黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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セミファイナルにて
色あせた記憶


陽泉を下した誠凛。

セミファイナルで当るであろう海常の試合が直ぐにでも開始される。

誠凛は直ぐに着替えて客席に向かおうとしたのだが、予定外の展開により、更衣室にすら戻っていない。

 

現在、マスコミに囲まれて取材を受けていた。

いくら無名と言われようが、IH準優勝の桐皇、そして陽泉と戦って勝ち上がり、4強に残った誠凛をこれ以上無視できない。

今まで様子見をしていた分、注目度も急上昇した。

キャプテンの日向、女子高校生監督のリコ、エース火神には集中してマイクが向けられる。

 

「いや、あの....はい。」

 

小心者の日向は完全にくちどもっており、全ての質問にこの台詞しか言えなかった。火神もなれない経験で、以下同順。

リコはリコで、ハキハキと答えているが、模範解答ばかりで、ワイルドカードとして取り上げたいマスコミからすれば、今一面白みが足りない。

リコとしては、出来れば口を閉じたままで終わらせたかったが、取材終盤になって英雄にもマイクが向けられた。

 

「目標っすか...。優勝は当然すけど。あ、そーだ。次勝ったら、俺が『東日本ナンバーワンPG』って名乗っても良いっすよね?」

 

英雄のビックマウスが火を噴いた。突きたてた親指を自らに向け、胸を張って言い切る。

 

「ちょっと!あはは、今のナシで。」

 

リコが英雄の首根っこを引っ張り、愛想笑いで誤魔化そうとするが、マスコミ達は大層喜んでいた。

恐らく、今のは確実に使われる。

 

「あ~、でも。語呂悪いか。じゃあ、SGPG(※スーパーグレートポイントガードの略)で。」

 

「おいコラ。何時からお前は若林君になったんだ?」

 

世代によっては分からないであろう英雄の冗談に小金井がつっこんだ。

その辺のやり取りもしっかりカメラに収められており、リコの表情が青ざめていく。

 

 

「なんて事してくれんのよ!今の放送されちゃうじゃない!!」

 

更衣室に戻った英雄は、小金井と共にリコに説教を食らっていた。

小金井が「なんで俺もなんだよ」とブツブツ言っている。ちなみに、火神は黒子と何かを話した後、1人でどこかへ行ってしまった。

黒子が問題ないというので、火神の戻りを待っていた。

 

「いや、記者さん喜んでたじゃん。」

 

「絶対他のチームに睨まれんぜ。」

 

「それって問題あるの?」

 

日向の苦言を全く理解出来ていない表情で英雄が目を開く。

 

「いや、ないな。結構な事じゃないか。ウチを応援してくれる人も増えるだろうし、少なくてもマイナスにはならないな。」

 

木吉だけが英雄を肯定し、室内に緩みきった雰囲気が漂っていた。

すると英雄が何か思いついたように、携帯電話を取り出して、通話を始めた。

 

「...おっさん?ああ、勝ったよ。...いや、テレビの取材受けちった。...そうそう、リコ姉も出るよ。」

 

恐らくリコの父・景虎だろう。リコがテレビで放送されると言った直後に、『何ぃぃぃぃ!?』という声が離れていても聞こえてきた。

 

『ろ、録画しなきゃ!やっぱ、ブルーレイだろ!ちょっと待て!俺持ってねぇ!!』

 

錯乱状態に限りなく近づいたのを確認して、英雄は通話を切った。

 

『そ....』

 

「もう、パパったら...。」

 

リコが頭を抱えていると、英雄の携帯電話が鳴り響いた。

 

「もしもし...俺持ってない。えっ?違う??」

 

英雄がブルーレイ非所持を訴えるが、どうやら話の内容が違うようで、英雄の表情に変化があった。

 

「マジ...?分かった!直ぐ行く!!」

 

一瞬呆気に取られ、通話を切った途端急いで着替えを済ましていく。

 

「何?なんかあったの?」

 

「ゴメン、リコ姉!ちょい用事できたから、先帰るよ。海常の試合撮っといて!!」

 

