黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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今吉という男

第3クォーター3分過ぎ。点差は未だに桐皇のリード。

10点差からなかなか縮まらず、精神的にも疲労が溜まる。

誠凛がどれだけ持ち直そうとも、桐皇が立ちふさがり跳ね返す。

英雄にもスタミナに不安が発生し、他も桃井のデータ予測を用いたDFに苦しんでいた。

そんな中、僅かではあるが火神が青峰を相手に輝きを見せた。

やはり、火神は何かを持っている。

 

「いいね!遣り甲斐があって楽しいねぇ。...まずは残り7分を頑張ってみようか。」

 

軽やかなドリブルでボールを運ぶ。

諏佐は先程やられたチェンジ・オブ・ペースからのミドルジャンパーを警戒しており、低く構えていた。

3Pの可能性もしっかりと考えており、タイミングを計っていた。

 

「よっ!」

 

「な!?」

 

英雄がオーバースローでボールを投げ、諏佐の頭のスレスレを通って木吉に渡った。

現状、桐皇DFで安定した得点を狙える木吉は英雄のパスを受けた後、問題なく得点した。

 

「良いパスだったぞ。もっと強気にいけ。」

 

「うぃす!」

 

桐皇OF。

今吉はまたしても、ハーフラインにポジションをとった。

そこで、英雄は1mほど距離を取りマークを緩めることで、ヘルプに行きやすくした

 

「もうこのパターンは飽きたよ。」

 

ニヤケ顔の英雄は頭を振りながら、今吉に言う。

その後ろでは、桜井から諏佐にボールが渡り、得点のチャンスを作っていた。

諏佐がシュートに行く前に英雄は詰める。

諏佐も見越してパスアウト。

 

「だと思ったよ!!」

 

英雄のパスカット。

今吉は英雄が背を向けた直後にポジションを変えているにも関わらず、英雄はパスコースを読んだ。

そして、誠凛のカウンター。

いち早くもどったのは青峰であった。

英雄は前に出て、誰もいないはずの場所に向けて目を青峰から逸らした。

青峰は目線のフェイクだと判断し、ボールに手を伸ばす。

 

「何!?」

 

ボールに触れる直前、英雄がボールを叩いて青峰の股を抜いた。

 

「調子に乗るな!」

 

しかし、これを食らったのは2度目、直ぐに追いつき、ブロックを狙う。

 

「....残念したぁ!」

 

英雄は背後に向かって、ノールックで高くパスを出した。

受けたのは火神。フリースローラインからゴールまでの直線状ががら空きになっていた。

 

「本当の狙いはこっちか!?」

 

「ぶち込め!火神ぃ!!」

 

「たりめーだ!!」

 

火神のレーンアップからのダンクが決まる。

青峰も直ぐにブロックに行こうとするが、英雄に押さえつけられてしまい動けなかった。

 

「(もうあかんか...。)」

 

今吉は今のOFの状況に限界を感じていた。

4人対4人で試合を展開させて、イレギュラーを起こさせないようにしていた。

しかし、英雄の適応能力は凄まじく、既に慣れ始めている。更にPGの今吉がゲームに参加しない為、リズムも単調になっていた。

今もそこを狙われた。

 

「(けどまあ、解ってたことや。)今更引けるかい!」

 

桐皇OFは通常に戻し、体勢を立て直す。

迂闊に突っ込むと英雄にやられる恐れがる。その為、パスを多用してゲーム展開をするしかない。

できれば青峰に繋ぎたいところだが、それを許してはくれない。

 

「桜井!」

 

今吉は桜井を中継して青峰に回そうとした。

英雄のチェックは青峰と諏佐へのパスコースがキツイ。

逆に言えば、桜井と若松へには若干緩くなっている。

今吉レベルになればその差は大きく、パスを通すのもいくらか楽なのである。

 

「させねえ!」

 

「っく...青峰さん!」

 

日向は必死のDFをするが僅かの間だけ躊躇わせたが、パスを防げなかった。

 

「青峰!気ぃつけ!?」

 

「(流石、順平さん。)どれだけ速く動いても、パスを受ける瞬間だけは止まるっしょ!!」

 

「なんだと!?」

 

日向が作った数秒。そして、火神の懸命なマーク。それによって、青峰の動きは限定される。

その隙に、青峰の背後まで迫り、パスを受ける前に弾いたのだ。

ルーズボールを黒子が拾い、速攻に繋げる。

 

