黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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爪数mm分の意地

誠凛の1-3-1ゾーンプレスは、奇襲という事もあって充分に機能している。

始めに火神が襲い掛かりドリブル突破を楽にさせず、それをパスなりでかわしても小金井もしくは伊月が詰め、火神が追ってくる。

その間にロングパスを通そうとしても水戸部が待ち構えており、更にその後ろに英雄が相手ボールマンの視界に入るようにポジショニングをしている。

少しでも躊躇えば火神に捕まり、碌なOFは出来ない。ハーフコートまで8秒、合計で24秒というOFの時間も考えながらとなると、判断までの時間を大幅に削られる。

少なくともゲームメイクをあまり得意としていない氷室には、安易なパスをさせないだけで効果的である。

ハーフラインを少し過ぎた半端な場所などで足を止めてしまい、ターンオーバーをさせてしまう。

 

「(ボールを運びきるまでが勝負って事か....)劉!岡村!ボールから離れすぎるな!!」

 

陽泉PGの福井は、氷室のドリブル突破のみのボール運びを修正し、岡村と劉もより近い位置でパスを受けさせ、確実性を求めた。

高いロングパスを狙われているのなら、高いショートパスで誠凛が対応しきれないパターンを作り出す。

 

「(ペイントエリア内で紫原にボールを渡せば、誠凛はブロックを諦めてるし加点は確実。今はこれしかない、か)おう!劉!」

 

最初の火神をなんとかすれば、残りの誠凛メンバーはほぼミスマッチ。福井からボールを受けた岡村は高い位置でのパスを劉に回した。

その間にも、氷室と紫原が徐々にゴールに近寄っていく。紫原が最前線で、氷室はやや下がり目でパス回しに沿っている。

水戸部や英雄が劉と紫原の中間に立ち、コースを遮断しているのだが、届かないものはどうしようもない。

 

「はい、残念残念。」

 

紫原に対応できる者は火神くらいだろう。いや、火神でも厳しい。

高さもそうだが、パワーが圧倒的に足りないのだから。

 

「速攻!」

 

英雄がブロックをせず、紫原がリングに叩き込んだボールを拾って直ぐにパスを出した。

しかし、陽泉の戻りも早く、既に走り出している。

それでも、数秒でも数的有利を利用できる状況を活かそうと火神を始め小金井、伊月が走っている。

 

「火神!頼む!!」

 

小金井から火神へ。

受けた火神は一直線に向かおうとするが、目の前に氷室が現れる。

 

「ここは止めさせてもらう!」

 

「っこの!」

 

氷室を抜きに掛かるが、スピードに乗る前だった為難しい。

 

「火神、戻せ!無理をする場面じゃない!」

 

「....っち。」

 

強引にドライブを仕掛けようとした火神を伊月が静止させ、渋々ながらもパスを回させた。

 

「小金井!」

 

と見せかけて、スペースに走る小金井にパスを送り、ゴールを演出。福井は伊月に釣られて小金井への警戒を怠った。

 

「とぉ!!」

 

伊月の好判断により、フリーで受けた小金井のレイアップ。

 

「ふん!!」

 

ぬっと現れた影が小金井から放たれたボールを弾き、バックボードに当ってラインを割った。

ギリギリのタイミングだったが、紫原が間に合い速攻を止める事に成功。

 

「うわぁ..。ホントに来たよ....マジ半端ねぇ!」

 

その迫力にビビり上がる小金井は、恐る恐る紫原を見上げた。

一流ともいえるオーラを放っており、正しくバケモノそのものであった。

 

「....走る事しか能の無いくせに、調子に乗らないほうがいいよ。どうせ勝てないんだから。」

 

「....(怖えぇ)」

 

腰が引けて、目も合わせられなくなっていた小金井。

しかし、モチベーションまで失くしている訳でもない。

走るしか能が無い。正しくその通り。

小金井にはこれと言った特徴が無く、いつでもその他大勢という扱いの人物。

高校から始めたのでバスケ暦2年と考えると、充分に成長していると評価も出来るが。日本一を争うメンバーとしては1歩足りない。

 

「残りちょっとっす。ガンガン行きましょう!!」

 

