黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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葛藤

第2クォーターが開始された。

ボール運びの英雄に福井と劉がマークに付き、平面で福井高さで劉といった形で英雄の動きを制限しにかかった。

日向には氷室がマークし、外からの攻撃に備えている。

逆にインサイドが薄くなっているが、紫原がいるのだ充分脅威である。

 

「....にか!」

 

それでも英雄はヘラヘラと笑って前を見据える。

 

「火神!」

 

「(パスか!)」

 

パスフェイクから劉の足元をダックインで振りぬく。

 

「簡単に抜かれたらダブルチームの意味ねーだろ!」

 

スピードで若干劣る劉を福井がカバーする。英雄を追いかけ、ゴールへの道を塞ぐ。

そこで英雄は急停止し、ボールを両手で背後に持つ。

 

「どっちだ?」

 

「(こいつ...舐めてるアルか?)」

 

劉も追いつき、距離を潰す。そのふざけた態度に腹を立てながら。

 

「...残念。正解は....」

 

英雄が走り出した後に黒子がボールを持っており、2人纏めてバニシングドライブですり抜けていく。

2人は一瞬、英雄を追うか黒子に詰めるかを迷ってしまって棒立ちのまま何も出来なかった。

 

「「な!?」」

 

「真正面でした!」

 

黒子はペイントエリアに侵入し、シュートを狙った。

黒子のシュートを邪魔されないように木吉がスクリーンを紫原に掛けるが、容赦なく押しのけて黒子が持っているボールに手を伸ばす。

 

「甘甘だね~黒ちん。そんなんじゃ....(何だそのフォームは?ヤバイ!?)」

 

紫原は本能的に危険を感じ、全力でとめにいった。

黒子のシュートフォームは通常と違い、頭上に構えず両手で胸の辺りで固定している。例えるならかめ●め波のような。しかし、シュートはあくまでもシュートどのようなうち方であろうが、止められないはずがない。

しかし、伸ばした掌にあるべき感触を感じられなかった。それよりもブロックするべきシュートが、ボールの姿を見失った。

 

「そんな...!!」

 

 

 

「ナイッシュ!黒子!!」

 

火神はインサイドでの初得点を喜び、黒子の肩を叩いた。

 

「テツ君、凄いシュートなんだけどさ。リバウンドが取り辛いかも。」

 

黒子のシュートも実践初投入なのでリバウンドのタイミングが計り辛かったのだが、今言うことじゃない。

 

「よし!このまま一気に行くぞ!!」

 

日向が締めてDFを展開する。今度は作戦通りのマークを行った。

といっても、未だに紫原が出てこない。試合展開では助かっているが気に入らない英雄。

火神はどちらかというと、氷室に意識が向いておりそこまで考えていないのだろうが。

そろそろ陽泉OFに慣れてきた誠凛DFは、プレッシャーを強めていく。

日向は今までにあまり経験のないPGとのマッチアップだが、ドライブとシュートをしっかりとチェックしている。

いくら陽泉が高いと言っても、パターンが少ないのであればやりようはあるのだ。

 

福井は劉にハイボールでパスを行った。

バウンドパスなど低いバスでは黒子に捕まる可能性が否定できなかった為である。しかもポジション取りで劉は今のとこと負けていない。

しかしPGの真理はPGには分かるもの。劉が跳んでキャッチする直前に指先を捻じ込み弾いた。

 

「んだとぉ!?(読まれた!?)」

 

「まだだ!」

 

ルーズになったボールを氷室が抑えてOFを続行させる。

 

「待ちやがれ辰也!」

 

「こい!」

 

氷室のジャンプシュート。今度はフェイク無し。コートから足が離れている。

 

「今度こそ!」

 

火神の超ジャンプであれば、多少跳び遅れても追いつける。

凄まじい跳躍で氷室の構えたボールの高さに手が追いついた。

 

「(止めた!!)...え?」

 

ボールの軌道上に手を翳したはずなのに、ボールは何も無かったかのようにリングを通過した。

ブロックをすり抜けたかのように。

 

 

「何だあいつは?見たことねぇぞ。」

 

そのスーパーシュートに青峰も反応していた。

 

「...確か。今大会からの出場でデータが少ないの。」

 

「結構やるぞ。あのシュートは...?」

 

超高校級の才能故か、見ていただけなのに体が反応した。

氷室が打ったシュートの正体を暴こうと頭を張り巡らせる。

 

「それもいいけどテツ君のシュート、カッコいい!!」

 

「あんな...さつき...。」

 

桃井のブレない姿勢にため息が出た。

 

