリストバンドの位置を直していた。

 

「こんなもんでしょ?」

 

英雄はバッシュの紐を結び直しながら返答。

 

「それじゃあ、次に進めましょうか!英雄いける?」

 

「ちょっと内への意識が高いからなぁ。いけると思うけど、今吉さんは直ぐに対応してくるよ。その後の事も考えときたいな。」

 

「じゃあパスくれ。俺が外から決めて、DF広げるから。その後は英雄に任せる。」

 

ポキポキと骨を鳴らしながら、作戦を提案する日向。

 

「...うん!よし!!それで行きましょ!まずはそこからよ!」

 

「わぁー。順平さんの格好良いとこ見たいなー。」

 

「おー。任せとけ。」

 

ビーーー

 

『TO終了です。』

 

 

 

桐皇OFから再開。

今吉は誠凛5人の表情から作戦を窺おうとした。

 

「なんやぁ?そろそろ本領発揮かいな?あんまのんびりしよったら、あかんでぇ?」

 

「お気遣い、あざっす。ぼちぼち行くんで気ぃ抜かないように。」

 

「挑発しがいのないやっちゃ。」

 

今吉と英雄の水面下でのペースの奪い合い。

互いに隙を窺っている。

 

「(順平さんが少しでも楽にシュート打てるように...)ここはとめる!!」

 

英雄の猛プレス。今吉は抜群のキープ力でボールに触らせない。

 

「そうくると思うとったわ。」

 

ハイポストまで走ってきた若松にパス。

先程の英雄のプレーを真似るようなパス・アンド・ゴー。

 

「まずった!」

 

直ぐに追いかけ追いつく。

 

「なんてな。」

 

今吉はUターンし、英雄を振りぬく。

英雄が追いすがろうと振り向くと

 

ガガッ

 

「桜井っ!?」

 

「すいません!!」

 

桜井がスクリーンを掛けて、今吉から引き剥がす。

そこで若松からのリターン。

 

「個人技主体ゆーてもこのくらいはできるで。」

 

シュートモーションに移り、跳ぶ。

 

ギュムッ

 

「こんちきしょう!!」

 

桜井のスクリーンをファイトオーバーで凌ぎ、一気に手を伸ばす。

 

チッ

 

英雄の指先が僅かに掠めた。

 

「!!あかん!リバウンド!!」

 

「うぉっしゃぁあ!!どらぁ!!」

 

「鉄平さん頼みます!!」

 

「おう!!」

 

ボールはリングに弾かれリバウンド勝負に移行。

 

「ぃよっしゃぁあ!!」

 

「く...。(先程も思ったが、こいつのフィジカルの強さは...!?つか煩いな。)」

 

リバウンドは若松が奪取。そのままシュートを決めて得点を加える。

 

「すんません!鉄平さん、順平さん。」

 

「気にすんな。まだまだここからだろ?なぁ日向?」

 

「まーなー。あんま気負ってんじゃねーよ?」

 

「...え、あ。」

 

木吉に話を振られた日向は意外にも、硬さが全く見られなかった。

 

「とにかくパスくれ。」

 

「あ、うぃっす!!」

 

誠凛OF。

英雄は3Pラインでシュートを狙う。

 

「テツ君!!」

 

「はい!」

 

またしても黒子を経由してパスを届ける。

 

「ナイス黒子!」

 

「(この人の3Pは要注意だけど、ドリブルはない。)止める!...え?」

 

日向に厳しいチェックを行ったつもりの桜井。しかし、その日向に瞬く間に距離を空けられシュートを打たれた。

 

ズサッ

 

「(なんで!?一瞬であの距離を!?)」

 

「おい謝りキノコ。なにも成長したのは、火神だけじゃねぇ。そっちのキャプテンにもそう言っとけ!」

 

「...っく。」

 

成長した日向を前に桜井は唇を噛み締めた。

 

日向は景虎から、この重心操作を利用した高速のバックステップを教わっていた。

練習期間は決して長くは無いが、付け焼刃とはいえないレベルである。

いくら全国級であっても初見では防ぎきれない。

 

桐皇の速攻は今吉が諏佐にパスし、あっさりと得点に繋げる。

マークの黒子も懸命なDFもミスマッチではブロックも届かず意味を成さない。

 

『おおー!鮮やか!!』

 

「さあ、DFや!」

 

いつでも得点できるという自身が今吉には現れていた。

 

「ある程度の失点はしょうがないわ!その倍取ればいいのよ!!」

 

ベンチからメンバーが気落ちしないようにリコの激が飛ぶ。

そして、誠凛OF。

 

「挽回は早い方が良いよね!」

 

「はい!」

 

またしても黒子を選択。

黒子は左足で踏み込み、ボールを強く弾くイグナイトパスを披露した。

 

ギュンッ バチィ!