ここにリコがまだ居るにも関わらず、パンツ1枚になる英雄。もっとも、それくらいでリコが顔を背けることもない。

しかし、突然テンションを上げた英雄の理由が分からない。

 

「ちょっと!英雄!!....なんなの?」

 

リコの声も聞かず、颯爽と立ち去ってしまった。あれほど疲労を抱えた上、まだ走るのかと、改めて英雄の出鱈目ぶりを感じた。

ただ、英雄の喜び様から、その用事というのがなんなのかが非常に気になる。

 

「ま、いいわ。火神君は...まだ戻らないみたいだから放っておいて、降旗君達が席とってくれてるから向かいましょ。」

 

 

 

 

「ん~~~♪ヘイヘイヘ~イ♪」

 

高校生にもなって鼻歌を歌いながらスキップをする英雄。体育館の外に出ると、なにやら賑やかな声が聞こえる。

賑やかと言うよりも、揉めていると言った方が正しいか。

 

「ん?火神か??この声。」

 

早く景虎のところへ行きたいところだったが、少し気になったので声のするほうに向かう事にした。

 

「おーい火神。何してんの?って氷室さんとアレックスさん?後、黄瀬君。と、誰?」

 

なにやら修羅場っている状況と遭遇した。

殴られたような傷を顔に作っている氷室と氷室を支えているアレックス。

謎の人物を睨みつけている火神と、反対側の黄瀬。

そして、見知らぬ網込み。

 

「英雄か。」

 

「あぁん?誰だてめぇ。」

 

この場の空気が今一読めないので、とりあえず火神のところへ向かう。

編みこみ頭の男は、陰湿な笑いを浮かべてこちらを見ている。

 

「お前さぁ、このタイミングでこんな問題起こしていいの?」

 

「俺だってそんなつもりねぇよ。あいつがふっかけてきたんだよ。」

 

1度英雄に目を向けた後、再び男を警戒する。

 

「黄瀬君もアップしてる時間じゃないの?」

 

「補照っち、お久しぶりっス。すんません。ちょっとコイツと因縁あるんスよ。」

 

説明があまり上手くない火神から状況を聞くのを止めて、黄瀬に窺う。

黄瀬も警戒を強くしており、男から視線を外さない。

 

「ふ~ん。ねぇ、そこのアイパー君。」

 

「誰がアイパーだ!?」

 

アイアンパーマの略。簡単に言うと、更に短髪のパンチパーマ。一昔のチンピラファッション。今時の若者でこれにしてる奴はいない。

険悪なムードを無視して、馴れ馴れしく無防備に近寄る英雄に、ジャージを着ている恐らくどこかの選手だろう男は、眉間を寄せて睨みつける。

 

「補照っち!?灰崎に近寄ったら危険っスよ!!」

 

「えっそうなの?どうにも三下臭いから、大丈夫かと。」

 

のほほんとした英雄が黄瀬に目を移すと、その灰崎と呼ばれた男が握り拳を振り下ろしてきた。

 

「っと!」

 

「っち!避けやがったか!」

 

咄嗟にかわして、英雄が灰崎を見据える。

 

「...三下。」

 

「あぁ!?」

 

ぼそりと言った発言に灰崎がもう1度拳を突き出すが、英雄が全てかわしていた。

 

「両手ぶらり戦法♪」

 

「くっそ!あたらねぇ!!」

 

「...っぷ。良いザマっスね。」

 

溜まらず黄瀬が笑い出し、灰崎の手が止まり黄瀬を睨む。

 

「...てめぇ、覚えとけよ。試合でぶっ潰させてもらうぜ。」

 

灰崎は再度、英雄にも睨みつけた後、この場を後にしていった。

 

「あらあら。黄瀬君てば、ああいうのと友達なの?意外に、あれなんだね。」

 

「あれってなんスか!?つか友達じゃ無いっス!!」

 

英雄が黄瀬の印象を悪い方に改めだしたのを察して、全力で否定する。

 

