黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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もみじ×12

「はぁー疲れたー。」

 

更衣室に戻った早々、英雄はバッシュを脱いで寛いでいた。

 

「だらけるの早!!」

 

「どけ。」

 

小金井はツッコミ、日向は英雄を足でどける。

 

「もっと優しくしてぇ!」

 

「英雄、うるさい。」

 

「はいはい。何時もの感じね...ふぅ~。」

 

英雄は部屋の隅にチョコンと座り直す。

 

「前半はなんとか乗り切ったわ。後半は黒子君!行けるわね。」

 

「頼むぜ黒子。」

 

「もちろんです。」

 

リコと伊月の声に頼もしく応える黒子。

 

「よし!..ただ、桃井のデータによる先読みDFで、後半のマークはもっとキツくなるわ。それを忘れないで!」

 

「つってもどうする?選択肢を黒子に絞ってしまうのは、正直不安がある。」

 

木吉の言う問題は深刻であり、試合が進めば進むほど桐皇のデータが充実する事になる。

 

「..足りないなら、足せば良いんすよ。」

 

「火神?」

 

「まだ勝利に届かないなら、試合中に成長すれば良い。今まであれだけ練習してきた俺達なら、それができる。..っと思うっす。」

 

「...っへ!火神の癖に。良いこと言うじゃねぇか。」

 

「はあ!癖にって何すか!!」

 

「確かに。砂浜とか山とか死ぬほど走ってきたんだ。そろそろ成果が現れてもいいんじゃないか?」

 

日向は火神に辛く返し、木吉が膝をポンポンと感慨深く叩いた。

 

「その意気よ!英雄にばっかり良い顔させちゃ駄目!」

 

「...え?ああ、そうだね。」

 

「...?どうした英雄?」

 

いつものフリに反応が悪い英雄。ずっと汗を拭っている。

それをメンバーは不審に思う。

 

「英雄?....!!そのタオル貸してみなさい!」

 

リコは何かを感づき、英雄の手からタオルを奪い取る。

そのタオルには、ずっしりとした重みがあったのだ。

 

「重い...。英雄!どういうこと!?」

 

「......。」

 

 

 

桐皇の更衣室。

前半で得たデータを用いて、後半への確認作業をしていた。

 

「誠凛の2年生は今まで通りで問題ありません。しかし後半は、間違いなく11番の黒子が出てきます。」

 

桃井が代表して、後半の予想を立てる。

 

「黒子君ですか...。彼は厄介です。放置しておく訳にはいきませんね。まずは、あの消えるドライブとやらを止めなくては...。」

 

原澤も同様に黒子への警戒を呼びかける。

 

「15番のマークはどうする?このまま俺が付くのか?」

 

「いや、先ずは様子見よ。諏佐、お前は黒子のマークでええ。」

 

「アンタにやれんのか?」

 

青峰がニヤケながら、今吉に質問する。

 

「様子見やってゆうとるやろ。別に直接やり合ってわしが勝つ必要もない。それに、理由は分からんが、予想以上にこっちの狙い通りになってきよる。後は、時期を待つだけや。わしがやるのはその微調整。」

 

「...あっそ。」

 

「青峰、お前はこういうバスケは好かんやろな。でもな、前も言った通り土俵の違いや。...補照も同様にな。別にええやん、お前には火神と黒子がおるんやから。」

 

「わからねぇ。どうしてそこまで拘るんだ?」

 

「何度も言わすな。土俵の違いや。はっきりいうて、お前らキセキの世代とワシらは立ってる場所が違う。火神もそうや。でも補照はどっちかというとわし等に近い、スタート地点はわし等と一緒だったはずや。」

 

今吉は人知れず、英雄に対抗心を持っていた。

 

「最初は夏の時の印象が強かっただけやった。その後の温泉でわしは見た。1mmも無駄が無いように絞り込まれた肉体を。多分、あのスタミナも柔軟性もここ1番のDF力も後天的に身に付けた代物や。だから、同じプレーヤーとして尊敬もするし、負けたくないとも思った。」