「そういえば青峰君が教えたんだよね?」

 

「別に。特になにもしてねーよ。元々はブロックをかわす為の高いループのシュートの練習だったんだぜ?」

 

「え?そうなの?」

 

IH後から英雄と黒子はハイループレイアップの練習を始めていた。

英雄は以前から考えていたのでイメージも出来ており、練習を重ねてものにした。

しかし、黒子のか細い腕では、高くボールを放り上げられなかったのだ。

何度も練習したが、高く投げると精度がかなり低下してしまい、桐皇戦では使用できなかった。

基本的に黒子のシュート回数は少ない。相手が忘れかけた時にフリーを作ってのシュートの為、1回1回が重要なのだ。

普通のジャンプシュートはある程度には仕上げたが、紫原に通用させるにはやはりもう1段階上に進む必要があった。

そこで青峰に依頼し、英雄以外の発想を求めた。

すると遊び半分で、『いっそパスみたく掌で押し上げた方がいいじゃない?』という意見が採用され、DFが見失うシュート『ファントムシュート』が完成した。

 

「にしても、大人し過ぎんだろ。何考えてんだ?」

 

「何が?いい感じじゃない。」

 

青峰が不満を口にするが、桃井には直ぐに察する事が出来なかった。

 

「紫原とインサイドで張り合おうなんて不利に決まってんだろ。だから外からってのは分かる。分かるが、それ以外何もしてねぇ。テツのシュートだって今日初めて知ったはずだ。」

 

「...確かに。(バスケの事は回転早いなぁ...)」

 

普段の学業で最低ランクを彷徨っている青峰はバスケの事に限り、IQは跳ね上がる。

何時もその辺りをフォローしている桃井としては複雑だ。

 

 

続いて誠凛OF。

速いパスワークで繋いで、隙を窺う。

英雄がマークを2人連れていく事でスペースを作り出した。

 

「くそっ!まだだ!!」

 

福井は忌々しそうにそこに現れた黒子を睨む。

気付けばそこにポツンと黒子がパスを受けて再びシュートを狙う。

 

「テツ君!」

 

「黒子!」

 

英雄と火神がパスを要求し、DFを黒子の下に行かせない。

紫原がもう1度ブロックを狙うが、またもシュートを見失い失点を許した。

 

「まさかここまで黒ちんにやられるとはね。」

 

「僕も何もせずここまで来た訳じゃありません。」

 

コートで最高の体格を持った紫原が、コートで最弱の黒子に点を連続で許した。

バスケが好きではない紫原もそれなりにプライドはある。当然のように黒子に対して敵意をあらわにした。

 

そこから誠凛は黒子を使ったOFを展開し得点を奪った。

今の陽泉DFは英雄にダブルチームを仕掛けている以上、黒子へのチェックが甘い。逆に黒子に警戒を強めると英雄が嫌らしくDFを揺さぶる。インサイド重視の2-3ゾーンは崩壊しかけている。

しかし、英雄の3Pも黒子のファントムシュートも成功率は約7割。外してリバウンドを陽泉に奪われるケースもあり、中々差が縮まらない。

そして、陽泉のOFはリバウンドを取ってからのカウンターと氷室を起点にしたセットOFで強引に点を取っている。特筆すべきはあのミラージュシュートというブロック不可のマジックシュートである。

亡霊と幻影が均衡を作ってしまい、誠凛に精神的なプレッシャーを与えていた。陽泉には未だ最終兵器が後ろにあるという安心感か、それほどダメージは受けていない。

 

 

「(やべぇ...俺だけ何もしてない)」

 

そんな中、火神が最も焦っていた。

DFリバウンドを取れるようになってきた木吉、外からOFの起点になっている日向と英雄、そしてインサイドで遂に得点を奪った黒子。

比べて自分はと問われれば、何も答えられない。

現状ポストプレーの技量不足でインサイドの活躍は今一で、氷室へのマッチアップも大した効果を出していない。

焦りが大きくなるに連れて、氷室のフェイクに引っかかりまくっている。

氷室への想いも自分が納得できる答えも持ち合わせてもない。気合が空回りしているのが自分でも分かる。

今、自分はゲームで浮いているのだと自覚させられる。

 

「タイガ...お前。俺を馬鹿にしているのか?」

 

「ち、違う!!俺は....」

 

「どちらにしろ、その状態で俺に勝とうなどと思っている時点で」

 

火神が氷室に意識を集中させ過ぎディナイを怠った。氷室は悠々と受けてワンステップでダックイン。

火神も反射で追いつくが、それはフェイク。逆側に抜かれてシュートを決められた。

 