「アイツ。灰崎は、元々帝光中のバスケ部員だったんス。まぁ、色々あって途中退部してたんスけど、どうやらまた始めたらしい。」

 

「うんうん。昔の友達と久しぶりにあったらキャラ変更デビューしてたんだよね。大変だなぁ。」

 

「全然聞いてない...。つか、こういう事に慣れてんスね。こっちの方が充分意外っス。」

 

「ん?まぁ、経験値の違いだよね。その辺りは。」

 

「経験?」

 

「....数人に...ボコられて...あばらにひび入れられるとか...。」

 

英雄が顔を背けながら小さな声での爆弾発言。

 

「ちょ!?今なんて!!?」

 

何がどうなったらそういう展開に出くわすのか。大多数の人間には理解できない。

ともかく状況が落ち着いたので、試合前の黄瀬はチームの下へと戻っていった。

 

「セミファイナルで合いましょ!後!『東日本ナンバーワンPG』は笑わせてもらったっス!!」

 

英雄のビッグマウスから出た発言は、既にかなり広がっている様だ。

海常のPG笠松も知っているだろう。なんて思ったのかが気になるところ。

しかし、直ぐに合えると思い、あえて今すぐ聞かなかった。

 

「よし!じゃあ俺帰るから!火神、後よろしく!!」

 

「って、おい!お前何しにきたんだ!?」

 

しゅた、と手を翳してお暇しようとした英雄を火神が呼び止める。

 

「野暮用~♪フンフンフーン♪いぇいいぇいいぇい!」

 

黄瀬の時同様に、話を聞かずドンドン去ってしまう。

そのテンションの高さにやや疑問をもったが、氷室の容態が気になり、手当てに向かった。

 

 

 

「おっさん!」

 

「おう。早かったな。これだ、受け取れ。」

 

英雄は勢いのまま、相田スポーツジムへと到着していた。

挨拶も早々に、景虎から1通の封書を手渡された。英雄は、すぐさま開封し、中身を確認する。

 

「....。」

 

「協会が既に通訳してるはずだ。そっち読め。」

 

「なるほど。全然読めない。」

 

取り出した書類を読むのを諦めて、封筒の中にあるもう1つの書類を読み始める。

 

「...どうだった?なんか」

「や...やった。おっさん、やったよ俺!!」

 

景虎が内容について質問すると同時に、英雄が景虎に抱きついて無垢な少年の様な歓喜の姿。

 

「...よかったな。」

 

普段ならウザがって蹴っ飛ばすところだが、正面から受け止め、歓喜に震える肩を優しく抱いた。

 

「俺、やるよ。ここで培ったもの全てを持っていく!俺が証明するんだ!」

 

「...みんなには、なんて言うんだ?」

 

「今日は駄目だよ。興奮して、上手く伝えられない。明日。明日、試合が終わってから言うよ。」

 

英雄と最も付き合いの長い人物は、日向でもリコでもなく、景虎である。

サッカーに転向した時も、リコらに会わないようにジムに来ていた。

 

【サッカーか。ま、お前なら何処ででも上手くやれるだろ。】

 

【うん。どうかな?決めた事だから、全力でやってみるつもり。...でもやっぱり、やりたい事がみんなに望まれないって辛いね。】

 

【泣き言いうな。とにかく中学の内は全力を注げ。半端な事してると、碌な事にならんからな。】

 

競技が変わっても、景虎が英雄のトレーナーである事に違いは無く、英雄は景虎にだけは本心が伝えられた。

愚痴を言える存在があったからこそ、やってこれた。英雄の『ありがとう』にはどれ程の想いが込められているのかは、2人にしか分からない。

 

「そういや、勝ったんだって?祝いをくれてやる。横になれ、スペシャルマッサージだ。」

 

英雄は従い、試合の内容を横になりながら順々に話していった。

しばらくするといびきを掻き始め、よだれまで垂らす始末。

 

「おいおい、誰が片付けると思ってんだ?...やれやれ。俺も前に進んでみるか...。」

 