試合が途切れ陽泉DFも戻りきっており、メンバーチェンジをしてから初めてじっくり攻める事になる。

奇襲により点差を縮めた誠凛は、ここを凌いでおきたい。

ブロックでショックを受けた小金井に英雄が詰め寄った。

 

「バスケは走ってなんぼっす。人一倍走る事が出来きて、プレーの水準を守ってくれてるコガさんは、雑魚なんかじゃない!」

 

「....そう目を見られながらは、照れるな。」

 

「....実は俺も。」

 

お互いが頭を掻きながらはにかんでしまい、どうにも締まらない。

締まらないが、嫌な空気は無くなった。

 

スローインから再開するが、誠凛は少し苦しい展開になってしまう。

日向と木吉が抜け、セットOFの展開力が低下している今、選択しは少ない。

陽泉は外のシュートさほど警戒しなくてもよくなり、その分英雄へのチェックは厳しい。木吉の役割を英雄が担い、外から打てるのは小金井くらい。

水戸部の左右のフックシュートは武器だが、紫原はそれでも止めてしまう可能性が高いのだ。

速いパス回しでチャンスを作りたいが、時間的余裕も少ない。結果、時間ギリギリに小金井の3Pを選択した。そして、リングに弾かれる。

 

「「リバウンドー!!」」

 

両チームから激が飛び合い、ボールに手を伸ばす。こればかりは火神も参加し、体で競り合う。

紫原は木吉がいないインサイドで、片手ダイレクトキャッチを必要とせず、両手での補給を狙った。

 

「ちょわ!」

 

横から変な掛け声が聞こえたかと思うと、両手で掴んだボールが弾かれた。

 

「(着地際を狙って...!)」

 

「セコくてごめんね~。」

 

結果的に競り合いにすらならなかった英雄だが、補給後からパスを出すまでの間を狙って、隙を窺っていた。

ボールは誰もいないスペースに転がり、皆がボールに群がる。

 

「誰かたのんます!」

 

英雄は紫原の背後に隠れて追えない。ルーズは福井・氷室と小金井・伊月で奪い合う事に。

最初に飛びついたのは小金井。選手同士の衝突を恐れず、体を張った。

 

「(俺だってこのくらいっっ!!)っが」

 

少し遅れて手を伸ばした福井の肩が顔面に入りながらも負けずに引き寄せ、伊月にパス。

シュートを打った事でショットクロックが24に戻り、再度誠凛はOFを続行できる。

 

「焦るな!じっくり!1本じっくりだ!!」

 

カウンターを食らいかけた事で、動揺が生じないように伊月がボールをキープしながら他4人に呼びかける。

あったかもしれない陽泉の24秒を潰せたのだ。これを利用せずになんとする。

そもそも誠凛の勝負所は第4クォーターを予定しているのだから、ここで必要以上の無理をする必要も無い。

 

「....(あ。同じ事考えてるって顔だな。)」

 

しかし、そういわれると無茶したくなる英雄。ふと、周りを見ると火神が同じ様な表情をしており、英雄と目が合った。

 

「へへっ!」

 

英雄の悪ふざけはともかく、火神がなにかしら思いついたのならなにか勝算があるはず。

英雄が外に逃げるように3Pラインを目指し、劉をインサイドから釣り上げる。

それに気が付いた火神は、言わずとも察してゴールまでのスペースを作った英雄に対して笑った。

 

「(エースなら決めてみせろってか?)上等だ!!」

 

伊月から絶妙なパスが渡り、水戸部がスクリーンで氷室を抑えた。水戸部のチェックに岡村がゴール下を空けて、残るは紫原1人。

火神は小細工など一切なしで、真っ直ぐゴール目指して高く跳んだ。

 

「(高い..!)けど、それくらいじゃさせねーよ!!」

 

紫原が火神の手からボールを叩き落とす直前、火神の手が少し動いた。

しかし、紫原のブロックの方が早く、地面に鋭くボールが叩きつけられ、劉の手に収まった。

 

「速攻!」

 

劉から福井に渡り、ボールを運ぶ。そして氷室へ。

 

「ちょっと待った!」

 