「っち!」

 

『ファウル、DF黒4番。』

 

今吉は黒子に対してファウルで止め、フィールドゴールを阻止する。

そして流れを切る為に桐皇はTOをとった。

 

「マズイですね。誠凛は完全に息を吹き返しました。」

 

「すんません。正直、補照に対して諏佐1人はキツイです。」

 

「すいません...。」

 

「かといって、青峰君を10番から外すのも危険です。」

 

今吉は監督・原澤に現状を伝えた。

青峰ならマークをこなせるのだろうが、そのリスクを桃井が言う。

 

「...では、11番のマークを緩めて、すぐにヘルプにいけるようにしてください。」

 

「実質ダブルチームか。まあ、それしかないわ。...すまんのう桃井。堪忍してや?」

 

「いえ...。」

 

「後は、OFについてですが。」

 

桃井の提案により、DFの対策が決まった。桃井としては黒子封じがこんな形で破られてしまった為、悔しさもあった。

 

「さっきのは不味かったですね。」

 

「桜井!なんだあれは!半端なパスしやがって!!」

 

「すいません!!」

 

「若松。少し落ち着け。」

 

桜井は若松と青峰にひたすら頭を下げていた。

 

「...今吉。」

 

「どないした諏佐?」

 

「15番を追い詰めるのは解ったが...。本当にこれでいいのかと思ってな。」

 

「どうゆうことや?」

 

諏佐は何かに引っかかっており、不安を抱えていた。

 

「あいつはキセキの世代とは違うといったな?ならあいつは何なんだ?この先何かとんでもない事が起こるような気がする。」

 

「...とんでもないって言われても。諏佐も見たやん。夏ん時に。」

 

「....ファンタジスタ、ですか。」

 

代わりに原澤が答えを言った。

 

「ええ、そうです。あの時も怪我でほとんど死にたいだった。でも見たろ?最後の得点シーンを。」

 

「あれがまた来るってか...。」

 

「そや。しかも今回は怪我とか無しの全開バージョンやで?」

 

桐皇はいい思い入れを持っていない。

勝利目前が引き分けという結果になってしまったのだから。

 

「でもまあ、最後まで保たんやろうから、まずは第3クォーターを踏ん張るしかあらへん。」

 

しかし、今吉はそれを望んでいるかのように見えた。

 

「ではいつも通りにラストシュートは青峰君に打たせたいので、各々パスを送る際には気を付けて下さい。青峰君も最後まで気を抜かないように。」

 

「.....。」

 

桐皇メンバーが対策を練っている中、青峰は思い耽っていた。

 

「ちょっと!青峰君!?」

 

「ああ...。悪い、聞いてなかった。」

 

「しっかりしろよ!てめぇ!!15番にやられて凹んでんのか!?」

 

「うるせぇな。」

 

桃井と若松が問い詰めるも青峰に効果はない。

 

「そういや、2度も股抜きされてるところを見たのは初めてやな。あれに検討はついたか?」

 

「まあな。あれはチェンジ・オブ・ディレクションを応用したドリブルテクのひとつ、シャムゴッド。」

 

シャムゴッドとは、ストリートバスケで生まれたドリブルのテクニック。

DFに向けてボールを突き出し、DFが反応した瞬間に逆の手で叩き抜くという技である。

これだけでは、別に青峰が抜かれる理由にならないが、もうひとつ英雄の工夫があった。

それは、ドリブルの最中にDFから目を離すことだった。

あえて隙を作り、DFを誘っていたのだ。これはハイレベルであればあるほどに引っかかりやすい。

技量があればあるほどに、その隙に反応してしまうのだ。

 

「にしても、わざわざストリート系で攻めてくるなんてな...。火神といい、どうしてか飽きさせねえ。」

 

「(青峰君...?)」

 

 

 

誠凛ベンチでも同様に作戦を練っていた。

 

「どうする?こっから4番のマークを俺がやろうか?」

 

日向は英雄にマークチェンジを提案。

OFでは英雄に負担をかけてしまっている日向は、DFだけでも助けてやりたいと思った。

 

「...ここで引いたら駄目でしょ。当然ガンガンいきますよ。」

 

「けどなぁ...。これじゃあ本当に最後まで保たねぇぞ?」

 