英雄の肩や膝には、気付きにくいくらいの小さな痣が出来ており、今日の試合の厳しさが容易に伝わってくる。どれ程、気を張り詰めてやってきたのか。

1時間くらい放置し、その後に起こして帰宅させた。英雄は大あくびをしながら、バッグを肩に掛け景虎に感謝を伝える。

 

「おっさん、明日。なんか色々迷惑かけるかも。」

 

「場合によるがな、出来る事はやってやる。だから、勝て。上に向かって駆け上がれ。」

 

英雄は小さく頷き、自宅へと帰宅していった。

 

「...あ。あの馬鹿、大事な書類忘れて帰っちまった。」

 

隅にあるテーブル、そこに無防備に置かれた1通の書留。

これが、物語を大きく動かしていく。

 

 

 

翌日、誠凛は会場入りする前に朝一で1度学校に集合し、ミーティングを行った。

海常高校のスカウティングも済んでいない為のもの。昨日は、あまりの疲労でそのまま解散し、今日に持ち越したのだ。

リコが撮った映像資料には、海常と福田総合の激戦が流されている。

 

「超ロング3Pって、マジ?」

 

「ああ、それだけじゃねぇ。青峰のキレ、紫原の高さとパワー、緑間の3P、それぞれを完璧に再現してる。」

 

前半は、例のアイパーが黄瀬を圧倒していたが、終盤になってから黄瀬が他のキセキの世代の技を再現させて、逆転勝利を決めていた。

 

「そういや、氷室さんは大丈夫?」

 

「ああ、とりあえず大事には至らなかったらしい。」

 

英雄は、昨晩にほっぽり投げてしまった事を思い出し、火神に陳謝した。流石に、対応が冷たすぎたと少々反省。

それくらい、昨日の英雄は地に足がついていなかった。

 

「つーか、お前も何してたんだよ?」

 

「えーと、それは今日試合に勝ってから言うよ。」

 

火神からも昨日の英雄の動向を聞かれるが、珍しくはぐらかした。少々気になるが、英雄のいう事ももっともなので、海常戦に話題を戻す。

問題はここから。

 

「今日のスターター、かなり変更しようと思うの。」

 

リコから今日のオーダーが発表する前に、誠凛の現状を説明された。

 

「昨日の試合で延長戦にもつれ込んだから、鉄平の膝に大きなダメージが残ってるのよ。」

 

陽泉戦の時、英雄が言った10倍キツイという言葉の本質は、勝ってからの問題が大きい。

元々、選手層の薄い誠凛の主力メンバーが大きな疲労を抱えて、日付が変わった今も回復しきっていない。

勝ち残っている4チームないで最も体力的にキツくなっているのは明白だ。

 

「次いで、火神君もね。酸欠でぶっ倒れて、正直フルで出したくないんだけど...。」

 

「俺は大丈夫っす!」

 

やっと得た黄瀬との再戦の機会をみすみす見逃すという選択肢は火神にあるはずもなく、立ち上がってベンチを拒否する。

 

「分かってると思うけど、今日も無茶して勝ったとしても大会はまだ終わらないのよ?その先の決勝で、ガス欠でしたなんて言い訳にもならない。」

 

「帰って爆睡したし、ちょっと筋肉痛もあるけど、大丈夫っす!」

 

実際、黄瀬がいる海常相手に火神抜きというのは考えられない。それでも、先の先まで見通す事も監督としては必要なのだ。

 

「...ま、いいわ。でも、ちょっとでも無理だと思ったら直ぐに交代させるから。」

 

と言っても、どこかのクォーター10分くらいなら、他のメンバーでもなんとかなるという自信もある。

 

「で、前半は鉄平抜きで試合を運ぶわ。伊月君、よろしくね。」

 

「みんな、スマン。」

 

恐らく、木吉も始めは反発もしただろうがリコの説得により、受け入れていた。

ここはまだ、壊れてよい場所ではない。壊れるつもりもないが、あるとすれば決勝戦が終わった後。それ以外には許されない。

申し訳なさそうに木吉が頭を下げている。

 