英雄の手が僅かに掠めて、ボールの軌道がずれたが氷室は体勢を崩しながらパスを受けた。

その間に誠凛メンバーはDFに戻り、ダブルチームの陣形を構築していく。臨時で、氷室のマークを英雄が行い、インサイドは火神。

 

「(そうか。外に開いたのは、タイガのチャンスを作る為だけではなく、カウンターに備える為でもあったのか....。)」

 

氷室もあえて無理をしようとせず、自分達のペースを取り戻す為、味方を待った。

陽泉インサイド陣もポジションを取り、ゴール周辺に布陣。

相変わらず福井のチェックは厳しく、逆にインサイドは手薄。パスを出せれば手堅く点を取れるだろう。そして、氷室のドリブル突破からならそれが出来る。

更にひと工夫、岡村が英雄にスクリーンを掛ける。

 

「不味い!ヘルプとカバー!!」

 

リコが声を出しコーチングするが、氷室の方が僅かに速い。

英雄が引き剥がされ、得意のミドルレンジへと侵入した。未だ止める事に成功していないあのシュートが打てる距離に。

氷室がシュートフォームに入る最中、火神も走って距離を詰めるがマークの受け渡しで動き出しに遅れが生じた。

 

「(諦めるな!まだ間に合う!!)」

 

前掛りに手を伸ばしているが、届かない。その時、別方向から誰かが迫っていた。

 

「このぉぉぉ!!」

 

「(6番か!?)」

 

ただガムシャラに小金井が跳び込んだ。

170cmの小金井と183cmの氷室。小金井のジャンプ力がそこそこ高いにしても完全にミスマッチで、氷室のジャンプシュートをブロックするなど成功する訳が無い。

この状況で、フリーでミドルレンジに侵入した時点で、失点はほぼ決まっているのだ。

 

「(無駄かもしれない!それでも、俺には走って突っ込むしかないんだ。)」

 

1年を覗いて、誠凛バスケ部に明確な貢献を出来ているかと問われれば、小金井には出来なかった。

ある程度の事はそこそこに出来、欠点はあまり無い。逆に長所も無く、小さく綺麗に纏まってしまっているのが、自己評価である。

スターターの5人はともかく、他のベンチ組と比べても自分が霞んでいるように思えて堪らないときがある。

土田にはリバウンド、水戸部はフックシュートでインサイドに手助けできる。伊月なんかは、ここ数ヶ月で一気にPGとしての実力を増している。

 

氷室を華麗にブロックするなんて事、出来ると思っていない。

それでも、もしかしたら氷室がタイミングを間違える事もあるかもしれない。ブロックに跳んだ切っ掛けでコースがずれて外すかもしれない。もしかしたら、リバウンドが上手く誠凛側に転がってくるかもしれない。ファウルになって、フリースローを外すかもしれない。

意味の無い行為でも、可能性はあるのだ。

 

「(俺だけ!何もせずに、見ているだけなんて....)絶対嫌だ!!」

 

日本一を誓い合った1人としてのプライドは、小金井にもあった。

その迷いの無い、ブロックの指先に、その爪先に僅かにボールが掠った。

 

「「「リバウンド!!」」」

 

「へ?」

 

ボールはリングに嫌われ、落下点をコートに変えた。

予想外の感触に小金井自身が呆気に取られてしまい、情け無い声を出してしまった。

水戸部が小金井の頑張りに報いろうと手を伸ばすが、劉と紫原相手に押しのけられ、押し込まれてしまう。

 

「小金井速攻だ!走れ!!」

 

「あ、おう!」

 

残り数十秒で、得点を決めて終わりたい誠凛はOFを仕掛ける。

陽泉の戻りも速く、今のメンバー構成で点を取るのも一苦労だが、ここで取り戻せれば第4クォーターが楽になる。

 

パスを回し、小金井が受けた瞬間、ボールを受け損ねて弾いてしまう。

 

「っっ!!」

 

ラインを割って陽泉ボールに。

ボールを触った時、手に痛みが走った。小金井がそれを確認し、顔をゆがめる。

陽泉がスローインをした直後に、ブザーが鳴ってベンチに戻った。

 

「小金井君。手、出して。」

 

「やっぱ、ばれてる?」

 