「このコートにいる資格はない。....俺をがっかりさせるな」

 

「タツヤ....。」

 

氷室に伸ばそうとした手を止めて握り締め歯を食いしばった。

火神の心にはまだもんもんとした感情が渦巻いている。

 

「おい、馬鹿。ベンチに戻るか?」

 

「うるせぇ!分かってる!...分かってはいるんだ...。」

 

背後から肩を組んできた英雄の腕を跳ね除け、憤りを見せる。やはり簡単な事情ではない。

ベンチにいるリコも1度引っ込める事も考えている。それ程に火神の動きは悪い。エースを背負っているとなれば尚更だ。

 

『誠凛高校、TOです』

 

高さに対して走力で張り合うのは疲労が溜まる。均衡状態で精神的にもきているこのタイミングは素晴らしい。今まで采配を担ってきたリコも既にデキる監督になっていた。

 

「水分補給はしっかりね。でも、飲みすぎちゃ駄目よ、お腹に水が溜まってしんどくなるから。」

 

「分かってるよ、かあ....リコ姉。あはははは!気分悪くなるもんね!?」

 

いい間違いをなかった事にしようと英雄が棒読みのような笑いを出す。

 

「あぁ、あるよな。先生をお母さんていい間違える事。」

 

「恥ずかしい奴。」

 

木吉は天然で聞かなかった事にせず、どストレートでぶち込んだ。リコが追い討ちをして英雄撃沈。

 

「だぁほ!緊張感なさ過ぎだ。黒子、このままOFを維持するが大丈夫か?」

 

「はい、問題ありません。」

 

「うん。それじゃあ、DFを変更させるわよ。火神君と英雄マークチェンジ。」

 

「そんな!?」

 

今までに無い試合展開による黒子の疲労具合を確認し、現段階の重要事項である氷室への対応を告げ火神がいきり立った。

火神では無理と思われたと勘違いしてリコを問い詰める。

 

「勘違い?っすか。」

 

「そっ。こんなところで燃え尽きてもらっても困るのよ。ゲームに集中できてないし。」

 

「うっ...。でも!」

 

「分かってる!いいから聞きなさい。今までもそうだったでしょ?勝負所までの繋ぎは英雄の方がなにかと都合がいいのよ。ってコラ!いつまで凹んでるの!?」

 

素での間違いで体操座りで俯いている英雄の顔を掴みあげて話を続けた。

 

「いい?英雄、アンタは氷室君のシュートチャンスを減らしてきなさい。出来るわね?」

 

「了解了解。でも、火神のポストの下手さは露呈したと思うよ?」

 

「テメェ!」

 

「聞けよ!...だったら勉強してきなさい。近くに鉄平や全国屈指のインサイドプレーヤーがいるんだから、お手本としては豪華過ぎるくらいよ。」

 

「...うす!」

 

リコが前向きな考え方を与えて、綺麗にまとまった。と、見せかけて

 

「それに!」

 

「え?」

 

「私、いつまで舐められてりゃいいのかな~。さっさとあっちのC引きずり出してきなさい!!」

 

「別にカントクだけじゃ...。」

 

「あぁん!!?」

 

笑顔が怖かった。

いくら強いといっても、曲がりなりにも桐皇を下してここまで勝ち上がったと自負もある。我慢の限界は直ぐそこ。

ちなみにこれは激励とは言わない。恫喝もしくは脅迫であろう。

 

 

「さ、お仕事お仕事♪」

 

今のくだりが面白かったのか英雄は復活しており、意気揚々とベンチから出て行った。

 

「あ、火神。」

 

「なんだよ。」

 

散々英雄に馬鹿にされたことを根に持っているのか、冷たく睨み返した。

 

「俺っていうか、テツ君が何か言いたそうだったんで。」

 

「黒子?」

 

「僕には兄弟はいません。でも、兄弟って喧嘩するものじゃないんですか?距離が近いからこそ、わかって欲しいからこそ。火神君は氷室さんに何をわかって欲しいんですか?」

 

「俺がタツヤに...。」

 

「僕は少し違いますけど、青峰君と分かりあいたいからこうして戦う事を選びました。結果は今一はっきりしませんでしたが、それでもぶつかって良かったと思います。」

 

火神は初めて黒子の気持ちを少し理解できたと思った。

 

「(...すげぇな、この気持ちを整理できたのか。やっぱすげぇよ。)」

 

同時に言葉にも態度にもしなかったが尊敬もしていた。

仲が良かった者と対立する事も覚悟して自分の想いを届けようとした黒子に。

 