「いいよ。一々謝るな。」

 

日向が軽く流し、作戦の詳細を纏めていく。

 

「で、インサイドは。」

 

「当然、俺っしょ!」

 

そういえば、昨日テレビで英雄のビッグマウスが放送されていた。

東日本ナンバーワンPGになると言っておきながら、インサイドでプレーするなんて本当に訳が分からない。

他のチームの選手達も見ているだろうし、面倒な野次が飛んできそうで堪らなかった。

 

「って事は、スターターは...。」

 

「うん。それを踏まえた上で発表するから、聞き逃さないように!」

 

誠凛のスターティングメンバーが正式に伝えられた。

リコがほぼ徹夜で考えた、今の誠凛にとって最も有効なメンバー。そして、作戦。

 

「...どう?」

 

「いーんじゃない?面白いね。」

 

英雄は、うんうんと頷きながら笑って賛成した。

リコとて、成長する為の努力を欠かしたことはない。百戦錬磨の強豪校の監督の裏をかく事が出来れば、チームに間違いなく貢献できる。

陽泉戦では、リコが過小評価されていた為に上手く事を進めたが、ここから先というよりも、1度対戦した海常は油断などしてくれるはずもない。

 

「じゃあ、そろそろ出発しましょ。降旗君達、悪いけどお使いお願いね。」

 

「あ、はい。」

 

時間に余裕はあるが、早めに到着するに越した事もない。降旗、福田、河原は試合前に備品の買出しを依頼して、席を立った。

 

「あ、カントク。バッシュ壊れちゃったから、ちょっと買ってきていいっすか?」

 

火神が、コンビニ行って来て良いですかくらいに軽く言う。

 

「あ、僕もです。」

 

黒子も便乗し、良い流れで出発しようとした雰囲気を台無しにした。

 

「お前等、まず座れ。」

 

リコが机をバンっと叩いて、強制的に着席させた。

 

「なんでそれを今言うの!昨日の時点で気付かなかったの!?」

 

新品のバッシュで試合するという事は、それくらいあり得ない。

靴ずれを起こせば、プレーに支障するのは言うまでも無い。確かに昨日の試合は、それくらいハードなものだが、リコも言わずにはいられない。

 

「あ~もう!直ぐ買ってこい!試合に間に合わせろ!!ダッシュ!!」

 

リコの指示で、火神が猛ダッシュ。黒子が完全に追いつけないでいた。

 

「リコ姉、俺も行っていい?別にバッシュ壊れてないけど。」

 

「も~、勝手にしてよね。あ、そうだ。これパパから。」

 

「お~、どもども。」

 

英雄がバッグを手に取り、リコから1通の書留を受け取って火神達の後を追っていった。

リコ達は先に試合会場に向かう。

 

「つか、なんで付いて来てんだよ。」

 

「最近、新しいバッシュが欲しいと思ってたんよ。その下見。」

 

ショップを巡り、英雄は暢気にウィンドウショッピングを楽しみ、黒子もバッシュを買い終えているのだが、火神のバッシュだけ見つからない。

このままでは、試合に間に合わないかもしれないと焦っている火神の為に、黒子が電話で助けを求めた。

 

 

「って、なんでお前までいるんだよ。」

 

待ち合わせていた公園に訪れたのは、桃井と青峰だった。

偶然にも、青峰と同じ足のサイズだったので、青峰が持ってたバッシュをくれるという。青峰は今この時まで、聞かされていない。

青峰が現在使う予定も無いので、1ON1で勝負して火神が勝ったら譲る事になった。

2人が1ON1をしている最中、黒子と桃井は真剣な面持ちで話をしており、英雄は独りで書面を見ながらニヤニヤしていた。

 

しばらくすると、青峰と火神が勝負を終えて黒子のところに戻ってきた。

 

「これはくれてやる。だから、つまんねー試合なんかすんじゃねぇぞ。」

 

勝負の結果は青峰の勝ちだったが、青峰は火神にバッシュを譲り、青峰なりの激励を送った。

 