隠そうと手を背中越しに回したが、リコにあっさり見つかり手を見せた。

 

「さっきのブロックの時ね。さっさと止血するわよ。」

 

小金井の中指から血が滲んでおり、血の出所は爪からのようだ。

氷室のシュートに爪先が掠めたショックで出血したのだろう。

 

「なんか情けないな。」

 

水戸部と違い、シュートを決めた訳でも、スティールを決めた訳でもなく、中途半端に終わり、挙句の果てに誰よりも先に手当てを受けている。

そんな自分に対して乾いた笑いが出てしまった。

 

「何言ってるのよ。良くやってくれたわ、ナイスファイトよ!」

 

「痛いって!!」

 

応急処置を終えたリコが小金井の手を叩いた。

 

「期待にしっかり応えてくれたわ!顔を上げて!!」

 

「....まだ確信は無いすけど。もしかしたら氷室のミラージュシュートの正体が分かった、かも知れない。多分すけど。」

 

火神は目の前で、小金井のブロックがボールに触れた瞬間を見ていた。

火神のブロックをすり抜けるシュート。ミドルレンジでしか打たず、そして身長が足りないはずの小金井が触れる事の出来たその正体。核心までの距離を縮めたのは事実。

 

「本当?....これであのシュートを攻略できたら、間違いなく小金井君のおかげよ。それに..英雄。小金井君のプレーどうだった?」

 

「サイコー。」

 

座って一息ついていた英雄は、親指を立てて応えた。

 

「コガさんと凛さんでのDFが一番楽しいからね。もう2分あったら良かったのに、なんてね。」

 

「あぁ、間違いなく陽泉に一矢報いれた訳だ。すげぇよ。」

 

英雄の意見に日向が賛同し、そろって褒め称えた。

 

「何だよ急に。俺はただ..みんなみたいに。」

 

1回戦で見たみんなの頑張りを自分なりに真似しただけ。

あの時の桐皇は凄まじかった。それでも躊躇わず走り続けた誠凛。自身はそのメンバーだと証明する為に。

爪1枚の犠牲でボールに触れただけ、点差が開かなかったのは小金井だけの力でも無い。

 

「コガ..。お前の頑張りを嘘にはさせない、絶対に。」

 

いつになく余所余所しい小金井を笑いながらも、木吉は強く決意を胸にした。

試合までも試合中も、助けてもらった。ここで結果に繋げなければ、戦って勝ち取らなければならない。

 

「9点差ね、よしよし。小金井君と水戸部君が約束どおり、リードを保ってくれたわ。」

 

陽泉高校 70-61 誠凛高校

 

ゾーンプレスで詰めた点差を元に戻され二たが、一桁台に押さえ込みリコの想定内に収まっていた。

1点でも縮まった方が良かったが、陽泉相手に高望みは出来ない。1ゴール差でも縮められた時点でよしとする。

 

「伊月君もお疲れ様。次も期待しちゃうわ。」

 

「ああ。でも、たらればを考えてしまうな。」

 

「じゃあ、その反省を次に活かすように!」

 

全国の強豪相手に10分でも五分の試合運びをした事は喜ばしいが、決して満足はしない。

もっと上手くやれたはずと考える伊月は、成長を、歩みを止めたりはしないのだ。

 

「日向君と鉄平、休んだ分はきっちり働いてもらうから。」

 

「任せろ。」

 

「分かってる。」

 

「黒子君も出し惜しみは要らないから、いけると思ったらガンガンいきなさい。」

 

「はい。」

 

「火神君。疲れてるなんて言い訳は聞かないわよ。陽泉DF突破は貴方に掛かってるんだから。後、もう誰も補助出来ないから、全部自分の判断で。」

 

「うす。」

 

「英雄、ここまで微妙な活躍お疲れ様。」

 

「うぅっわ、きっつ!」

 

「....ここからなら全力でいってもスタミナ切れは起こさないでしょ?限界ギリギリで頼むわ。」

 

「スタープレーヤーは期待を裏切りません!あ、未来のね。」

 

第4クォーターへの準備は整っている。後は実行に移すだけ。

チーム一丸でここまで辿り着き、全ては残り10分で決まる。

 