 

「意外だな。アンタにもそういうところがあったんだな...。」

 

「あかんか?...わしでも少し驚いとんねん。あんま茶化すな。ま、だからこそ、わしが1番補照を研究したって自信がある。せやから心配せんでええ。」

 

いくら対抗心があろうとも、桐皇を率いている今吉。

余分な力みなどない。

 

「はい。私も今吉さんの作戦は問題ないと思います。」

 

「そか。桃井の太鼓判があれば、なおの事心配無用やな。」

 

「では、後半は。」

 

「ああ、補照の武器。スタミナを奪う。」

 

 

 

「英雄!!」

 

「すんません...予想以上にスタミナが消費してるんす。」

 

「...やっぱり。」

 

「どういうことだ!今までのどんな試合でも、そんな事1度も...。」

 

英雄の異常事態に誠凛メンバーは、冷静さを失う。

 

「...恐らく、今吉さんの思惑に引っかかったのかと。」

 

第1クォーターで英雄が行った事は、青峰のパスコースと黒子がマークしていた諏佐へのパスコースのチェック。

これ事体は元々リコのプラン通りであり、問題ではない。

そして、問題は...

 

「やっぱり第2クォーターの無茶が祟ったのか..。」

 

「確かに。途中からほとんどOFとDFで走りっぱなしだったからな。」

 

「特に1-3-1の時がな。桐皇OF相手に1人で切り盛りしてたんだからな。」

 

日向、伊月、木吉は原因を思い返す。

 

「そんなことないっす。みんなを信じられたからこそ、俺は動けたんす。」

 

にこりと微笑みながら英雄は反論する。

 

「...違うわ。大体当ってると思うけど、それ以上に疲労が大きすぎるのよ。...英雄、アンタを鍛えた私にはそんな嘘は効かないわよ。」

 

しかしリコは、英雄の嘘を見抜く。

 

「え?」

 

「カントク、どういうことだ?」

 

納得しかけていたメンバーは疑問を投げかける。

 

「今思えば、英雄のプレーに違和感があったのよ。開始直後のファーストシュートをダンクに行かなかったでしょ?」

 

「あ..確かに。」

 

「いつもなら派手に決めてたな。」

 

「そして、第1クォーターは可も無く不可もなくといった試合運びで、教科書通りの玄人好みのプレー。」

 

「ははは....参ったな。」

 

リコは1つ1つ、今までの英雄からは、あまり印象の無い場面を言い当てる。

英雄は若干諦めが入った様に笑う。

 

「どおりで。何からしくないとは思ったけど。」

 

「聞けば聞くほどに違和感があるな..でも何でだ?」

 

第2クォーターで火神はなんとなく感付いていた。だからこそ、『らしくない』『つまらない』といったのだ。

日向にはその理由が分からない。他も同様といった感じだ。

 

「...このWCってどういう意味があると思う?」

 

「え?いや意味とか言われても、日本一を決めるんじゃないのか?」

 

「つか、それ以外にあんの?」

 

リコの問いの意味が分からずメンバーはきょとんとしてしまった。

 

「あるわ。それこそが、英雄の本当の目的。そしてそれは、」

 

「.....。」

 

英雄はリコの言葉を止めることなく目を瞑り、反応を待っている。

 

「U-18日本代表なのよ!」

 

「「「....!!!」」」

 

あまりの話の規模の大きさに絶句。

 

「日本...代表?」

 

「ちょっと、訳がわからない。」

 

「日本代表...そうか!世界選手権...NBAか。」

 

「世界...。」

 

木吉は直ぐに答えを出すも、日向や伊月、小金井はピンと来ていない。

 

「来年には、その前のアジア大会。そしてその前にある年明けの代表合宿。それに召集される為、そうよね!英雄!!」

 

メンバーは一斉に英雄を見る。

 

「...そうだよ。黙っててすいませんでした。」

 

英雄は深く頭を下げた。

 

「知っていたのに..気付けなかった。..悔しい。」

 