「そろそろ、会場に向かわないと不味いですね。英雄君...何ニヤニヤしてるんですか?」

 

「...ん?あ、ごめんよ。気にしないで。」

 

「???」

 

完全に自分の世界に入っていた英雄。挙動が変なのは何時もの事だが、それが如実に感じる。

ここで青峰らと別れようとした時、青峰から呼び止められる。

 

「おい天パ。1つ聞いてもいいか?」

 

「なに?前にいった年明けの事?」

 

「あ、それもあったな。...じゃねぇよ!」

 

桃井に聞けば、日本代表について分かるはずだが、聞いていないので未だに知らない。

しかし、それとは別にどうしても聞いておきたかった事がある。

 

「大昔に1度、やった事を試合見てて思い出したんだよ。」

 

「「「っえ...!?」」」

 

青峰と英雄が以前に面識があった事など聞かされていない3人は、驚きながら2人の様子を見ている。

構わず、青峰は質問を続ける。

 

「何で...お前はスタイルを変えたんだ?」

 

「...何でだと思う?」

 

桃井の情報収集に微妙なズレを作り出した理由。そこにある疑念が生まれる。

今までの試合で行ったプレーは、本来のプレーではないかもしれない。

そして、青峰の色あせた記憶でも、どこか違和感を感じた。具体的なプレーをはっきり思い出した訳ではないが、その時自分がどう思ったのかを思い出した。

だから、カマ掛けるつもりで質問した。

結果は上々、舌打ちと共に英雄の面倒臭そうな顔が浮かび上がってきた。

 

「言っとくけど、手を抜いた訳じゃない。あれがあの時の全力だった。それは間違いないよ。」

 

「ああ?」

 

それはそれで腹立たしいと、青峰も不機嫌そうな表情になったので、大事なところだけは否定した。

聞いているだけだった3人は、話についていけてない。

 

「ま、納得してくれとは言わないよ。...その代わり、前言ってた事だけ教えてあげる。来年のアンダー18のアジア選手権に俺は出るよ。」

 

「は?」

 

「そんじゃ、またね。」

 

青峰がきょとんとしている間に英雄は去ってしまい、話の展開についていけなかった黒子と火神は困惑しながら後を追った。

 

「昔に会ったことあるって...アンダー18って何?」

 

「...そうかよ。そういう事かよ...。」

 

桃井が話を整理しようと青峰に近寄るが、青峰はただ俯いて強く拳を握り締めるのだった。

 

 

 

「英雄君、さっきの話ですけど。」

 

移動中に黒子が思いきって、青峰との会話の意味を聞いた。

 

「本来のプレーってどういう意味だ?」

 

火神も当然前に乗り出して問い詰めている。

青峰が感じたように、出来る事をせず手を抜いたのであれば、黒子にとって絶対に許せない事である。

 

「あれ?怒っちゃってる?」

 

こんな時まで、ヘラヘラしている英雄が勘にさわる。

 

「お前!」

「英雄君!」

 

壁際に追い詰められて逃げ場が無くなった。

本心を聞き出すまで、問い続ける姿勢を解かない2人。

 

「...ふぅ。これ言うの、正直気が進まないんだけどね...。」

 

英雄が、諦めのため息をしながら歩みだす。

 

「歩きながらでいい?」

 

黒子と火神は軽く頷きながら、英雄と肩を並べて歩く。普段、自分の事を語らない英雄が、重そうに口を開いた。

 

「テツ君がどんな苦労して今のスタイルになったかは知らないけど、俺だってそれなりに挫折の経験があるんだよ。」

 

英雄が言っているのは、決してサッカーに転向した切っ掛けの事ではない。

青峰同様、色あせた記憶の中にある。

 

「始めに言っとくけど、今のスタイルはあくまでも上手くなる為のものであって、半端な気持ちでやってない。」

 

そして、英雄の口から『下手くそな目立ちたがり屋』の、幼き記憶が語られた。




色々思うこともあると思いますが、出来れば見守っていただけたらなと思います。
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