 

 

陽泉高校のベンチは異様な雰囲気に包まれていた。

大差を付けて第4クォーターを残すのみ。それなのに、空気が重い。

 

「....っち。」

 

紫原の舌打ちがそれを物語っている。他のメンバーも全く口を開かず、息を整えている。

リードしているはずなのに、勝っている気がしないのだ。

数字上とは違って思うような試合展開が出来ず、毎クォーター先手を打たれているような、この点差が嘘のような気さえする。

 

「何なの?この空気は。勝ってるのは俺らだっつーの。しょぼくれた顔をぶら下げんじゃねぇし。」

 

「うるさい黙ってろ。状況見てしゃべれアル。」

 

「はぁ?」

 

「まぁまぁ、内輪もめは見苦しいよ。」

 

紫原の皮肉に付き合う余裕もなく、劉が跳ね返すが、紫原も更にむっとして結局氷室に諌められていた。

 

「走らされた、みたいじゃの....。わしらは気付かない内に誠凛のペースで戦っておった。それも試合の最初から。」

 

「ああ、俺にダブルチームを仕掛けたのもその一端だ。俺が止められれば、当然誰かがフォローに走らなきゃならないし、トライアングルOFとゾーンプレスの対応でまた走らされる。」

 

岡村と福井は今までの状況を整理し、誠凛の本当の狙いを推測していく。

 

「第4クォーターは間違いなく木吉、日向、黒子を投入してくるだろう。黒子はきっちり10分、木吉と日向はインターバルを会わせて5分休息を取れている。」

 

荒木も想定外の展開で、苦い顔から変えられない。

陽泉は、誠凛の次々と来る策の対応に追われて、全く休ませられなかった。そこに不安要素が残る。

陽泉としてやるべき事は1つ。

 

「ウチはDFのチームだ。9点差をいつも通り守るしかない。これ以上、あちらの思い通りの展開をさせるな。」

 

紫原を中心としたDFで圧倒する。

今までそうしてきた様に、チームの持ち味で勝負する事が大切だ。紫原が参加する陽泉OFは並ではないが、誠凛の土俵で戦う必要もない。

足元をすくわれない為にも。

 

「OFは紫原と氷室中心でいく。ウチは紫原だけでなく、氷室も会わせてダブルエースだ。」

 

紫原と氷室を獲得した時から、荒木の構想は決まっていた。

キセキの世代を得た他のチームに勝る為には、キセキの世代に準ずる実力者が必要不可欠。

夏では事情により発揮できなかったが、もしそれがなければ、結果は違っていたかもしれない。

 

 

 

「不思議なもんやのぉ。9点という差がこうも薄く感じるとは。」

 

最後の10分を前に、観客に混じって見ていた今吉。

 

「どれもこれも、俺らとの試合で使わなかったものばかり。」

 

青峰も第3クォーターの展開とは裏腹に酷くつまらなそうだった。

 

「ゾーンプレスに関しては、お前がおったら使いもんにならへんからやろ。勝負所であっさり抜いてしまいそうやからな。」

 

「んなもん、やってみねぇと分かんねぇだろ。」

 

「お?珍しく殊勝やな。」

 

「るせぇよ。」

 

今吉に冷やかされ、機嫌が悪くなっていく青峰。その心境になるのがもう少し早ければ、現実は変わっていたかもしれない。そんな風に思ってしまう今吉は仕方ないのだろう。

 

「そしてテツ君の出番だね!」

 

「さつき、お前そればっかだな。他にねぇのかよ。」

 

相も変わらずぶれない桃井の目線の先には黒子がいた。青峰も堪らずため息をつく。

 

「別にいいじゃない!正直どっちが勝つかだなんてわかんないし。青峰君に誠凛の狙いが分かるの?」

 

「知るか。この試合に順当なんて言葉は無くなってんだからよ。大体、俺に勝った誠凛とやってタダで済む訳無いだろ。」

 

「何でそんなに偉そうなの!?」

 

ゲームの合間に再び痴話喧嘩をする2人を今吉は苦笑いをしながらコートを見ていた。

点差と雰囲気が反比例している両チームを。

 

「....あ。ワシ、分かったかもしれん。」


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