リコは下唇を噛んで表情を歪めた。

 

「俺はみんなで日本一になりたい。その気持ちは嘘じゃない。...でも、どうしても世界の舞台に立ちたいから、勝ってアピールをしなきゃいけない。もしかしたら俺にも声が掛かるかもしれない。でもそれじゃあ駄目なんだ。きっとキセキの世代も招集されて、スタメンに選ばれ、俺はベンチ。そんなの認められない..!」

 

英雄には、2度と捨てないと誓った夢がある。日向や伊月も誠凛のメンバー全員だって知っている。校内放送で宣言したのだ、他の生徒にも覚えている者もいるだろう。

でも、ここまでとは思わなかった。いや忘れていた。

リコも黒子と英雄の和解の時に知り、先走るなと説得したつもりだった。

それでも、英雄の想いは遥かに強かったのだ。

 

「それに、このチームはみんなが考えているよりも、ポテンシャルはずっと高い。上手く引き出せれば絶対に勝てるはずなんだ。もし、それで負けるとしたら、原因はきっと俺。...1回戦なんかで負けられない!キセキの世代だからって負けられない!!」

 

胸の奥にあった強烈な意志。

メンバーは思う。そこまで考えていた事があっただろうか、と。

この男は、どれだけサッカーで認められようが、全てをかなぐり捨ててバスケに賭けてきた。

誠凛というチームに賭けたのだ。

 

「(それを見ていた、はずなのに!!)」

 

「だから...動きが堅くなっていたのね?普段と違う動きをした為に、余計なスタミナを消費してしまった...。」

 

「そう..みたいだ。情けない...空回りして、みんなに迷惑を掛けて....すいませんでした!」

 

英雄の土下座。勢いの余り床に頭を打ちつけ、鈍い音が鳴る。

他が反応に困っている中、日向は言いようの無い悔しさがこみ上げ、英雄に詰め寄る。

 

「英雄ぉ!!」

 

「ちょっと日向!」

 

胸倉を掴み上げ、引き寄せる。

 

「うるせえ伊月!..お前、何でもっと早く言わねぇんだ!最初から知ってたらっ!!」

 

「..すいません。あくまでも、チームが優勝に集中..」

 

「違う!!そうじゃねえだろうが!!もっと俺等を頼りにしろ!!日本代表になりたいんですって、手伝ってくださいって言ってみろ!俺はお前の先輩なんだぞ!!」

 

「!!..順平さん...。」

 

「日向君...。」

 

リコも止めようと思ったが、思い留め見守ることに決めた。

 

「カントク抜いたら、俺が1番の付き合いだ。お前が嫌だろうと、中学の時から俺が先輩だ。迷惑かどうかはこっちが決めるわ!だぁほ!!」

 

日向も激情のあまり泣きそうになっている。

 

「大体お前のバスケは玄人好みだとか、教科書通りとか、そういうんじゃないだろ。もっと行き当たりばったりで、味方の俺等でさえも驚かせるような...違うか?」

 

「アピールする為に拘ってしまいました。その方が見えがいいと思いまして...すいません。でも、第2クォーターの終盤で分かったんです。俺ができる事はそうじゃないって。火神が気付かせてくれました。」

 

「火神にさき越されたのは気に入らないが。まあいい...本当になりたいか?代表に。」

 

「はい...誠凛でボールに触れて、本当に嬉しかった。みんなで頑張って勝ち進む日々も。...でも、この気持ちに嘘はつけない。」

 

「...お前が世界の強豪を相手に、か。...とりあえず、背中向けろ。」

 

「え??」

 

英雄の問題を治めたところで、日向は英雄の服をめくり、背中を出す。

 

「理由は分かったし、別にそこまで引っ張る事でもない。でも、迷惑掛けたケジメはつけなきゃな?」

 

「え?え?すんません。理解が追いついて...ってまさか。」

 

「もみじ作って気合入れ直してや、る!」

 

バチィ

 

「痛っ!!」

 

日向は英雄の背中にしっかりと残るように強く叩いた。

 