英雄は大量に吹き出る汗を拭いながら、笑顔で答えた。

 

「大丈夫ですよ。例え俺が動けなくなったとしても、ウチには頼りになるみんながいますから。さっきのスティールも順平さんが踏ん張ってくれたからこそ、火神がしっかり詰めてくれてたからこそなんすから。」

 

「確かに。あれは間違いなくみんなで頑張った結果よ。」

 

「それに。今吉さんを放置できない。なんたって、桐皇の柱はあの人なんだから。」

 

この場で見ている人々は、桐皇と言ったら青峰なのであろう。

しかし英雄から見た桐皇は少し違う。

あそこまでの個人技重視であっても、チームとしての形を保つことができている。

他のチームが真似をすれば、あっという間に崩壊してしまうだろう。

チームがチームとして成り立っている理由は、今吉の存在に他ならない。

そもそも、桐皇が結果を出し始めたのは、今吉が入学してからである。

無名のチームを今吉が纏め、努力の果てに今の桐皇があるのだ。

確かに、最大の武器は青峰であるのは間違いない。

そして、今吉の代わりもまた、存在しないのだ。

 

「あの人を舐めちゃいけない。高校で3年間もバスケの事を考えてきた人なんだから、経験値だけも遥かに高い。」

 

英雄はむしろ尊敬しているくらいだった。

 

「ああ..そうだな。俺等よりも1年も多くプレーしてきたんだからな。」

 

木吉も素直に感心していた。

その良いものを良いと考えられる英雄に。

 

「だから、俺がやりたいんです。もっと上手くなる為に。」

 

「...やるからには勝ちなさいよ?」

 

「だったら俺にしかできないバスケをすればいいんだよ。だから俺は負けないの!」

 

意地悪く聞いてくるリコにニヤケ顔で答える英雄。

疲労はあるが、それ以上に高いモチベーションを持っていた。

 

 

「これは予想できなかったな。」

 

海常の森山は言う。

 

「青峰っちをスティールなんて、流石っスね。」

 

「誠凛は元々OF力のチームだったが、補照中心になった場合は組織的なDFが出来るようだな。」

 

続いて黄瀬と笠松も感想を述べる。

 

「シュートが止められないなら、シュートチャンスを与えなければいい、か。言うのは簡単だが実際にやるとなると...。」

 

「それにしても、いくらタイミングが分かっていても青峰っちのスピードに付いていけるのは火神っちだけだと思ったんスけど。」

 

「スピードっつてもいろいろあるんだよ。」

 

「え?」

 

「単純なトップスピードと一瞬でトップスピードになる加速力。そして、もうひとつが判断スピードだ。」

 

判断が相手よりも速ければ、動き出しの一歩目も速く動ける。

英雄は僅かだが、桐皇よりも勝っており、桐皇のプレーに遅れを作れれば青峰にも対抗できるのだ。

 

「ただガムシャラに動いている訳じゃねぇ。状況判断をしっかり行った上で、瞬時に適切な行動に移してるんだ。」

 

PGには他のポジションと比べ、タブーが多くある。

確実性や器用さが求められる。

ボール運びでのミスはご法度、さらにOF時には自陣に1番近いポジションを取る為、カウンターを警戒してそうそうドライブなどはできないのだ。

夏以降からのコンバートした英雄もPG時にはそのルールに従っており、速攻以外は割と控えめにしている。

そして今、その課せられたルールを排除しようとしている。

 

「ほとんどの観客は火神と青峰に注目しているだろう。でも選手、特にPGはそうはいかねぇ。誰も補照と無視できない。」

 

技量の持ったPGからすれば、高等なテクニックと駆け引きのオンパレードであり、それを行っている2人のPGに目を向けているだろう。

 

 

『TO終了です。』

 

 

誠凛ボールで試合開始。

じっくりいかず前えと突き進む英雄。

対して、諏佐が構え、今吉もタイミングを計っている。

 

「うーん、良い感じになってきたねぇ。」

 

などといいながらも、直ぐに切り込む。

ボールを右に放り、左から諏佐を抜き、スピンで戻ってきたボールをそのままドリブル。

 

『おお!すげえ!!』

『今のなんだ!?』

 