 

「テツ君には適わないなぁ。...俺等の代のキャプテンはテツ君なのかな?」

 

英雄はいつも通りふわふわしていた。

 

「何時の話をしてんだ。さっきのカントクの話は俺等も同罪だぞ?」

 

「いやいや、舐めてもらってんならいけるところまで行きましょ?楽できていいじゃないすか。」

 

「まぁ、紫原が出てきたら厄介な事になるのは間違いないからな。」

 

一応程度に木吉は英雄の話しに同意する。

本音では紫原との対決を決意しているのだが、リコによるペース配分もあってガムシャラにという訳にもいかない。

 

「まぁまぁ、後半にはいい感じの表情を期待できますよ。」

 

「...随分黒くなったな。桐皇の今吉の影響か?」

 

「多分。」

 

英雄は今吉との駆け引きを経て能力以外で変化が見られた。

それがいいのか悪いのかは結果で分かるだろう。

 

ゲーム再開。

劉と福井のダブルチームに捕まる前に英雄は黒子にパス。

そして、ダイレクトで中継パスを英雄にリターンして、シュートチャンスを作った。黒子のシュートを警戒して他への対応が若干遅れてしまうのだ。

 

「フェイク!?」

 

ポンプフェイクで劉を引っ掛けてその大外を抜き去り福井を背後に背負った。紫原もブロックの為、英雄に目標を定める。

そこでポストに入っていた木吉にパスを入れて紫原にスクリーンを仕掛けた。

 

「重っ!!」

 

「何してんの?邪魔だよ、どいて。」

 

紫原にとっては障害にもならず、力ずくで跳ね除けた。

 

「うぉっ!?」

 

『ファウルDF、白9番。』

 

「な!?」

 

予想外の宣告により紫原の顔が強張る。

 

「(今のシミュレーション臭かったじゃん...)」

 

「あ~ビックリした。」

 

棒読みの英雄を見て確信した。

英雄はわざわざシュートチャンスを削ってまで紫原からファウルを奪った。

紫原の油断が原因だが、ここまで挑発染みた事をされて流せるほど紫原は大人じゃない。

 

「へ~そうくるんだ。決めた、お前も捻り潰すよ。」

 

「やっと見てもらえたよ。火神とか鉄平さんとかばっかりで、こう燃えるものがないとね。」

 

周りでスポ根な空気を出され自分が空気になりかけた事を根に持っていた。

エースを譲った弊害か、なんとなく寂しい英雄だったのだ。

 

スローイン後、ポストアップした木吉に紫原が小声で話しかけた。

 

「よくやるよね~勝てもしない試合に本気になって。あんた教えてあげなかったの?あんだけボロボロにされたのに。」

 

「勝ち負け以外にも価値はあるさ。お前にはそういうのないのか?」

 

「別に。」

 

「そうか、俺には逆に理解出来ないな。これほど素晴らしい事なんてない。後!」

 

再び英雄がペネトレイトからの木吉にパス。

 

「はぁ?同じ手が通用するとでも?」

 

紫原はもう油断などせずに叩き潰そうと木吉にプレッシャーを与えながらも英雄から目を離していない。

今度は完璧にねじ伏せようと狙っていた。

 

「黒子!」

 

「あ!?」

 

ほんの少しだけでも意識から外してしまうと黒子を捉えられない。

紫原は最重要事項であるファントムシュートを頭からなくしてしまったのだ。

とっさに岡村がブロックに跳ぶと、火神にパスが渡りそのままパスアウト。

 

「ナイス火神!!」

 

逆サイドにポジションチェンジした日向がフリーで3Pを放つ。

日向がペイントエリアを横断したことで氷室が英雄のスクリーンに捕まり引き剥がされていた。

フリーであれば日向は外さない。リングを通過し差を縮める。

 

「言っておくが俺達は負けない。お前がどれほどであっても!」

 

木吉は一言紫原に言い渡し、メンバーを労いにいった。

 

「.....。」

 

 

 

紫原は木吉を自陣で睨みつけていた。

しかし、陽泉OFは4人で行われ、氷室に英雄がマークについた。

 

「そろそろウチの監督から鉄拳制裁がきそうなんで、完封させてもらいますよ。4人のOFくらい。」

 

様子見は終わりというように、英雄は低く構えて距離を潰した。

 

「言うじゃないか。それでも勝つのは俺だ。」




・シミュレーション
相手からの接触に対してオーバーアクションでファウルを取る動き。審判にばれればテクニカルファウルを逆に宣告される。サッカーでもよくある。
テイクチャージングも同類

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