「たりめーだ。これで済ませてやるんだから、感謝しろ。」

 

「あ、ありがとうございました...。」

 

「じゃあ私も!」

 

「え?」

 

日向がベンチへと戻るとリコが後ろに立っていた。

 

「あんまり心配かけんなー!!」

 

日向と比較にならない程の音がなり、流石に他のメンバーもドン引きだ。

 

「ああーーーー!!!」

 

本当に痛いと、痛いと言えないことがある。今の英雄が正にそれだ。

 

「ああスッキリした。」

 

「リコ、やりすぎだ。」

 

「だってムカついたんだもん♪」

 

「..痛い....痛い...ヤバイ。」

 

痛みの余り、痛いがヤバイになってきた。

 

「まあ、こればっかは我慢だな英雄。」

 

「え?何で鉄平さんまで?」

 

「2発も3発も変わらんだろう?」

 

「マジスカ?」

 

鉄平の大きな手が英雄の肩を掴んで離さない。

 

「...前に、俺を独りにするなと怒ってくれたことがあったな。...俺は嬉しかったぞ。だから俺も、お前を独りにはさせんっ!!」

 

バチィ

 

「いあっっ..い!!」

 

背中に3発目が入り、英雄の声は悲鳴に変わる。

 

「次は俺か。ポジションを奪われたからな。容赦はしないぞ?まあ、頑張れ!!」

 

バチィ

 

伊月が

 

「ま!お前ならイケるかもな。特にないけど、よっと!!」

 

バチィ

 

小金井が

 

「本当にしんどくなったら、いつでも交代するから、な!!」

 

土田が

 

「....(コク)」

 

まさかの水戸部までが続き英雄の背中にもみじを作った。

 

「英雄、俺達は応援しか出来ないけど...。」

 

「頑張れって言うしか出来ないけど...。」

 

「とにかくこの試合、勝とうぜ!」

 

「「「せーの!!」」」

 

河原、福田、降旗から同時に3発。

もはや英雄の背中は赤くないところの方が少ない。

 

「げ...。もう叩くとこないじゃねーか。」

 

「火神君...俺信じてるよ。」

 

英雄は縋るように見つめる。

 

「あ、あった。...世界か。そんな面白そうな事を考えてたとはな。ったく、また出し抜こうとしやがって。だったら俺も狙うぜ...この野郎!!」

 

ドンッ

 

火神は背中ではなく横腹を狙い、フルスイング。

 

「て、テツ君はしないよね!?ね!?」

 

黒子の腕力が弱いとはいえ、これ以上は開いてはいけない扉を開きそうで、英雄は必死に黒子の足に縋る。

 

「僕はこの試合、勝ちたいと思っています。でも、もう1つ英雄君同様に想いがあります。」

 

「テツ君...?」

 

「黒子?」

 

「今の青峰君がどうとか、そんなことは考えていません。ただ..もう1度、青峰君が笑ってプレーするところを見たい。...だから、僕は英雄君と一緒です。」

 

「テツ君!!あ、ありがとう...。」

 

「じゃあ英雄君、いきますよ?」

 

「....おかしくね?」

 

「僕だけ仲間外れですか?あんまりです。それに僕は第1クォーターしか出てません。」

 

「屁理屈だぁ~。」

 

「ふふ。でも、このチームなら青峰君といえども本気を出さなければ勝てないと思います。だから、この試合勝ちましょう!!」

 

最後に黒子の手の痕がつき、計12人分のもみじが残った。

その辺のM男もびっくりだ。

 

「この話はここまで!英雄だけじゃなく、一瞬一瞬を集中して戦いなさい!!」

 

「分かってる。コイツ程、思考はぶっ飛んでねえ。」

 

リコと日向は容赦ねぇと、叩いておりながらメンバーは思った。




作者の解釈
キセキの世代が年代ごとの代表にならなかった理由は、帝光の勝利があればよいという考え方だからだったのではないかと解釈しています。

ちなみに、また外伝をやろうかと思ってます。

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