その華麗な様子に観客は沸きあがる。

プレーの入り方がパスにも見えてしまう為、諏佐は虚を突かれた。

今吉がヘルプに行くが、バックロールスピンでかわし、ヘリコプターショットで決める。

若松や青峰のブロックまでを見越していた。

 

「おし!!」

 

「っく(ここに来てかい...)」

 

忘れた時にこんな大技を決められ、4点差まで詰め寄られる。

ある程度やられる事は分かっていたが、これ以上は不味い。

 

「おい。とりあえず、ボールを全部俺によこせ。」

 

しかし、桐皇には青峰がいるのだ。

パスを繋げさえすれば、点などいくらでも取れる。

 

「わかっとる、待っとけ。」

 

今吉にもIH準優勝高のPGとしてのプライドはある。

任された仕事はきっちりとやり遂げる。

 

「最強は青峰や。だったら、わしのやることは決まっとる!」

 

今吉は強引に抜きに出た。

華麗とは言いがたく、泥臭さくもしっかりとボールをキープしながらロングパスを出す。

 

「青峰!!」

 

問題なく受けた青峰は全開のドライブ。

 

「くそぉ!」

 

火神は一瞬追いすがるだけで、止められない。

ヘルプに来ていた黒子をも抜き去り、シュートを狙う。

 

「まだだでしょ!」

 

その間に英雄が間に合い、リングとの間に割り込む。

そして後ろから火神と黒子も迫っている。

囲まれる前に青峰はシュートを狙った。

横に跳びながらの投げ込みシュート。英雄も1歩届かない。

 

「おお!!」

 

「何!?」

 

そのシュートを木吉が途中で触れてコースをずらした。

青峰の投げ込みシュートはほぼ一直線上になるので、途中で触れてもゴールテンディングにはならないのだ。

ボールはバックボードに弾かれラインの外へと流れる。

 

「ルーズ!だぁあああ!!」

 

英雄が必死のダイブを試みるが僅かに届かず、ラインを割り、桐皇ボールになってしまった。

 

「っくっそ!!」

 

ブロック直後で反応が遅れた為であるが、当の本人は悔しそうに床を叩いていた。

誠凛はもはや開き直り、青峰に対して4人で止めにいっていた。

パスをされてしまえばそれまでだが、それでも青峰はパスをしないのだ。

 

「くくっ!堪らねぇ!期待して待ってた甲斐があった。」

 

青峰が愉快そうに笑っていた。

 

「この感じを何年待った?悔しいどころかマジ感謝だわ、ホント。」

 

青峰は昔を思い出しながら、集中力を極限にまで上げていた。

 

タイムクロックの残り時間が無い為、当然のように青峰にパスされた。

他の3人が上手くポジションを広げ、パスコースを作ったのだ。

そして青峰がパスを受けた瞬間、空気が一変した。

青峰が火神を抜き去り、シュートを決めたのだ。

これまで、徐々にだが青峰に追いついてきた火神に何の反応もさせずに抜いたのだ。

火神には何が起きたか分かっていないだろう。

それほど青峰のキレは凄まじく、先程までのものが可愛く見える。

 

青峰は己の才能だけで、アスリートの最高の状態であるゾーンに入ったのだった。

ゾーンとは集中力が極限にまで達し、己の能力を最大限に生かせるようなるもの。

バスケットに限らず、別の種目でも同様な現象は現れ、トッププレーヤーでも限られたものだけが体現できる。

 

はっきり言って、ゾーンに入った青峰を止める手段などない。

しかし、誠凛としてもここまで来て、引き下がれない。

とにかく攻める。

 

「テツ君!!やっちゃえ!」

 

英雄が今までDFの意識を集めた甲斐があり、黒子へのマークが甘くなっていた。

オープンスペースから黒子はイグナイトパスを狙う。

 

「はい!」

 

黒子は手に捻りを加えながら、ボールを押し出した。

改良型のパス、イグナイトパス・廻である。貫通力を増したパスがコートを鋭く切り裂く。

 

バチィ

 

しかし、青峰はそれさえも反応してしまう。

一瞬にして追いつき、ボールを弾いてしまった。

初見ということもあり、完璧にカットは出来なかったが、それでも得点チャンスを潰した。

 

「そんな...。」

 

どれだけ勝利への道筋を立てても、最終的には青峰が立ちはだかる。

それも、今まで誰も見たことの無い、正真正銘本気の姿で。




今吉のくだりは作者の解釈です。(一応)
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