 

それを日向が受ける。

 

「そんな!?確か以前は!?間に合わない!」

 

ビッ.......ザシュ

 

夏から冬にかけて、誠凛メンバーの身体能力は遥かに向上しており、イグナイトパスを取れるほどになっていた。

マークの桜井も意表を突かれてしまい、例のバックステップを使わずに3Pを決められてしまった。

 

「...今日のキャプテン、なんかいつもより凄くないですか?」

 

ベンチで応援していた福田がリコに問いかけた。

 

「ああ、日向が首を鳴らしてるだろ?あれが出るときは、絶好調の印なんだぜ。」

 

答えたのはリコではなく、小金井。

仲間が活躍する姿に嬉しそうな顔をしていた。

 

 

一方、桐皇は余裕という訳も無く、対策を立てねばならない。

 

「桜井、大丈夫か?ヘルプは...」

 

「大丈夫です。ヘルプって言ってもあのバックステップに対して有効とは思えませんし。僕1人で何とかします。だからやらせて下さい...!」

 

「おぉ...そうか。」

 

意外にも桜井の態度は何時ものおどおどしたものではなく、明らかな敵意・対抗心を表していた。

よく考えてみると、少し前に唇を噛み締める仕草も普段は見られない。

 

「ええから、やらせとけ。...桜井、言ったからにはちゃんと結果ださんといかんでぇ?」

 

「今吉...。」

 

「はい!大丈夫です!!」

 

桜井は気合を入れ直し、OFに走っていった。

 

「ホントに大丈夫か?様子が少し違うんだが。」

 

「心配し過ぎや。青峰抜いて1年でスタメン撮ったのは伊達やないっちゅーことや。直ぐにわかる。」

 

続く桐皇OF。

桜井にパスが入るが、動きにキレが出だした日向のDFにより、追い込まれてしまう。

 

「桜井!戻せ!!」

 

今吉に言われたものの、心配は取り払いきれずに桜井のフォローにまわった諏佐。

 

「心配いらんゆーたのに。勘違いされやすいが、あいつは人1倍負けず嫌いや。相手が強いほどシュートの精度を上げていく。」

 

その諏佐に日向が目を向けた瞬間。

 

バッ....ザシュ

 

桜井が強引にシュートを打ち、強引に決める。

 

「あなたには負けませんよ。単純に僕の方が巧いもんっ!!」

 

口を尖がらせ子供のようになった桜井。

 

「うぜぇ...。」

 

駄々を捏ねられた大人のような顔をする日向。

しかし、対抗されていることも理解したようで、

 

「英雄、どんどん回せ。アイツの目の前で決めまくってやる。」

 

そこから、桜井のクイックリリースと日向の重心操作技術を使った高速バックステップの打ち合いが始まった。

両者とも1本たりとも外さず、得点を重ねた。

 

 

「3Pの打ち合いっスね。」

 

「だがここで、インサイドに切り替えれば勝負に逃げたとも捉えられるしな。」

 

コートの脇で見ていた海常メンバー・黄瀬と森山はこう分析した。

 

「まあ、その考えた方も一理あるがな。」

 

「って言うと、他にあるんスか?」

 

その横で笠松が冷静に反論を含んだ一言。

 

「エースやシューターはその考え方で間違っちゃいない。だがな、PGは違う。あの2人を見ろ。」

 

笠松は試合の陰になっている今吉と英雄を指し示す。

 

「表にゃ出てきてねえが水面下で争ってやがる。PGにとって視野を狭める行為は致命的だ。意地を張るのはいいが、それがそのまま隙を与えることになるんだよ。」

 

PGとは現場監督のようなもの。

チームにとって有益な選択を常に迫られる。勝負にこだわり選択肢を狭めてしまえば、裏を書かれることもある。

そして、今吉、英雄両者ともそんな些細な隙も逃さない。

現状、互いが3Pを警戒している素振りをしながら、インサイドへのパスのケアも忘れていない。

 

ザシュッ

 

残り6秒というところで、桜井に3Pを決められた。

誠凛もそこでOFの意識を無くす事はない。

 

「黒子!!」

 

木吉のスローインからロングパスで黒子に渡る。

しかし、ボールを持ってしまえば、ミスディレクションは使えない。直ぐに諏佐がDFを行う。

 

「行かせるか!」

 

「いえ....行きます!!」

 

黒子のバニシングドライブにより、諏佐は黒子の姿を見失った。

 

「調子にのんな!!」

 

若松がすかさずヘルプに行くが、絶妙なパスアウトでかわされてしまう。

ボールは3Pラインの外にいる日向の手の中に収まる。

速攻の流れからなので、桜井のマークも甘い。

フェイント無しのジャンプシュートは防げない。

シュートはブザービーターで決まる。

 

桐皇学園 24-23 誠凛高校

 

最初の慣らし作業がありながら、1点差まで追いついた誠凛。

それでも、冷静に観察を続けた桐皇。

第1クォーターは両チームとも主導権を握りきれず終了。

観客は盛大に沸いているが、まだまだこれからなのは両チームとも重々承知していた。

 

「諏佐、どうやった?」

 

「ああ、桃井の言う通りだった。」

 

「よっしゃ決まりやな。そしたらどないしたろ?...第2クォーターで誠凛がどんな顔するか楽しみや。」

 

今吉は鋭く笑っているのだった。




オリジナル展開ができず原作に合わせてしまい、申し訳ございません。
火神覚醒フラグを潰す訳にはいかず、少し安易な展開を選択しました。
桐皇戦の中盤くらいからなんとか挽回できるように尽力いたします。

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